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【1】一万人目転生者という理由で、神しか持たない光(ビーム)能力をもらっても!
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元女神の妹から「光の力は神の力」と急に言われても!
略して『もといも』です。
東岡忠良(あずまおか・ただよし)
【1】一万人目転生者という理由で、神しか持たない光(ビーム)能力をもらっても!
※この小説へのご意見・ご感想・誤字脱字・等がありましたら、お気軽にコメントして下さい。
お待ちしています。
──1──
「やっと生まれた男子だというのに、何ということじゃ!」
御三家の一つであるヘルムス家に誕生した待望の嫡男は、絶望的な測定数字を出していた。
「知力と体力は良かろう。それよりもこれだ!」
と『一』と表示されている能力計測器が無情にも示してしまった。
この世界いや少なくともハーブラブル王国では、今や王族から一般市民まで生まれてきた赤ん坊は、この能力計測器で六つの能力を測定される。
知力。
体力。
精神力。
防御力。
神力。
魔力。
知力と体力はこれから伸ばすことができる。
赤ん坊であるために、精神力と防御力は低くて当たり前であった。
重要なのは『神力』と『魔力』である。
神力は簡単に言えば、神官に必要な能力(ステータス)で、回復魔法を主とし、究極的には今亡くなった死者を蘇らせることも出来る。
魔力は回復はもちろん、防御から攻撃まで使える幅広い用途があり、最も重要な能力なのである。
そして生まれたこの赤ん坊のステータスが以下である。
知力『一三〇』。
体力『一一〇』。
精神力『六〇』。
防御力『一五』。
神力『一』。
魔力『一』。
生まれたばかりの赤子の父カロンデロス・ヘルムス公。通称カロン公爵は頭を抱えた。
「どうなされたのですか?」
たった今、男子を生んだばかりのカロン公の妻ソフィアが心配そうに言った。
カロン公は暗い顔をしていたが、笑って、
「いや。元気なお子だぞ……。でかした。ソフィア……」
と言ったが、根が正直な夫カロンの表情を読み取ったソフィアは、
「……まさか……。魔力が二〇前後なのですか?」
と無理をして作った微笑(ほほえ)みを見せた。
「二〇前後か……。それだけあれば最悪、剣術の達人を目指せばよいのだがな……」
「まさか! それ以下なのですか……!」
ソフィアの顔色が曇った。
「隠しても仕方がない。正直に言おう。この子の魔力は『一』じゃ……」
「……えっ」
ソフィアは聞き間違えたと思ったのだろう。
「まさか! そんな……。もう一度、おっしゃって下さいませ」
と掴んだシーツを握りしめながら言った。
「我が息子の魔力は残念ながら『一』じゃ……。ヘルムス家始まって以来の最低の数値じゃ。それも稀に見かける底辺の奴隷や宿無しらと同じじゃ……」
と俯(うつむ)いた。
「おおお……」
とソフィアは涙を流した。今にも号泣(ごうきゅう)しそうであったが、
「ああ!」
と悲鳴を上げた。
「ソフィア! しっかりせい! ソフィア!」
とカロン公はソフィアの側に駆け寄り、落ち着かせようとした。
すると小柄な老婆が声を上げた。
「双子です! もう、お一人お生まれになります! 御主人様、お下がり下さい!」
と腕のよいこの産婆の強い言葉に、
「こっ。これはすまぬ」
と身体を引くカロン公。
二度目の陣痛に苦しみながらも、無事に二人目の赤ん坊を出産した。
「元気な女の子です!」
と皺(しわ)の目立つ手で産婆が取り上げると、
「生まれたばかりで悪いのたが、早速この子も能力計測器にかけたいのだが」
その場にいる者達はカロン公の気持ちが分かっている。先程の嫡男があのような数字だったのだ。なので妹となるこの子に期待しているのだろう。
女の子も六つの能力を測定された。
知力『一二八』。
体力『一二〇』。
精神力『四〇』。
防御力『一三』。
神力『ニ三〇』。
魔力『ニ〇九』。
「おお! この子は魔力が『ニ〇九』もあるぞ!」
カロン公は数値を見て身体が震えていた。
「す、凄い。ヘルムス家始まって以来の最高値だ! いや、ハーブラブル王国民歴代で見ても五本の指に入る魔力値だ!」
出産を終えたばかりの妻ソフィアは、荒い息を整えながら、
「よかった……。二人共、無事なら……」
と呟いた。
だが、何かに気づいたのか、ゆっくりと起き上がり、夫カロン公に言った。
「この子は……。男の子はどうなさるのです……」
ヘルムス家始まって以来の、最高値の女の子と、最低値の男の子。特に男の子の行く末が心配で仕方がないのだろう。
カロン公は笑みを浮かべながら、
「心配はいらん。ヘルムス家の跡継ぎはこの男子だ。誰が何と言おうとな。二人共、大切に育てる。二人は愛する妻から生まれた、私の最愛の子供達なのだからな」
ソフィアはそれを聞くと、
「ありがとうございます。あなた……」
と人目も気にせず嬉し涙を流した。
──2──
その様子を遥か天空から眺めている者がいた。
「転生は成功のようね。両親もよい人でよかったわ。でもこれって……」
地上の出産の様子を光(ビーム)エネルギーで作った窓から眺めていたのは、女神イーナである。
イーナは暗い表情をしていた。
空中にノート程の大きさの長方形を、右手人差し指で書くと、神が見ることのできる資料が現れた。それは現代のタブレットのような動きをした。
「あったわ。松山田栄治(まつやまだえいじ)三十八歳」
松山田栄治の資料によると、父を早くに亡くして、母との二人暮らし。
中学高校とアルバイトをしながら苦学し、貸与(たいよ)奨学金で大学へ行き、卒業。
卒業後は不景気のため就職難のせいでやっとの思いで中堅企業に就職して、返済義務のある貸与奨学金を返していた。
そんな時、母が朝の通勤途中でビルからの落下物により大怪我をした。脊髄を痛め下半身が動かなくなり、栄治は仕事をしながら母親の面倒を見る過酷な生活が始まった。
母親の症状は日に日に悪化していく。ついに母は自力で起き上がることはおろか、排泄行為も出来なくなった。付きっきりで母の面倒を見るために、仕方なく仕事を退職せざる得なくなった。
役所に生活保護を求めたが、自主退職の上に今は失業保険をもらっているからという理由で、生活保護は却下される。
母は下半身不随な上に、原因不明の両手の痺れで、まともに運動できないことが原因なのだろう。成人病にもなり悪化の一方だった。
そして深夜、母の容態が急変した。
左腕がまったく動かない。吐き気が止まらない。
栄治は救急車を呼び、母を救急車に急いで乗せるため、救急車のサイレンが近づくのを聞いて、母を抱きかかえて玄関を出たまさにその時、居眠り運転の大型トラックに二人は轢かれ、母親を庇った松山田栄治は即死。
母親は救急車に運ばれて延命治療を受けたが、元々危篤状態だった上に、事故の怪我も影響して、次の日その病院で死亡が確認された。
「酷い人生だわ。それも何一つ、本人らには落ち度がないなんて……」
女神イーナは悲しんだ。
理不尽な亡くなり方。
苦労の繰り返しの辛い人生。
しかし、そのような日々を送った人達はたくさんいる。
でもこの松山田栄治親子は、今出来ることをひたすらに行い、日々を生き、腐ることなく努力と頑張りをひたすら続けてきた。
それでも元々の能力は人並みで、要領は悪く、運は二人の味方にならなかった。
そんな人生でも最後の最後まで重症の母を庇う息子松山田栄治の姿は、心優しく責任感があり、まだ駆け出しの下級女神イーナの心を大いに動かした。
「一万人目の転生者のみに与えられる光(ビーム)力を、ぜひこの松山田栄治にお与え下さい」
と顔も知らず声しか聞こえない上級神々にお願いしたのである。
その願いは聞き届けられ、栄治はこうして科学が未発達で魔法と化け物(モンスター)が存在する世界に、転生を遂げた、まではよかった!
