悪の献身 〜アイドルを夢見る少年は、優しい大人に囲まれて今日も頑張ります〜

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第6話 夢には契約がつきもの

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 キムジノプロデューサーは、俺が目の色を変えたのがわかったのだろう。握られた手にゆっくりと指を絡める。
 
「まあ、私はテレビ番組の権限は大体持っててね、ネット番組も融通が効くし、ピンチヒッターで呼ぶアイドルも心添え・・・はできるんだよ。あと、仕事柄番組制作会社や他の企業さんとも付き合いもある」
 
 それは、もしかしたら、人気番組にも呼んでもらえるかもしれないということだ。しかも、顔が広いので他の仕事も紹介してもらえるかもしれないということは、俺でもよくわかる。逆に言えば、ここで心証悪くすれば、干されてしまうだろう。
 
「どうだい? いい話だろ?」
 
 微笑むプロデューサー。元からない退路。けど、もしかしたら、この関係がバレたら事務所に迷惑がかかるかもしれない。
 
「事務所……に迷惑かかりませんか?」
「可愛いことを心配するね。大丈夫、事務所には話がついているから君はここにいるし、このお食事会はセファンくんとそのセファンくんのスポンサーがその辺り取り締まってるし、私達はみな一蓮托生みたいなものだ。バレる前に握りつぶせる」
「そうなんですか?」
 
「この国は同性同士の性行為に厳しいからね。なんとしてでも、バレないようにすると思うよ、ここの常連たちがね」
 
 ちらりと周りを見渡すプロデューサーにつられて、再度周りを見渡す。どのテーブルもたしかにこのメンツなら潰せるのであろうと、俺は思う。そして、プロデューサーを見ると、見つめ合う形になる。
 
「私はね、シグレくんの夢を応援したいんだ」
「キムジノプロデューサー……」
「ただ、それには強固な絆が必要なんだよ。巨額の金額が動くからね、それはわかるよね?」
 
 たしかにそうだ。タダでというわけには行かないのは、よくわかる。何度も自費でMVを作ろうと思ったときに、どうしても掛かってしまう経費や時間に頭を悩ませたのだ。考えて、考えて、そして、俺はキムジノプロデューサーの手の上に、自分の手を乗せた。
 
「俺で、いいんですか?」
 
 それは、最後の確認だ。容姿は人より恵まれてるが、それだけの俺に、価値があるのかとプロデューサーに問う。
 プロデューサーは、顔を近づけて、俺の頬にキスをする。
 
「シグレくんだから、セファンくんの紹介を了承したんだ。まあ、相性を確かめてからにはなるけど」
 
 その言葉に、ほわっと心が少し喜ぶ。まだ可能性ではあるが、俺だから出来ることができるかもしれない。それに、その言葉が自分を必要としてくれるようで、とても嬉しかった。
 
「わかりました、精一杯がんばります。よろしくおねがいします」
 
 こうして、ほぼ一方的に決まったような契約が結ばれた。そして、早速のようにプロデューサーは机に並べていた箱を一つ開けた。そこに並べられていたのは、麻で出来た赤い縄と、金属で出来た謎の器具だった。
 
「じゃあ、相性を測るためにも頑張ろうね」
「が、がんばります」
 
 一体何をするのだろうか、俺には検討がつかない。しかし、拒否権はない。不安な気持ちを抱えながら、ふんわりした意気込みだけを口にした。
 
 そして、その不安は的中する。
 
「じゃあ、まずはこの縄で遊ぼうか。〇〇って知ってる?」
 
 プロデューサーの手に取られた縄。聞き取れない単語が聞こえた。俺はわからず首を傾げると、「日本人なのに初心なんだね」と笑われた。そして、その縄は目の前で一度解かれ、二対の縄になる。そのうち片方を一旦半分に折り、その折られた中心部が俺の首にの真後ろに来るように掛けられた。
 
 縄が目の前で交差する、ぐっと喉に結び目が迫る。そして、次第にゆっくりと喉に食い込んだ。首を絞められて、条件反射的に首に締まる縄を自分の手で掴み、暴れる。
 
「ひぃっ、やっ、ぁ、こ、ころさ、な」
「ごめんごめん、いたずらが過ぎたね」
 
 プロデューサーは死の恐怖に怯える俺を見て、満足そうに縄を首の締まるギリギリの圧迫感に調整した。
 そして今度はするすると、結び目が鎖のようになるように編んでいく。恐怖からなのか、どうなのか、縄の些細な揺れが、自分の体によく伝わる。
 呼吸も縄で浅くなり、少しずつ頭がボーッとしていく。
 
 少しして、出来上がったのは、一本の縄でできた首輪とリードだった。プロデューサーが俺の首輪から伸びた縄のリードをたゆんたゆんと揺らす。身体驚くほどにぐてんと力が抜けている俺は、この揺れのせいでキツイ喉元に刺激が入り、情けない小さな声をあげることしかできない。それを見ていたプロデューサーは、頭がボアボアする俺俺をぎゅっと抱きしめて、頭を撫でる。
 
「いいこだね、我慢ができて偉いね」
 
 あまり甘やかされ慣れてないせいか、突如の甘やかしに戸惑ってしまう。よしよしされて、褒められるのはとても嬉しい。俺は年齢的なところもあり、いつもする側だったけど。
 いつもはジウや他のメンバーのことを褒めてばかりで、事務所の人たちからも俺だけを褒めることなんて、最初のスカウト時からない気がする。
 
「ありがとうございます。嬉しいです……」
「お礼が言えて、かわいいなあ、もし相性がよかったら本物をその時にあげよう。絶対に似合うよ」
 
 本物の首輪とリード。
 それらは本来人に使うべきものではないはず。
 縄がプロデューサーに引っ張られ、更に喉にグッと締まる。その圧迫感からなのか、自分の意識が更にどろりと溶け、ふらふらと体が揺れる。自分の体に何が起きているのだろう、あまりにも初めての経験にどこか。リードに引っ張られるようにして、自分の頭は目の前のプロデューサーの胸に預けるような形で倒れ込む。プロデューサーはさらりと俺の腕を後手に組ませるようにし、ぐるりと手首をもう一つの麻縄で縛った。
 
 俺は足りない頭で考えて、状況からわかった。たまに漫画で見る亀甲縛りとかの類いをされるのだ。俺の上半身は服の上からではあるが、段々と縄で縛られていく。腕に、体に、縄が沈み込んでいく感覚に、思考がどろどろと溶けていった。縄に縛られているだけなのに、どうしてこんなことにと、プロデューサーをとろんとした目で見つめた。
 
「縄酔いしてしまうなんて、すごいね。じゃあ、下は脱ごうか」
「はい……」
 
 そう言われて、普通なら抵抗すべきなのに、縄酔いというものをしているらしい俺は、正常な判断はできない。軽い酸欠なのか、荒い呼吸を繰り返す俺を尻目に、ズボンはベルトごと脱がされた。
 
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