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トイレからの宇宙人襲来。

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 こんな夢を見た。
 僕のところに、ある情報がもたらされた。それは封筒に入っていた紙切れに書かれていた。
『トイレから宇宙人がやってきて、お前を殺すだろう。』
 と言う内容だった。
 どこにどう相談すればいいかは分からない。逃げても宿泊先のトイレから現れて襲ってこられるかもしれない。
 仕方がないので、とりあえずGoogleで検索するしかない。
『トイレから現れる宇宙人から逃げる方法』
 と検索してみると、一件だけヒットした。(ちなみに実際に検索しても以下のような検索結果は出ません。)そこには、
『宇宙人対策機構と連絡を取ればよい』
 とあった。
『宇宙人対策機構』で検索してみると、最寄りの駅から三つ目の駅にあるマクドナルドへ、今日の午後一時頃に現れることが分かった。
 僕は急いで電車に乗って、三つ目の駅で降りてマクドナルドへ向かった。
 マクドナルドの近くで張っていると、一台の黒い小型バスがマクドナルド前に停まった。
 様子を伺っていると、真っ黒のスーツ姿の男達が五、六人降りてきて、ズカズカとマクドナルド店内に入っていった。
「映画のメインブラックかよ」
 と思っていたら、
 こいつだ!
 捕まえろ!
 逃がすな!
 今だ、殺せ!
 と言う怒号が聞こえると、静かになった。
 男達が店内から出てくると、全員片手にマクドナルドの袋を持っている。
 マクドナルドの店長らしき男性と、バイトリーダーなのか一人の若い女性も現れ、
「本当にありがとうございました」
 と丁寧に頭を下げた。
「そんな、当たり前のことをしただけです」
 と背の低い男が笑顔で答えた。
「うちの者は全員今日は何も食べていないんだ。悪いけど、ここで食べさせてもらっていいかな?」
 とマクドナルドの紙袋を軽く上に挙げた。
「はい。どうぞ、どうぞ」
 と言われたが、男達のほとんどは小型バスへ乗り込んで行き、
「俺達はバスの中で食うから」
 と言って、バス車内へ入っていった。
「なんだ? いつも息苦しいバスの中での食事ばかりだから、たまにはテーブルと椅子で食(く)わせてやろうと思ったのによ。分かった。俺だけここで食う」
 と店の外に置いてある丸いテーブルで、少しお洒落な椅子に座って、紙袋の中のハンバーガーを取り出し、大きく口を開けて頬張った。
 今、出ていくと食事中なので、迷惑だと思い様子を伺った。
 飲み物の紙コップを取り出しては飲み、ポテトも食べていた。
 手を白い紙で拭くと「ごちそうさん」と全てをゴミ箱のところへ放り込んだ。
 そして黒い小型バスに乗り込もうとした時に声をかけた。
「すいません 。少しよろしいでしょうか?」
 黒装束の小柄な男はサングラス越しに僕の方を見た。
「なんですか ?」
 と僕を見る。
「実は Googleで検索しまして、『宇宙人対策機構』の人達がこちらのマクドナルドに来るということを知りまして、それで待っていたんです」
「確かに『宇宙人対策機構』は我々だけど何かあったのかね」
 と言われたので、例の封筒と紙を見せた。
『トイレから宇宙人がやってきて、お前を殺すだろう。』
 というメモを読んだリーダーは、
「ああ……。これは本格的にやってくるな」
 と微笑む。
「えっ? 自分は殺されるのですか?」
 と詰め寄ると、
「それは分からない。相手がどんな宇宙人か分からないからね」
 とのこと。
「ただ言えることは、突然やってきて人類を殺そうというのは、完全に宇宙法からすれば違法だからね」
「はい……」
「もし出てきたら、そいつを殺しちゃっていいよ」
 と言う。
「え! いいんですか!」
 と驚く。
「ああ。いいよ。それは宇宙法でも正当防衛になるからね。逆にさあ~」
 と僕に近づき耳元で、
「変に生かしておくと、そいつが宇宙裁判で何を言い出すか分からないからね。殺した方がいいよ」
 と言うと、名刺を渡してくれた。
「もしその宇宙人を倒すことができたり、逆に何かあったりしたら、ここに来てくれたらいいよ」
 と言い残して、小型バスに乗り込んで去っていった。
 僕は、
「何かあったりしたらって、もし殺されたらここに来れないじゃないか」
 と呟いた。
 仕方がないので、なるべく殺しにくる宇宙人に見つからないように、自宅を出て不人気な廃校になった小学校の宿泊施設に泊まることにした。
 そこは『宇宙人対策機構』が使っている寮みたいな場所で、電話をして状況を説明すると、
「ならうちの寮に泊まりませんか? 宿泊費や食事は無料ですし、もし何かあってもすぐに隊員が、駆けつけることができますから」
 という言葉に甘えて、車で迎えに来てもらい、しばらくはその廃小学校の寮へ泊まることになった。
 自分のために一つの教室を改造した部屋を使わせてもらえることになった。
