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第19話 夢に先輩はつきもの
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ステージの裏にはいくつものテントが建てられており、そこには名だたる諸先輩方の名前が並ぶ。そして、今年すでにデビューした大手事務所のグループ名もあった。俺たちはその中で唯一合同の部屋。去年デビューしたあまり売れていない男性グループ11人グループと、ウェルカムアクトの楽屋として纏めて入れられているのだ。
「へえ、新人かぁ……あ、プレデビューだから、まだ、新人でもないか」
「ああー我が国にようこそ、どうぞ楽しんでってください」
「しかも、一人は日本人だっけか、干されそうだよな」
そう言ってニヤニヤと笑うその人たちに、俺らはなんとも言えない気持ちになる。どうやら、あまり性格は褒められた感じではなさそうだ。
閉口した俺達にやいのやいの言うそのグループの何人かと、その奥で全く興味なさそうな他の人たち。なんというか、横にも縦にも斜めにも人脈が大切なこの芸能界でこんなことできるなんて、と俺は思いつつ、その先輩たちの嫌味を聞き流す。
嫌味や暴言は慣れているし、何を言い人もそこそこにいるのは知っているし、俺も日本人だからと差別されたのは両手に数え切れないくらいあるのだ。
すると、暫くしてマネージャーが挨拶まわりをするからと俺たちを外に連れ出す。正直タイミングが良かった。そして、連れられるがまま各テントへと挨拶に回る。
といっても、形式的なもので会話は特にない。
ただ、今年デビューしたグループで、以前お世話になった「ロキシー」の弟分である8人グループ「エストラガン」については同い年らへんだったため、物凄く話しかけられた。
「日本人なの? 今度日本語教えてよ!」
同い年のアメリカ系韓国人のキム・オーガスト・ジョンハくんにそう言われたのは焦ったが、「こちらこそ英語教えてほしい」と伝え、連絡先を交換した。それにしても、8月という名前らしく彼はとても夏が似合う人のよう。俺は抱きしめられたせいで、あれ以来敏感になった乳首を刺激されてしまい、危うく変な声が出そうになってしまった。
そして、最後に来たのは一番奥の楽屋、そこには「ディートキシック」。
マネージャーに促されるように中に入って挨拶をする。
「「「「「おはようございます、ディートキシック先輩。僕たちはラニュイといいます。よろしくおねがいします」」」」」
挨拶をすると、セファン先輩は面白そうに笑った後、俺にウィンクをした。ただ、他のメンバーさんはあまり興味が薄いのか、反応はいま一つであった。まあそれもそのはず、この人たちは世界的アーティストで、卓越した歌とラップ、独特な派手でおしゃれの暴力のようなスタイルで覇権を握っている人たちだ。
おしゃれの暴力については、全世界のおしゃれ雑誌の表紙になったこともある。
と、ヒュイルが前に教えてくれた。
緊張した空気が漂う中、口を開いたのはやはりセファンだった。
「いやー、なかなか若い子たちが挨拶に来るなんて、シグレ、CDあるの?」
「はい、あります! 人数分用意してます!」
本来はデジタル版しか音源は出ていないが、関係者関係に配る用の限定CDがあり、こちらをセファン先輩や他の先輩に俺の手から渡す。
「お、サイン入りじゃん。シグレってこの傘マークのやつ?」
「はい、俺の名前、時の雨って書くんです、だから傘マークなんです」
「へぇ、そうなんだ。こりゃいいもん貰ったわ、あ、俺のCDもいる? 一応あるんだよね」
そう言って、貰ったのはセファン先輩のソロアルバムだ。
「ありがとうございます!」
「いいっていいって」
そんな会話を続けてるとふと視線を感じた。振り返ると、他のメンバーが「なぜ?」という顔をしたまま俺を凝視していた。セファン先輩もそれに気づいたのか、「シグレ後で話そうな」と言われ、ここで一度お暇させて貰うことになった。
もちろん、楽屋に帰るまでの道中、セファン先輩との関係を聞かれた。特にディートキシックのファンであるヒュイルはもう凄かった。
「シグ兄! めちゃくちゃ仲良さそうなのなんで!」
「たまたま、トイレ行ったら出会って、それから良くしてもらってるんだ」
「いつ!? いつのトイレー!? 俺もシグ兄と連れションすればよかった……」
いつもは無気力なヒュイルが、こんなに感情を顕にしてるのはなかなかに見ない。でも、たしかにあの時、ヒュイルも居たらどうなっていたのだろうか。
もしかしたら、俺よりヒュイルに声を掛けていたかもしれない。
少しばかりそう思ってしまう自分がいるが、ヒュイルは多分今俺がしてることをできるのだろうか? と考えると、彼はそんなことをしなくとも美貌とコネがある。
うちに入ってきたのも、その美貌でスカウトされたからだ。
俺はヒュイルにセファン先輩のことをあれこれ聞かれるのを躱しつつ、ちょっぴり心がちくりとしたのを感じながら楽屋のテントに入っていった。
