この恋は偶像か

木曜日午前

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第三話

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 シャワーの水音が、激しく聞こえる中。

 じゅるっ、じゅッ

 食らいついた千歳の唇から舌を吸い出し、乱暴に口腔内を蹂躙し始める。
 カツッ
 歯がぶつかり、鈍い痛みが二人の間に生まれる。でも、二人は止まることを知らない。

 暫くして、やっと唇を離した後、虎丸は手に握りしめていた鍵で、千歳の貞操帯を外した。

「んぁっ♡」
 外した際に触れられたせいか、その封じられていた肉がむくりと大きくなる。
 と言っても、少し前から貞操帯による大きさの管理をしていたため、大きさは標準よりも小さい。

「ちとせ」
「はいっ♡」
 ちとせは、後ろを向くと尻を突き出した。剥き出しになった縦に歪んだ蜜壺の入り口。虎丸はなんの準備もせず、その入り口に自分の剛直を挿入した。ローションも何もないのに挿入出来たのは、既に虎丸の牙を呑むために拡張された証である。

「ひっ♡ふどぃっいっ♡ごぢゅっ、ごぢゅっ、じゅるぅうう♡」
「んっ……」
 ばちゅっばちゅっと激しく肉音と、千歳の正気を失った淫声。虎丸は必死に柔らかな肉の中を擦り、快感を得ようとする。まさに一方的な自分本位な行為。しかし、虎丸が知っている行為の仕方はこれしかないのだ。

「あっ……」
 中にどくりっと放たれる熱い子胤こだね
「どぐっ、どぐしてる♡はぁん、あっ♡」
 きゅうっと、千歳は零さないように、大臀筋を締め上げた。

「きっつ……」
 呻きに近い声、虎丸は千歳の下腹部を撫でながら、穴から自分のをどうにか抜いていく。床は常にシャワーの水で流されており、千歳の吐き出した色々な液体は、全て排水口へと流れていった後だ。
 ずるりと力が抜けて腰砕けていく千歳を、虎丸は片手で支える。

「ひゃっ♡ぁ、ご、めん♡た、てにゃ、い♡」
「いいよ、水浴びに来ただけだし」
 軽くシャワーの水を浴びた後、やっと蛇口を閉める。相当な水の量を無駄にした気がするが、そこを気にするほど、もう金には困っていない。

 虎丸は千歳を抱えたまま、シャワーブースから出ていく。珪藻土けいそうどのバスマットの上に降りて、そのまま近くの一脚だけある椅子に千歳を座らせた。
 そして、バスタオルを千歳の太腿の上に置いた。
「あっ♡」
 柔らかな布ずれですら、快感に感じでトンでる千歳を横目に、虎丸はさっさと着替えていく。事務所内には練習室もあり、長時間練習する時もあるため予備の着替えとタオルを常に用意している。
 虎丸も慣れたように適当にTシャツとズボンとボクサーパンツを選んだ。

「……早く体拭けよ?」
 着替え終わった虎丸が、千歳に問いかける。千歳はハッと正気に戻り、虎丸の目に視点を合わす。そして、思わずちょろりと残滓ざんしが漏れ出した。

「はいっ、ありがとう……!」
 心配された事が嬉しくて、既にだるい身体を無理矢理動かして体を拭き始める千歳。勿論、最後に恥ずかしいものも椅子から拭い取り、予備の服を適当に着た。

 その様子を虎丸はじっと眺めていた。
 なんで、こんなことになったのか。虎丸の何かを確実に歪めた男を見ながら、少しばかり頭痛がする。

 あれは、虎丸が十歳の頃。とあるオーディション番組で、所属する事務所が決まり、事務所の寮で生活していた。
 事務所は主に楽曲プロデューサーや、ソロアーティストが所属しており、虎丸もその雰囲気と目指す方向が良いと思い選んだ事務所だ。
 周りのプロのプロデューサー先輩たちから様々な事を学び、自分の曲を必死に作る。そんな日々があの日一変した。
 なんと事務所が急にアイドルグループを作ることにしたらしく、スカウトや、オーディションなどの広告に力を入れ始めたいた。
 たしかに、今アジア諸国で起きてるアイドルブームは、大きな波が来始めているように感じる。
 ただ、俺には関係ない、アイドルなんてやりたいやつがやればいい、と他人事のように聞いていた。が、しかし。