「この世界の能力計測器って、光力(ビームパワー)は測定できないの!」
転生を担当した女神イーナは自分の大失敗を、転生し生まれるこの時まで、全く気がつかなかったのである。
「まずい……。まずいわ……。このままだと栄治は、転生先で自分は神力(ゴッドパワー)や魔力(マジックパワー)を持たない無能力者だと思い込んでしまう」
女神イーナは栄治をサポートするために、妹として転生する決心をしたが、イーナが転生するのは、この三年後になるのである。
──3──
花で潤う美しい花壇のある庭で、三兄妹はくつろいでいる。園芸の趣味は母ソフィアと二人の妹の共通のものだった。
「兄さん。私達、もうすぐ学校よね」
瞳が大きく整った顔立ちの、双子の妹マザリー・ヘルムスが言った。
「そうだな。でもユースル高等魔法学校ってどんなところだろうな」
とそれに答えたのは、長身にして目元に知性を感じさせる兄のエイジャー・ヘルムス十五歳である。
「きっと楽しいところだと思うわ」
「そうだといいんだけど……」
と暗い表情にエイジャーはなった。
暗い顔になる理由は一つ。
入学時には必ず、能力計測器を含めた身体検査がある。
「入学資料には載っているけど、やっぱり神力と魔力の両方が『一』というのを、全校生徒に知られてしまうのは嫌なものだよな」
小学校、中学校共、入学時には能力計測器を含めた身体検査があった。
エイジャーはいつもそこでからかわれる。いや、バカにされるのだ。
「何だよ、『一』ってウソだろ!」
「お前、御三家の貴族じゃなかったらホームレスだな」
「お前みたいなの、学校に来る意味あんの?」
毎回、エイジャーに浴びせられる容赦ない誹謗中傷。
だがそんなエイジャーを庇(かば)い続けてくれたのが、双子の妹マザリーだった。
「兄さんになんてこというの! 文句があるなら私が相手をしてあげるわ! さあ、かかってきなさいよ!」
と言うと、誰もが目線を外して、
「分かったよ」
「チェッ。妹に助けられてやんの」
と離れて行く。
それはそうだろう。
一般の生徒らの平均値は神力『一〇〇』魔力『一〇〇』なのだが、マザリーは神力『ニ三〇』魔力『ニ〇九』でぶっちぎりの上位なのだから誰も逆らえない。
という僕と言えば、最下位中の最下位。学校始まって以来の最下位で、小学校も中学校も数値の歴史を塗り変えてしまったのだった。
それでも勉強だけは誰よりも上位でいようと思っていたから、国語や数学はもちろん、神力学や魔力学も常に一位二位を争うほど勉学に励(はげ)んだ。
ちなみにペーパーテストで俺と一位を争ってきたのは、よく出来た妹マザリーである。
そして実技テストではマザリーは常に一位。僕は最下位だった。
まあ、こればかりは仕方がない。
僕には神力も魔力もない。だから呪文を唱えても、魔法陣を用意しても何も起こらないからである。
「お兄様。そんな心配をしなくても大丈夫ですよ。多分」
とまだ顔にあどけなさが残る三つ年下のイーナ・ヘルムスが微笑む。
ハーブラブル王国内の御三家でも、将来美しくなるだろうと言われているのが、双子の妹マザリーと、この三歳下のイーナだった。
特にイーナは成長するにつれて『ヘルムス家の天使』と噂(うわさ)されるほどの美少女になった。
そんな美少女の妹の微笑みも、暗い気持ちでしか受け取れない。
「心配になるよ。やれやれ……」
と僕は椅子の背もたれに身体を預けて、空を仰いだ。
実は三歳下の妹イーナ・ヘルムスも四月から同じユースル高等魔法学校に通うことになっている。
理由は三年下のイーナは年齢は達していないが、不思議な力の持ち主ということで、特例での飛び級入学なのである。
イーナの能力計測器の数値は、
知力『一〇〇』。
体力『一三〇』。
精神力『一〇〇』。
防御力『一〇〇』。
神力『二〇〇』。
魔力『一〇〇』。
と体力と神力以外はきっちり平均値とも言える値なのだが、イーナはなぜか魔力一〇〇を超える魔法が使えるのだった。
イーナは、
「お兄様も使えますよ」
と言う下手なお世辞をいう。それは兄を慕ってくれるからこそのお世辞なのは分かっている。ありがたい心遣いであった。
僕をいつも庇(かば)ってくれる優等生の双子の妹マザリー・ヘルムス。
数値以上に神力と魔力を使える異端の力を持つ三つ年下で飛び級の妹イーナ・ヘルムス。
本当は僕は国立ユースル高等魔法学校を、一度不合格だった。
ペーパーテストは出来ても、神力と魔力が『一』のために、実技は〇点で入学試験で不合格だったのだ。
ところが。
「兄さんのいない学校になんて私は行きません!」
「同じく!」
とマザリーとイーナが駄々をこねて、数日後に晴れて僕の合格通知が来たのである。
これは噂(うわさ)だが、歴代生徒中で最も魔力の高いマザリーは、学校からすれば喉から手が出るほど欲しい。
それと数値以上に神力魔力共に使えるイーナの力のことも、学校からすれば研究対象として知りたかったのだろう。
つまり僕は二人のオマケのように入学出来たと言っていい。
学校側の大人達の思惑が手に取るように分かった僕は、複雑な気持ちで二度目に送られてきた手紙を開けると、
「お詫びと訂正。入試試験において、エイジャー・ヘルムス君の答案で採点間違いが発覚しました。厳正な採点結果により、ここに合格をお知らせ致します」
という合格通知が入っていた。
「合格か……」
と情けなくて暗い表情をしていたが、父も母も大げさなくらいに喜んでくれ、マザリーとイーナは泣きながら僕に抱きついてきた。
僕は、
「ありがとう……。二人のおかげだよ」
と言ったのだが、
「ううん。兄さんの実力だよ!」
「お兄様! これで一緒に学校に通えますね……」
と抱きついたまま、なかなか離れてくれなかった。
