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第36話 夢が叶う時
しおりを挟む今日は、デビュー番組の最終回の生放送日。
各ミッションの結果発表がされる。
俺以外は、二人一組ずつでのミッション結果。
そして、俺だけは一人でのミッション結果発表に臨むことになる。
このミッション結果については、一つ一つ協賛の会社アカウントから動画を配信し、どれだけその動画が再生され、評価されるかがポイントになる。
そして、二人組で行ったミッションは、その中でどちらが好評であったかが評価される。
そして、あまり評価が良くない場合、デビュー組から脱落させられてしまうと説明をされた。
1ヶ月前の撮影したそれぞれの映像が、どのくらい反響があったのか探るものだ。
しかも、俺たちはその一ヶ月間、インターネットを遮断され、連絡すらも禁止されてしまった。
最終回のオープニングパフォーマンスの練習もあり、今日限りかもしれない9人での『FRAME』を踊ったり、マネージャー指示で視聴者応募特典のチェキを撮ったり、ミニVlogを撮ったりと、結果全員忙殺のためインターネット出来ない弊害は少なかった。
自分たちの作った映像がどのような評価を受けているのか、全員知らない。
勿論、ジウもここ最近は作曲の仕事を詰めてしており、心配で夜食とか用意してあげたりしていた。
週に2回、放映される自分たちの番組を見ては、どんどんと不安が募っていった。
あの3話以降の4話はスンギとソンジュンの『カバーステージミッション』、5話はヒュイルとユンソルの『ミニドラマミッション』、6話はハオランとルイズーの『ダンスムービーミッション』、7話はジウとダウンの『制作ミッション』、そして、最終回手前の8話が俺の『ソロムービーミッション』だった。
正直、辛かった。4話から7話はたまに会話の内容とか、ちょっとインサートされる自分の姿のみで、本編にはほとんど出ていない。
しかも、このメンバーの中なら、ダントツで俺がデビューできない可能性がある。
それは、各話冒頭で挟み込まれるマネージャーや社長、ダンスの先生、歌の先生がそれぞれを評価してくれるシーンで如実に表れていた。
『シグレ、どう?』
『日本人、ってこと以外特徴ない』
『いつも影に隠れている、どこにいるかわからない時がある』
『いつも申し訳無さそう』
『正直、一番メンツの中でデビューが危ない』
飛び交うプロの意見に、放送見ながら自分の心は痛く、たしかにそうだと思うからただただ反省するしかない。
他のメンバーはただそれを静かに見ているから、彼らもそう思うことがあったのだろうと思う。
下手な慰めよりも、その静けさが有り難くもあり、とても辛かった。
そこから、あの山奥での練習シーンに繋がる。
山奥で一人っきりで練習する俺。そこから、また冒頭の評価シーンの続きの会話が挟まる。
『シグレは、成功経験が少ない。だから、今回シグレには一人で全てやり、一人で成し遂げてもらいたい。結果はどうであれ、彼にはそれが必要だ』
それは会社の社長の言葉だった。この社長は、俺を日本の孤児院から引き取ってくれた本当の人物であり、今戸籍上両親の夫妻の知り合いでもある。
今回のミッションが社長からのものであると知り、きゅうっと胸が締め付けられる。
そして、その辛い前半から、自分でも言うが怒涛の快進撃だったと思う。
俺は、ヒップホップは格好良く踊れない。
けれど、ヴォーグやワックを靭やかな振り付けとは相性が良かった。
俺は、かっこ良く男らしい歌とは声が合わない。
けれど、ねっとりとした曲を歌うには適した声だった。
一つ一つ自分が殻を破っていくのがわかる。
そして、そこで始めてみた完成した『墨』MVは、自分でも言うのは何だが、まるでダークファンタジー。少しばかり中二心を擽るメイク、美しい姫カットのロングヘアー、そして衣装が曲に大変マッチしていた。
中性的に寄せた自分が、こんなにもアイドルに見えるなんて。
俺って、こんな、美しくなれるんだ。柄にもなくそんなことを思った。
「シグ兄すごいじゃん!!」
一番初めに飛び上がるように叫んだのは、ハオランだ。
「お前、俺よりダンス上手くねぇか?」
「まさか、こっちの方面のが上手いのは驚きだわ」
そして、隣りにいたソンジュンとスンギが驚いたように声を上げる。
「へぇ、ただのジャップかと思ってたけど、いい声してんな。今度、メロディアスラップ作るから、頼むのもありか」
珍しくダウンも褒めてくれて、なんともむず痒い。
何も言わないがルイズーとユンソルもニコニコとしており、ユンソルは俺の方を向いてグッドサインを出してくれた。
ただ、ジウだけがなんとも複雑そうな顔でテレビを見ている。
あまりいい反応を貰えず、それだけで少しばかり悲しい気持ちだ。やはり、ジウと凡人の俺では目指すところが違うのかもしれない。
今回の課題はジウのためには、ならなかったのかな。
ただ、それを正面から聞けるほど、俺は心が強くない。
俺はそんな気持ちを引きずりながら、最終回撮影日を迎えたのだ。
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