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龍仙師見習い編
17話 龍がごとく
しおりを挟む集合場所に行くと、グユウとハオジュンの二人が僕たちを待っていた。
「じゃあ、揃ったから行こうか。少しばかり道のりがあるけど、君たちなら大丈夫だろう」
「よっしゃー! ついてこい! 兄貴の雄姿見せてやるよ!」
そういう二人の案内で、連れてかれた場所は、見えないほど上へと続く四角い螺旋階段。
そして、案内役の二人はそのまま階段を登っていく。僕たちももともと試験合格を目指して、鍛錬を積んできたのでそこまで大変ではないが、普通の人なら心折れていた高さだ。
その階段を登りきり、着いた先は、この宮殿の一番上。
屋根と骨組み的に昔本で見た城の天守閣のような場所だった。
しかも、四方はこの龍髭国が見渡せ、吹き抜ける風が澄んだ秋の空を感じる。
その風に吹かれて、眼の前にいるグユウとハオジュンの大袖衫がふわりと風に揺れる。そのうち、グユウは僕たちに向かって大きく口を開けた。
「それでは、これより龍仙師としての修行を始める! まずは百聞は一見にしかず、龍を見せてあげよう!」
「よく見とけよ! 俺たちのかっこよさ見せてやる!」
二人の先輩はそういうと、大袖衫の背中側に手を入れ、何かを取り出した。グユウの手にはどこから出てきたかわからない細く美しい銀色の長剣。
その横のハオジュンは対象的に自身と同じ大きさくらいの黒鉄の斧。持ち手が濃い赤色で、その禍々しい姿はまさに対照的であった。
そして、二人ともその武器を宙に放った。
剣はまっすぐとした軌道で、斧はくるくると回転しながら渦を描くような起動で空を切っていく。
その空の切れ目が眩く光る。そして、その光が次第に鱗と長い毛を纏うなにかに変わり、次第にその姿を表す。
剣の銀の光は、眩く美しい長蛇のような銀龍に。
斧の黒鉄と赤が交じる光は、やがて炎燃え上がる禍々しく巨大な四足ある黒炎龍に。
「龍だ……」
僕は驚きのあまりそう口から零す。
いつも高い空を飛ぶ姿しか見えなかった龍。それが目の前で、僕たちのいる天守閣の周りを旋回している。
呆気にとられている僕を見て、グユウは「まだまだこれからだ」と声を掛けたあと、天守閣の外に向かって、走り飛び出した。
「シュイシュイ!」
龍の名前なのだろうか、呼ばれた龍は甲高がやわらかい鳴き声で呼応する。そして、グユウは吸い込まれるように銀龍の頭に飛び乗った。龍の頭に華麗に着地したグユウはこちらを見た。
その手にはいつの間にか先程の投げた剣を持っていた。
「じゃあ、俺もっ、と! ハオジュン兄貴様の勇姿目に焼き付けろよ! おらあああ! モグィィィイ!!!」
ハオジュンもまた天守閣を飛び出す。そして、呼ばれただろう龍はハオジュンを手で受け取り、頭に持っていく。正直グユウと比べると、兄貴らしかった。そして、頭についたハオジュンもまた気づいたら斧を持っていた。
龍の現れ方もそうだが、容易く龍を乗りこなす姿、僕は信じられないことばかりで驚く。
その武器たちも大袖衫に隠せるようなものではない。
「どうだ、驚いたか!」
高らかに叫びふんぞり返るハオジュン、グユウもまた天守閣のぎりぎりまで近寄り、こちらの様子を見ている。
僕は興奮したまま、「驚きました!!!」と叫んでしまう。しかし、隣りにいたルオとジョウシェンはそれに比べ落ち着いており、興奮したまま僕と目が合うと少し驚いていた。
もしかして、興奮してる方がおかしいのだろうかと、不安になるくらいの落ち着きであった。
「リュウユウは可愛いなあ」
そう落ち着いた雰囲気のルオに驚かされる。
「庶民には驚きでしょうが、私達は祭祀でたまに見ますからね」
ジョウシェンは相変わらず厭味ったらしいが、やはり僕がおかしいというより、この二人がおかしいのだと認識する。
「ちぇー! リュウユウはかわいいのに! お前ら二人は可愛げないぞ!」