そして僕とマザリーは中学校の卒業を終え、イーナは小学校の卒業を終えた。
そんな時だった。
「高等魔法学校でも身体検査は最初にやるのかな? ねえ、兄さん?」
とマザリー。
「そりゃ、あるだろう」
と僕、エイジャー。
「全員、下着姿ですよね。私、歳が下だから何だか気まずいな~」
とイーナ。
「そうか。全員、下着姿になるからな。あれ、僕も嫌なんだよ」
とエイジャーは暗い気持ちになってため息をついたのだが、
「あ! 今、下着姿って言った時に、私の胸を見たでしょう!」
とマザリーは右の人差し指で僕を指さした。
すると無関係なはずなのに、イーナもつられて腕で胸を隠した。
「え? バッ、バカ言うな! そんな訳ないだろ!」
と思わず、マザリーの胸を見てしまった。
マザリーは大きな瞳に整った口元。努力家で勉強も運動も得意。品格のある所作(しぐさ)と他人に対しての心のこもった言葉遣いは、男なら誰もが一度は憧れてしまう美少女である。
ところが本人は隠したくて仕方がないらしいのだが、胸のサイズが大きい。もっと言えばできるだけ小さく見せようと努力をしているのだが、スタイルのよい身体付きのバランスを破壊するほどに、胸が前に出ているのだ。
普段、家族の前では締め付けで苦しい特別な胸の下着は付けていないために、特に大きく膨らみが揺(ゆ)れているのである。
「ほら。兄さん、また見た」
と腕で胸を隠し、横に身体を曲げた。
と言っても、生まれた時から一緒に過ごした兄妹である。
マザリーのいい方にはトゲは一切なく、優しい兄をからかうような言い方ではある。
「僕はそんなに見ていないだろう。目を見て話しているだろう」
と言うと、
「本当かな~?」
と腰に両手を当て直して胸を張ると、奥からの圧力に耐えられなかったのか、それとも常に力がかかっていたせいで縫い目が弱っていたのか、マザリーの服の第一ボタンが、勢いよくエイジャーの額に飛んできた。
「痛っ!」
と思わず額を抑える。
「あっ! 兄さん、大丈夫?」
と駆け寄るマザリー。
「うわ~。凄い。マザリーお姉様のおっぱいボタン飛ばし」
とイーナは感心していた。
そういうイーナも近頃は胸の成長が著しい。
「ちょっとイーナ。その言い方、やめてよ」
「ふふっ。ごめんなさい」
と笑うと、
「イーナ。あなた分かってる? 私がイーナくらいの時の胸の大きさと比べてね」
「え? 胸の大きさ?」
とイーナは自分の胸を見ると、
「あなた、私よりも大きいわよ。私よりもっと大きくなるんじゃない?」
とからかった。
「え~! 私、周りに比べて大きいとは思っていましたけど、まさかそんな!」
と少なからずショックを受けているようである。
「どうしよう……。あ! そう言えば! お兄様、額大丈夫ですか?」
とイーナは椅子から立ち上がって、僕の額を見た。
「あ。ああ。大丈夫だよ」
と右手をどけると、赤くなった額をマザリーも覗き込んで、
「ああ。赤くなってる。どうしよう」
と言っているのだが、第一ボタンを失ったマザリーの胸元が露わになっていて、大きく目立つ二つの膨らみの深い谷間がはっきりと見えていた。
エイジャーは思わず、顔を右に回すと、
「ちょっと、兄さん。額の傷がよくみえない。真っ直ぐ前を見て、少し俯(うつむ)いて!」
と自分のせいで怪我をさせてしまったためだろう。責任感の強いマザリーはそう言うのだが、豊かな丸みと男子らが噂(うわさ)する立派な谷間がはっきりと見える。
「おい。マザリー、お前。ちょっとこれは……」
「ちゃんと見せて! ああ。赤くなってる。あれ? 額が段々と赤くなってきたわ。どうしよう。段々と痛みが増してきたの、兄さん」
と心配げに言う。
「大丈夫。大丈夫だからもういいだろう」
とエイジャーは思わず、後ろを向いた。
「ちょっと。背中を向けないでよ」
と怒るマザリー。
エイジャーは足元に転がっていたボタンを、屈んで拾い上げて横向きで右手を伸ばし、
「ほら。ボタン。メイドのキャスターに付けてもらってきなよ」
とマザリーの眼の前に出した。
「え? ええ。え? あ~!」
とマザリーは今、自分の姿の全貌に気づき、「お兄ちゃんのエッチ!」
と胸を隠した。
「あのう~。どちらかと言えば、俺の方が被害者なんだが……」
と言った時だった。
──四──
明るかった空が突然、暗くなった。
何事かと空を見上げると、羽根のある巨大な生物のシルエットがある。
羽根の強い羽ばたきが強い風を生んでいた。
「ああ……。お兄様!」
と吹き飛ばされそうになったイーナがエイジャーに抱きつく。
「あれは! ドラゴンだわ! 何でこんな町に突然、現れるの!」
マザリーはすぐに立ち上がるが、
「みんな、動かないで……。ドラゴンは知的な生物よ。何かの間違いで迷い込んでしまったに違いないわ。静かに……」
と空に浮かぶドラゴンを凝視した。
真っ赤なドラゴンは、胸に銀色の鎧を着けていた。
「鎧を着けたレッドドラゴン……。確かブラック、ホワイト、レッドと知的で強力で神に最も近い生き物。それがなぜ、こんなところに。それも戦闘態勢で」
さすがのマザリーも恐ろしさで身体が震えている。
するとドラゴンが言った。
「あたい、いや、私はレッドドラゴン! お前達をー! 食べちゃうぞ~!」
となぜか棒読みだった。
「あたい……。食べちゃう?」
とエイジャーとマザリーの声がハモった。
「もう。下手くそなんだから……」
と思わず呟くイーナ。
「? イーナ。下手くそってどういう……」
とエイジャーが言った時だった。
「え~い! もう! 下手くそで悪かったな! 人なんて襲うのは初めてなんだよ、畜生(ちくしょう)! もう、怒った! 取り敢えず、こうだ!」
