この恋は偶像か

木曜日午前

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第二話

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 千歳は口に放たれたそれを口に転がし、味わった後ゴクリと飲み干す。
「じゅっ♡んっ、はぁ♡」
 一度口から虎丸のものを出して、先端だけに唇を寄せて、残りの残骸も吸い取った。
 一滴の雫さえ無駄にしたくない、千歳にとって虎丸から与えられる全てが欲しい。

 暗いテーブルの下、ゆっくりと見上げれると、虎丸はさっさと編曲の調整をし始めていた。真っすぐモニターを見ている彼、カタカタとキーボードを叩く音。千歳にとって、虎丸の様々な姿を間近で見れることが一番幸せ。

「虎くんかっこいい」
 甘ったるい声で呟くが、その声は届かない。でも、千歳にとってはそれでいいのだ。
 テーブルの下にあるウエットティッシュで、虎丸の肉棒を綺麗に拭う。その後、パンツをしっかりと履かせてあげて、千歳は自分の部屋へと一度戻る。

 昔は七人全員狭いマンションの一室で寝ていたが、今はマンションのワンフロア、各々の部屋が用意できるほどに広い家に住んでいる。しかも、マンションから事務所までも徒歩圏内のため、すぐに移動できるのだ。

 千歳はさっさと部屋に戻り、電気を付けた。

 そこには、壁一面に貼られた虎丸のポスター、トレカ、ポストカード、サイン色紙。また、ファンたちが有志で作った虎丸の小さなぬいぐるみや、虎丸の衣装も飾られている。
 なによりも壁の真ん中には、豪華な額縁に入れられた『虎千yyds永遠に神』と書かれた虎丸と千歳のコンビポスター。

 よく見れば、布団カバーは『虎丸LOVE』と書かれたハート柄。
 すべてがすべて、虎丸で部屋が埋め尽くされていた。

「はあ、今日も虎くんかっこよかったぁ……」
 そう言いながら、千歳は布団にあった抱きまくらをそっと抱きしめる。
 それは、彼が三ヶ月使って、色んな気持ちを込めて作り上げたデフォルメ虎丸の抱きまくら。この抱きまくらは、千歳が虎丸に出会って、初めて作った推しグッズであった。

 虎丸に出会う前の千歳の人生は、大変平凡そのものだった。
 言っておくが、千歳の容姿は子供の頃から麗しい。けれど、周りはあまり彼の容姿に頓着しなかった。というか、それ以外のことが悪目立ちしていたのだ。

 千歳は勉強は人並み、運動神経はあまりなく、絵画もセンスはない。歌も平凡、性格は大層内気で、騒がしい音がとても苦手。アニメもゲームも音楽も興味あるものが無く、辛うじて本を読む事だけが好きだった。

 友達は欲しいが、友達と会話できるものが何もなかった。
 勿論、優しい両親はそんな千歳のことを心配し、色々な習い事やイベントでの体験教室に連れて行ったり、新しいテレビ番組なども色々と一緒に見たりもした。

 それでも、十歳になるまで千歳を夢中にさせるものはなかった。

 そう、十歳になった千歳が親に見せられてたまたま見たタレントオーディション番組。そこには、自分よりも二歳下の少年が、幾千の大人たちの前で、彼が作ったオリジナル曲のダンスと歌を披露していた。

「しばいとらまる、八さい。さいきょーのアーティストでプロデューサーです!」

 小さい子が元気に叫ぶ。大人たちは彼の実力に拍手とスタンディングオベーションで迎える。
 千歳は初めて視線が釘付けになるということを知った。今まで生きてきたのはこの人の為だと、体の全細胞が叫んでいた。

 これが、彼の人生に光が差した瞬間だった。

 次の日の早朝。

「虎くん、ご飯作りましたよ~」
「あ、あざす」
 千歳はまた会社に戻り、虎丸が好きな朝ごはんを弁当に詰めてきた。虎丸はあれから作業をずっとしてたのか、少しばかり髭が伸び、目の下にもくっきりクマがある。草臥れたのか、ぐたりと椅子に身体を預けていた。

