星降る世界の龍仙師

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6話 星降る世界

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大きな天幕の裏にある、同じくらい大きい白い天幕に着く。それは昨日のセイと再開したあの天幕であった。外側から見ても、先程の天幕と同じくらいの大きさだ。また、天幕の入り口らしきところに案内される。セイは垂らされてた布を手で片側に寄せると、「入れ」と僕に行った。

「ありがとう」

お礼を言って中に入ると、多くの人で賑わっていた昨日とは違い、誰もいない天幕の中はとても静かだった。

「この天幕は、主に練習する場所に使われている。剣技を見せるだけなら、ここで十分だろう」
「そうだね。ありがとう」
「別にいい。その変わりにリハオにはいい顔しろよ。そして、何度も行っておくが、無駄だから、見るだけにしとくことをおすすめする」

セイはそれだけを言うと、セイ自身の背中に手をやり、すっと鞘の入った剣自分に見せてきた。それは確かに昨日見ていたものではあるが、よく見ると特徴的な形をしていた。

「そもそも、俺の剣は『新月刀しんげつとう』と呼ばれる。龍髭国で使われている真っ直ぐな両刃の剣とはまず戦い方が違う」

すっと鞘から出され剥き身になった剣は、たしかに新月と言われるように刀身が新月のように曲がり、先は鋭く尖っている。

「直刀が刺す切るがほぼだろうが、新月刀はこの形状から、相手の足を引っ掛けることもできるし……」

ダンッ。セイは大きく片足で床を踏み鳴らすと、いくつかの壁と盾を持った人の形をした土人形が3体現れた。
それはまるで魔法のようであった。

「え!?何!!??」

人形の一つは僕の真後ろだったため、急に出てきたことに驚いたせいで意図せず叫び声を上げる。
現実にこのようなことが起こるのだろうか、狼狽えつつセイを見ると剣を構えており、少しばかり意外そうな顔で僕を見ていた。

「お前が見るべきは剣術だ。こんな多少のことで狼狽えるな。ほら見とけ」

なんと無茶苦茶な。反論しそうになった僕に対し、セイはそんなの関係ないと言わんばかり盾を持った土人形に真正面から斬りかかっていく。

その鋭く曲がった剣先は盾を超えて、土人形に刺さる。

「これが直刀の場合は、どの軌道で切りかかっても盾に抑えられたらそれまで。新月刀はその点曲がってるから、この曲がりを上手く軌道に乗せると相手を刺せる。といっても、盾無しで真っ直ぐ刺すなら直刀のがいいがな」

スラスラと剣を使って、土人形にいろんな斬り方を見せるセイに対して、自分はただ呆然と見ることしかできない。

「いや、なんで、土人形が形変えてるの!?」

先程まで盾を持っていた土人形は、今は縦を持っておらず、切られた刺された箇所もさらさらと直る。まるで、妖かしに化かされた気分で、セイに向かって叫んだ。

「ああーそのうちわかることだ、心配するな」
「そういうことじゃ!」
「言ってしまえば、うちのサーカスの売りだから、説明できない。まあ、いつかわかるはずだ。俺は、何も言えないから説明しない」

混乱する俺にそう言い切るセイ。これがサーカスの売りだと言われれば、何も聞けない。
なにせ、商売をしてる家に生まれた自分としては、そこの売りというものはどうしてもあるだろうし、うちもまた少なからず秘伝の技がある。
それについて聞かれても、答えないのは当たり前のことである。

なんか、剣技見に来たはずなのにな。なんとも言えない気持ちが溢れてきた。その気持ちにどうにか蓋をして、他の事に意識が邪魔されないように気合を入れ直す。
そして、「もう一回説明するぞ」と剣技を見せてくれるセイに、「お願いします!」と返事をした。

暫くして、他の団員の人たちがチラホラと天幕にやってきた。セイは「キリがいいし、ここまでだな」と終わりを告げる。役に立たないと言う割にはしっかりと説明してくれるものだから、自分の剣の甘いところもなんとなく見えてきた。
実りがあったなあと思いつつ、天幕にやってきたリハオに、どこかの時間で打ち合わせしたいと声をかける。リハオは、「なんという仕事の早さ!」と長々と喋りながら、今からでも!と了承してくれた。

そうして、花が出来るまでの暫くは、朝はセイの剣技や剣の練習を眺め、その後はリハオや他の団員の人たちと会話をし、仕事をこなす。そして、帰宅途中で一人練習をする日々を過ごした。

気付いたら、サーカスが始まる日になっていた。入り口には美しい花達がたくさん飾られている。うちの店の特性水を使っているから、かなり長い間保つと言うとリハオは嬉しそうに小躍りしている。
サーカスに合わせて、異国情緒も取り入れたため、門をくぐる子供たちは楽しそうだ。

自分も父も勿論招待されており、今日はサーカス楽しむ為だけに休みにしたほどだ。
サーカス内には色んな食べ物のお店も出ており、色鮮やかなぬいぐるみや、飾り布もあるし、似顔絵を描く絵描きも居たりと、まさにお祭り騒ぎであった。

自分たちの席は、一番穴場の席らしく、たしかに真ん中で、ちょうど舞台全体を見渡すにはもってこいの席。

「それにしても良い出来だったな」
父は座りながらそう自分に声をかけてくれる。花を飾るのは父の仕事ではあったが、そう褒めてくれるのは嬉しかった。


サーカスは、素晴らしいという言葉しか出てこなかった。幾人か仲良くなった団員さんたちが軽く技を見せてくれたが、そのすべてが芸術的だった。

演目名は『美しい白砂漠の一日』。まさに舞台の下には美しい白砂が敷かれており、その上でいろいろな演目が行われている。
鳥に模したであろう衣装を着た空中を飛び交う人達、馬に乗り、獲物を追う狩人たちの曲芸、夕日に照らされた美しい踊りや、夜に現れる悪魔の綱渡り。