とマザリーに襲いかかった。
「みんな、逃げて! ファイヤー!」
とマザリーが叫ぶと、右手から炎が発射された。レッドドラゴンはそれを受けたが、
「ほお。人間。なかなかやるな。だが、そんなモノではあたいは倒せんぞ! せいぜい、三十ほどの魔力の炎など、軽く殴られた程度だよ!」
と鋭い歯を見せて笑う。
「ああ。どうすれば……」
まだ、高等魔法学校入学前のマザリーの、最も強い魔法攻撃では歯が立たない。
すると、エイジャーはドラゴンの正面に大の字で立った。
「二人共、逃げろ! ここは僕が何とかする!」
と言ったが、
「兄さん、何いってんの?」
とマザリーは兄に近づき、
「兄さんは何も出来ないでしょう。私が盾になります。だからイーナを連れて早く!」
と言った時だった。
「お兄様は何も出来ないのではありません! お兄様! 今こそ、光力(ビームパワー)を解き放って下さい!」
とイーナが諭すように言った。
「光力(ビームパワー)?」
「はい。例えばどこか身体の一部に集中して、そこから光を出すイメージです! 出来ます! お兄様なら出来ます!」
「そんな! 出来ますって言われても!」
「お兄様、イメージです!」
と言っている間に、
「これでもくらえ!」
と炎を吐いた。炎はエイジャーの方に飛んできた。
「危ない! 兄さん!」
とマザリーは魔法でシールドをとっさに作った。
同時にイーナもシールドを作り、何とか防げたが、
「ちょっと! やり過ぎよ!」
とイーナはドラゴンに向かって叫んだ。
「やり過ぎってどういうこと?」
とマザリー。
「やかましい! どうせ、その男は何も出来ないのだろう! 魔法『一』ではな!」
とドラゴンは笑い、
「手加減しねえ! あたいは本気だよ!」
と再び、炎を吐こうと長い首の先に付いた頭を上に向けた時だった。
「ああ! 次の攻撃が早過ぎる! シールドが出せない!」
とマザリー。
「私も間に合わない! このバカドラゴン!」
と叫ぶイーナ。
そんな時、エイジャーはやけに落ち着いていた。ボタンが当たって赤くなった額の真ん中に、両手を添えるように当てた。
「立ち去れ! ドラゴン!」
と叫ぶと、額から白い帯。つまり光線が出た。しかしその光線は周りの空気を焼き切る音がして、目にも止まらぬ速さでドラゴンに向かって行く。
「ああ! ダメ! お兄様! その光力(ビームパワー)は強過ぎる! アユットが死んじゃう!」
とイーナが大声で言った。
「アユット?」
とエイジャーは言ったが、空気を切り裂いた白い光力(ビームパワー)は、ドラゴンの鎧を直撃していた。赤い鱗が真っ黒に焼けたかと思うと、そのままエイジャーらの側に落ちてきた。
落ちる途中で大柄なレッドドラゴンの身体が、人の姿になる。
「ショック吸収(アブソーブ)!」
とイーナが呪文を唱えると、人の姿のドラゴンは焦げて傷だらけで、ゆっくりと庭に降りてきた。
「ああ。アユット。どうしよう……」
とイーナは取り乱している。
「ああ……。息をしていないわ! どうしよう……」
そして、
「みんな、力を貸して! この子を助けて!」
と涙ぐみ叫んだ。
登場人物。
エイジャー・ヘルムス。
ハーブラブル王国御三家貴族の一つ、ヘルムス公爵家の父カロンデロス・ヘルムスと、母ソフィアの両親から生まれたヘルムス家唯一の嫡男。
能力計測器の数値は、
知力『一三〇』。
体力『一一〇』。
精神力『六〇』。
防御力『一五』。
神力『一』。
魔力『一』。
神力『一』魔力『一』は宿無しか奴隷くらいしかいないほど最弱の数字。
しかし、実際は神しか持たない光力(ビームパワー)を持っている。
ユースル高等魔法学校に妹二人と通う予定。
マザリー・ヘルムス。
エイジャー・ヘルムスの双子の妹。
能力計測器の数値は、
知力『一二八』。
体力『一二〇』。
精神力『四〇』。
防御力『一三』。
神力『ニ三〇』。
魔力『ニ〇九』。
献身的に兄のエイジャー・ヘルムスを助ける。
カロンデロス・ヘルムス。
カロンデロス・ヘルムス公。通称カロン公爵と呼ばれている。
ハーブラブル王国の御三家の一つのヘルムス家の現領主。
慈悲深く、家族と領民を大切にする名君。ただ、王宮の政(まつりごと)には関心があるが、宮廷内の謀略や陰謀などには、ほとんど興味がなく、逆に疎(うと)ましいと思っている。
ソフィア。
カロンデロス・ヘルムス公爵の正妻。他の貴族らには当たり前に存在する側室や妾がカロン公には存在しておらず、子供は全員、ソフィアから生まれた。心優しく慈悲深く絵に描いたような良妻賢母である。
イーナ・ヘルムス。
エイジャー・ヘルムスの三つ下の妹。
イーナ・ヘルムスの正体は女神イーナ。
女神時代の記憶と光力を持つが、まだ新人である下級神であるために、
能力計測器の数値は、
知力『一〇〇』。
体力『一三〇』。
精神力『一〇〇』。
防御力『一〇〇』。
神力『二〇〇』。
魔力『一〇〇』。
そして能力計測器に出ない光の数値は、
光力『七五』
である。
このため光力が使える人間は現在、エイジャー・ヘルムスと妹イーナ・ヘルムスだけである。
レッドドラゴン。
名前はアユット。ブラック・ホワイト・レッドの神に最も近い知的ドラゴン種族の者。
ヘルムス兄妹を突然、襲う。
2023年8月25日
※当サイトの内容、テキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。
また、まとめサイト等への引用をする場合は無断ではなく、こちらへお知らせ下さい。許可するかを判断致します。
略して『もといも』です。
東岡忠良(あずまおか・ただよし)
【1】一万人目転生者という理由で、神しか持たない光(ビーム)能力をもらっても!
