上 下
20 / 58

第21話 夢の会食

しおりを挟む
 
 連れてかれたのは、また違ったお店。
 個室のイタリアンで、セファン先輩曰く「エビのロゼパスタ」が美味しいらしい。ただ、ロゼパスタってイタリアン風韓国料理なのでは、と心のなかで思うが。
 
「シグレ、未成年だからね、ちゃんとジュースにしなよ」
「はい、勿論です。柚子蜂蜜ソーダ飲みたいです」
「おけ、じゃあ、それとおまかせのコースにするね」
「はい!」
 
 セファン先輩は卓上にあるタッチパネルの操作をし、注文をしていく。この店に入る時も、一度も店員とは顔を合わせておらず、正直本当に入ってよいのかと、セファン先輩の後ろで焦っていたくらい。
 けど、中に入るとオシャレな洞窟のような岩壁が再現され、タイルや絵などで飾られた部屋。
 
 注文の品物が届くと、美しいベルの音が鳴り、小窓から提供されるようだ。なんとなくだが、このシステムは日本の有名なとんこつラーメン屋さんに似てるなあとか少し思う。
 セファン先輩は一人でワインを、俺はその前で柚子蜂蜜ソーダを小窓から受け取り、二人の前に置く。
 
「「乾杯(です)」」
 
 ストローで飲む柚子蜂蜜はやはり美味しい。口の中がさっぱりするし、なにより疲れた身体には酸っぱさも欲している。
 喉を潤し、その後はセファン先輩と楽しく会話をした。勿論運ばれてきた料理もどれも美味しく、初めて食べたエビのロゼパスタは最高だった。トマト、コチュジャン、クリームとエビが絶妙にマッチしていて、バジルの葉もいいアクセントになっている。
 今度、作り方調べて、メンバーに作ってあげよう。ただ、少し辛いからジウには辛くないレシピを探さなければ。
 
「これ、本当に美味しいです!」
「だろ? エビ好きなら絶対食べてほしいやつなんだよな、あ、アヒージョも食べなよ」
「はい!」
 
 最近音楽祭に向けて、練習ばかりでまともなご飯を取っていなかったので、本当に栄養が胃に染み渡る。ご飯をある程度食べ終わった後、セファン先輩はそれまでの話題から、この前の話に変わった。
 
「そう、シグレ、あの兄さん・・・・・とは仲良くしてる?」
 
 セファン先輩は、多分ジノ兄さんのことを聞いている。ただ、わざわざあの兄さん・・・・・と読んだのはある程度の配慮して会話をしないといけないのだろう。
 
「はい、この前もよくしてもらいました」
「そっか、写真見せてもらって、大変仲良さそうだったからね。ただ芸能界で写真の取り扱いは難しいからね、ちゃんと映ってるもの確認して気をつけなよ。もちろん、兄さんはよくわかってるから安心して、お話できたけど」
 
 すらすらと話し、にっこりと笑うセファン先輩。それは言外に、軽率に写真を撮るな撮られるなという意味だというのは、俺にもわかる。思わず、乳首に絆創膏写真は失敗したのかなと思い、「すみません。アドバイスありがとうございます」と頭を下げた。
 
「まあ、それのおかげで、また一人、あの美味しいお店・・・・・・・・でご飯食べたい人がいてね。シグレ、また連絡していい?」
「も、勿論です」
 
 その誘いの意味を頭で噛み砕く。あのお店というのはどっちなのだろうか、もしあの低層階マンションのことであれば、ジノ兄さんとは別に、そういうことになるということだろう。
 ただでさえ、最近恥知らずになってきた身体。少しでも意識してしまうと、身体が勝手に疼き始めるのだ。乳首も何だかいじってしまうし、お腹の中が物足りなくなるときもある。
 今もまた、じわりと股間あたりに熱が集まってきた。
 勢いに乗せられ、承諾してしまったが、少し早まったかもしれない。そう不安な面持ちで、テーブルにあったもうほぼ氷しか残ってない柚子蜂蜜ソーダノグラスを手にとって、ストローでズズズッと飲む。
 
「ありがとう。また日程は教えるからさ。あ、そうそう、遅くなったけど、日本語番組のキャスティングと、デビュー番組制作決定おめでとう。順調に行くと思うよ、シグレがちゃんと頑張ればね」
 
 セファン先輩の言葉に、ずっしりと重みを感じる。そうだ、頑張らないといけないのだ。ここで粗相してはならない。
 
「はい、頑張ります」
 
 何に対しての頑張るなのか、ただ2つの意味を込めて、俺は今こう返事をするしかなかった。
 
 食事も終わり、お店を退店しようとお会計を始める。気づけばもうほとんど早朝に近い時間だ。
 
「セファン先輩、ごちそうさまです。今日は、ありがとうございました」
 
 お会計をするセファン先輩にそう言って頭を下げると、セファン先輩はクレジットカードを切りながら俺の頭をポンポンと撫でた。
 
「いいって、可愛い可愛い後輩ちゃんのためだからね。って、もう、シグレ弟みたいなもんだから。兄って呼んでくれよ」
「いいんですか!」
「ああ、勿論」
 
 兄呼びは信頼の証のようなもの。それを許可された俺は嬉しくて、「セファン兄さん、ありがとうございます!」と感謝の気持を述べる。そんな俺をセファン兄さんはまた頭を撫でてくれた。
 
 退店後、俺たちは別々のタクシーで帰宅する。タクシーに乗って、気づけば朝日が昇り始めていた。眩しい光。暗闇から照らし始めるその姿に、「なんだか、ジウみたい」とそんなことを思う。
 
 さあ、今日はお休みだから、掃除でもしないとなあ。
 
 今日すべきことを考えながら、タクシーの中で少しばかり目を瞑った。
 
 セファン兄さんから連絡があったのは、その日の夕方。指定された日は、ジノ兄さんが紹介してくれた日本語番組の初回撮影日の2日前だった。
 
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

カクヨム、noteではじめる小説家、クリエーター生活

エッセイ・ノンフィクション / 連載中 24h.ポイント:106pt お気に入り:14

親分と私

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:456

優柔不断な公爵子息の後悔

恋愛 / 完結 24h.ポイント:120pt お気に入り:510

【BLR18】ゲイビ男優達の大人な王様ゲーム

BL / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:52

繋ぐ

BL / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:5

ポルノに脳を破壊された男の末路 〜童貞が往く、英国風俗体験記〜

エッセイ・ノンフィクション / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

処理中です...