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4.伯爵夫婦の暴走
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少しすると伯爵を先頭に豪奢なドレスを纏った女性1人と、質の良いウェストコートを羽織った男性2人が入ってきた。
伯爵はミカエラの隣に並び立ち言い放つ。
「”渡り人”ミヤ様の御子、ミカエラ・コルガータだ。今日からランシア家の養女になる」
「養女!?」
ミカエラも一緒に声を上げてしまった。使用人をしながら合間を縫って勉強するものだと思っていたからだ。
「マクレガー様、ちゃんと説明しましたの? そちらのお嬢さんも驚いているじゃない」
「え ウチで先ほど体力作りや勉強をしようって話をしたよ?」
「父上…それだけだとまず養子縁組の話にはなりませんよ」
思いが先走り、言葉が足りていない伯爵の様子に頭を抱えるジュリエッタとフレデリックに対し、ローヴァンは呆然と紹介された相手を見ていた。
昨日ジャイアントボアをいとも簡単に倒した少女…だと思うが、随分印象が変わっている。
地味な目や髪の色はそのままだが、髪は艶めき汚れを落とした顔や手は思ったよりも白く、黒髪と薄紅色の唇がよく映えていた。
「あ、解体を手伝ってくれた騎士の方」
「ん? 昨日勧誘した騎士団員というのはローだったのかい?」
伯爵はローヴァンとミカエラの顔を見比べる。
「いえ…騎士団に勧誘したのは相棒のエミリオです。…昨日街道でジャイアントボアに襲われている所に遭遇したんですよ」
そしてそのジャイアントボア2体を魔法で倒したことを簡単に説明する。
「魔法が使えるのね。では悪徳商人や狡猾な貴族に利用される前に養子縁組した方が良いわね」
ジュリエッタ夫人はミカエラの前に来ると、少しかがんでミカエラの視線に合わせた。
「はじめまして、私はジュリエッタ。あなたの隣にいる伯爵の妻です。後ろにいるのは息子のフレデリックとローヴァンよ。仲良くしてね。
…ミヤ様のことは先ほど聞きました。妬みを持つ者が彼女の輝かしい未来を奪ってしまい、この国の元王女として恥じ入る思いです。どうかミヤ様の忘れ形見である貴女は私たちに守らせてください。」
目の前の人は元王女と言った。身分の高い女性が自分の手を取り真摯に懇願する様子にさすがにミカエラも慌てた。
「頭を上げてください…。母さんは今の方が気楽でいい と言ってました。父さんと一緒になれて幸せだと。村の人も親切だったしそんなに大変なことはなかったです」
ジュリエッタ夫人の表情に後悔の念が一瞬よぎり、ふわりと微笑んで そう、強かったのね と言って手を離した。
「あなたの部屋を用意させるから、今日は客室を利用して頂戴。娘がほしかったから、貴女がきてくれて嬉しいわ」
「はぁ…」
「可愛い服を着せたり一緒にお出かけしたり…楽しみだわ。でもその前にどこに出しても恥ずかしくないよう淑女教育をしなければいけないわね」
「え?」
「え?」
思ってもみなかった というようなミカエラの疑問符に、反論があるわけがない というようなジュリエッタの疑問符が重なる。
「騎士団に入ろうと思っているのですが…寄宿舎もあると聞いたので」
「まぁ!女の子が寄宿舎暮らしなんて危ないわ!」
「騎士団委入る前にウチで体力作りや勉強をすることにしただろう? まずはこの家にいなさい」
「勉強が終わっても寄宿舎はダメですよ! こんなに可愛いのに…他の男性騎士に手籠めにされてしまいます!」
「偏見です。 宿舎は男女分かれているし、それぞれ立ち入れないよう厳しく管理されてますよ、母上」
「そうだ! 義兄になるローヴァンと同室なら一日中守ってもらえるし安全じゃないか?」
「もっと問題になりますよ、父上」
夫婦の忠言にローヴァンが加わって言い合いになってしまい、どう止めようとミカエラがあたふたしていると、頭に軽く温かい手が触れた。
見上げると先ほど紹介されたフレデリックが目配せした。 大丈夫だよ、とでも言うように。
