星降る世界の龍仙師

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龍仙師見習い編

20話 仙人の力と僕

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「仙人……もしかして、仙人の力で武器から龍を作り出しているということですか?
 だから、龍仙師なのですね」
 
「そうだね。自分の中に宿る仙力を特別な武器や仙器に宿し、龍を生み出す。
 
 龍を生む仙師だから、龍仙師だ」
 
 
 今までの言葉を継ぎ合わせて、答えに近づいたジョウシェンは、グユウに再度尋ねた。
 その内容に、グユウは満足そうに笑った。
 
 仙師、よく考えれば仙人に通ずる「仙」という言葉が使われており、残りの「師」は敬称として使われることがある。
 
 龍仙師という言葉に、まさかそんな意味があるとは思わなかった。確かに、戦士ならばまだわかるが、仙師なんて他のものに使われているのを見たことがない。
 
 一体、他の人はどう思っているのだろうか。
 横を見るとルオは「なるほどなあ」と納得しており、ジョウシェンは正解だったことが嬉しくて機嫌がとても良さそうだ。
 
 そし、我らが兄貴のハオジュンは、座学に飽きているのかすでに夢の中に旅立っていた。
 
 
「これから、仙人の力について説明するから……こら、ハオジュン起きなさい」
 
 グユウもそのことに気づいたのか、水の膜から龍が少し顔を出し、ハオジュンの顔を小突いた。
 
「ッめたっ! ……んんにゃ、わぁ、終わった? まじ退屈だよなー! やっと修行か!」
 
「兄貴分として見本にならないと、駄目だろ? まだ、座学だよ」
 
 ハオジュンは飛び起きた。その後、座学が終わったと思ったのであろう、いつもの元気な調子で席から立ち上がった。
 しかし、まだ座学が終わってないと聞き、その顔はあからさまに不機嫌になっていく。
 
「さて、では肝心の仙力についてだが、仙力があるかどうかは、身体に金丹きんたんと呼ばれる仙力の核があるかどうかで、決まる」
 
 
 そう言ってグユウが示した場所は、鳩尾よりも少し上当たりの場所である。
 
「その金丹は、僕たちにあるってことですか?」
「少なくとも、その基になる小さい核というものはある。無ければ、試剣堂で落とされているだろうね」
 
「試剣堂……」
 
 試剣堂。それは以前、皇族に連なるであろう龍髭深衣を着た美しい人と対峙したところだ。あの時の試験は、ただ剣を選ばせている訳ではなく、金丹があるかどうかを見られていた。
 
 そして、そのおかげで何故龍仙師の試験について、情報があまりにもなかったのか見当がついた。
 
 落ちた人たちは、どの試験で落ちたのかはわからない。
 まさか、剣を選んでいる時に金丹があるかどうか判別してたなんて、誰もわかるはずがないだろう。
 そして、受かった人たちは、何一つ言えることがない。龍仙師に纏わることを話すことで、直接的極刑にも間接的侵略にも命を取られかねないから。
 
「次は金丹の鍛練の仕方だ。ここは心して聞くように」
 
「「「はい」」」
 
 ハオジュン以外の三人の声が揃って返事をする。その声は綺麗に揃い、心地よいものだ。
 
 
「いい返事だ。
 
 では、まず、金丹の鍛錬には三段階あるんだ。
 
 一、仙力の循環。
 金丹から作られる仙力を自分の体内を巡らせては金丹に集めるを繰り返し、まずは体の中の金丹と仙力の出入り口を鍛え、大きく生成する。
 
 二、仙力の放出。
 仙力を体内から外に出し、武器に力を宿す。外に出すのだから一よりも大きな仙力が必要になってくる。
 
 最後、三、仙力の具現化。
 仙力化した武器を具現化し、更に龍を発現させる。
 大きな龍を作ろうとすればするほど、仙力は必要になるからな。
 
 座学では、修行を通しての課題や、問題点についてを深く考察していく場だと思ってくれ」
 
 とてもわかり易く纏められた内容なため、すっと頭には入るが、どれも凄く難しそうに感じてしまう。
 
「とにかく、まずは仙力の循環から行おう。ハオジュン、起きて。座学は終わって、出番だよ」
「つッめ、たっ!! シュイシュイほんと冷たいなあ……え、あ、仙力の循環か。
 よし、お前ら皆床に座るぞー!」
 
