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第12話 夢から現

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 次の日、メンバーたちの朝ごはんを用意していると、最初にリビングに来たのはリーダー兼メインラッパーのソンジュンだ。少し眠そうだが、リーダーとして他のメンバーを纏めなきゃと思っているからか、こうして時間よりも幾分か早く起きている。
 
「シグレ、おはよう。二日間もいないから寂しかったぞ」
「おはよう、ソンジュン。ごめんごめん、新しくスクーリング始めたからさ」
「そうみたいだな、お前ほんと物知らずなとこあるし、ちゃんと勉強しろよ」
「うん、わかってる」
 
 俺と同い年の彼は、何かと俺のことを気遣っているし、言葉がわからない頃から色々教えてくれた友達だ。見た目は少しイカツメで男の中の男って、感じの見た目をしている。今は金髪に黒メッシュという髪型で、その厳つさは更に増していた。
 
 俺が用意しテーブルに置いたご飯とベーコンエッグ、野菜コンソメスープを食べ始めた彼。すると、暫くしてジウ以外の他のメンバー二人も起きてきた。
 
 そのうち一人の、背が高く美麗を具現化した青年が嬉しそうに笑いながら近寄ってくる。
 
「おはよ、シグ兄! ごはん、食べたかった! 2日、ながい!」
 
 見た目とは裏腹に、辿々しい口調で話しかけてくるのは一つ下のガオハオラン。中国人メンバーで、ダンスとラップが上手な子だ。英語も話せるし、アクロバットもできるし、運動神経はこのグループで一番だろう。
 英語できない俺だけど、なんとかこのグループの海外勢同士苦労を分かち合ってきたと思っている。
 そして、その横でスマートフォンを弄りつつ、ご飯を無言で食べているのはハオランと同い年のキム・ヒュイル。親が有名なブランドのデザイナーで、本人自身もとてもオシャレな人だ。
 ヒュイルは元々モデル志望だったのだが、アイドルも今しかできないかと思って、こうして同じグループに所属している。実際にメンバーでは一番背が高く、スタイルもいいし、なにより美的センスがピカイチなのだ。
 
 それにしても、2日も会えなかったのかと、なんとも言えない気持ちになる。韓国に来てから殆んど毎日彼らと顔を合わせていた。
 秋夕と呼ばれる日本で言うお盆休みや、旧正月のお休みでも俺は練習生たちと一緒にいた。
 
 思えば、もっと人がいたのに、この宿舎も5人しかいないのか。
 
 他にもいた練習生たちは、今回のデビューに溢れ、殆どがこの事務所を去っていった。残った子たちも、別の宿舎に移り、ほとんど顔を合わすことがない。
 
 なによりも、あくまでも弱小事務所のここに、こんな逸材が四人もいたのが奇跡に近いのだ。
 
 そんなことを思いながら、俺はテーブルの隅っこの丸椅子に座り、自分が作ったご飯を食べる。昨日の高いご飯に比べたら見劣りはするが、上手にはできている。
 ご飯を食べていると一番初めに食べ終わったリーダーのソンジュンが立ち上がった。
 
「じゃあ、俺はジウ起こしてくるわ」
「俺が行くよ?」
「シグレはダメだって。ヤツに甘すぎる、まともに起こせたことないだろ」
 
 うっ、たしかに。と言葉を詰まらせた俺を尻目に、ソンジュンはジウの部屋に無遠慮に入っていく。ソンジュンの起こす声がよく聞こえる。凄いな。俺なら寝顔かわいいなあで起こしにかかるにも、時間が必要なのに。
 元々は15人程暮らしていた宿舎なため、5人になった今は一人一部屋ある状態で暮らしている。その中で、ジウの部屋は一番特殊で、防音壁を取り付けて、ほぼ作業室として使われている。
 
 暫くして、ソンジュンに引きずられる形でジウが部屋から出てきた。少しばかりげっそりしたジウの様子に、余程根詰めて作業していたのだろうと伺える。
 
「あ、シグ兄おかえり。朝ごはん作ってくれたの」
「ただいま。脂っこいのだけど、胃に入りそ?」
「大丈夫」
「そうよかった」
 
 席に座り、まだ眠いのかとろとろとした感じでご飯を食べるジウ。その姿も可愛くてほっぺが落ちそうな気持ちだ。多分こういうのがソンジュン曰く「甘い」と言われることなのだろう。
 すると、無言だったヒュイルが口を開いた。
 
「最後の音番、来週の火曜のだっけ? 衣装また親に頼む?」
「頼めるか? いつもすまんな」
「いや、寧ろ、こちらこそ宣伝してもらってるからな」
 
 ヒュイルとリーダーのやり取りを聞きながら、俺は「今回の活動が終わったら、次は来るのだろうか」と少しばかり不安な気持ちになる。ジウの新曲もいくつかできているらしいが、それでもこの事務所にそんな力があるとはあまり思えないのも事実だ。
 ジノ兄さんと契約はしたけど、それが本当になるのかはわからないなと、今更ながらに思う。あんなエッチな事をしたのに……。
 
