上 下
35 / 58

第36話 夢が叶う時

しおりを挟む
 
 今日は、デビュー番組の最終回の生放送日。
 各ミッションの結果発表がされる。
 俺以外は、二人一組ずつでのミッション結果。
 そして、俺だけは一人でのミッション結果発表に臨むことになる。
 
 このミッション結果については、一つ一つ協賛の会社アカウントから動画を配信し、どれだけその動画が再生され、評価されるかがポイントになる。
 そして、二人組で行ったミッションは、その中でどちらが好評であったかが評価される。
 そして、あまり評価が良くない場合、デビュー組から脱落させられてしまうと説明をされた。
 
 1ヶ月前の撮影したそれぞれの映像が、どのくらい反響があったのか探るものだ。
 
 しかも、俺たちはその一ヶ月間、インターネットを遮断され、連絡すらも禁止されてしまった。
 最終回のオープニングパフォーマンスの練習もあり、今日限りかもしれない9人での『FRAME』を踊ったり、マネージャー指示で視聴者応募特典のチェキを撮ったり、ミニVlogを撮ったりと、結果全員忙殺のためインターネット出来ない弊害は少なかった。
 
 自分たちの作った映像がどのような評価を受けているのか、全員知らない。
 
 勿論、ジウもここ最近は作曲の仕事を詰めてしており、心配で夜食とか用意してあげたりしていた。
 
 週に2回、放映される自分たちの番組を見ては、どんどんと不安が募っていった。
 
 あの3話以降の4話はスンギとソンジュンの『カバーステージミッション』、5話はヒュイルとユンソルの『ミニドラマミッション』、6話はハオランとルイズーの『ダンスムービーミッション』、7話はジウとダウンの『制作ミッション』、そして、最終回手前の8話が俺の『ソロムービーミッション』だった。
 正直、辛かった。4話から7話はたまに会話の内容とか、ちょっとインサートされる自分の姿のみで、本編にはほとんど出ていない。
 
 しかも、このメンバーの中なら、ダントツで俺がデビューできない可能性がある。
 
 それは、各話冒頭で挟み込まれるマネージャーや社長、ダンスの先生、歌の先生がそれぞれを評価してくれるシーンで如実に表れていた。
 
『シグレ、どう?』
『日本人、ってこと以外特徴ない』
『いつも影に隠れている、どこにいるかわからない時がある』
『いつも申し訳無さそう』
『正直、一番メンツの中でデビューが危ない』
 
 飛び交うプロの意見に、放送見ながら自分の心は痛く、たしかにそうだと思うからただただ反省するしかない。
 他のメンバーはただそれを静かに見ているから、彼らもそう思うことがあったのだろうと思う。
 下手な慰めよりも、その静けさが有り難くもあり、とても辛かった。
 
 そこから、あの山奥での練習シーンに繋がる。
 
 山奥で一人っきりで練習する俺。そこから、また冒頭の評価シーンの続きの会話が挟まる。
 
『シグレは、成功経験が少ない。だから、今回シグレには一人で全てやり、一人で成し遂げてもらいたい。結果はどうであれ、彼にはそれが必要だ』
 
 それは会社の社長の言葉だった。この社長は、俺を日本の孤児院から引き取ってくれた本当の人物であり、今戸籍上両親の夫妻の知り合いでもある。
 
 今回のミッションが社長からのものであると知り、きゅうっと胸が締め付けられる。
 
 そして、その辛い前半から、自分でも言うが怒涛の快進撃だったと思う。
 
 俺は、ヒップホップは格好良く踊れない。
 けれど、ヴォーグやワックを靭やかな振り付けとは相性が良かった。
 
 俺は、かっこ良く男らしい歌とは声が合わない。
 けれど、ねっとりとした曲を歌うには適した声だった。
 
 一つ一つ自分が殻を破っていくのがわかる。
 
 そして、そこで始めてみた完成した『墨』MVは、自分でも言うのは何だが、まるでダークファンタジー。少しばかり中二心を擽るメイク、美しい姫カットのロングヘアー、そして衣装が曲に大変マッチしていた。
 中性的に寄せた自分が、こんなにもアイドルに見えるなんて。
 