テントに入り、もう一つのグループから逃げるように隅で待っていた俺たち。スタッフがスタンバイと声をかけてくれた。音楽祭は初めて。しかも、サブステージの横から出て陣形を組むっていうのも、初の本番。
ステージ下を腰を屈めて進み、サブステージの出入り口前でスタンバイする。
すると、場内に大きな音が流れた。
「へえ、新人かぁ……あ、プレデビューだから、まだ、新人でもないか」
「ああー我が国にようこそ、どうぞ楽しんでってください」
「しかも、一人は日本人だっけか、干されそうだよな」
そう言ってニヤニヤと笑うその人たちに、俺らはなんとも言えない気持ちになる。どうやら、あまり性格は褒められた感じではなさそうだ。
閉口した俺達にやいのやいの言うそのグループの何人かと、その奥で全く興味なさそうな他の人たち。なんというか、横にも縦にも斜めにも人脈が大切なこの芸能界でこんなことできるなんて、と俺は思いつつ、その先輩たちの嫌味を聞き流す。
嫌味や暴言は慣れているし、何を言い人もそこそこにいるのは知っているし、俺も日本人だからと差別されたのは両手に数え切れないくらいあるのだ。
すると、暫くしてマネージャーが挨拶まわりをするからと俺たちを外に連れ出す。正直タイミングが良かった。そして、連れられるがまま各テントへと挨拶に回る。
といっても、形式的なもので会話は特にない。
ただ、今年デビューしたグループで、以前お世話になった「ロキシー」の弟分である8人グループ「エストラガン」については同い年らへんだったため、物凄く話しかけられた。
「日本人なの? 今度日本語教えてよ!」
同い年のアメリカ系韓国人のキム・オーガスト・ジョンハくんにそう言われたのは焦ったが、「こちらこそ英語教えてほしい」と伝え、連絡先を交換した。それにしても、8月という名前らしく彼はとても夏が似合う人のよう。俺は抱きしめられたせいで、あれ以来敏感になった乳首を刺激されてしまい、危うく変な声が出そうになってしまった。
そして、最後に来たのは一番奥の楽屋、そこには「ディートキシック」。
マネージャーに促されるように中に入って挨拶をする。
「「「「「おはようございます、ディートキシック先輩。僕たちはラニュイといいます。よろしくおねがいします」」」」」
挨拶をすると、セファン先輩は面白そうに笑った後、俺にウィンクをした。ただ、他のメンバーさんはあまり興味が薄いのか、反応はいま一つであった。まあそれもそのはず、この人たちは世界的アーティストで、卓越した歌とラップ、独特な派手でおしゃれの暴力のようなスタイルで覇権を握っている人たちだ。
おしゃれの暴力については、全世界のおしゃれ雑誌の表紙になったこともある。
と、ヒュイルが前に教えてくれた。
緊張した空気が漂う中、口を開いたのはやはりセファンだった。
「いやー、なかなか若い子たちが挨拶に来るなんて、シグレ、CDあるの?」
「はい、あります! 人数分用意してます!」
本来はデジタル版しか音源は出ていないが、関係者関係に配る用の限定CDがあり、こちらをセファン先輩や他の先輩に俺の手から渡す。
「お、サイン入りじゃん。シグレってこの傘マークのやつ?」
「はい、俺の名前、時の雨って書くんです、だから傘マークなんです」
「へぇ、そうなんだ。こりゃいいもん貰ったわ、あ、俺のCDもいる? 一応あるんだよね」
そう言って、貰ったのはセファン先輩のソロアルバムだ。
「ありがとうございます!」
「いいっていいって」
そんな会話を続けてるとふと視線を感じた。振り返ると、他のメンバーが「なぜ?」という顔をしたまま俺を凝視していた。セファン先輩もそれに気づいたのか、「シグレ後で話そうな」と言われ、ここで一度お暇させて貰うことになった。
もちろん、楽屋に帰るまでの道中、セファン先輩との関係を聞かれた。特にディートキシックのファンであるヒュイルはもう凄かった。
「シグ兄! めちゃくちゃ仲良さそうなのなんで!」
「たまたま、トイレ行ったら出会って、それから良くしてもらってるんだ」
「いつ!? いつのトイレー!? 俺もシグ兄と連れションすればよかった……」
いつもは無気力なヒュイルが、こんなに感情を顕にしてるのはなかなかに見ない。でも、たしかにあの時、ヒュイルも居たらどうなっていたのだろうか。
もしかしたら、俺よりヒュイルに声を掛けていたかもしれない。
少しばかりそう思ってしまう自分がいるが、ヒュイルは多分今俺がしてることをできるのだろうか? と考えると、彼はそんなことをしなくとも美貌とコネがある。
うちに入ってきたのも、その美貌でスカウトされたからだ。
俺はヒュイルにセファン先輩のことをあれこれ聞かれるのを躱しつつ、ちょっぴり心がちくりとしたのを感じながら楽屋のテントに入っていった。
テントに入り、もう一つのグループから逃げるように隅で待っていた俺たち。スタッフがスタンバイと声をかけてくれた。音楽祭は初めて。しかも、サブステージの横から出て陣形を組むっていうのも、初の本番。
ステージ下を腰を屈めて進み、サブステージの出入り口前でスタンバイする。
すると、場内に大きな音が流れた。
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