※この小説へのご意見・ご感想・誤字脱字・等がありましたら、お気軽にコメントして下さい。
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──1──
「やっと生まれた男子だというのに、何ということじゃ!」
御三家の一つであるヘルムス家に誕生した待望の嫡男は、絶望的な測定数字を出していた。
「知力と体力は良かろう。それよりもこれだ!」
と『一』と表示されている能力計測器が無情にも示してしまった。
この世界いや少なくともハーブラブル王国では、今や王族から一般市民まで生まれてきた赤ん坊は、この能力計測器で六つの能力を測定される。
知力。
体力。
精神力。
防御力。
神力。
魔力。
知力と体力はこれから伸ばすことができる。
赤ん坊であるために、精神力と防御力は低くて当たり前であった。
重要なのは『神力』と『魔力』である。
神力は簡単に言えば、神官に必要な能力(ステータス)で、回復魔法を主とし、究極的には今亡くなった死者を蘇らせることも出来る。
魔力は回復はもちろん、防御から攻撃まで使える幅広い用途があり、最も重要な能力なのである。
そして生まれたこの赤ん坊のステータスが以下である。
知力『一三〇』。
体力『一一〇』。
精神力『六〇』。
防御力『一五』。
神力『一』。
魔力『一』。
生まれたばかりの赤子の父カロンデロス・ヘルムス公。通称カロン公爵は頭を抱えた。
「どうなされたのですか?」
たった今、男子を生んだばかりのカロン公の妻ソフィアが心配そうに言った。
カロン公は暗い顔をしていたが、笑って、
「いや。元気なお子だぞ……。でかした。ソフィア……」
と言ったが、根が正直な夫カロンの表情を読み取ったソフィアは、
「……まさか……。魔力が二〇前後なのですか?」
と無理をして作った微笑(ほほえ)みを見せた。
「二〇前後か……。それだけあれば最悪、剣術の達人を目指せばよいのだがな……」
「まさか! それ以下なのですか……!」
ソフィアの顔色が曇った。
「隠しても仕方がない。正直に言おう。この子の魔力は『一』じゃ……」
「……えっ」
ソフィアは聞き間違えたと思ったのだろう。
「まさか! そんな……。もう一度、おっしゃって下さいませ」
と掴んだシーツを握りしめながら言った。
「我が息子の魔力は残念ながら『一』じゃ……。ヘルムス家始まって以来の最低の数値じゃ。それも稀に見かける底辺の奴隷や宿無しらと同じじゃ……」
と俯(うつむ)いた。
「おおお……」
とソフィアは涙を流した。今にも号泣(ごうきゅう)しそうであったが、
「ああ!」
と悲鳴を上げた。
「ソフィア! しっかりせい! ソフィア!」
とカロン公はソフィアの側に駆け寄り、落ち着かせようとした。
すると小柄な老婆が声を上げた。
「双子です! もう、お一人お生まれになります! 御主人様、お下がり下さい!」
と腕のよいこの産婆の強い言葉に、
「こっ。これはすまぬ」
と身体を引くカロン公。
二度目の陣痛に苦しみながらも、無事に二人目の赤ん坊を出産した。
「元気な女の子です!」
と皺(しわ)の目立つ手で産婆が取り上げると、
「生まれたばかりで悪いのたが、早速この子も能力計測器にかけたいのだが」
その場にいる者達はカロン公の気持ちが分かっている。先程の嫡男があのような数字だったのだ。なので妹となるこの子に期待しているのだろう。
女の子も六つの能力を測定された。
知力『一二八』。
体力『一二〇』。
精神力『四〇』。
防御力『一三』。
神力『ニ三〇』。
魔力『ニ〇九』。
「おお! この子は魔力が『ニ〇九』もあるぞ!」
カロン公は数値を見て身体が震えていた。
「す、凄い。ヘルムス家始まって以来の最高値だ! いや、ハーブラブル王国民歴代で見ても五本の指に入る魔力値だ!」
出産を終えたばかりの妻ソフィアは、荒い息を整えながら、
「よかった……。二人共、無事なら……」
と呟いた。
だが、何かに気づいたのか、ゆっくりと起き上がり、夫カロン公に言った。
「この子は……。男の子はどうなさるのです……」
ヘルムス家始まって以来の、最高値の女の子と、最低値の男の子。特に男の子の行く末が心配で仕方がないのだろう。
カロン公は笑みを浮かべながら、
「心配はいらん。ヘルムス家の跡継ぎはこの男子だ。誰が何と言おうとな。二人共、大切に育てる。二人は愛する妻から生まれた、私の最愛の子供達なのだからな」
ソフィアはそれを聞くと、
「ありがとうございます。あなた……」
と人目も気にせず嬉し涙を流した。
──2──
その様子を遥か天空から眺めている者がいた。
「転生は成功のようね。両親もよい人でよかったわ。でもこれって……」
地上の出産の様子を光(ビーム)エネルギーで作った窓から眺めていたのは、女神イーナである。
イーナは暗い表情をしていた。
空中にノート程の大きさの長方形を、右手人差し指で書くと、神が見ることのできる資料が現れた。それは現代のタブレットのような動きをした。
「あったわ。松山田栄治(まつやまだえいじ)三十八歳」
松山田栄治の資料によると、父を早くに亡くして、母との二人暮らし。
中学高校とアルバイトをしながら苦学し、貸与(たいよ)奨学金で大学へ行き、卒業。
卒業後は不景気のため就職難のせいでやっとの思いで中堅企業に就職して、返済義務のある貸与奨学金を返していた。
そんな時、母が朝の通勤途中でビルからの落下物により大怪我をした。脊髄を痛め下半身が動かなくなり、栄治は仕事をしながら母親の面倒を見る過酷な生活が始まった。
母親の症状は日に日に悪化していく。ついに母は自力で起き上がることはおろか、排泄行為も出来なくなった。付きっきりで母の面倒を見るために、仕方なく仕事を退職せざる得なくなった。
役所に生活保護を求めたが、自主退職の上に今は失業保険をもらっているからという理由で、生活保護は却下される。
母は下半身不随な上に、原因不明の両手の痺れで、まともに運動できないことが原因なのだろう。成人病にもなり悪化の一方だった。
そして深夜、母の容態が急変した。
左腕がまったく動かない。吐き気が止まらない。
栄治は救急車を呼び、母を救急車に急いで乗せるため、救急車のサイレンが近づくのを聞いて、母を抱きかかえて玄関を出たまさにその時、居眠り運転の大型トラックに二人は轢かれ、母親を庇った松山田栄治は即死。
母親は救急車に運ばれて延命治療を受けたが、元々危篤状態だった上に、事故の怪我も影響して、次の日その病院で死亡が確認された。
「酷い人生だわ。それも何一つ、本人らには落ち度がないなんて……」
女神イーナは悲しんだ。
理不尽な亡くなり方。
苦労の繰り返しの辛い人生。
しかし、そのような日々を送った人達はたくさんいる。
でもこの松山田栄治親子は、今出来ることをひたすらに行い、日々を生き、腐ることなく努力と頑張りをひたすら続けてきた。
それでも元々の能力は人並みで、要領は悪く、運は二人の味方にならなかった。
そんな人生でも最後の最後まで重症の母を庇う息子松山田栄治の姿は、心優しく責任感があり、まだ駆け出しの下級女神イーナの心を大いに動かした。
「一万人目の転生者のみに与えられる光(ビーム)力を、ぜひこの松山田栄治にお与え下さい」
と顔も知らず声しか聞こえない上級神々にお願いしたのである。
その願いは聞き届けられ、栄治はこうして科学が未発達で魔法と化け物(モンスター)が存在する世界に、転生を遂げた、まではよかった!