ハオジュンはぴょんぴょんと龍の上で跳ねて、そう叫ぶ。
「まあまあ、ハオジュン! さあて、君たちにはこれから、自分たちの龍を作ってもらう、大変かと思うが、俺たちが支える。お互いに頑張っていこう」
力強くそう宣言するグユウに、僕はこれからのことを思い、浮かれてた気持ちを落ち着けて、気合を入れ直した。
二人は少しばかり龍で空を飛んでから、天守閣に戻ってきた。龍から降りると、その龍と出した武器はきらきらと霧散して光の粒として消えていく。
あまりにも不思議な現象にまたもや驚いて呆気に取られるが、時間は待ってくれないようだ。
「さあ、まずは武器を作らないとだから、工房に行こうか」
グユウはそう言うと僕たちを連れて、今度は天守閣から階段駆け下りていく。そして、地下へと行く。
地下は天守閣と違い、茹だるような熱さと、淀んだ空気が漂っている。なによりも、まるで牢獄のような鉄格子と石畳の壁が、僕の昔の記憶を呼び起こす。
(セイと出会ったのもこんな牢獄だったな)
しかし、昔の記憶を懐かしむ余裕はない。
なによりも、ひどく焦げた匂いが充満している。工房とは言っていたが、こんな過酷な場所だとは思わなかった。
天と地というものを物理的に感じさせる差だ。
ただ、その中でもグユウとハオジュンは何も感じないかのように進んでいくのだから、慣れなのだろうか。
ルオとジョウシェンの方を見ると、ルオは相変わらず楽しそうだが、ジョウシェンは僕と同じように少し辛そうだ。
いくつかの鉄の扉を超えた。
扉の中を進む度に熱さが増していく。あと何枚扉があるのか、朦朧としがちな意識の中、一番豪勢な鉄の扉が開かれた。
恐ろしいほどの熱風がぶわりと僕たちを襲う。僕はもう辛くて、意識が飛びかけた。なんとか踏ん張って前を見ると、そこには巨大な溶鉱炉の前に一人の男性が剣を打っていた。
パチ、パチ、パチ
カーン! カーン! カーン!
火種が燃える音のに力強く鉄を叩く音。
ユグウさんもハオジュンもその様子を見て待つ。どうやら、彼の作業が終わるまで待つのだろう。あまりの熱さに、茹でられている気持ちになる。
そして、暫くして作業が終わったのか男性が立ち上がり、僕たちを見た。
「新入りか?」
「はい、イ先生。武器を選定しにきました」
「なるほど、そこに座れ」
イ先生と呼ばれた男は、ぶっきらぼうに顎で机の方を示す。僕たちはそれに従って机のそばに置かれた椅子に座った。男はこちらを見ることもなく、そそくさと近くの棚に行き、何か風呂敷に包まれたものを取り出してきた。
この男は、鍛冶職人なのだろうか。僕はそう思いながら彼を見る。体や指には火傷の痕がたくさんあり、ぶっきらぼうさが滲み出る顔。筋肉質ではあるが、身長は僕ぐらいであろう。
粗末な作務衣を着ており、無精髭が余計にぶっきらぼうさに拍車をかけている。
イ先生は、何も言わずにテーブルに置き、風呂敷を解いていく。風呂敷の中には、三つの剣が入っており、一つは自分がこの前お堂で選んだ木製の剣、残り二つは一つは青銅で出来た剣、もう一つは鉄の剣だった。
「今年は殆ど碌な素材じゃないが、まあ仕方ないな」
さも当然のように言い放つ言葉に思わず身体が強ばる。青銅や鉄に比べて自分の剣は木だから、特に碌な素材ではないと思われてそうだ。
「イ先生」
その雰囲気を感じ取ったのか、グユウが諌めるように名前を呼ぶ。しかし、それを聞いてもそれがどうしたと言わんばかりだ。
「グユウ、本当のことを言ったまでだ。来い、三人とも、自分の剣を引き取れ」
イ先生の指示で、僕たちは剣を手に取る。
ルオは青銅、ジョウシェンは鉄の剣だった。
「さあて、これからお前たちにはこの先使う武器について決めてもらう」
淡々としたイ先生の言葉に、僕たちは「え」と顔をし、イ先生の顔を見つめた。
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