「ふふふふっいっぱい食べてくださいねぇ」
 千歳は虎丸の隣にひざまずくと、弁当を広げで甲斐甲斐しく、虎丸にご飯を食べさせ始める。多分このあと彼は寝落ちしてしまうので、胃に優しい蒸し鶏料理に、細かくした野菜と豆腐とおじや。  

 あーんとされるたびに、既に抵抗もない虎丸はパクパクと食べていく。
 ああ、愛しい。可愛い。好き。
 千歳は自分の下腹部がきゅんきゅんっと伸縮し、じゅわりとパンツの中で何かが広がる。

「あっ」

 千歳の短い声に、疲れ切っていた虎丸はなんとかその視線を千歳に合わせる。

「また、嬉ション?」
 到底この前十八歳になった少年とは思えない言葉。ただ、無表情に言い捨てるその姿に、更にしょわしょわと千歳の股ぐらは濡れていく。

「ごめんなさい、プラグ先端閉じ忘れてた……」
「いやいいけど、今度からおむつ履いてきなよ」
 千歳は申し訳無さそうに縮こまり、涙を瞳に溜める。すでに床には水たまりが出来ており、薄いアンモニア臭が漂っている。

 虎丸は千歳から弁当を受け取り、千歳は部屋の隅にある掃除用具からペットシーツを取り出して、床に貼り付ける。ペットも飼っていないのにコレ・・が常にあるほどには、千歳は虎丸の前で粗相をし続けていた。

 部屋を掃除する中、虎丸は弁当の中身を胃の中に掻き込む。そこそこ美味しいご飯は、千歳が頑張って身につけたものの一つだ。

 すんすんっと鼻を鳴らし、今にも泣き出しそうな千歳は、片付け終わると事務所内のシャワールームに向かう。おもらしをしたとは言え、絶世の美男子が涙で目元を濡らしているのは、なんとも言えぬ色っぽさがあった。

 作業室で一人になった虎丸は、溜めていた気持ちを吐き出すように、「はあっ」と息を吐いた。

 虎丸としては、正直、今の現状は予想外なことばかりだった。彼はスマーフォンで何かを操作した後、部屋の片隅にあった箱から小さな鍵を取り、千歳の後を追う。

 シャワールームと呼んでいる部屋は、外付けのシャワーブースとドラム式洗濯機、簡易的な着替えが置いてある。部屋の中に入ると、洗濯機がゴウンゴウンッと音を鳴らし、洗濯をしていた。そして、奥にあるシャワーブースからは、シャーッと水音が聞こえてきた。

 部屋の鍵を閉めて、ばっさばさと服を脱ぐ。そして、シャワーブースの前に立った。

「ちとせ、扉開けて」
 がちゃんがちゃん!
 シャワーブースの扉が乱雑に開かれた。そこには、風呂で身体洗っていただろう泡だらけの千歳がいた。

「虎くん、どうしたんです?」
「お前、これ外さなきゃだろ」
 虎丸は手に持っていた小さな鍵を千歳に見せる。一昨日いきなり千歳が虎丸に預けたもので、千歳の肉棒に装着されているフラット式貞操帯外すもの。
「でも、これ外しちゃうと、余計汚しちゃう」
「風呂なら問題ないだろ」
 謎の心配をする千歳に呆れつつ、虎丸はシャワーブースへと無理矢理入って、扉を閉める。男二人が入るには狭いが、身動きがとれない程ではない。
 見つめ合う二人、虎丸の身長は一七〇センチで千歳の身長は一八三センチのため、十三センチ差。
 しかし、だからどうした。千歳は屈んで、虎丸はその千歳の頭の後ろに腕を回し引き寄せる。

 虎丸が噛み付くように、千歳の唇を食らう。虎丸の笑った時にしか見れない尖った犬歯が、千歳の唇に刺さった。
 
 
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