「この世界の能力計測器って、光力(ビームパワー)は測定できないの!」
転生を担当した女神イーナは自分の大失敗を、転生し生まれるこの時まで、全く気がつかなかったのである。
「まずい……。まずいわ……。このままだと栄治は、転生先で自分は神力(ゴッドパワー)や魔力(マジックパワー)を持たない無能力者だと思い込んでしまう」
女神イーナは栄治をサポートするために、妹として転生する決心をしたが、イーナが転生するのは、この三年後になるのである。
──3──
花で潤う美しい花壇のある庭で、三兄妹はくつろいでいる。園芸の趣味は母ソフィアと二人の妹の共通のものだった。
「兄さん。私達、もうすぐ学校よね」
瞳が大きく整った顔立ちの、双子の妹マザリー・ヘルムスが言った。
「そうだな。でもユースル高等魔法学校ってどんなところだろうな」
とそれに答えたのは、長身にして目元に知性を感じさせる兄のエイジャー・ヘルムス十五歳である。
「きっと楽しいところだと思うわ」
「そうだといいんだけど……」
と暗い表情にエイジャーはなった。
暗い顔になる理由は一つ。
入学時には必ず、能力計測器を含めた身体検査がある。
「入学資料には載っているけど、やっぱり神力と魔力の両方が『一』というのを、全校生徒に知られてしまうのは嫌なものだよな」
小学校、中学校共、入学時には能力計測器を含めた身体検査があった。
エイジャーはいつもそこでからかわれる。いや、バカにされるのだ。
「何だよ、『一』ってウソだろ!」
「お前、御三家の貴族じゃなかったらホームレスだな」
「お前みたいなの、学校に来る意味あんの?」
毎回、エイジャーに浴びせられる容赦ない誹謗中傷。
だがそんなエイジャーを庇(かば)い続けてくれたのが、双子の妹マザリーだった。
「兄さんになんてこというの! 文句があるなら私が相手をしてあげるわ! さあ、かかってきなさいよ!」
と言うと、誰もが目線を外して、
「分かったよ」
「チェッ。妹に助けられてやんの」
と離れて行く。
それはそうだろう。
一般の生徒らの平均値は神力『一〇〇』魔力『一〇〇』なのだが、マザリーは神力『ニ三〇』魔力『ニ〇九』でぶっちぎりの上位なのだから誰も逆らえない。
という僕と言えば、最下位中の最下位。学校始まって以来の最下位で、小学校も中学校も数値の歴史を塗り変えてしまったのだった。
それでも勉強だけは誰よりも上位でいようと思っていたから、国語や数学はもちろん、神力学や魔力学も常に一位二位を争うほど勉学に励(はげ)んだ。
ちなみにペーパーテストで俺と一位を争ってきたのは、よく出来た妹マザリーである。
そして実技テストではマザリーは常に一位。僕は最下位だった。
まあ、こればかりは仕方がない。
僕には神力も魔力もない。だから呪文を唱えても、魔法陣を用意しても何も起こらないからである。
「お兄様。そんな心配をしなくても大丈夫ですよ。多分」
とまだ顔にあどけなさが残る三つ年下のイーナ・ヘルムスが微笑む。
ハーブラブル王国内の御三家でも、将来美しくなるだろうと言われているのが、双子の妹マザリーと、この三歳下のイーナだった。
特にイーナは成長するにつれて『ヘルムス家の天使』と噂(うわさ)されるほどの美少女になった。
そんな美少女の妹の微笑みも、暗い気持ちでしか受け取れない。
「心配になるよ。やれやれ……」
と僕は椅子の背もたれに身体を預けて、空を仰いだ。
実は三歳下の妹イーナ・ヘルムスも四月から同じユースル高等魔法学校に通うことになっている。
理由は三年下のイーナは年齢は達していないが、不思議な力の持ち主ということで、特例での飛び級入学なのである。
イーナの能力計測器の数値は、
知力『一〇〇』。
体力『一三〇』。
精神力『一〇〇』。
防御力『一〇〇』。
神力『二〇〇』。
魔力『一〇〇』。
と体力と神力以外はきっちり平均値とも言える値なのだが、イーナはなぜか魔力一〇〇を超える魔法が使えるのだった。
イーナは、
「お兄様も使えますよ」
と言う下手なお世辞をいう。それは兄を慕ってくれるからこそのお世辞なのは分かっている。ありがたい心遣いであった。
僕をいつも庇(かば)ってくれる優等生の双子の妹マザリー・ヘルムス。
数値以上に神力と魔力を使える異端の力を持つ三つ年下で飛び級の妹イーナ・ヘルムス。
本当は僕は国立ユースル高等魔法学校を、一度不合格だった。
ペーパーテストは出来ても、神力と魔力が『一』のために、実技は〇点で入学試験で不合格だったのだ。
ところが。
「兄さんのいない学校になんて私は行きません!」
「同じく!」
とマザリーとイーナが駄々をこねて、数日後に晴れて僕の合格通知が来たのである。
これは噂(うわさ)だが、歴代生徒中で最も魔力の高いマザリーは、学校からすれば喉から手が出るほど欲しい。
それと数値以上に神力魔力共に使えるイーナの力のことも、学校からすれば研究対象として知りたかったのだろう。
つまり僕は二人のオマケのように入学出来たと言っていい。
学校側の大人達の思惑が手に取るように分かった僕は、複雑な気持ちで二度目に送られてきた手紙を開けると、
「お詫びと訂正。入試試験において、エイジャー・ヘルムス君の答案で採点間違いが発覚しました。厳正な採点結果により、ここに合格をお知らせ致します」
という合格通知が入っていた。
「合格か……」
と情けなくて暗い表情をしていたが、父も母も大げさなくらいに喜んでくれ、マザリーとイーナは泣きながら僕に抱きついてきた。
僕は、
「ありがとう……。二人のおかげだよ」
と言ったのだが、
「ううん。兄さんの実力だよ!」
「お兄様! これで一緒に学校に通えますね……」