 俺って、こんな、美しくなれるんだ。柄にもなくそんなことを思った。
 
「シグ兄すごいじゃん!!」
 
 一番初めに飛び上がるように叫んだのは、ハオランだ。
 
「お前、俺よりダンス上手くねぇか?」
「まさか、こっちの方面のが上手いのは驚きだわ」
 
 そして、隣りにいたソンジュンとスンギが驚いたように声を上げる。
 
「へぇ、ただのジャップかと思ってたけど、いい声してんな。今度、メロディアスラップ作るから、頼むのもありか」
 
 珍しくダウンも褒めてくれて、なんともむず痒い。
 何も言わないがルイズーとユンソルもニコニコとしており、ユンソルは俺の方を向いてグッドサインを出してくれた。
 
 ただ、ジウだけがなんとも複雑そうな顔でテレビを見ている。
 あまりいい反応を貰えず、それだけで少しばかり悲しい気持ちだ。やはり、ジウと凡人の俺では目指すところが違うのかもしれない。
 今回の課題はジウのためには、ならなかったのかな。
 
 ただ、それを正面から聞けるほど、俺は心が強くない。
 
 俺はそんな気持ちを引きずりながら、最終回撮影日を迎えたのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】愛し君はこの腕の中

遊佐ミチル
BL
親も友人もいない奴隷のミオは、ラクダを連れて阿刺伯(アラビア)国の砂漠の旅をする。 白髪と青白い肌、赤い目という姿で生まれ、『白』と蔑まれ不吉な存在と周りから疎まれていた。酷使される奴隷の上に『白』はさらに短命で、毎日、いつどこで自分の命はつきるのだろうと思いながら生きていた。 新王の即位と結婚式で阿刺伯国(アラビア国)が華やいでいる中、ジョシュアという若い英国の旅人を、砂漠キツネの巣穴に案内することになった。 旅の最中、気を失ったミオはジョシュアから丁寧な介抱を受ける。 介抱は、触れ合いから戯れの抱擁や口づけに変わっていき、不吉な存在として誰にも触れられないできたミオは、ジョシュアの接近を恐れる。 しかし、旅を続けていくうちにジョシュアの優しさに何度も触れ、ミオは硬く閉じていた心と身体を、ゆっくりと開かれていく。 恐れながらも惹かれていくミオだったが、ジョシュアは、急に姿を消してしまう。 実は、ジョシュアは英国の旅人ではなく、国籍を偽って、阿刺伯国の内情を調べる密偵だという疑いが出てきて...。

浮気されてもそばにいたいと頑張ったけど限界でした

雨宮里玖
BL
大学の飲み会から帰宅したら、ルームシェアしている恋人の遠堂の部屋から聞こえる艶かしい声。これは浮気だと思ったが、遠堂に捨てられるまでは一緒にいたいと紀平はその行為に目をつぶる——。 遠堂(21)大学生。紀平と同級生。幼馴染。 紀平(20)大学生。 宮内(21)紀平の大学の同級生。 環 (22)遠堂のバイト先の友人。

とろけてなくなる

瀬楽英津子
BL
ヤクザの車を傷を付けた櫻井雅(さくらいみやび)十八歳は、多額の借金を背負わされ、ゲイ風俗で働かされることになってしまった。 連れて行かれたのは教育係の逢坂英二(おうさかえいじ)の自宅マンション。 雅はそこで、逢坂英二(おうさかえいじ)に性技を教わることになるが、逢坂英二(おうさかえいじ)は、ガサツで乱暴な男だった。  無骨なヤクザ×ドライな少年。  歳の差。

こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件

神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。 僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。 だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。 子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。   ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。 指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。 あれから10年近く。 ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。 だけど想いを隠すのは苦しくて――。 こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。 なのにどうして――。 『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』 えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をご覧になるとより一層楽しめるかもしれません)

平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます

ふくやまぴーす
BL
旧題:平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます〜利害一致の契約結婚じゃなかったの?〜 名前も見た目もザ・平凡な19歳佐藤翔はある日突然初対面の美形双子御曹司に「自分たちを助けると思って結婚して欲しい」と頼まれる。 愛のない形だけの結婚だと高を括ってOKしたら思ってたのと違う展開に… 「二人は別に俺のこと好きじゃないですよねっ?なんでいきなりこんなこと……!」 美形双子御曹司×健気、お人好し、ちょっぴり貧乏な愛され主人公のラブコメBLです。 🐶2024.2.15 アンダルシュノベルズ様より書籍発売🐶 応援していただいたみなさまのおかげです。 本当にありがとうございました!

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

生意気オメガは年上アルファに監禁される

神谷レイン
BL
芸能事務所に所属するオメガの彰(あきら)は、一カ月前からアルファの蘇芳(すおう)に監禁されていた。 でも快適な部屋に、発情期の時も蘇芳が相手をしてくれて。 俺ってペットか何かか? と思い始めていた頃、ある事件が起きてしまう! それがきっかけに蘇芳が彰を監禁していた理由が明らかになり、二人は……。 甘々オメガバース。全七話のお話です。 ※少しだけオメガバース独自設定が入っています。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

処理中です...