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5.特命

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「まぁとにかく、わざわざ私に会いに長い旅をしてきたのだ。今日はゆっくりするといい。」
「はい…」

ミカエラ付になるというメイドのアネッサに客室につれていかれる形で、ミカエラと指示役の母は執務室を退室する。

「…フレデリック、ローヴァン。お前たちに特命を課す」

マクレガー伯爵はにこやかだった顔を消し、椅子に座りこむと厳しい眼差しで2人に向き合う。

「彼女を守れ とか?」
「それは特命ではない。 当たり前のことだ。
 …どちらでもいい。ミカエラがその気になるよう行動を起こして婚姻しなさい」
「は? 結婚は自由意志でしょ?」
「義妹なのでは?」

マクレガー伯爵は深く息を吐き出し、コツコツと指先で机をたたいた。少し苛立っている時の仕草だ。

「まず我がランシア家は後見とはなるが、彼女をランシア家の籍には入れない。彼女が自分の立ち位置を理解しやすいよう養女という言葉を使ったが、実のところ擁護するだけで養子にはしないので正しくはお前たちの義妹にはならない。
…それとミカエラは渡り人ミヤ様の知恵を間違いなく引き継いでいる。ソーサラーという点も見逃せない。そんな希少な人物を他国や市井には流せない。幸い彼女の方からからこちらに足を運んでくれるという幸運に恵まれたが…ミヤ様の時は本当に国家的危機だったのだ。」

と、机をたたいていた指を止め、2人を指さす。

「彼女をこの国にとどめるため、ミカエラを自分に夢中にさせるよう振る舞うのだ」
「政略ではダメなのですか?」
「渡り人が『否』と言えば我らは逆らえないぞ。公爵くらいの発言権があるからな」
「でもまだ子供では?」
「…ミヤ様も見た目が非常にお若かった…民族性なのだとおっしゃっていたが。豊かでなかった食生活も影響しているのだろうが、その血を継いでいるミカエラは16歳だ」
「16歳!?」

随分しっかり受け答えするが、12歳くらいと思っていたローヴァンは、適齢期に差し掛かると知って驚く。

「まさか兄弟が恋のライバルになるとはね」
「兄上…」

いつもと変わらず飄々としているフレデリックは本気とも冗談ともつかないことを言う。

「騎士団に入ると言っているからローヴァンの方が有利かもしれないけど、まぁ互いにがんばろうか」

ローヴァンの肩を軽く叩いてフレデリックが出ていく。今日はタウンハウスの修繕に関し業者とやり取りがあると言っていたから、時間が迫っているのだろう。

「…父上、あの少女は我々の顔を見ても頬を染めるようなことはしませんでしたよ」
「見た目は武器にならないということだな」
「道のりは長いのでは?」
「勉強はフレデリック、体力作りや魔法に関してはお前を教師役にするから、そこで親交を深めなさい」
「…宿舎暮らしなのですが…」
「家から通うようにしなさい。何としてもミカエラを妻とするように!」

強い口調でローヴァンに告げると、マクレガー伯爵も執務室を出ていく。執事に衣類や調度品を手配するよう言いに行ったのかもしれない。

 父のバカげた計画でローヴァンのライフプランが音を立てて崩れていく。
確かに身なりを整えると素朴な可愛らしさはあったが、魔法が使えることと礼儀正しいこと、表情が乏しいこと以外は知らない。
情報を得るためにも義兄として親交を深めるのは悪くないだろう。『折形』という魔法のことも知りたい。

「恋人になるのは兄上に任せよう」

嘆息と共に出た呟きは執務室の冷えた空気に溶けていった。
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