全能ソーサラーの義妹ができました?

招杜羅147

文字の大きさ
上 下
1 / 54

0.序

しおりを挟む
目の前にゆっくりと手が差し出される。
大きく骨ばった男性の手。
私はそこに自分の手を軽く重ねる。
相手は私の手を軽く握って微笑む。
自分は年齢の平均より背が低いようなので、距離が近いと見上げなければ顔が見えない。

「こちらを見ていると首が疲れてしまうよ? さ、前を見て。君のお披露目なのだから」

入口で名を読み上げられ、ホールへと足を踏み入れる。
今日は義母のジュリエッタ夫人が張り切って用意してくれたワインレッドのドレスだ。優美なドレープの裾にはパートナーの髪色の細やかで豪奢なレースが揺れ、煌いている。
靴や髪をまとめるコームもレースと同じ色でまとめられ、ベースかカラーの重厚感と相まって差し色の存在感が際立つ装いだ。

「イヤリングとネックレスが間に合って良かったよ…。似合っている」
「有難うございます、義兄様。…細工師の方、大分やつれてましたよ」
「無理させた分以に報酬は弾んだつもりだよ。…もう”にいさま”と呼ぶのはお終いかな? ちょっと名残惜しいけどね」

そうだ、養女という話だったから義兄妹になったのかと思ったら、私の籍は別だったらしい。
この日を迎えるために。

「これからは名前で呼んで。ミカエラ」
「…はい、そのうち」
「あれ? 今は呼んでくれないの?」
「少し…恥ずかしいですし」

うつむきがちに返すと、クスクスと笑う声が頭の上から降ってくる。

「ごめん。君が恥ずかしがるのが新鮮で」
「羞恥心くらい人並みに持ち合わせていますよ」
「いや、それは分かるけれど…いつも超然としているから」

若い令嬢たちから羨望や嫉妬の眼差しが向けられている。
ランシア兄弟は整った顔立ちで有名なようだから、彼の隣に並び立つ以上覚悟はしていた。

「…ここは美しい花々が咲き誇っていますね」

王都には美しく、親の地位が高い女性がたくさんいる。

「確かにそうが。…どちらかというと野に咲いているような小さく愛らしい花の方が好きだな」

田舎のありふれた小さな花とは自分のことだろう。才覚があったとしても貴族でない私を選ぶのは悪手だと思うが。

「じき国王陛下がお見えになって、ミカエラの素性と婚姻の話をする。…段取り通り、いいね?」
「はい」

王城に足を踏み入れるなんて村はずれに住んでいた時には予想も出来なかったことだ。
随分と目まぐるしく周りが変化したな、と玉座の主が現れるまで過去に思いを馳せた。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

白い結婚をめぐる二年の攻防

藍田ひびき
恋愛
「白い結婚で離縁されたなど、貴族夫人にとってはこの上ない恥だろう。だから俺のいう事を聞け」 「分かりました。二年間閨事がなければ離縁ということですね」 「え、いやその」  父が遺した伯爵位を継いだシルヴィア。叔父の勧めで結婚した夫エグモントは彼女を貶めるばかりか、爵位を寄越さなければ閨事を拒否すると言う。  だがそれはシルヴィアにとってむしろ願っても無いことだった。    妻を思い通りにしようとする夫と、それを拒否する妻の攻防戦が幕を開ける。 ※ なろうにも投稿しています。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

身代わりの私は退場します

ピコっぴ
恋愛
本物のお嬢様が帰って来た   身代わりの、偽者の私は退場します ⋯⋯さようなら、婚約者殿

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

処理中です...