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第28話 夢を墨で塗る

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 その日はダンスと歌の練習風景の撮影と、実際に本気の練習だ。やはり、撮影映えするものと本気の練習は分けて撮影し、後々編集でいい塩梅に仕上げてくれるそうだ。三日後にはこのダンスと歌を撮影し、作品に仕上げなければならない。
 明日もボイストレーナーさんと、今回俺が歌う曲の作詞作曲プロデューサーが中間確認をしてくれる。
 
 曲名は「墨」。紙の上に書かれた墨をテーマにした曲で、ダンスは今まで踊ったことないヴォーギングやワックといったダンスジャンルとバレエのような動きを取り入れた格好良く艷やかなダンスだ。
 
 特に「白は黒を知り、知った白は黒になる」という歌詞は、ちょっと少年心を擽られる歌詞だ。
 また、歌も俺の歌声に合わせたのか柔らかく、少し高めの声で、本当に俺のために用意された歌。
 
 本来なら、ジウの歌を歌いたいが、この曲は自分が口ずさみたくなるくらい喉に馴染む歌。
 
 コテージの一室で、ダンスをしながら脳内に歌詞を叩き込む。
 その様子を定点カメラはずっと写していたと思うが、決まった時間まで練習後夕ご飯を食べる。食べるシーンも勿論撮影し、
 夕ご飯は出前で頼んだ美味しい韓国ジャージャー麺とタンスユク(韓国酢豚)。タンスユクの食べ方は俺はタレにデイップ派で、カメラマンのヨンスンさんが「俺と同じとはやるな」と少しだけ距離感が縮まった。
 
 自分一人だけ食べてるシーンを一部撮った後、ノウル監督、ヨンスンさん、ユドンさんと皆でご飯を食べる。ジノ兄さんは別番組でトラブルがあったらしく、一度会議のため撮影を抜けたらしい。あと一時間後には戻ってくると、メッセージにはあった。
 
「この撮影、四人ってすごいですよね。少数精鋭って感じで」
 
 あまりにもミニマムな撮影ではあるが、まあお金のないうちの事務所なら仕方ないと思える。
 
「まあ、うちの若手の研修兼ねてるのもあって、あんまり金かけたくないのよね。ヨンスンさんはその若手のためにいいカメラマンだけど、ユドンは場数少ないからね。それに、映像作品の監督として、俺もミニマム費用でも、これだけのもの撮れるって宣伝にもなるし。あと、ジノ兄さんへの借りみたいなもんだよね」
 
 ノウルさんはダラダラとジャージャー麺を箸でぐちゃぐちゃと混ぜながら、今回の撮影経緯の裏話を話す。
 
「まあ、シグレちゃんにはもっと頑張って・・・・・・・もらいつつね。この前ので気に入っちゃってさ、上手く予算捻出したよねージノ兄さんと同じ方法取ったけどさ。なあ、ユドン」
 
「は、はい、社長。シグレさんのお陰で僕も経験が増えました」
 
 いきなり振られたユドンさんは、びくりと身体を震わせて、少し吃りがちに返す。ノウル監督のことが怖いのだろうか、緊張してるのだろうか。ちょっと違和感を覚えつつ、隣のヨンスンさんを見る。
 
 タンスユクをタレにデイップしている。
 
 ユドンさんはタンスユクにタレを掛ける派のため、ちょっとばかり「同じじゃないのか」と残念な気持ちになった。
 
 夕食後、ノウル監督に「お風呂入ってからおいで」と呼ばれた部屋。
 
 身体を洗い、用意された白Tシャツと短パンを着て、布団に入るシーンだけ定点カメラ向けに撮影した後、呼ばれた部屋に向かう。そこはコテージの一番奥の階段から降りていく地下室だった。
 
 地下室の扉は他の部屋と違い、重い鉄の扉。扉の取手を掴みぐっとこちらに引くと、そこには3人の人がいた。
 
 ジノ兄さん、ノウルさん、そして、ユドンさん。
 
 そして、なによりもユドンさんの格好がすごかった。
 
 黒の革ベルトだけで作られた服を着ており、大事なところは全てむき出しになっている。
 
 そして、なによりも顔だけではなく、身体の至るところに、ピアスが開けられていた。
 
「あーシグレちゃん、来たねー」
 
 呑気にそう笑うノウル監督は、大きな歯医者さんのような椅子の隣で、動く丸椅子に座っている。そして、ユドンさんを見たことでまだ呆けている俺を、こっちにおいでと言わんばかりに手招きした。 
 そのノウルさんよりも手前に立っているジノ兄さんは、少しばかり機嫌悪そうにタバコを吸っている。
 
「は、はい」
 
 とりあえず、ノウル監督に呼ばれるまま、近寄る。
 そして、目の前の椅子に座れと言わんばかりに、手で椅子を指す。
 
「すみません、失礼します」
 
 俺はその椅子に座る。座り心地は歯医者さんの椅子のようで、なんでこんなものがコテージにあるのか謎ではある。
 
 シュルシュルシュル
 
 布の擦れる音で手の方を見る。ノウル監督は椅子からベルトのようなものが出して、それを俺の腕に着けて固定しようとしていた。
 
「ノウル監督! これは一体!?」
 
 思わず叫ぶように声を荒げるが、暴れると思ったのか逆側からジノ兄さんに抑えられてしまい、少しも動けない。
 
「シグレちゃんには、これから今回の撮影衣装の準備をしてもらう必要があるから、ちょっと痛いけどガマンできるよね・・・・・・・・・・・・・・・・?  拘束は暴れないようにの保険」
 
 ノウル監督はそんなことを笑いながら、次々に俺の身体中に拘束ベルトを止めていく。
 
 暴れる勇気もない俺はただただ、何が起きるかわからず黙って恐怖に耐えるしかなかった。
 
 
 
 
 
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