フレデリックは結局、騎士団に入るにしても屋敷に帰宅させ、日中はローヴァンと行動を共にする という内容で3人を言いくるめたのだった。
渡り人の子なら特例も可能だろう、と。
伯爵はミカエラの隣に並び立ち言い放つ。
「”渡り人”ミヤ様の御子、ミカエラ・コルガータだ。今日からランシア家の養女になる」
「養女!?」
ミカエラも一緒に声を上げてしまった。使用人をしながら合間を縫って勉強するものだと思っていたからだ。
「マクレガー様、ちゃんと説明しましたの? そちらのお嬢さんも驚いているじゃない」
「え ウチで先ほど体力作りや勉強をしようって話をしたよ?」
「父上…それだけだとまず養子縁組の話にはなりませんよ」
思いが先走り、言葉が足りていない伯爵の様子に頭を抱えるジュリエッタとフレデリックに対し、ローヴァンは呆然と紹介された相手を見ていた。
昨日ジャイアントボアをいとも簡単に倒した少女…だと思うが、随分印象が変わっている。
地味な目や髪の色はそのままだが、髪は艶めき汚れを落とした顔や手は思ったよりも白く、黒髪と薄紅色の唇がよく映えていた。
「あ、解体を手伝ってくれた騎士の方」
「ん? 昨日勧誘した騎士団員というのはローだったのかい?」
伯爵はローヴァンとミカエラの顔を見比べる。
「いえ…騎士団に勧誘したのは相棒のエミリオです。…昨日街道でジャイアントボアに襲われている所に遭遇したんですよ」
そしてそのジャイアントボア2体を魔法で倒したことを簡単に説明する。
「魔法が使えるのね。では悪徳商人や狡猾な貴族に利用される前に養子縁組した方が良いわね」
ジュリエッタ夫人はミカエラの前に来ると、少しかがんでミカエラの視線に合わせた。
「はじめまして、私はジュリエッタ。あなたの隣にいる伯爵の妻です。後ろにいるのは息子のフレデリックとローヴァンよ。仲良くしてね。
…ミヤ様のことは先ほど聞きました。妬みを持つ者が彼女の輝かしい未来を奪ってしまい、この国の元王女として恥じ入る思いです。どうかミヤ様の忘れ形見である貴女は私たちに守らせてください。」
目の前の人は元王女と言った。身分の高い女性が自分の手を取り真摯に懇願する様子にさすがにミカエラも慌てた。
「頭を上げてください…。母さんは今の方が気楽でいい と言ってました。父さんと一緒になれて幸せだと。村の人も親切だったしそんなに大変なことはなかったです」
ジュリエッタ夫人の表情に後悔の念が一瞬よぎり、ふわりと微笑んで そう、強かったのね と言って手を離した。
「あなたの部屋を用意させるから、今日は客室を利用して頂戴。娘がほしかったから、貴女がきてくれて嬉しいわ」
「はぁ…」
「可愛い服を着せたり一緒にお出かけしたり…楽しみだわ。でもその前にどこに出しても恥ずかしくないよう淑女教育をしなければいけないわね」
「え?」
「え?」
思ってもみなかった というようなミカエラの疑問符に、反論があるわけがない というようなジュリエッタの疑問符が重なる。
「騎士団に入ろうと思っているのですが…寄宿舎もあると聞いたので」
「まぁ!女の子が寄宿舎暮らしなんて危ないわ!」
「騎士団委入る前にウチで体力作りや勉強をすることにしただろう? まずはこの家にいなさい」
「勉強が終わっても寄宿舎はダメですよ! こんなに可愛いのに…他の男性騎士に手籠めにされてしまいます!」
「偏見です。 宿舎は男女分かれているし、それぞれ立ち入れないよう厳しく管理されてますよ、母上」
「そうだ! 義兄になるローヴァンと同室なら一日中守ってもらえるし安全じゃないか?」
「もっと問題になりますよ、父上」
夫婦の忠言にローヴァンが加わって言い合いになってしまい、どう止めようとミカエラがあたふたしていると、頭に軽く温かい手が触れた。
見上げると先ほど紹介されたフレデリックが目配せした。 大丈夫だよ、とでも言うように。
フレデリックは結局、騎士団に入るにしても屋敷に帰宅させ、日中はローヴァンと行動を共にする という内容で3人を言いくるめたのだった。
渡り人の子なら特例も可能だろう、と。
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