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第20話 夢の大きな舞台

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「ウェルカムトゥ音楽祭! 今宵アイドルの祭典が始まる! それでは、まず初め、ウェルカムアーティストの登場だ!」
 
 MCの紹介が、響き渡る。この登場挨拶が俺たちが、出ていく合図の言葉。
 
「まずは、一組目! 今年プレデビューをし、なんとデビュー番組制作も決定! 話題を集めている『ラニュイ』」
 
 俺たちは暗いステージの下から、駆け足で外に出ていく。まだ本格的なライブ前、昼過ぎの日差しが眩い。
 
 俺たちのステージが、音楽とともに始まった。
 
 案の定、こっちを見てくれている人は少ない。しかし、それでも見てる人はいる。
 クラブミュージックと合わせて、お客様を煽りはじめた。戦闘開始の炎を歌った曲が、まさにこれからのライブに大きな炎を灯す曲へと変わり、かっこよく決めつつ、手だけでも、頭だけでも、この煽りにのってくれと全力で決める。
 
 勿論、ハオラン渾身のダンスブレイクもウィンドミルを決め、歓声が上がる。
 ジウの歌声も、ソンジュンのラップも、ヒュイルの顔面も、すべてが冴えわたる。
 
 そんな中、俺はいつもどおり。
 
「“Baptism of flame……Burn! ”」
 
 このワンフレーズしかないけれど。
 
 それでも、少し歓声があったから安心する。
 そして、最後のサビ、360度向いた俺たち。俺の前には花道とメインステージ。
 ウェルカムアクト、オープニングアクトでは、そこのステージに立つことはできない。ジウの歌声が背中側から聞こえる。
 とても悔しい、本当ならば彼はあそこに立つべき人間なのだ。
 
 絶対に、来年はメインステージに立ってやる。
 
 俺はその強い気持ちを込めて、最後までファンを煽りきった。
 
 ライブが終わったら自由時間。と言っても、ジウだけは明日の学校の関係で先に帰宅していった。俺たちはテント内にいるのもなーと思いつつ、スタッフがいるモニタールームに移動して、そこで楽しくライブを鑑賞して終わった。なんだかんだ、セファン先輩にあったのは、最後カーテンコールで、ディートキシックの一番の名曲を歌っていた時だ。
 セファン先輩に見つかった俺は肩を組まれ、カメラにアピールする。この曲はヒュイルと一度事務所の練習生に対する月末評価というステージテストで、披露したことがあった。
 
 たくさんの紙吹雪が舞う中、相当仲良しアピールをした俺たちだったが、これでよいのかと思う。
 
 歌が終わり、お客様たちにファンサービスをしながら皆袖に捌けていく。俺はその時もセファン先輩に捕まり、耳打ちされる。
 
「このあと、どう? 紹介したいお店があるんだ」
 
 なんとなくその言いたいことに気付く。
 
「マネージャーさえよければ」
「勿論」
 
 セファン先輩の言葉に、胸がバクバクと動く。興奮しているのだろうか。俺はこのあとの展開に思いを馳せた。
 
 袖に捌けた後、セファン先輩は少しテントで待っててくれと声をかけて、自分たちのテントに戻っていく。一緒に戻るディートキシックのメンバーも誰よりも派手でおしゃれな格好をしており、やはり憧れの先輩は違うなあと思わず言葉から漏れた。
 俺はテントに残り、先に変えるメンバーたちを見送る。意地の悪いあのグループはもうさっさと帰っていったようだ。誰もいないテントの中、俺はスマートフォンを開き、SNSで今日の反応を伺う。
 
 エゴサというやつだ。そうすると、以前よりもツイートが増えており、一応禁止されている・・・・・・・・・ことだが、他のメンバーのマスターたちが写真を、プレビューとして写真を上げている。
 
 俺が好きなジウのマスターさんである、アカウント名「Lightning fell」さんも沢山あげていた。
 
 やっぱ、ジウかっこいいなあ。
 
 他にも何人かいるジウのマスターさんの写真をいっぱい保存していると、ふと俺の名前があることに気づく。
 
 俺の写真だ。まだ少しブレがあるが、がんばって撮ってくれているのを感じる。
 マスターのマスターさんアカウントの名前は、「Hey! Take see!」。なるほど、ヘイ、テクシー。韓国語ではタクシーではなく、テクシだから。
 確実にタクシーで帰ってきたあの日を思い出させる名前で、会場には彼女もいたのかと嬉しくなる。
 
 初めての自分のマスター。嬉しくて保存する。少しばかり夢へと近づいた気持ちになった。
 
「おまたせ、何見てんの?」
 
 心がホクホクしていると、不意に声をかけられる。ぱっと振り向けば、派手な衣装からいつもの格好になったセファン先輩だ。
 
「お迎えありがとうございます。今は今日の反応を見てました」
「ふーん、お、時雨の写真。マスター?」
「そうです、実は俺の初めてのマスターなんです」
「そうなんだ、意外だわ。俺もう初めてのマスターとか、いないからなあ。差し入れとかお世話になったなあ」
 
 セファン先輩はそう言いながら少し柔らかい笑顔で話す。たしかに、マスターもずっといるわけではないだろう。今じゃ沢山のファンに囲まれたセファン先輩でも、やはり最初のマスターには何かしらの思いがあるのが伝わる。
 
「じゃ、準備できたら行こうか」
「はい!」
 
 俺はセファン先輩に連れてかれ、撤収を始めた会場からタクシーでお店・・へと向かった。
 
 
 
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