星降る世界の龍仙師

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龍仙師見習い編

24話 朝ごはんの話

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 翌日。夜明けとともに自然と目が冷めた。
 
 僕は仕事着に着替えると、まず最初に食事場所に向かった。そこにはすでに幾人かの給仕担当の女性たちが、朝用の揚げ饅頭と酢が効いた玉子汁、お粥、山菜の漬物が机の上に並べている。
 
(今日は蒸し饅頭ないのか……)
 
 白くてムチムチした蒸し饅頭。具は入っていないそれを汁に浸して食べるのが好きなのだが、今日は饅頭は用意されてない日のようだ。
 
 特に、辣油と魚醤、ネギ、油揚げで味付けされた豆乳汁に浸して食べるのは、僕の最高の朝ごはんと言っても過言ではない。
 
 じゅわっと、滲み出る汁と、ほんわか甘い生地の感じを想像しただけでも恋しくなってしまう。
 
 そんなことを思いながら、隅の方の席に座り、適当にご飯を食べ始めた。
 
 玉子汁の素朴な味わいと、少し効いてる酸味、揚げ饅頭を手で千切って浸して食べれば、これはこれでとても美味しい。空きっ腹に丁度よい優しい朝ごはんを、ゆっくりと味わいながら食べる。
 
「あれ、リュウユウ、おはよう。随分、早いね?」
 
「んっ! ぅッ……んぐっ、おはようございます」
 
 
 食べている時後から声を掛けてきたのは、グユウだった。僕は何とか口に入っていた汁浸しの饅頭をぐっと飲み込むと姿勢を正し、グユウの方を向いて挨拶する。
 
「急に声をかけて悪かったね、昨日はよく祭りは見れたかい?」
 
「は、はい。剣舞とか、からくりとか、すごかったです」
「そうか、それは良かった」
 
 拙い感想を優しく受け止めてくれたグユウは、並べられた平皿とお椀を、手に持っていたお盆に並べていく。
 
「からくり、この国ではなかなか見ることはないから、いい経験になっただろう。扇鶴国は人が少ないから、働き手をからくりに頼るしかないからね」
「そ、そうなんですか?」
「ああ、働き手がいないからと、元々分裂していた東西が今では協力して国を維持しているくらいだ」
 
 扇鶴国の東西というのは、東の鶴島つるのしまと、西の扇島おうぎのしまという大きい二つの島のことを指しているのは、試験範囲にもあったので知っている。
 島間が近いとはいえ、一つの国として成り立っているのは何故だろうとは思っていたが、まさか働き手が少ないからなんて。
 
「教本にも書いてないことが、この世界には多いですね」
 
 ぽつりと口から溢れた言葉に、グユウは少し驚いたあと、少し微笑んだ。
 
「それに気づくのも、学びだからね。じゃあ、俺は部屋に戻ってご飯を食べるから、また後で」
 
 優しい声色に、僕は素直に頷いたあと、「あとで、刺青についてお伝えしたいことがあるので時間だけください」とお願いする。
 
「そうだね、丁度シュウエンもその話をしたがってたから、部屋に戻ったら伝えとくよ」
 
 グユウはそう言って、一人分の朝ごはんにしては多い量を乗せたお盆を持ったまま、自分の部屋へと帰っていく。
 
 僕はその背中が見えなくなるまで追ったあと、食事を再開した。
 
 
 食休み後、ゆとりを持って今日の修行場である天守閣へと向かう。
 
(苦しい……)
 
 
 帯を緩く締めたが、きちきちの胃が悲鳴を上げていた。確実に食べすぎたようで、お腹の中で汁がちゃぽちゃぽと暴れている。
 
 修羅場に向かえば、すでにジンイーとジョウシェンは修行をしていた。
 
「おはようございます!」
 
 形だけでもと無理やり元気よく挨拶をすれば、ジンイーはちらりと見ただけで修業を続ける。対象的にジョウシェンは「おはようございます」と育ちの良さを感じる丁寧な挨拶を返してくれた。
 
「あれ、ルオは?」
 
 ジョウシェンが居れば、基本的にはルオがいるはずなのに。辺りを見渡してもルオがいない。思わず、ジョウシェンに尋ねれば、ジョウシェンは少しばかり不機嫌そうに口を開いた。
 
「ルオ様は今日宮廷に呼ばれているので、私とリュウユウだけですよ。全く、今日こそは問題は解決してくださいよ」
「そうなんだね。ちょっと、解決の糸が見えてきたから、シュウエンさんに相談する予定だよ」
 
「本当、ですか!」
 
 ジョウシェンは急に大きな声を上げる。少しびっくりした僕は、思わずびくりと身体を跳ねさせてしまったが、ジョウシェンは構わず僕の両肩を掴む。その表情は喜色を噛み殺したなんとも言えない顔をしていた。
 
「まだ、仮説だけど、行けると思う」
「そ、そうですか。なら、早くシュウエンさんのところに行きましょう! 善は急げですよ!」
「ま、まあ、落ち着いてよ、ジョウシェン。今日グユウさんには伝えてるからさ」
 
 少しばかり落ち着きを欠いたジョウシェンをどうにか宥めれば、彼も我に返ったのか恥ずかしそうに僕の両肩から手を離し、誤魔化すように咳払いを一つした。
 
「とにかく、あと少しですから、修業をしましょう。私も修業しなくては」
 
 ジョウシェンはそう言うと、そそくさと元いた場所に戻っていく。僕はその様子を少しばかり微笑ましい気持ちで見ていた。
 
 
 
 
 
 
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