星降る世界の龍仙師

木曜日午前

文字の大きさ
上 下
47 / 64
護衛と季節雨編

45話 夕食会へ

しおりを挟む
 
 暫くして中庭から、また緑洲オアシス内の別の場所へと案内される。その途中で、姫が住む後宮ハーレムの入り口があり、ジュマーナと別れることになった。また、後宮なので基本男性は入れないようで、隣で「麗しの姫ぇえ、貴方の騎士を置いていくのですかぁあ」と取り残されたジュリャンにはちょっと引いてしまった。
 
 その後の大層落ち込んでるジュリャンの案内のもと、案内された客間のような部屋。
 こんこんと扉を叩き、返事があったので開ける。中には、ルオとジョウシェンが待っていた。
 
「リュウユウ、よくぞ無事で!」
「本当に! 心配したんですよ!」
「ごめん、ごめん……」
 
 ルオは僕のそばに寄ろうと歩き出す前に、足を強く踏み鳴らしたジョウシェンがすごい速さで僕に近づいてくる。見てわかるくらいにかなりカンカンに怒っている。その目がかなり赤く腫れており、まるで泣き腫らした後のようだった。
 
「もう、私が、あの時っ、砂嵐でっ……!」
「いや、今回は僕の不注意だよね、心配かけてごめんなさい」
 
 砂嵐の時、確かにジョウシェンは身体が軽いせいで天高く巻き上がってしまった。でも、それは僕たち皆そうだし、僕が不注意だったか、運が悪かった。それだけだ。
 
「でも……」
「まあまあ、終わり良ければ全て良しって、花の島では言いますし。二人が無事で良かった」
 
 僕は心の底から安心した声で言うと、ジョウシェンは僕の身体を抱きしめておんおんと泣き始める。
 
「ジョウシェンも、まだまだ可愛いなあ」
 
 ルオはにこにこと笑いながら、ジョウシェンの頭を撫でていた。
 
 
 暫くして、ジョウシェンが落ち着いた頃、僕達は「おや、そろそろ時間だね」とジュリャンに声を掛けられた。外を見ればすでに陽は傾き、夜の始まろうとしていた。
 
「今日は雨が降ったからな、夕食会がやっと開催されるだろうな。会場へ案内しよう」
 
 ジュリャンは片目をぱちんっとめばたくと、その会場らしき場所へと三人を連れて行く。
 
 その通り道。外へと出ている長い長い吹き抜けの廊下で、前からシュウエンが黒い猫を抱えて、歩いてきたのだ。
 
「シュウエンさん!」
「あ、リュウユウ、無事で良かった。ごめんな、すぐ行けなくて」
「いえ、なんとか戻ってきましたから」
 
 シュウエンは申し訳無さそうに謝る。この三日間、たしかに幸運にも生き残れたような状況ではあったけれど。しかし、あの黒鳶国の骸骨たちのこともあり、簡単には動けなかったと僕の頭でも想像ができる。
 
「それにしても、この猫は?」
「なんか、そこにいてな、へへっ、可愛いだろ」
 
 シュウエンはかなり大きめの黒猫の毛並みを撫でる。その黒猫はなんとも無愛想な顔をしており、僕を一瞥するだけで目を逸らした。野良にしては艷やかな毛並みに、どこから逃げた猫なのだろうか。黒猫の妙に鮮やかな黄緑の瞳は、僕の深緑の目とはまた違った色合いだ。
 
「ちょっと、リュウユウくん、無駄話は歩きながらで頼むよ。シュウエンさんも、一緒にお願い致しますよ」
「すみません!」
 
 道案内役のジュリャンの言葉に、僕は思わずしまったと慌てて頭を下げる。思わず、シュウエンと猫の組み合わせを初めて見たので、気になってしまったのだ。
 
「おやおや、あの、ジュリャンに怒られるとはな」
 
 シュウエンは相変わらずの調子で戯けながら、肩を竦める。そして、その猫を床に置いた。
 
「猫ちゃん、ありがとうな」
「ナァ」
 
 シュウエンの声掛けに猫は一回鳴くと、僕たちを視界に入れることなく、廊下を駆けていった。
 
 
 
 夕食会会場に着き、俺達は色とりどりの織物が敷かれ座布団が積まれた端の席へと座る。
 
 席の真ん中には大理石の薄い板が置かれており、その上に料理たちが並べられていた。
 
(すごい、本当に床で食べるんだ!)
 
