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2話 地獄と書いて世界と読む
しおりを挟む子供というのは残酷だ。
俺の記憶にいる子供というものは、常に敵だらけだった。
「お前んち、お前だけβなんだろ。ほんとは貰われ子なんじゃねーの?」
「しかも、両親女同士なのに、男が生まれるとか、奇跡なんだろ?」
「なら、やっぱ血繋がってないんじゃね?」
「しかも、お前ってさ……」
記憶の中でケラケラと嘲笑うのは、小学校の時俺を虐めてきたやつらだった。物凄く性格が悪くて、こいつらの親もまた酷い性格で、俺の母親の一人が大変苦労していた。
「……それなら、どんだけマシか」
ぽつりと呟いた言葉は、馬鹿笑いするやつらには届かない。
何せ、こいつらが言う貰い子だったほうが、まだ現実よりも幾分かマシなのだから。
そして、小さい悪魔たちは容赦なく俺を地獄に突き落とす。
たしか、あの時俺は階段に突き飛ばされたはずだ。
嫌な浮遊感。
アッ
バッと目を開ける。既に明るい日が射し込む部屋に、シミだらけの汚い木目の天井。
「……目覚め最悪だ」
目覚まし時計よりも幾分が早い時間。
嫌な夢を見たせいで身体からは嫌な汗が吹き出ており、寝巻き代わりのロングTシャツが肌に張り付く感触がしている。
最悪な気分。まだ早いし、起きる気もしない。年数によって汚れた部屋に敷いたボロ布団の上で身体を丸くする。
正直数ヶ月前までは、一応はキレイな布団の上で寝ていた俺だが、まさか急に家を追い出されるとは思わなかった。
両親から姉経由で渡されたそこそこの厚さの手切れ金。それと小さなリュックしかない俺は、何も考えずバスに乗り、湘南の山奥から鎌倉へと向かう。そして、鎌倉から電車に乗って、東京へと向かった。
「ああ、これからどうしよっかなー」
悲しいことにそれでも、あの家から出れたことで少なからずホッとしている自分がいるのだから、救いようがない。
ガタンゴトン、揺れる車両から外を見る。
午後8時を超えて、鶴見を通り過ぎていく光景は未だに忘れられない。
そして、幾度繰り返された野宿の末、辿り着いたのがこの汚いアパート。
今務めている仕事場の寮で、他の部屋もまた自分と同じような訳アリの奴らばかりが住んでいるアパートだ。
「ふぁっぁ、仕事行くか」
欠伸をしながら起き上がった俺は台所兼洗面所に向かう。蛇口を捻り出てきた水で手を濡らし、ボサボサの髪にパチャパチャと着ける。特に寝癖になりそうなところは根本をしっかり濡らさなければならない。
あとで、仕事着に着替える時に髪のセットに時間がかかってしまうと、ヘアセット担当に嫌われる。即ち、責任者たちの印象も下がり、クビ候補に乗っかってしまうだろう。
二十歳未満で保証人も学歴もない人間ができる仕事なんて、殆ど碌でもない仕事ではあるが、それさえ失ったら俺はまた露頭に迷うことになるのは確実だ。
法律ギリアウトなこの仕事は、従業員なんてほぼ捨て駒のようなものなのだから。
鏡に映る平凡でぼんやりとした俺を顔は眠そうだが、既に昼の11時。お店に行かないといけない。
遅刻なんて以ての外だ。ああ嫌だと思いつつ、俺はフード付きパーカーを着ると、フードを被り、眼鏡とマスクを装着して、仕事場に向かった。
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