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第18話 夢に近づく

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 なんとか作り終わった簡単な朝ごはん。それをみんなで食べたあと、歩いて事務所内にある練習室に向かう。音楽祭に出るらしく、その際のステージ構成を考えるためだ。
 音楽祭というのは、様々なアイドルグループが何曲か披露する野外フェスの一つ。シンプルな名前ながら、その歴史は長いため、出れることがアイドルとしての一つのステップではあるのだ。
 その音楽祭に向けて、ダンス振り付け担当のハオラン、編曲をしたジウ、総まとめをしているソンジュン3人は後ろでどうするかと討論している。
 難しそうに顔を顰めつつ、自分の意見を年上の二人にぶつけるジウはやはり凄いと思う。それに、もうすでに編曲されたものは俺も聞いており、かっこよく燃えてた炎が音楽祭を盛り上げるために、クラブっぽくノリやすい感じで変わっていた。
 これぞ、才能というものだろう。
 
 そして、その会話に入っていないヒュイルは親と連絡しているのか無線イヤホンで会話中。
 俺はその中で唯一浮いている状態になってしまった。唯一持っている有線イヤホンもこの前コードが断線したのか壊れてしまったので、韓国語の勉強を歩きながらできない。
 
 この差を目の当たりにするたびに、俺はどうしても落ち込んでしまう。
 
 何度も歩いた道、やはり俺は役に立ててないのかな、と心のなかで溜め息を吐く。セファン先輩にチャンスをもらって、どうにかジノ兄さんからお仕事貰えたけれど、まだ他のメンバーほど貢献しているとは思えなかった。
 
 もっと、頑張らなきゃ。
 
 一頻り落ち込んだあと、気合を入れ直す。
 
 暫くして、事務所に到着した。事務所の前にはファンの子たちが何人かおり、何人かはカメラを構えている。俺たちは事務所や宿舎にくるファンには反応してはおけないと言われていた。
 他のメンツは慣れたように無視をするが、俺はとても居心地悪く顔を伏せて通るしかない。
 
 事務所に入り、社員さんたちに挨拶しつつ、練習室に入っていく。これから、深夜まで俺たちは練習し続けるのだろうと思った。
 
 そして、予想はさらに超えて、気づいたら次の日の朝だ。
 
 汗だくだくで、意識朦朧としている。
 
 他のメンバーも流石に辛かったのか皆床で這いつくばっていた。
 音楽祭の日程は2日後。まだ決まってないところもあるがやりきらなければならない。
 
「俺、飲み物買ってくるよ、スポドリでいい?」
 
 バッと、気合を入れて立ち上がりメンバーに声をかける。メンバーたちは、力なく「はい~」とだけを返して床とお友達だ。幸い事務所の隣はコンビニなので、早朝でもやってるはずだ。俺はすでに限界の身体に鞭を打って、練習室から飛び出した。
 
 そして、コンビニに行き、適当に飲み物を買う。支払いはカフェトークの中にあるカフェペイというものだ。袋に詰められた5人分のスポドリを持って、事務所に戻る。思えば、支払い時にカフェトークの通知バッチが着いていた。
 
 カフェトークを開くと、そこにはセファン先輩、ジノ兄さんからの連絡が来ていた。
 
 ジノ兄さんからはどうやらお昼ごろに来ていたようだ。
 【自撮りするなんて、エッチな子だね。見られないように気をつけてね】
 なんて書かれているものだから、思わず顔を赤くする。たしかに見られたら怖いので、自分のフォルダから削除した。
 【ご忠告ありがとうございます! フォルダから消しました! ジノ兄さんだけが知ってる秘密ですね】
 そう戯けて返信をする。
 
 そして、セファン先輩からも来ていた。
 【よ! 次の音楽祭、俺トリだからさ、どっかの時間話そうぜ】
 タイムスケジュール表の画像付きで送られてきている。俺たちは真逆のウェルカムアクトをするのだが、たしかに会話する時間は沢山ありそうだ。
 【こちらこそ是非! 沢山時間あると思うので!】
 
 あまりにも辛い練習のおかげで少しばかり辛かった音楽祭だったが、とても楽しみになった。俺はスマートフォンをポッケにしまい、練習室へと足早に戻っていった。
 
 
 そして、音楽祭当日。
 
 俺たちは誰よりも早い入りだ。ヒュイルが手配してくれたヘアメイクさんにヘアセットをしてもらい、衣装を着て、そのまま事務所の車に乗り込む。
 
 会場近くまで来ると、車の乗り入れする場所にたくさんのファンが入り待ちをしていた。スモークガラス越しに外を見ると、一度車を確認して興味なさそうに視線を外す。車で自分の推しが乗ってるかどうかわかるのかと、少し驚きつつも、ファンたちを眺めていた。
 
 俺たちのファンがいたかもわからないが、いずれこの子達が俺たちのことを知ってくれるようになろう。
 
 本来ならば、プレデビューの段階でファンと交流する機会を考えていたのだが、少し前に別のグループで音楽番組中に暴漢が発生して、大変な大騒ぎになったのだ。
 その結果、現在音楽番組等の、公開撮影系のものはお客様を入れてはいけないし、音楽番組の開場前でミニファンミーティングという少しの時間交流する場も自粛してしまった。
 
 俺たちは運悪く、その騒動に巻き込まれて、なかなかファンと直接交流することができなかった。思えば、お客様の前でステージを披露するのは今回がほとんど初なのではないだろうか。
 
 楽屋用テントに通じる通路前で車が停まり、マネージャーから降りるよう指示がある。そこから、テントに荷物を置き、すぐさまリハーサルのスタンバイに行く。
 名前をつけたゼッケンをつけて、ウェルカムアクトで踊る花道を進んだサブステージで場当たりをする。
 
 360度いるお客様に楽しんでもらえるよう少しばかり工夫したステージ。ただ、これを披露するのは、最初どころかまだ入場してる時にステージをするのだ。
 
 マネージャーからは、「見てくれる人はいるが、見てくれない人のが圧倒的に多い」と言われており、なら寧ろ全方位俺たちで見るか、となったとハオランが言っていた。
 ただ、俺は立ち位置的に見るのはお客様ではなく、花道とメインステージが正面になってしまうが。
 
 まあでも、やるしかない。
 
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