 またもやシュイシュイに起こされたハオジュンは、やっと座学の終わりに気づいたのか、随分元気な様子で机を退かしていく。僕たちも同じように机を退かしていき、ハオジュンの指示で五人円になるように胡座をかいて座った。
 
 順番としては僕、ルオ、ジョウシェン、ハオジュン、グユウの順番。
 
「準備できたね、では、目を瞑って」
 
 全員言われた通り目を瞑る。
 
「深呼吸して、吸って、吐いて……繰り返して、乱さないように」
 
 吸って、吐いて。呼吸音が意識的に皆揃っていく。
 
 
 
「流すよ」
 
 
 
 グユウの言葉と共に、なにか熱いものが流れ始めた。
 
 これが、仙力か。
 
 僕はそう呑気に思っていたが、ふとおかしくなことに気づく。
 仙力がぐるぐると僕の身体に留まり始めたのだ。終いには、どんどんと膨れ、自分の鳩尾に痛みに近いものを感じはじめた。
 
 
「ん? おや……待って、止める」
 
 
 グユウは流すのを止めて、仙力を僕から吸い取ろうとした。何かが、僕の手を通じて中のものを引き出そうとしてるのがわかるが、それは微量のものしか感じさせない。
 
 辛い。痛い。苦しい。
 
 脂汗というのか、全身から汗が滲み出て、自然と苦悶から呻き声を上げてしまう。身体はだらりと胡座をかいたまま、隣りにいるルオに凭れ掛かるように傾いていく。
 
 周りの声掛けも感じるが、何を言っているのかはわからない。酷く酷く苦痛で、しんどいのだ。
 
 
「なるほど、仕方ない、ちょっと手段を変えるかな」
 
 
 僕の眼の前にグユウはそう言うと、僕の顔を抑え上を向かせ、こじ開けた口の隙間から二本指を突っ込んだ。
 
「『水泡』」
 
 指から出てきただろう水が容赦なく、僕の体に流れてきた。冷たく冷えた水は喉から臓物へと流れ込み、その冷たさのせいなのか、急激に留まっていた仙力が奪われていく。
 
 
「がっ、はっ、ぅええっ」
 
「リュウユウ、苦しいかもだけど、死ぬ寄り良いからね、我慢だよ」
 
 
 そして、暫くして、苦しみも落ち着いた。あと少しで流れ込んでいた水溺死しかけてはいたが、多分あのまま仙力の膨張を放置していても良くなかったのだろうとは思う。
 
「うーん……もしかして、封印の刺青がよくないのかもね。呪術師とかに見てもらうか……」
「呪術師囲ってるのって、錦衣衛だろ? 素直に合わせてくれるかな、彼奴等俺らのこと嫌いじゃん」
 
 グユウは僕の右手をとり、そこに書かれた封印の刺青を見る。その時、ふと忘れていたことを思い出した。
 
 
「思えば、それも、仙力で書かれたと言ってたので……」
 
 
 僕の発言に、グユウは大層驚いた様子で振り返った。
 
「え? なんで、そんなこと知ってるんた?」
 
「たまたま、聞いたんです。大人達が話してて、その時『仙力』って言ってたんですよね」
 
「花の島の刺青……となると、管轄は錦衣衛だね。全く、皇帝に近いからと機密事項漏らすなんて……他の部署なら文字通り首が飛ぶよ」
 
 頭を抑え、明らかに呆れ顔のグユウの横で、ハオジュンもまたあからさまに嫌そうな顔をしている。
 
 どうやら、錦衣衛と龍仙師は相性が悪そうだ。
 
 
「とりあえず、リュウユウはまず仙力が留まってしまうようだから、解決策を見出すまでは一段階目の仙力の循環だけだね」
 
 
 そして、僕はこの仙力と相性が悪そうだと、肩を落とした。
 
 
 
 
 
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