「芝井虎丸くんですよね! ぼく、百々屋千歳と言います!」

 その日はたまたま、オーディションの審査員として、「これも経験だから」と呼ばれた虎丸。
 六人目の審査、扉を開けて入ってきた自分よりも少し年上の少年が、挨拶もせず虎丸に一目散に駆け寄ってきたのだ。その容姿はまさに性別を通り越した絶世の美人であり、本当に同じ人間なのかと虎丸は疑った程だった。
 こんな美人が居たら、それだけでアイドルグループとしての名が上がるだろう、顔だけで採用する人材。そんな美しい人の黒い眼を、虎丸は一身に浴びていた。

「僕、虎丸くんと同じアイドルグループになりたくて来ました!」
「は?」
 驚きの余り声を上げた虎丸と、目をキラキラと輝かせた千歳。そして、生暖かい周りにいる大人たちの視線で、虎丸は勘づいた。

 このアイドルグループに、否が応でもぶち込まれることを。

 その勘は、大当たり。翌月から楽曲プロデューサーとしての仕事をしつつ、アイドルグループとしてデビューするためのレッスンも、幼い虎丸に降り掛かってきた。
 ダンスも歌も楽曲も、彼は相当できるほどではあるが、目指すところはそれで金を儲けるプロ。しかも、出来ない奴らも引っ張り上げなければ、自分の首が締まるのだから、虎丸のストレスは溜まりに溜まっていた。

 小学校から芸能系の中学校へと進学し、勉強もしつつ、レッスン漬けの日々。親にもなかなか会えず、メンバー候補の十三人と、確定もしてないデビュー日に向かって突き進むしかない。
 そんな虎丸の側にずっと居て、甲斐甲斐しく尽くす人物が千歳であった。

「虎くん、お洋服用意しましたよ」
「虎くん、髪の毛乾かしますね」
「虎くん、ご飯作ったので食べてほしいです」
「虎くん」
「虎くん」
「虎くん」

 学校で友達はそんなに出来なかった。いるにはいるが、皆千歳が来ると何故か逃げていった。好きな女の子も居た。でも、彼女は千歳が好きだった。
 彼女は出来なかった。アイドルになるしと諦めたところもあるが、あの千歳が側にいるから無理だと思ってしまった。
 異性は千歳を好きになる。
 無愛想で、性格も悪い、見た目は中の下くらいなヤツ・・よりも。
 愛嬌があり、優しくて、極上の見た目をした千歳がいいのだから。
 でも、そんな千歳の視界には、そんなヤツ・・しか映っていないのだ。
 虎丸がいるから、アイドルを目指している千歳。虎丸がお願いすれば、何でもしてくれる千歳。
 虎丸が理不尽に責めても、有り難いと言わんばかりの千歳。
 虎丸が性欲に目覚めれば、我先に受け止める千歳。

 まさに盲目な甘やかしによる歪み。
 下手な異性よりも、圧倒的な美しいものが側にいる。
 消して健全ではない思春期を過した虎丸の中に、どろりとした何かが生まれた。
 そして、そのドロリとしたものは、まるで血が瘡蓋かさぶたになるように凝固し、鳩尾にずっしりと重い塊になった。

 今の虎丸は、もうオーディション番組に臨んでいた頃の純粋な気持ちはなくなってしまった。
 シャワールームで着替え終わった千歳を見て、虎丸は冷たく言葉を放つ。

「ちとせ、早く家帰ろ」
「は、はい♡」
 どうせ、こいつにめちゃめちゃにされた人生だ。俺も、めちゃめちゃにしていいだろ。虎丸は千歳の手を繋ぎ、さっさと外へと出ていく。すでに外は夜明けを過ぎて朝、清掃員のおばさんが困ったように二人を見ていた。
 
 
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