星降る世界の龍仙師

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護衛と季節雨編

34話 制限時間がつきました

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 僕はユウシの方へと目を向けると、先程の勢いはどこへやら。まるで、萎びた花のように項垂れている。
 
 その反応に、本当にやらかしてしまったのかと、僕は思わず苦笑いする。マサナリ皇子と僕の視線に耐えられなかったのか、ユウシは頭を下げながら口を開いた。
 
「ま、まさか、黒鳶から襲撃があるなんて思わず、我々は外に出てたので、牛車に戻るには風丸に乗るしか無く……」
「その風丸という、空を飛ぶための補助用のからくりなのだが、壊れた結果、強力な風を噴出し、砂漠の上に竜巻を起こしてしまったんだ」
 
 あんな砂嵐を起こしてしまう からくり。宴にて美しく鳴いていた鳥たちもからくりと聞いていたが、僕はあの砂嵐の風を思わず身震いをしてしまう。ここは砂漠だからまだしも、龍髭国の城下町であったら、瓦礫の山になってしまっていただろう。
 そんな様子の僕に、ユウシはきりっとした顔で睨みつけてきた。
 
「それもですが、それより、龍髭国! ただでさえ、敵が多い・・・・のに、いつから黒鳶とも対立するようになったのか!」
「これ、ユウシ。人の生まれ故郷をそう批判するでない。すまない、龍仙師よ、気を害しただろう」
 
 強く噛み付いたユウシに、マサナリ皇子は一喝する。その姿は凛々しく、また僕なんかにも気を使ってくれる姿は、名君と呼びたくなってしまった。ただ、一喝されたユウシがまた萎れた花のように首をもたげるため、申し訳ない気持ちになった僕は慌てて口を開いた。
 
「気にしないでください。大丈夫です。僕、龍髭国生まれではないですし、言われても仕方ないとは思いますから……あっ」
 
 しかし、あまりこういう取り繕うのは慣れてない僕は、ついつい余計なことまで口走ってしまう。これは皇帝への不敬だと、言われて投獄されてもおかしくない内容。
 
 少し青褪めた顔をする僕に、マサナリ皇子は不審に思ったのだろう、強い眼差しを向ける。
 
「龍仙師。お前は、どこの生まれなのか?」
 
 自分が口を滑らしたせいだ。ここで、変に嘘を付くと逆に取り返しがつかない。
 頭の中でそう思った僕は、マサナリ皇子のその問いかけに、 しっかりとマサナリ皇子の目を見て答える。
 
「花の島です」
 
 マサナリ皇子がその回答を聞き、驚愕の顔色になっていく。どうやら、他国でも『飛花落葉の日』は知られているようだ。
 
「花の島、のものが、龍髭国の軍人とな。正気か?」
「ええ、報奨狙いですが、母と一緒に暮らせるようになるためにはこの手しかないもので」
 
 全て素直に話せば、マサナリ皇子は二回頷くと、固く結んでいた口を開いた。
 
「……なるほど、正直に言おう。我々は、龍髭国・・・の事はあまり信用しておらぬ。しかし、熱砂楼に行くため・・・・には、必要なのだ。わかるな」
 
 かなり正直な言葉ぶりに、僕は少し呆気に取られながらも「わかります」と答えた。扇鶴国から熱砂楼に行くには、龍髭国の上空を飛ぶ方が早いのは地図上的に明らかなのだ。
 
「それで、私達はあと三日・・以内に熱砂楼に到着する必要がある」
 
「三日……?」
 
「ああ、三日だ。それまでに着かなければ、熱砂楼、龍髭国、我が国の国交に大損害が起きる。
 そして、今まさに国交存続の危機である」
 
 とんでもない自体であるのは、僕でもわかった。しかも、こんな周りに何も無い砂漠で、目印もわからない状況。応援を待つにしても、三日となると、自分たちの体力的にも難しいところ。
 
「ど、どうすればいいのでしょう」
 
「龍で乗って行くしかない。
 我々の大きさでは、風丸が壊れた以上飛んでいっても間に合うとは思えない」
 
 僕は段々と今置かれてる状況を飲み込み始める。たぶんだが、彼らが助けたというのはそういうことなのだろう。
 
 多分だが、龍を出せると思ってるのでは。
 僕は顔を引き攣らせつつ、口を開いた。
 
「……僕、まだ見習いで、龍出せません」
 
 素直に白状すると、マサナリ皇子は一つ頷いた。
 
「知っておる、お前とほか二人が、龍を出さず戦ってたからな。
 でも、私達は今、お前の可能性に賭けるしかないのだ」
 
 マサナリ皇子の言葉に、僕は口元を引き攣らせる。今、国交問題が、自分の肩に伸し掛るのを如実に感じた。どうしようと、マサナリ皇子からユウシへと視線を移すと、ユウシは潤々とした瞳でぼろぼろと涙をこぼしていた。
 
「拙者、龍仙師殿の母を思い遣る気持ち、それに感動いたしましたぞ! 拙者も協力する故、絶対に龍を出しましょうぞ!」
 
 僕はその時、さらに自分の肩に重圧が掛かるのを感じた。
 
 
 
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