 そこには風呂とトイレがついていて、簡単なキッチンとベッドまでついている。エアコンとテレビもありWi-Fiもついていて、持ってきていたスマホが問題なく使えた。
 しばらくは トイレのドアを開けるのが怖かった。必ず先に電気をつけてから、トイレのドアを開ける。そう続けていた時だった。
 夜になり、尿意が限界に達して、電気を点けずにドアを開けた時だった。
 トイレの中の暗闇に、真っ白でガリガリの細い細い皺皺(しわしわ)の老人が宙に浮いて立っていた。そして一言、
「殺してやる……」
 と呟いたために、僕は半分パニックになって、大声で叫びながらそいつの毛のない頭を掴むと、トイレから引きずり出し、渾身の力を込めて殴り続けた。
 僕の悲鳴にも似た声を聞きつけた隊員達数人が、駆けつけてくれた時には、老人のような宇宙人はズタズタに千切られた紙のようになって横たわっていた。
「これ、君がやったのか?」
 と一人の隊員が言うと、僕は頷いた。
 別の隊員がその白い老人の宇宙人の死骸を観察するように眺めると、
「もう完全に死んでいるな。宇宙法に照らし合わせて死体はこちらで焼却することにしよう」
 と言った。
僕は、
「え。研究とか標本にしなくていいんですか?」
 と言うと、
「ああ。こいつは結構な頻度で現れる宇宙人なんだ。地球人に比べて知恵も体力もないのに、やたらと好戦的で特に理由なく弱そうな人間に挑んでくるんだよ」
 と笑った。
「それでこいつらはな」
「はい」
「高度な文明のおかげで宇宙船もなしでテレポートで、地球にやってくることができるんだよ」
「はい」
「で、こいつらの惑星(ほし)の周りの宇宙人達は、文明が進みすぎているのか、この老人みたいな宇宙人が最強なんだよ」
「そうなんですか?」
「ああ。だから何を思ったか、絶対に勝てると踏んでこうして地球にやってきて、弱そうな地球人を見つけたら特に理由もなく襲ってくる質の悪い宇宙人なんだ」
「あ。僕、弱いと思われたんですね」
 と何とも言えず、後ろ頭を掻いた。
「でもね」
「はい」
「人間と、そうだな。熊と戦ったらどちらが勝つか分かるよね?」
「はい。それはクマが勝ちますね」
「つまりはそういうことだ」
 僕は疑問を持った。
「でも相手が武器を使ったら、人間なんてひとたまりもないんじゃないんですか?」
 と訊くと、
「それは宇宙法でルール違反になるから、やってくることはないよ。ただし!」
 隊員は続けた。
「文明が遅れている惑星(ほし)側が、武器を使うことは許可されているんだよ」
 と教えてくれた。
「とは言っても知的な宇宙人らの中で、人類の体力は銀河系内では最強に近いからね。負けることはほとんどないよ」
  と微笑んだ。
 なぜ、『宇宙人対策機構』のリーダーが、何もしてくれなかったのか、その理由が分かった気がした。
 その直後だった。
 緊急事態発生! 緊急事態発生! 全員ボードに乗り込んで出撃せよ! 繰り返す! 緊急事態発生~。
 という放送が流れた。
「何ごとですか?」
 と僕。
「厄介(やっかい)な宇宙人が現れたようだ。」
 と『宇宙人対策機構』の隊員が言った。
「厄介な宇宙人?」
「そうだ。知力も体力も我々人間と同等。いや、個体によっては人間を遥かに超えるヤツもいる宇宙人だ」
「そんな宇宙人が!」
「すぐに出動する。君も付いてくるかい」
 と言われてなぜか「はい」と返事をした。
 僕はてっきり車かバスで出動すると思っていたが、促されて到着した駐車場には、プラスチック製のソリの『スノーボート』がロープ付きでいくつも並んでいた。
「これ、ソリですよね?」
 僕は訳が分からない。
「見た目はただのソリだけどこうして」
 と紐を持ち立つと、スノーボートが二十センチほど空中に浮いた。
「え! 何で?」
 と驚くと、
「さあ、お前も乗るんだ。今から現場に行くぞ」
 と言われて、見よう見まねで紐を持って、スノーボートに立つと、そのまま滑るように音もなく走り出した。
「これ、見た目よりも安定していますね」
「そうさ。これはスノーボートに見せかけたハイテクなものでな。味方をしてくれている宇宙人のテクノロジーを使っている乗り物なんだ」
 真夜中の道路を車に混じって走り、停止も制動距離がほとんどなくピッタリと止まることができた。そして乗っている者もピッタリと停まってくれる。慣性の法則を無視する乗り物だった。
「これ、凄いですね」
 と言うと、
「そうだろう。ほら、ここだ」
 と言われた建物は、大きな冷凍倉庫だった。
 すでにあの黒い小型バスが停まっている。
 僕を連れてきてくれた隊員は、
「隊長。状況はどうですか?」
 とあの背の低い黒い背広の男に訊くと、
「よくないな。五人行かせたが、銃声もなく一人も帰ってこない……」
 と話した。
「分かりました。俺が行きます」
 と言って、ゆっくりと扉が開かれると、そこから氷点下の白い煙が広がっていき、隊員はの煙の向こうへ消えていった。
 ところで目が冷めた。
   
終わり。

令和5年6月18日。
    
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