と抱きついたまま、なかなか離れてくれなかった。
そして僕とマザリーは中学校の卒業を終え、イーナは小学校の卒業を終えた。
そんな時だった。
「高等魔法学校でも身体検査は最初にやるのかな? ねえ、兄さん?」
とマザリー。
「そりゃ、あるだろう」
と僕、エイジャー。
「全員、下着姿ですよね。私、歳が下だから何だか気まずいな~」
とイーナ。
「そうか。全員、下着姿になるからな。あれ、僕も嫌なんだよ」
とエイジャーは暗い気持ちになってため息をついたのだが、
「あ! 今、下着姿って言った時に、私の胸を見たでしょう!」
とマザリーは右の人差し指で僕を指さした。
すると無関係なはずなのに、イーナもつられて腕で胸を隠した。
「え? バッ、バカ言うな! そんな訳ないだろ!」
と思わず、マザリーの胸を見てしまった。
マザリーは大きな瞳に整った口元。努力家で勉強も運動も得意。品格のある所作(しぐさ)と他人に対しての心のこもった言葉遣いは、男なら誰もが一度は憧れてしまう美少女である。
ところが本人は隠したくて仕方がないらしいのだが、胸のサイズが大きい。もっと言えばできるだけ小さく見せようと努力をしているのだが、スタイルのよい身体付きのバランスを破壊するほどに、胸が前に出ているのだ。
普段、家族の前では締め付けで苦しい特別な胸の下着は付けていないために、特に大きく膨らみが揺(ゆ)れているのである。
「ほら。兄さん、また見た」
と腕で胸を隠し、横に身体を曲げた。
と言っても、生まれた時から一緒に過ごした兄妹である。
マザリーのいい方にはトゲは一切なく、優しい兄をからかうような言い方ではある。
「僕はそんなに見ていないだろう。目を見て話しているだろう」
と言うと、
「本当かな~?」
と腰に両手を当て直して胸を張ると、奥からの圧力に耐えられなかったのか、それとも常に力がかかっていたせいで縫い目が弱っていたのか、マザリーの服の第一ボタンが、勢いよくエイジャーの額に飛んできた。
「痛っ!」
と思わず額を抑える。
「あっ! 兄さん、大丈夫?」
と駆け寄るマザリー。
「うわ~。凄い。マザリーお姉様のおっぱいボタン飛ばし」
とイーナは感心していた。
そういうイーナも近頃は胸の成長が著しい。
「ちょっとイーナ。その言い方、やめてよ」
「ふふっ。ごめんなさい」
と笑うと、
「イーナ。あなた分かってる? 私がイーナくらいの時の胸の大きさと比べてね」
「え? 胸の大きさ?」
とイーナは自分の胸を見ると、
「あなた、私よりも大きいわよ。私よりもっと大きくなるんじゃない?」
とからかった。
「え~! 私、周りに比べて大きいとは思っていましたけど、まさかそんな!」
と少なからずショックを受けているようである。
「どうしよう……。あ! そう言えば! お兄様、額大丈夫ですか?」
とイーナは椅子から立ち上がって、僕の額を見た。
「あ。ああ。大丈夫だよ」
と右手をどけると、赤くなった額をマザリーも覗き込んで、
「ああ。赤くなってる。どうしよう」
と言っているのだが、第一ボタンを失ったマザリーの胸元が露わになっていて、大きく目立つ二つの膨らみの深い谷間がはっきりと見えていた。
エイジャーは思わず、顔を右に回すと、
「ちょっと、兄さん。額の傷がよくみえない。真っ直ぐ前を見て、少し俯(うつむ)いて!」
と自分のせいで怪我をさせてしまったためだろう。責任感の強いマザリーはそう言うのだが、豊かな丸みと男子らが噂(うわさ)する立派な谷間がはっきりと見える。
「おい。マザリー、お前。ちょっとこれは……」
「ちゃんと見せて! ああ。赤くなってる。あれ? 額が段々と赤くなってきたわ。どうしよう。段々と痛みが増してきたの、兄さん」
と心配げに言う。
「大丈夫。大丈夫だからもういいだろう」
とエイジャーは思わず、後ろを向いた。
「ちょっと。背中を向けないでよ」
と怒るマザリー。
エイジャーは足元に転がっていたボタンを、屈んで拾い上げて横向きで右手を伸ばし、
「ほら。ボタン。メイドのキャスターに付けてもらってきなよ」
とマザリーの眼の前に出した。
「え? ええ。え? あ~!」
とマザリーは今、自分の姿の全貌に気づき、「お兄ちゃんのエッチ!」
と胸を隠した。
「あのう~。どちらかと言えば、俺の方が被害者なんだが……」
と言った時だった。
──四──
明るかった空が突然、暗くなった。
何事かと空を見上げると、羽根のある巨大な生物のシルエットがある。
羽根の強い羽ばたきが強い風を生んでいた。
「ああ……。お兄様!」
と吹き飛ばされそうになったイーナがエイジャーに抱きつく。
「あれは! ドラゴンだわ! 何でこんな町に突然、現れるの!」
マザリーはすぐに立ち上がるが、
「みんな、動かないで……。ドラゴンは知的な生物よ。何かの間違いで迷い込んでしまったに違いないわ。静かに……」
と空に浮かぶドラゴンを凝視した。
真っ赤なドラゴンは、胸に銀色の鎧を着けていた。
「鎧を着けたレッドドラゴン……。確かブラック、ホワイト、レッドと知的で強力で神に最も近い生き物。それがなぜ、こんなところに。それも戦闘態勢で」
さすがのマザリーも恐ろしさで身体が震えている。
するとドラゴンが言った。
「あたい、いや、私はレッドドラゴン! お前達をー! 食べちゃうぞ~!」
となぜか棒読みだった。
「あたい……。食べちゃう?」
とエイジャーとマザリーの声がハモった。
「もう。下手くそなんだから……」
と思わず呟くイーナ。
「? イーナ。下手くそってどういう……」
とエイジャーが言った時だった。
「え~い! もう! 下手くそで悪かったな! 人なんて襲うのは初めてなんだよ、畜生(ちくしょう)! もう、怒った! 取り敢えず、こうだ!」
