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16.お出掛け
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おそろしく注目を浴びている。
ランシア家が養女を取ったという話はどこまで伝わっているだろうか…。だが2人の髪色を纏っている時点で義妹とは思ってもらえないだろう。
右手をフレデリック、左手をローヴァンに取られ、ミカエラは回廊を進んだ。
ミカエラを案じる大きく暖かな手。だが…
「…歩きにくいのですが」
「ミカエラが僕たちとはぐれなようにね」
「ああ、ホラ、母上が取って下さったボックス席に着いたよ」
王都の劇場ほど数もないし、贅を凝らしたものではないが、投資者のためのボックス席が備わっているのでそちらに腰を下ろす。
長椅子に3人。
少し狭くないか。
ローヴァンが飲み物を頼み、ミカエラにジュースが渡される。
「今日の演目は女海賊が活躍するものだよ。簡略したものを旅芸人が祭りの際に披露することもあって子供から大人まで人気がある話なんだ」
「私たちの先祖が海賊だってのは、父上あたりから聞いた?」
「いえ…今初めて知りました」
元王族のジュリエッタ夫人はともかく、マクレガー伯爵も義兄たちもひんのある顔つきなので意外だった。
「領内にはドミニアという大きな港町があるのだけど…地理的にも便利な交易場なので昔は色々な国が狙っていたんだよね。その時私たちの先祖がその港町一帯をナワバリとしていたから、他国に寝返らないよう当時の国王が私掠海賊扱いにして、侵略から守ったことを功績として爵位を叙爵したんだ。…だから領地内だと海賊物の演目が多いよ」
「そうなのですか…。貴族間の話よりとっつきやすそうです」
「王都から離れると、客層に合わせて農民や商人が主人公の芝居が増えるかもね」
庶民が憧れそうな華やかだったり、楽しめるコミカルな貴族話は演じられるが、政争モノは王都ほどの演目数はない。
観客との価値観が違いすぎると共感や感動が得られないからだ。
「国の要点を自治領としているけれど、私たちは新興貴族だから古参の貴族からのやっかみも多い。ミカエラは孤児院から来たことになっているからもっとあからさまに言ってくるだろう…。私たちのせいですまないね」
「いえ…」
「古参の貴族に色々言われたらすぐ僕か兄上に言うんだよ?」
ベッタリくっついているのは嫌がらせ防止の為か。…彼らに熱を上げている女性たちに返って反感を買いそうだが。
ミカエラの母親も毎日のように嫌がらせを受けたそうだから、その辺りを懸念しているのかもしれない。
ミカエラ自身は(後先考えなければ)自衛は可能だろうけれど、この優しさに真摯に応えようと考えた。
「はい、その時はお願いします」
両の手が兄たちに取られる。
ミカエラは少しくすぐったい気持ちで女海賊の活劇を楽しんだ。
◇◇◇
―兄が大分積極的だ。
ローヴァンは馬車やボックス席の様子からそれを感じた。
ミカエラの方は義兄として慕っているので早急ではないが、随分世話を焼いて話しかけている。
事業などへの助言が有益だったと言うから領内の運営に携わってほしい気持ちもあるのだろうけど…なんというかデレデレだ。
いつもの兄とギャップがあるのでローヴァンとしては見たくない姿だが、ミカエラのことをきちんと異性として見ている姿勢は学びたいところだ。
自分はまだ領民の子たちと同じように接してしまいがちだ。
ミカエラの方もほんのり笑って兄に対して応えているから、この2人で上手くまとまるかもしれないな と、ローヴァンはぼんやりと、靄のかかった心の中で思った。
ランシア家が養女を取ったという話はどこまで伝わっているだろうか…。だが2人の髪色を纏っている時点で義妹とは思ってもらえないだろう。
右手をフレデリック、左手をローヴァンに取られ、ミカエラは回廊を進んだ。
ミカエラを案じる大きく暖かな手。だが…
「…歩きにくいのですが」
「ミカエラが僕たちとはぐれなようにね」
「ああ、ホラ、母上が取って下さったボックス席に着いたよ」
王都の劇場ほど数もないし、贅を凝らしたものではないが、投資者のためのボックス席が備わっているのでそちらに腰を下ろす。
長椅子に3人。
少し狭くないか。
ローヴァンが飲み物を頼み、ミカエラにジュースが渡される。
「今日の演目は女海賊が活躍するものだよ。簡略したものを旅芸人が祭りの際に披露することもあって子供から大人まで人気がある話なんだ」
「私たちの先祖が海賊だってのは、父上あたりから聞いた?」
「いえ…今初めて知りました」
元王族のジュリエッタ夫人はともかく、マクレガー伯爵も義兄たちもひんのある顔つきなので意外だった。
「領内にはドミニアという大きな港町があるのだけど…地理的にも便利な交易場なので昔は色々な国が狙っていたんだよね。その時私たちの先祖がその港町一帯をナワバリとしていたから、他国に寝返らないよう当時の国王が私掠海賊扱いにして、侵略から守ったことを功績として爵位を叙爵したんだ。…だから領地内だと海賊物の演目が多いよ」
「そうなのですか…。貴族間の話よりとっつきやすそうです」
「王都から離れると、客層に合わせて農民や商人が主人公の芝居が増えるかもね」
庶民が憧れそうな華やかだったり、楽しめるコミカルな貴族話は演じられるが、政争モノは王都ほどの演目数はない。
観客との価値観が違いすぎると共感や感動が得られないからだ。
「国の要点を自治領としているけれど、私たちは新興貴族だから古参の貴族からのやっかみも多い。ミカエラは孤児院から来たことになっているからもっとあからさまに言ってくるだろう…。私たちのせいですまないね」
「いえ…」
「古参の貴族に色々言われたらすぐ僕か兄上に言うんだよ?」
ベッタリくっついているのは嫌がらせ防止の為か。…彼らに熱を上げている女性たちに返って反感を買いそうだが。
ミカエラの母親も毎日のように嫌がらせを受けたそうだから、その辺りを懸念しているのかもしれない。
ミカエラ自身は(後先考えなければ)自衛は可能だろうけれど、この優しさに真摯に応えようと考えた。
「はい、その時はお願いします」
両の手が兄たちに取られる。
ミカエラは少しくすぐったい気持ちで女海賊の活劇を楽しんだ。
◇◇◇
―兄が大分積極的だ。
ローヴァンは馬車やボックス席の様子からそれを感じた。
ミカエラの方は義兄として慕っているので早急ではないが、随分世話を焼いて話しかけている。
事業などへの助言が有益だったと言うから領内の運営に携わってほしい気持ちもあるのだろうけど…なんというかデレデレだ。
いつもの兄とギャップがあるのでローヴァンとしては見たくない姿だが、ミカエラのことをきちんと異性として見ている姿勢は学びたいところだ。
自分はまだ領民の子たちと同じように接してしまいがちだ。
ミカエラの方もほんのり笑って兄に対して応えているから、この2人で上手くまとまるかもしれないな と、ローヴァンはぼんやりと、靄のかかった心の中で思った。
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