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とあるファンのライブ参戦レポ
しおりを挟むお化粧も、可愛いフリフリのお洋服も着て、月のペンライトには可愛いリボン。推しの写真団扇には沢山のハートシール。
埼玉の奥地から電車に乗って、待ちに待ったこの日を迎える。
今日は、『グロウルズ』の武道館ライブ初日。
私は明日の最終日には当たらなかったけれど、今日の席はなんとアリーナのAブロック一列目。
最前列で推しに会えるのだ。しかも、人生で初めてのライブで。
そんな私の推しは、芝井虎丸くん。
グロウルズの中でパフォーマンス最強、ライブのぶち上げ方最強、なにより全楽曲コンセプト作成してる最強のプロデューサー!
様々な人から『神』とも呼ばれてる私の自慢の推し。
ただ、性格はかなり無愛想&アーティスト気質。そういう意味では、皆の神ではあるが推しではなく、表面的な人気は正直ない。
でも、だからこそ、私が目立つ! 私は虎丸くんのファンなのだから。
SNSで繋がった子たちと会場で落ち合い、楽しくヲタトークと写真を撮って、開場と共に席に向かう。
グロウルズの曲と会場内の注意事項がBGMとして流れる開場。チケットを見ながら席へと向かえば、眼の前はステージ。メインステージのみで、花道はないけれど、最前列の私にとっては最強のステージ構成。
中央よりは右ではあるが、そんなの構わない。
席に座って、団扇の準備とペンライトの点灯確認をする。ペンライトは無事に点灯し、白い光が美しい。
「お隣すみません~わぁ! すごい!」
「あ、どうぞ」
ペンライトの光にワクワクしてると、隣にまた一人やってきた。ちょっとカジュアル目の服を着て、眼鏡の女性は私を超えて左隣りに座る。ふと見ると、その手には千歳と虎丸の団扇をくっつけて、「千虎LOVE」と書かれていた。
私は思わず、顔を顰める。こういうコンビ推しみたいな人が苦手なのだ。虎丸くんは、一人でも最高なのに、しかも千歳とかよ。って思ってしまう。
千歳は虎丸ファンの中では宿敵とも呼べる人で、千歳の部屋が虎丸で埋め尽くされてるのも有名。彼のSNSはほぼ虎丸とのツーショットや、虎丸への貢物で溢れている。部屋のど真ん中には『虎千yyds』と書かれた二人のツーショットポスターまで。本当に、本当に、マウントばかりなのだ。そいつとのコンビを推してるなんて。
自分の顔が歪むのがわかる。
そんな中、右隣も後ろも上の階も人が埋まっていく。千歳の文字がやはり多いのは、やはり顔が良くて性格も「虎丸狂い」だということ以外を抜けば、アイドルとして良いからなのだろう。
暫くして、ライブ会場の証明が暗くなる。キャーッと会場内が歓喜の声で包まれ、オープニングムービーが流れる。メンバー一人一人の顔が映るたびに待っていたと言わんばかりに、黄色い声が響き渡る。
そして、かっこいいロックテイストの音楽と共に、奥の液晶が分かれ、そこから七人の男たちが現れた。
そこから、正直MCまで記憶がない。まじで、ぶち上がる曲が二曲。こんなん、死ぬじゃんって気持ちで聞いてた。
そして、MC、なんと目の前には虎丸くん……ではなく、千歳が立っていた。虎丸くんはどうやらマイク交換らしく、奥へと捌けていってしまったよだ。虎丸以外のメンバーが反対側から順番にしていく。
そんな短い時間の中、目の前に立つ千歳と一瞬目が合う。その目に、私は思わずびくりと肩を震わせた。まさに、ライバルを見るような目というのか、ありありとその目には同担拒否と言わんばかりの視線。ただ殺されそうな程の熱視線は、私から隣へとすぐに移った。
千歳は物凄くぐっと顔を歪ませた後、隣の人にむかって、親指と人差し指をくいくいっと捻る。それはまるで、何かが左右反対だと言わんばかりの感じだった。
隣の女性を見ると困惑したように首を傾げている。一体なんだ、と困惑してると、虎丸が戻ってきて千歳の向かって左側に立ち、すぐに挨拶を行う。
「すみません、どうも、グロウルズの神プロデューサー虎丸です。皆さん、今日は全て忘れて楽しんでいってください」
彼らしい淡白な挨拶、私は「きゃーっ!」と言いながらペンライトを振れば、虎丸くんは片口を釣り上げてニヤリとした。
その次の瞬間だった。
「どうも! 皆の癒やしのビジュアル担当兼虎千の右担当の千歳です! 楽しんでいってください! ね! 虎くん!」
千歳が虎丸を抱きしめながら、なかなか濃い挨拶をしたのだ。会場内は熱狂的な悲鳴、最悪なものを見たような悲鳴で満ち溢れる。そして、私は顔を青褪めさせながら、驚愕しすぎて顎が外れかけた。
そして、隣の女性は思わず団扇を抱きしめる。私の頭の中でさっきの行動の意味が合致する。千歳にとっては『虎千』が正義なのだから、逆は許されないのだろう。友人の腐女子が、左右の違いは下手したら戦争と言ってたのでそういうことなのだろう。
この後のライブのことは、正直あまり思い出したくない。
虎丸くんからファンサービスを貰うたびに、アイツが現れて掻っ攫っていく。隣の女性は団扇の文字をどうにか綺麗に入れ替え、眼の前で行われる私へのマウントを楽しんでいたようだ。
でも、それでも、私にファンサービスをしてくれた虎丸くんは、可愛くて、しかもソロでは私に向かって歌ってくれたのだ。
「あんな奴に負けないんだからぁああ」
私はライブ終わり武道館の外で、輝く月に向かってそう叫んだ。
おわり
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