とマザリーに襲いかかった。
「みんな、逃げて! ファイヤー!」
とマザリーが叫ぶと、右手から炎が発射された。レッドドラゴンはそれを受けたが、
「ほお。人間。なかなかやるな。だが、そんなモノではあたいは倒せんぞ! せいぜい、三十ほどの魔力の炎など、軽く殴られた程度だよ!」
と鋭い歯を見せて笑う。
「ああ。どうすれば……」
まだ、高等魔法学校入学前のマザリーの、最も強い魔法攻撃では歯が立たない。
すると、エイジャーはドラゴンの正面に大の字で立った。
「二人共、逃げろ! ここは僕が何とかする!」
と言ったが、
「兄さん、何いってんの?」
とマザリーは兄に近づき、
「兄さんは何も出来ないでしょう。私が盾になります。だからイーナを連れて早く!」
と言った時だった。
「お兄様は何も出来ないのではありません! お兄様! 今こそ、光力(ビームパワー)を解き放って下さい!」
とイーナが諭すように言った。
「光力(ビームパワー)?」
「はい。例えばどこか身体の一部に集中して、そこから光を出すイメージです! 出来ます! お兄様なら出来ます!」
「そんな! 出来ますって言われても!」
「お兄様、イメージです!」
と言っている間に、
「これでもくらえ!」
と炎を吐いた。炎はエイジャーの方に飛んできた。
「危ない! 兄さん!」
とマザリーは魔法でシールドをとっさに作った。
同時にイーナもシールドを作り、何とか防げたが、
「ちょっと! やり過ぎよ!」
とイーナはドラゴンに向かって叫んだ。
「やり過ぎってどういうこと?」
とマザリー。
「やかましい! どうせ、その男は何も出来ないのだろう! 魔法『一』ではな!」
とドラゴンは笑い、
「手加減しねえ! あたいは本気だよ!」
と再び、炎を吐こうと長い首の先に付いた頭を上に向けた時だった。
「ああ! 次の攻撃が早過ぎる! シールドが出せない!」
とマザリー。
「私も間に合わない! このバカドラゴン!」
と叫ぶイーナ。
そんな時、エイジャーはやけに落ち着いていた。ボタンが当たって赤くなった額の真ん中に、両手を添えるように当てた。
「立ち去れ! ドラゴン!」
と叫ぶと、額から白い帯。つまり光線が出た。しかしその光線は周りの空気を焼き切る音がして、目にも止まらぬ速さでドラゴンに向かって行く。
「ああ! ダメ! お兄様! その光力(ビームパワー)は強過ぎる! アユットが死んじゃう!」
とイーナが大声で言った。
「アユット?」
とエイジャーは言ったが、空気を切り裂いた白い光力(ビームパワー)は、ドラゴンの鎧を直撃していた。赤い鱗が真っ黒に焼けたかと思うと、そのままエイジャーらの側に落ちてきた。
落ちる途中で大柄なレッドドラゴンの身体が、人の姿になる。
「ショック吸収(アブソーブ)!」
とイーナが呪文を唱えると、人の姿のドラゴンは焦げて傷だらけで、ゆっくりと庭に降りてきた。
「ああ。アユット。どうしよう……」
とイーナは取り乱している。
「ああ……。息をしていないわ! どうしよう……」
そして、
「みんな、力を貸して! この子を助けて!」
と涙ぐみ叫んだ。
登場人物。
エイジャー・ヘルムス。
ハーブラブル王国御三家貴族の一つ、ヘルムス公爵家の父カロンデロス・ヘルムスと、母ソフィアの両親から生まれたヘルムス家唯一の嫡男。
能力計測器の数値は、
知力『一三〇』。
体力『一一〇』。
精神力『六〇』。
防御力『一五』。
神力『一』。
魔力『一』。
神力『一』魔力『一』は宿無しか奴隷くらいしかいないほど最弱の数字。
しかし、実際は神しか持たない光力(ビームパワー)を持っている。
ユースル高等魔法学校に妹二人と通う予定。
マザリー・ヘルムス。
エイジャー・ヘルムスの双子の妹。
能力計測器の数値は、
知力『一二八』。
体力『一二〇』。
精神力『四〇』。
防御力『一三』。
神力『ニ三〇』。
魔力『ニ〇九』。
献身的に兄のエイジャー・ヘルムスを助ける。
カロンデロス・ヘルムス。
カロンデロス・ヘルムス公。通称カロン公爵と呼ばれている。
ハーブラブル王国の御三家の一つのヘルムス家の現領主。
慈悲深く、家族と領民を大切にする名君。ただ、王宮の政(まつりごと)には関心があるが、宮廷内の謀略や陰謀などには、ほとんど興味がなく、逆に疎(うと)ましいと思っている。
ソフィア。
カロンデロス・ヘルムス公爵の正妻。他の貴族らには当たり前に存在する側室や妾がカロン公には存在しておらず、子供は全員、ソフィアから生まれた。心優しく慈悲深く絵に描いたような良妻賢母である。
イーナ・ヘルムス。
エイジャー・ヘルムスの三つ下の妹。
イーナ・ヘルムスの正体は女神イーナ。
女神時代の記憶と光力を持つが、まだ新人である下級神であるために、
能力計測器の数値は、
知力『一〇〇』。
体力『一三〇』。
精神力『一〇〇』。
防御力『一〇〇』。
神力『二〇〇』。
魔力『一〇〇』。
そして能力計測器に出ない光の数値は、
光力『七五』
である。
このため光力が使える人間は現在、エイジャー・ヘルムスと妹イーナ・ヘルムスだけである。
レッドドラゴン。
名前はアユット。ブラック・ホワイト・レッドの神に最も近い知的ドラゴン種族の者。
ヘルムス兄妹を突然、襲う。
2023年8月25日
※当サイトの内容、テキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。
また、まとめサイト等への引用をする場合は無断ではなく、こちらへお知らせ下さい。許可するかを判断致します。
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