星降る世界の龍仙師

木曜日午前

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始まり

4話 その再会は運命か

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 反射的に出た言葉に、セイは唇の右端少し上げて、口を開いた。
 
「そこの九官鳥野郎が「誰が九官鳥ですか!」……ソイツが花屋のリュウユウ、とか言ってたから、もしやと思ったが、ここで会うとは『運命』か?」
 
 その言葉は少しばかり芝居がかっているな、と思った。
 それに運命という言葉を発してる割には、あまり驚いていないのもなんとも言い難い。多分リハオの話を聞いて、彼は僕だろうと思っていたのだろう。
 
 にしても、『運命』と言う姿はまるで御伽噺の王子様のようで、なんとなく見た目だけなら似合う言葉だなあと、僕は心のなかで毒吐いた。
 
 そんな怪訝そうな顔をしてるだろう僕に、セイはやれやれと言いたげな表情で、ゆっくりと立ち上がり、ゆっくらこちらの前までやってきた。彼の身長は自分よりも頭一つ分以上は大きいであろう。腕に抱えていた剣を、すっと右手に持ち替えた姿は、すでに青年であった。
 
「相変わらず、小さいな」
 
 本当にこのセイの口は、あまりよろしく無いらしい。
 
「せ、成長期来たら越しますから!」
 
 そして、それに楯突く僕は、ますます幼さを露呈するような反論しかできない。
 その僕の反論に続くように、リハオが回る口を開いた。
 
「こら! セイ! 言っていいことと悪いことがあります! それに、私とリュウユウさんの背は私がほんのちょっと大きいだけです! 私も小さいと言いたいんですか! 私は成長期が来てこれなんですよ! リュウユウさんもこのままの可能性があるのに! ひどいじゃないですか!!!」
 
 たしかに、リハオの言うとおり、僕は今十三だから、これから伸びしろがあるはず。ただ、味方のはずのリハオの反論は思いの外鋭く、何故か自分の心をえぐってくる。多分本人は憤慨してるから気づいてないが、たしかにリハオと僕の身長にそこまで差はない。
 
 もしかして僕も? このまま?
 
 一番嫌な想像を、思わずしてしまい、少しばかり反論していた口元が引き攣った。
 
「おい、べしゃリハオ、うるせぇ。っ、たく。で、お前さ、剣術に興味あるんだろ?」
「え、なんで……あ、リハオさん!」
 
 セイはリハオに一喝したあと、本題戻ると言わんばかりに彼に話したことのないことを言い出した。一瞬なぜ知ってるのかと思ったが、それはもちろんリハオが話したのだろうとすぐに勘付いた。
 
「あはは、すみません、何分このセイっていう男は、気分屋で気づいたらどっか行ってしまうので、どうせサーカスの雰囲気を知ってもらうなら、次いでにうちの剣客に会ってもらいたいじゃないですか! しかも、セイと知り合いなのは意外でしたけどね! でどういう関係なんです? あんな関係? こんな関係? もしかして! そんな関係!?」
 
 家で話した時のことが、どうやら本当に筒抜けらしい。ただ、リハオは軽く謝るだけで、相変わらずの調子で言葉垂れ流し続ける。どうやら、この人の口は閉まるということを知らないのかもしれない。
 
「どうでもいいだろう、んなこと。で、どうなんだ」
「は、はい、興味あります……」
 
 勿論怒涛のような質問攻めを一蹴したセイは、こちらに再度回答を促す。
 普通なら圧倒されかねないリハオの言葉に、あまりにも見事な一蹴だ。そして、また話を振られた僕は、歯切れ悪くではあるが、素直に返答した。
 
「なんで? 理由は?」
 
 セイはじっとこちらを見る。その見つめてくる瞳は、星のない夜のような黒さで、思わずたじろいでしまう。
 この感じは、ただ興味あるだけならば、納得しないであろう雰囲気だ。しかし、知り合いではあるが、その繋がりはほぼ他人に近い。
 それに、あくまでこちらは花屋仕事の代理人、あちらはお客様。仕事中にどこまで話していいのか、失礼に当たらないか頭の中で思考を駆け巡らす。
 どうしようか、これは大きな機会ではあるが、父の仕事の妨げにならないか? ぐるぐると考えて、最後は腹を括った。
 
「……実は、僕、龍仙師になりたいんです。その試験のために、すこしでも剣術について経験を積みたくて」
 
 素直に理由を話す。
 回答を聞いたセイは、眉を顰め少しばかり思案する。その思案する彼の頭の上には、わかりやすく疑問符が見えるような気がした。
 もしかして、異国で龍仙師は知られてないのかもしれない、それなら説明すべきかと口を開きかけたときだった。
 
「龍仙師、ああ、あの無駄にデカい龍モドキ・・・・に乗るやつらか」
 
 思ったよりも、醒めた言葉。少しばかり馬鹿にしたような言葉ではあり、今度は僕が顔を顰める番だ。しかし、続く言葉に、すべてを塗り替えられた
 
「そうなると、剣術見せる分にはいいが、試験に向けて、教えるてほしいとなるならば、無駄になるぞ・・・・・・
 
 その厳しい言葉に、空気が凍りついた。
 
「龍仙師の、試験には剣術もあるも思いますけど……」
 
 あまりの言葉に対して引き攣る口をどうにか動かし、試験に剣術が必要だと伝える。無駄・・とはどういう意味なのだろうか、ここで問い質しても良いが、それをしたことによって、この機会を逃したくはなかった。
 
「まあそうだな。まあ、無駄・・でも良ければ、明日またここに来い、見せてやる」
 
 無駄・・。二回目。二回目か。
 完全に動きを停止した僕。さすがにこの空気を読んだリハオが、「この人、ホント言葉が実直過ぎるんですよ! リュウユウさん、も、そろそろお帰りの時間ですね!」と僕の手首を掴んで、先程入っていった入り口へと向かうように逆走していく。
 思考停止した僕はそのまま引きずられるようにして、この天幕の外へと出ていった。
 帰り際、こちらが申し訳なくなるほど謝るリハオに対し、僕は「気にしてないですから」とどうにか頭を上げてもらった。
 
「セイには、よーくよーーーーく言っておきますので、もし本当に剣術に興味があったらまた来てください」
 
 縋るようなリハオに、僕は曖昧な返事だけをし、今日のところは帰路についた。
 父には、天幕や外観を伝え、自分なりにこうした方がいいかもと模写した絵を見せながら、提案をする。また、「サーカス」の文字も見せ、この文字も取り入れたいと伝えた。
 勿論、外観の他にも何かあったか? と父から聞かれたので、内装の話をする。
 やはり、あの天幕内の夜空は美しく、色々な器具もどのように使われるのか、是非家族で見に行きたいと僕が話すと、父は寂しそうに笑った。
 
「母さんも、連れていけたらいいんだけどな」
「そうだね。何か、お土産でも渡せたらいいけど……」
「手のひらに乗る大きさでしか、渡せないからな。それに食べ物だと、来月にはだめになるだろう」
 
 窓から母が住まう離宮の方に目を向ける。衣食住が整えられてるからと言って、もうずっとあの中にいる母。
 
「僕が、絶対に連れ出してみせるよ」
 
 本心からの決意。
 言葉にすれば、その夢を強く渇望する。
 
 少しばかりセイのあの傍若無人なところは引っ掛かるが、剣術を学ぶ機会はかなり貴重なものだというのを嫌というほど知っている。
 
 ならば、明日はもう行くしかない。例え無理でも挑戦しなければならないと、覚悟を改めた。
 
 
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