悪の献身 〜アイドルを夢見る少年は、優しい大人に囲まれて今日も頑張ります〜

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第26話 夢の形が変わる

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 俺たちは、気を引き締めて、本番を待つ。
 カンッと、撮影開始を合図するクラッパーボードが鳴った。
 
 合図とともに、カンペ指示の通り他愛もない会話をする。すると、突然上から声が聞こえた。
 
『“ラニュイ”の5人よ、これから、君たちは、“金がなくても夢がある”者たちと暮らし、戦い、その結果により最終的に誰がデビューするかを決める。』
 
 聞こえた声に、俺たちは見開く。5人でデビューするという前提は変わらないと思っていたのに。口々に「なんだって」「どういうことだ?」と混乱の言葉を話していると、反対側から4人の青年がやってきた。その中には知った顔もいる。
 険しい表情をした4人と、戸惑う俺たち。それに構うことなく、天の声は続けた。
 
『この四人は、デビューを志望し、門を叩いたものたちだ』
 
「よろしくなあ、元ラニュイの皆さん」
 
 一番初めに入ってきた派手でじゃらじゃらとした黒赤ツートンヘアの男は、ニッと笑う。その男は、俺たちでも知っている人だ。
 
『パンチライン』という現在シーズン8までやっているラッパーサバイバル番組があり、シーズン7『パンチラインジャックポット』のベスト8に残った若干17歳のラッパー・ユン ダウン。身長も顔も普通だが、カリスマ性があり、鋭い目つきに、ラッパーらしい力強いパフォーマンスは、すでに大きなファンダムがある。
 
「また、俺も一緒に戦えるのは嬉しいよ」
 
 その隣りにいるのは、俺よりも歴が長く、今回のプレデビューでは入れなかった、練習生で一番の年長だった優しくて強いカン スンギ。
 
 そして、残りは知らない2人の少年。
 
 なんか凄いことが始まりそう。俺はそんなことを思ったあと、ふと今の天の声に疑問を持つ。
 
(暮らし、って言ってたけど、まさか一緒に……?)
 
 そして、その嫌な予感は当たった。
 
「えー! 俺、このチビと同じなの?」
 
 スーツケースを投げ出して、拗ねるダウンはジノの部屋で暴れている。元々二段ベッドだったので、使われてなかった上の段を掃除して使うようにとお達しがあった。
 ソンジュンの部屋には、長い付き合いだからとスンギ。ヒュイルの部屋には、ヒュイルと同い年でフォトグラムというアプリで人気らしいピョユンソルくん。
 ハオランの部屋には、16歳中国人のチャンルイズー。
 
 俺だけ、引き続き一人部屋と、部屋割りごと、会社からお達しがあった。なんとなくだが、これはジノ兄さんたちからの配慮があったと思うし、この部屋同士でポジションバトルを今後4回分するとのこと。
 
 俺だけ、免除に!? と思ったら、俺には別のミッションがあるらしく、明日から数日この部屋から出ていくそう。
 
 スーツケースに数少ない荷物を持って、事務所の車に乗り込み、メンバーの皆と離れ離れになる。一体なんだろう? と思いつつ、ジノ兄さんに連絡をする。
 
 【お疲れさまです。ジノ兄さん、ミッションについてなにか知ってますか?】
 
 一応連絡してみるが、しばらく経っても返信は特にない。そんなに頻度高く連絡は取っていないのもあるけれど、どうしてこうなったのだろうと思いつつ、連れてこられたのはとある山の中のお洒落なコテージだった。
 誰かいるのか明かりがついており、夜の森の中で煌々と光っている。
 
 一緒についてきたマネージャーからは、「貴方のためだから」と念を押されて、俺は一人でコテージに入る。
 
 そこには、またよく知る人物と、知らない人が居た。
 
「待ってたよ、シグレ」
 
 ワインを飲みながらソファに座るジノ兄さん。
 
「シグレちゃん可愛いなぁ、まあ、こっから一週間共に過ごすからねぇ」
 
 もう一人はこの前のお兄さん。たしか、ノウルさんだったと思う。その手にはシャンパンらしきボトルが握られている。
 そして、残り2人の男性は居心地悪そうに肩を寄せて、チャミスルをちびちび飲んでいた。
 
「こ、こんばんは。おまたせしました」
「さあ、こっちこっち、俺たちの間においで~」
 
 ノウルさんに呼ばれて、言われた通り間に座朗と思い近づく。
 
 その目の前には、肩身狭そうな男の人たちがおり、目線が合う。一人は顔の至るところにピアスが開いているが、比較的さっぱりとした顔立ちで自分より少し年上そうな人。もう一人は妙齢のお爺さんとも言えそうな白髪交じりの立派な髭が生えた人だった。俺は座る前に二人に挨拶しようと口を開いた。
 
「はじめまして、俺はラニュイのシグレと言います。よろしくおねがいします」
 
 すっと頭を下げると、若い人の方はすっと立ち上がって同じように頭を下げた。
 
「あ、はじめまして、俺はパクユドンです。今回ノウル社長の紹介できました。雑用とヘアメイク担当してます」
 
 そして、隣のおじいさんは少し困ったように俺を見たあと、口を開いた。
 
「キムヨンスンだ。その、ノウル社長の会社で、カメラマンをしている」
 
 おじいさんはそう言うと、またチャミスルをぐっと飲む。俺はそのままノウルさんに促されて、ジノ兄さんとノウルさんの間に座る。
 
「とまあ、この4人で一週間楽しく過ごそうね。ジノさんも、ね」
 
 ノウルさんはそう笑うと、またシャンパンを飲み干す。隣りにいたジノ兄さんは俺の腰に腕を回すと、手に持ったワインをグラグラと回した。
 
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