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0.序
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目の前にゆっくりと手が差し出される。
大きく骨ばった男性の手。
私はそこに自分の手を軽く重ねる。
相手は私の手を軽く握って微笑む。
自分は年齢の平均より背が低いようなので、距離が近いと見上げなければ顔が見えない。
「こちらを見ていると首が疲れてしまうよ? さ、前を見て。君のお披露目なのだから」
入口で名を読み上げられ、ホールへと足を踏み入れる。
今日は義母のジュリエッタ夫人が張り切って用意してくれたワインレッドのドレスだ。優美なドレープの裾にはパートナーの髪色の細やかで豪奢なレースが揺れ、煌いている。
靴や髪をまとめるコームもレースと同じ色でまとめられ、ベースかカラーの重厚感と相まって差し色の存在感が際立つ装いだ。
「イヤリングとネックレスが間に合って良かったよ…。似合っている」
「有難うございます、義兄様。…細工師の方、大分やつれてましたよ」
「無理させた分以に報酬は弾んだつもりだよ。…もう”にいさま”と呼ぶのはお終いかな? ちょっと名残惜しいけどね」
そうだ、養女という話だったから義兄妹になったのかと思ったら、私の籍は別だったらしい。
この日を迎えるために。
「これからは名前で呼んで。ミカエラ」
「…はい、そのうち」
「あれ? 今は呼んでくれないの?」
「少し…恥ずかしいですし」
うつむきがちに返すと、クスクスと笑う声が頭の上から降ってくる。
「ごめん。君が恥ずかしがるのが新鮮で」
「羞恥心くらい人並みに持ち合わせていますよ」
「いや、それは分かるけれど…いつも超然としているから」
若い令嬢たちから羨望や嫉妬の眼差しが向けられている。
ランシア兄弟は整った顔立ちで有名なようだから、彼の隣に並び立つ以上覚悟はしていた。
「…ここは美しい花々が咲き誇っていますね」
王都には美しく、親の地位が高い女性がたくさんいる。
「確かにそうが。…どちらかというと野に咲いているような小さく愛らしい花の方が好きだな」
田舎のありふれた小さな花とは自分のことだろう。才覚があったとしても貴族でない私を選ぶのは悪手だと思うが。
「じき国王陛下がお見えになって、ミカエラの素性と婚姻の話をする。…段取り通り、いいね?」
「はい」
王城に足を踏み入れるなんて村はずれに住んでいた時には予想も出来なかったことだ。
随分と目まぐるしく周りが変化したな、と玉座の主が現れるまで過去に思いを馳せた。
大きく骨ばった男性の手。
私はそこに自分の手を軽く重ねる。
相手は私の手を軽く握って微笑む。
自分は年齢の平均より背が低いようなので、距離が近いと見上げなければ顔が見えない。
「こちらを見ていると首が疲れてしまうよ? さ、前を見て。君のお披露目なのだから」
入口で名を読み上げられ、ホールへと足を踏み入れる。
今日は義母のジュリエッタ夫人が張り切って用意してくれたワインレッドのドレスだ。優美なドレープの裾にはパートナーの髪色の細やかで豪奢なレースが揺れ、煌いている。
靴や髪をまとめるコームもレースと同じ色でまとめられ、ベースかカラーの重厚感と相まって差し色の存在感が際立つ装いだ。
「イヤリングとネックレスが間に合って良かったよ…。似合っている」
「有難うございます、義兄様。…細工師の方、大分やつれてましたよ」
「無理させた分以に報酬は弾んだつもりだよ。…もう”にいさま”と呼ぶのはお終いかな? ちょっと名残惜しいけどね」
そうだ、養女という話だったから義兄妹になったのかと思ったら、私の籍は別だったらしい。
この日を迎えるために。
「これからは名前で呼んで。ミカエラ」
「…はい、そのうち」
「あれ? 今は呼んでくれないの?」
「少し…恥ずかしいですし」
うつむきがちに返すと、クスクスと笑う声が頭の上から降ってくる。
「ごめん。君が恥ずかしがるのが新鮮で」
「羞恥心くらい人並みに持ち合わせていますよ」
「いや、それは分かるけれど…いつも超然としているから」
若い令嬢たちから羨望や嫉妬の眼差しが向けられている。
ランシア兄弟は整った顔立ちで有名なようだから、彼の隣に並び立つ以上覚悟はしていた。
「…ここは美しい花々が咲き誇っていますね」
王都には美しく、親の地位が高い女性がたくさんいる。
「確かにそうが。…どちらかというと野に咲いているような小さく愛らしい花の方が好きだな」
田舎のありふれた小さな花とは自分のことだろう。才覚があったとしても貴族でない私を選ぶのは悪手だと思うが。
「じき国王陛下がお見えになって、ミカエラの素性と婚姻の話をする。…段取り通り、いいね?」
「はい」
王城に足を踏み入れるなんて村はずれに住んでいた時には予想も出来なかったことだ。
随分と目まぐるしく周りが変化したな、と玉座の主が現れるまで過去に思いを馳せた。
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