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龍仙師見習い編
19話 国の成り立ち
しおりを挟む連れてこられたのは、いつかの筆記試験の会場のような場所だった。
「それでは、座学も当分は俺とシュウエンが交互に担当することになると思う。と言っても、座学は一週間。食後の余暇だと思ってほしいが、確認のため試験もするから、頭に叩き込んでほしい」
相変わらず温和そうな表情のグユウはそう言いながら教卓の椅子に腰を掛けた。僕たちは前の方の席に座り、僕、ルオ、ジョウシェン、ハオジュンの順番に教卓の前の席に腰をかける。
その時、僕は一つの違和感に気づいた。
「グユウさん、あの、質問良いですか?」
「リュウユウ、どうした?」
「……グユクさん、教本とか筆記用具とかはあるのでしょうか」
恐る恐る尋ねた僕に、隣からの視線を感じる。
グユウから「頭に叩き込んでほしい」と言われた時に気づいたのだ。もし今から座学が始まるならば、普通ならばすでに教本や筆記用具があるはずだと。
「申し訳ないけど、用意できないんだ。龍仙師のことに関しては」
そして、案の定、勘は当たった。
「油断していたが、リュウユウは他の二人と違って庶民出身だったからね。知らなくて当然だよ」
グユウは「気にしないでね」と言いたげな優しい雰囲気で僕の方を見る。
「では、まずは、龍仙師の情報の取り扱いについてはなさなければならないか……」
そうして、グユウから語られたのは基本的に龍仙師というものに関する詳細な情報は機密事項であり、意図的に情報を漏洩した場合極刑になってしまうということ。
「ただ、情報漏洩したといっても、本や手帳など形の残るものを盗まれたとなったら、ものすごい厄介。教本なんてものを作った日には、他国の隠密が乗り込んでくるだろうね」
「龍仙師は、この国一番の強大な壁であり、剣だからな!」
確かにグユウとハオジュンの言うとおりだ、と僕は一人納得する。
ルオとジョウシェンは、やはり知ってるからだろう、特に何か変わることもなく淡々とその説明を聞いていた。
それにしても、正確な情報を形に残るものにするというのは、それなりの危険性を孕んでいるのかと初めて気付かされる。
「だから、教本はないし、リュウユウも他の人に話さないようにね。親にも、伴侶にも、子にも言っては駄目だからね」
「はい、もちろんです」
「よかった。じゃあ、次は龍仙師について、ざっくり話そう。みんな知っているだろう。この国の成り立ちを。ジョウシェン、話してくれるかい?」
グユウに指名されたジョウシェンは、まるで手元に教本があるかの如く、この国の成り立ちについて話し始めた。
「龍髭国は、蛮族同士が争い続けます不毛の当地でしたと伝えられております。
しかし、当時東山地帯を納めていらっしゃいました初代龍髭国皇帝。
この荒れた当地を平和で広大肥沃な貴地になさるために、東山に澄んでおりました巨大な龍神と交渉なさいましたそうです。
その際、龍神は試練を初代皇帝に与え、初代皇帝はそれに答えるかのように全て合格をなさいました。
龍神は非常に喜び、潤沢な力の源として髭を初代皇帝に授けました。
結果その力を基に乱世を治め、天下を獲り、国名を龍神への感謝の意を込めて、
『龍髭国』と命名しましたというのが、成り立ちです」
つらつらと長い文章を淀みなく続けていく姿に、僕は思わず感動してしまう。そして、なによりも細かいところまで覚えている。
グユウもここまで細かくジョウシェンが話せるとは思ってなかったのか、少し驚いた顔をした後言葉を続けた。
「ジョウシェン、素晴らしい。筆記試験の回答としては、満点だな」
「恐れ入ります。」
ジョウシェンはすっと頭を下げる。その顔は少し複雑そうな顔であり、僕もジョウシェンもその言葉に引っかかりを感じている。
「表向きはそういう話になっている。
ただ、龍仙師となると、そこには伝えきれていない話があったりする」
グユウはそういうと、すっと、呼吸を吐く。その右手にはふわふわと光が集まり、次第に直剣へと変貌していく。
「シュイシュイ、『流水隠れ』」
その瞬間、自分たちの周りに美しい水の膜が広がる。その水の膜には天守閣で見た美しい蛇のような龍が、ぐるぐると僕たちを囲うように泳いでいる。
流水が周りの景色を歪ませて、音もまた水の流れる音が心地よく聞こえている。
「相変わらず、用心深いよな、グユウ隊長。聞かれないためとはいえ、普通、龍仙師以外誰も龍膝宮には来ないよ!」
「まあ、一応、念の為ね」
ハオジュンは少しばかり呆れたような様子に対して、グユウはそんなハオジュンに対しては、軽く返す。どうやら、防音壁のようなものらしい。ぐるぐると回る龍は楽しそうに泳いでいる。
「さて、本題に戻るけど。
まず、初代龍髭国皇帝は東山地帯納めていたとのことだけど、貴族などではない彼自身はそんなことするわけがないんだ」
「え、では、初代皇帝はもしや……庶民だったということですか?」
「いや、違う彼自身は、元々東山地帯に住む仙人の一人だったんだ」
仙人。
龍髭国や花の国では、伝説の最も神に近い存在と言われており、俗世を離れた山奥の中に住み、不思議な力を宿し、不老不死である存在。
グユウの説明に、質問をしたジョウシェンは「なんですって」と呟いたあと、驚愕したまま動かなくなってしまう。
なにせ、そもそもの前提が狂い始めているのだから。
「そして、龍神は仙人と仲良かったのだが、ある時龍神は、荒くれ者たちに隙きを突かれ、大きな怪我をしてしまう。それを見た仙人は、荒くれ者たちを成敗すべく、龍から与えられた髭を武器にして、最終的に山から降りて荒くれ者たちを倒しに倒した。
結果、この国を『龍の髭と仙力』をもって統一したというのが本当の真相である。これが本当の歴史だ」
思ったよりも、話が違う。
ジョウシェンも、僕も、相当驚いたのか、一度思わずお互いに、見合ってしまった。
そんな僕たちとは逆に、ルオは涼しい顔で、真っ直ぐとグユウを見ていた。
「さて、この歴史が表に出せないのは2点ある。
まず、一点は初代皇帝が人間とは逸脱した存在である仙人であったこと。
そして、もう一つは『仙力』の存在だ」
「あの、質問よろしいでしょうか?」
この衝撃的な説明せいで頭が思わずこんがらりそうだったが、その中でも一番の『謎』について質問を試みる。
「リュウユウ、良いよ、何かな?」
やはり優しいグユウは、もちろんと言わんばかりに許し、僕にがっつりと視線を向ける。
「あの、グユウさん、その『仙力』ってなんですか?」
「『仙力』……言わば、俺たちがこれから身に着けなければならない、仙人の力のことだよ」
僕の頭はがっつりと思考停止した。
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