 じわりと、下半身に熱が集まる。
 
 思い出したせいだろう。あまりの恥ずかしさに俺は顔俯かせる。そして、ご飯をさっさと食べきり、他のメンバーの皿と一緒に片付け始めた。
 余計なことを考えない皿洗いの時間は好きだ。しかし、今日は違う。どうしても頭の中は、縛られたことや喉を締められたこと、お腹の中をグチャグチャにされたことを思い出してしまう。
 
 他のメンバーは相変わらずいつもの会話をしているのに、自分だけが違う何かになった気分だ。
 
 皿洗いを終えると、幾分か落ち着いたのか、元の席に戻ろうかと踵を返した。すると、ポッケに入っていた自分のスマートフォンが震える。誰かから連絡が来たのか? メンバーと事務所くらいしか登録してないのにと思いつつ、「カフェトーク」という通話メッセージアプリを開いた。
 
 【やっほ、俺はセファン先輩だ。この前は一緒にご飯食べに行ってくれてありがとう。ちょっと俺の隠れ家的なところだけど、美味しいものたくさん食べれただろ】
 
 それはセファン先輩からの連絡だった。余りにも急だったので、驚きつつもその内容を読む。二日前のことにしては、内容が合わない気がする。もしかして、最初の食事会の話を今更? と思ったが、相手は先輩なので話を合わせることにした。
 
 【セファン先輩、連絡ありがとうございます! こちらこそこの前はありがとうございます。とても美味しかったです】
 
 【そう、よかった。じゃあ、また次なんだけど事務所通して連絡させてもらうね。デビュー控えてるしね。あと、お土産が届くと思うから楽しみにしててね】
 
 【お土産ですか? わかりました。そこまで心遣いいただけて感謝してます】
 
 【必ず一人で見るんだよ。じゃ、また今度】
 
 【はい、また】
 
 台所で返信をし、区切りの良さそうなところでテーブルに戻る。先程の内容的にやはり最初のご飯会のことの気がする。この前のはセファン先輩には殆ど会えておらず、イファン先輩も隣で……やめよう思い出すとまた、駄目になりそう。
 
 そう思っているうちに、メンバーたちの話は次回の本デビューでの曲の話になった。
 
「ジウ、次の曲出来たって本当?」
 
 ソンジュンの問いかけにジウは頷く。
 
「大体固まった」
「どんなのよ?」
「テーマは、『正義のアイドルが白黒の世界を塗り替える』かな」
 
 ジウの言葉に、ヒュイルは首を傾げた。
 
「随分、明るいね、今の曲と違うな」
「二面性がある方が面白いだろ。なにより、デビュー時はフレッシュさを出したいし。フレッシュさが足りないとか言われたからな、ネット民に」
 
 今回の曲『FLAME』はたしかにフレッシュさはない。それは散々ネット民に言われた言葉だ。今ファンになってくれた数少ない子たちも、その事は少し気にしていたと思う。
 
「だから、俺達らしいフレッシュな曲を作った」
 
 ジウはそう得意げに笑う。凄い、俺にはない自信に満ち溢れた姿だ。その眩しい姿に俺は少し目を細めた。
 
 その一週間後のこと、マネージャーからデビュー番組が作られることになったと伝えられた。番組はネット放送と動画配信サービスで公開され、低予算のデビュー番組を作るそう。そして、そこでMVの撮影も行い、デビューショーケースを行うとのこと。
 
 そのネット放送局は、ジノ兄さんの務めるテレビ局が親会社のところだった。
 
 そして、マネージャーから同時にセファン兄さんからとお土産の箱を渡される。中身を見たがるメンバーから逃げるように自分の部屋に逃げ込んだ。
 早速その箱の中を開けると、そこには最新のスマートフォン。ご丁寧にオシャレなケースまで。
 また、同封されていたメッセージカードには、【無くさないように。早く電源付けて】と書かれていた。
 
 スマートフォンをつけると、そこにはフォトラバーという個人が上げる写真アプリが入っていた。また、通知バッチが1になっているので誰かから連絡が来ているのがわかる。アプリを開くと、傘のアイコンのSという人のアカウントでログインされていた。どういうことなのだろう。
 とりあえず、メッセージの通知の主を確認する。アイコンは可愛いコーギーの写真。名前は、J。
 メッセージを開く。
 
 【お土産は気に入ってくれた? 今度は仕事で会おうね】
 
 メッセージと共に送られてきた写真は、縛られた俺がジノ兄さんの陰茎をお尻の中に入れたまま、気絶している写真であった。
 
 
 
 
 
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