 熱砂楼では、移動して暮らす商人が多い。そのせいか、机や椅子などの嵩張るものは使わず、床に布を敷いてその上に座布団と板を乗せて食事を摂ると聞いていた。
 
 しかも、一人一人金の豪華な装飾がされたさかずきを配られ、中には酒ではなく紅茶が注がれているが。
 
 こういう場でお酒ではないのは驚きではあったが、それも文化の違いなのだろう。
 
 僕は初めての体験にわくわくしつつ、机の上を眺めていると、隣りに座っていたジョウシェンがシュウエンに声を掛けた。
 
「あれ、思えば、グユウさんとハオジュンさんは?」
「ジンイーは聞かないのかよ……」
「聞いたところで、ジンイーさんの理由は変わりませんから」
 
 きっぱりと言い放つジョウシェンに、シュウエンは苦笑いをする。僕たちはジンイーの修行狂いぶりはよく知っており、このような夕食会に出るくらいなら、いくらでも理由をつけてどこかで修行してそうだ。たとえ他国でも。
 
 しかし、ハオジュンとグユウは寧ろこういう場には喜んでやってきそうななのに、今はどこにも見当たらない。
 
「まあ、ハオジュンは迷子だろな……。で、グユウは今日実家に戻ってるから来ないぞ」
 
 シュウエンは少し顔を引き攣らせたまま、ジュリャンに目配せをする。会場内で準備を手伝っていたジュリャンは、こちらに気づくとシュウエンの視線を追う。そして、ハオジュンが居ないことに気づいようで、苦虫を噛み潰したよう顔している。不機嫌そうに会場から出ていったので、迎えにでも行ったのだろうと思う。
 
 しかし、それよりもグユウのこと。僕だけじゃなくて、ジョウシェンも同じだったらしい。
 
「実家……? え、グユウさんの実家がここに?」
 
「ああ、第一市場で菓子屋をやっててな。美味いぞぉ、そこの鼈甲飴べっこうあめ
 
 てっきり龍髭国の人だと思っていた為、熱砂楼に実家があるのは意外であった。

「鼈甲飴!もしかして、山査子飴さんざしあめもあるのか!」

先程まで静かにこちらを伺っていたルオがぬっと身を乗り出す。山査子を水飴で固めたお菓子だが、龍髭国ではよくお祭りで見かけるもの。
 
「珍しい果物とかの雨もあるな、明日とかにでも案内してやるよ」

「本当か!ありがたいございます!」

 興奮からか敬語が崩れているのにも気づかず、踊りだしかねない位に喜ぶルオ。余程嬉しいらしい。
 シュウエンの提案に勿論僕とジョウシェンは「ありがとうございます」と答える。美味しい甘味は、どうしても気になってしまう。
 
 さて、夕食会が始まる直前、のそのそと奥から一人の恰幅のいい男が、女性たちを率いて出てくる。その後ろには布を被ったジュマーナもいるため、僕はもしやとその男を見る。
 
 男は席に着いている人たちの顔を見ると、大きな声を上げた。
 
「皆のもの、よく集まってくれた! 私は首長のダービー・ザーフィルだ。今日は扇鶴国との友好のとうとさを改めて感じた日であった! 我々一同大変感謝をする!」
 
 
 男はマサナリ皇子(大きい方)が、皇子妃に頭を下げる。マサナリ皇子と皇子妃は、やはりというべきか、しずしずと優雅に頭を下げた。
 
「それでは、皆、今日という日を祝って、時は金なり!」
「「「時は金なり!」」」
「と、時は金なり」
 
 特殊な乾杯の音頭。僕は予想しなかった掛け声に、一拍遅れになってしまう。他二人はもう慣れたかのように、参加していたのでどこかで夕食会に参加していたのだろう。
 
 ちなみに、ジュリャンとハオジュンは、まだ姿を見せていない。
 
 
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

処理中です...