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第22話 夢を吸い咲く花

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 マネージャーに連れてこられたのは、やはり例の低層マンションだった。入り口に立っている黒服のスタッフは、俺のことを覚えていたのだろう。俺の姿を見ると、するするとあの食事会の場所へと案内された。
 今日も狂った宴はすでに始まっていて、俺の他に2人ほどがセックスをしている。
 
 一組は、前に雑誌で見たこの国のモデルさんと、たまにSNSで見る日本人の音楽系アーティスト事務所の社長。どちらもそこそこ知名度があるため、見てはいけないもの見た気分になる。
 もう一組は、どちらも知らない人だが、可愛らしい少し初な雰囲気がある男性を、どっぷりとしたお金持ちが抱いていた。
 
 通されたテーブルにはまだ誰もいない。他のことをしようにも、ここでスマートフォンを弄るのは違うと思う。じゃあ考え事しようとをするにも、甘ったるい声と大人な会話に思考を邪魔される。
 
 スタッフに話しかけようかどうか悩んでいると、ふと自分が入ってきた扉が開いた。そこには、珍しく胡麻擂りをするセファン兄さんと、少しばかり気難しそうに顔を顰めるお爺さんが中に入ってきた。
 そして、お爺さんは俺を見て、つかつかとこちらに歩いてきた。
 
「ほう、お前か。私達の国に来るとはいい度胸だな・・・・・・・・・・・・・・・
 
 その単語にふるりとこれは、やばいと経験から推察できる。お爺さんは、テーブルにあった俺の飲みかけの水を掴むと、そのまま俺にぶっかけた。ビシャンッと、冷たい水を顔に被った俺。あまりのことで反応できなかった俺は、間違えて鼻で掛けられた水を吸ってしまった。
 
「ケッ、ホッ、ケホッ、ぅえっ」
 
 目にも水が入り、服もびしょ濡れだ。
 
「まったく、気分が悪い、セファン、私は個室に移動だ。ソンギもそっちに呼んでくれ」
「わかりました、スタッフ、案内を」
 
 セファン兄さんは、そのお爺さんの対応を優先し、俺のことは見えていないようだ。頭から冷えていく水の感覚に、なんとも言えない悲しさが募る。どの国にもいい人もいるけど、悪い人もいるから仕方ない。
 
 スタッフに連れられていくお爺さんの後ろ姿を見ながら、どんどんと心が萎れていく気持ちになる。今日はもう出来ることなら帰りたい。お爺さんは出ていくのを見届けると、セファン兄さんがこちらを向いた。
 
「ごめん、あの爺さん、機嫌悪いとすぐ人に当たるから。シグレも個室にするから、そこでバスローブでも着替えてきな。まだ、相手は来ないみたいだし」
 
 謝罪する姿は本当に申し訳ないと思ってるのだろう、眉がハの字になったセファン兄さん。
 
「大丈夫ですよ、慣れてます。わかりました」
「ごめんな、スタッフ、シグレも部屋に」
 
 何度も謝る姿にむしろこちらが恐縮してしまいそうなのだが、またスタッフの案内で個室の方へと移動する。思えば、なぜあの食事会の会場で待つ必要性があるのか少し謎だ。
 少し不思議なことを思いながら、案内された部屋に到着するとまず服を脱ぐ。濡れた服は乾くかなあと思いつつ、ハンガーに掛けて干した。
 髪はまだ濡れて、自分が飲んでたものとは言え、飲みかけを被ったのは気持ち悪く、軽くシャワーを浴びる。
 
 その後、バスローブを着て、大きなベッドにごろりと寝転がった。
 
 部屋の中では流石に暇なのでスマートフォンを弄る。韓国語を勉強をするアプリを開き、ぽちぽちと問題に答えていく。近々韓国語検定を受ける予定なので、それもあって勉強をしなければならなかった。
 
 韓国に来てそれなりの時間を過ごしたが、まだまだ拙いことが多く、韓国のニュースなどで難しい単語が出ると理解するまでにとても時間がかかってしまう。
 
 どうにかしないとなあ、と思いつつ、部屋の冷蔵庫に入っていたお水を飲む。ここ、低層マンションだと思っていたが、一つ一つの部屋が小さくどちらかというとホテルっぽいなと思った。
 
 コンコンッ
 
 扉を誰かが叩いた。
 
「はーい!」
 
 俺は返事をしながら扉の方に飛んでいく、そして、扉を開くと一人の大きい男性が立っていた。
 
「シグレちゃん?」
「はい、そうです」
「お、よかった」
 
 見た目はダウナー系のかっこいいお兄さん。身長もやはりこの国の人だからか、当たり前のように俺より高い。また、体もどっしりと鍛えられているのが、ダボついたパーカーを着ていてもよくわかる。
 ただ、それよりも、彼の体の至るところに、というよりも顔以外のほとんどすべての肌にタトゥーが刻まれている。
特に喉には、大きくて禍々しい花が咲き誇っていた。

 正直、あまりの大きさに自分が小動物になった気分だ。
 そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、そのお兄さんはそのままどしどしと扉の中へと入ってきて、俺と距離を詰めた。
 
 ガチャンッ。オートロックの鍵が締まる。その音に俺の体はビクリと震えた。
 
「へぇ、セファンも、こんないい子紹介してくれるんだ」
 
 首を傾げながらそう言ったお兄さんは、俺の顎を掴んで、顔を至る角度から眺める。
 その目つきは、まるで初めて見る宝石の検品をしてるかのようだった。

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