そして、まるで異国の王子様のような白地の豪奢な飾りを施した服を着たセイによる悪魔との殺陣もとてもかっこよかった。

他にも色んな気持ちが溢れ出る。
最後全員での歌と踊りも心躍るもので、幕引きする最後まで胸の高鳴りが止まらない。

少しでもこの仕事が出来たことを嬉しく思った。

勿論それは僕だけではなく、初めて見た聴衆たちも同じ気持ちであったのだろう。サーカスはあっという間に街の話題を浚い、一ヶ月という公演を全て客席を埋めたらしい。
リハオから昨日教えてもらったので、そういうことだろう。

そして、最後の日、父は母の面会時間の関係で来れず、僕だけが観客席に座る。

今日はリハオから団員全員に最後の花束を贈りたいとの話だったので、その納品をしにきた。
そして、どうにかまた見れたらいいなと思って相談したところ、リハオは「ぜひぜひ!最終日も演目が少し変わるんですよ!見てってください!」と快く席を用意してくれたのだ。 

ただ、客席に入るのだからと、気合を入れたのが良くなかった。
ちゃんとした服を着て来たら、子供とぶつかってしまい、その子供が持ってた氷菓子が自分の服を汚してしまうという悲劇があった。
そこに、たまたま居合わせたリハオの好意により、服を借りることはできたけど。
まるでセイのような異国情緒溢れる白い布を巻いたような服を着せられてしまった。
正直、周りからの視線の痛さはある。
傍から見たら、衣装を真似たように見えるだろう。
ただ、どうしようもないため、その視線は我慢をし、開演を待った。

開演すると、色々と更に驚きがあった。何故なら初日とは、一部演目を変えていたり、展開も違う部分もある。更には、客席の子供と交流したりする場面もあった。

これは、毎日入りたいと騒ぐ人もいるわけだと、少し納得してしまう。
初日から今日までリハオ以外と会うことはなく、朝花の調子を見ていたくらいだったので、こういう工夫をしていたことは知らなかった。
正直初日と演目が同じだろうと思っていたから、本当に驚きであった。

最後セイが月夜で悪魔との殺陣をするのも、前見たときよりも迫力が増しており、いろんな舞台装置を使っての動きは、更に格好良くなっていた。
最後は、セイが勝った。結末がわかっていてもあまりの臨場感に、凄いなあと思っていると、いきなり自分に光があたった。

そして、自分のもとにセイが舞台装置らしい美しい長い布につかまって自分の元にやってきた。

「さあ、来い」

バッと呆気にとられる僕の腕を掴み、上に持ち上げられる。そのセイの強い瞳にぐっと吸い込まれる。いきなり宙に浮いて不安定なはずなのに、まるで何かに支えられてるかのように身体は安定したまま。
二人で美しい夜空の星の中、空中浮遊する。

周りを見渡すと、多くの星が煌々きらきらと下へと流れていく。

また、キラキラと光に反射して輝く紙のようなものが客席にも降っていく。

星がきらきらと僕たちの周りに降り注ぎ、まさに幻想的な世界だ。

客席からも感嘆の声が漏れており、誰もが星と僕たちを見ていた。


「いい景色だろう、俺が一番美しいと思っている世界だ・・・・・・・・・・・・・・

そう降り注ぐ星を眺めて楽しそうなセイは、やはり美しい人だった。

そひて、気付いたら、そのまま舞台中央の台座まで連れてかれた。そこはまるで土で出来た丘のような場所で暗い観客席は夜空のようで、ここには二人きりのように感じた。
足元には降り注いだ星たち・・・がきらきらと光っている。まるで、天の川に立ったような気持ちになった、

そんな先程自分を照らした眩い光とは違い、今度は月に模した淡い青い光が僕達を照らしている。

「美しいだろ、この光は」

セイの言葉が妙に響く。なんだか光の加減からか、初めて出会ったあの時を思い出す。
たしかに、この光は優しく美しいものだった。

返事をしようと、口を開きかけたとき、ばっとあたりが明るくなった。
大きな音楽が流れ出す。それは最後の挨拶の曲だ。
舞台に出てきた団員たちが、僕を隠すように出てきた。セイは、あっちにと舞台袖に僕を連れていく。
まさか、幕引きを袖で見るとは思わなかったが。
袖に花束を抱えていたリハオは、「まったく、セイも大胆なことをするもんですね」と笑い、最後の挨拶へと向かっていった。


サーカスが終わり、セイが袖に帰ってきた。

「驚いたか?」

その少しばかり憎たらしい笑い方に、僕は肩を竦める。

「驚くよ、そりゃ」
「なら、よかった」

セイは悪戯が成功したと言わんばかりに笑った。

「じゃあ、僕帰るね。また、会おう」
「あ、ああ、そうだな。お前のお父上にもよろしくとお伝えしてくれ」
「わかったよ、ではまた」

僕は、家に帰った。とても楽しい一日。一生忘れないであろう、美しい光の中舞台に立たされたのは正直焦ったが。

そして、寝て起きて次の日。服を返そうと、サーカスのあった場所に行くと、もうすでにそこには何もなかった。
まるで幻想だった、と言われてもいい位に何一つ痕跡がない。踏み荒らされた草原も草が生い茂り、あの楽しい記憶だけがそこに残っていた。



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