双子の妹の保護者として、今年から共学になった女子高へ通う兄の話

東岡忠良

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【35-3】和葉「やっぱり男子は皮を剥くのが上手いわねえ~」 と言うと、小夏と薫と一子は頬を赤くしたが、優子と由紀はキョトンとしていた。

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【35-3】双子の妹の保護者として、今年から共学になった女子高へ通う兄の話

略して『ふたいも』です。

  東岡忠良(あずまおか・ただよし)

【35-3】和葉「やっぱり男子は皮を剥くのが上手いわねえ~」と言うと、小夏と薫と一子は頬を赤くしたが、優子と由紀はキョトンとしていた。

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──【35-3】──

 二階にいた全員が新屋敷家の階段をゆっくりと降りる。
「晩ご飯のメニューはね」
 と和葉が言おうとすると、
「カレーですよね?」
 と薫が言った。
「あ。やっぱり分かる?」
「ええ。お肉と玉ねぎと人参を買っていたので」
 と階段を皆は降り切ると、玄関を抜けてリビングにやってきた。
 先程の会話に龍馬が入ってくる。
「だけど今日のカレーは牛のスジ肉を使うんだよ」
「スジ肉? 私、スジ肉のカレーは食べたことないですね?」
 と薫が言うと、
「そう言えば私も食べたことない」
「私も」
 と優子と一子が反応する。
 リビングの奥のカウンター越しの台所には新屋敷兄妹の母が鍋の番をしていた。
「お母さん、ごめんね」
 と和葉が声をかけた。
「いいのよ。皆さんのためならね」
 と母は笑顔を向けた。
「龍馬君のお母さんはもしかして、スジ肉の下ごしらえをしてくれていたのですか?」
 と春樹が話しかけると、
「そうよ」
 と言うと、春樹の顔をジッと見つめた。
「あのう……。ボクの顔に何かついていますか?」
 と困惑気味に言うと、
「あなたも高校一年生なの?」
 と訊いた。
「え? はい。そうですけど」
 と春樹は答える。
 新屋敷兄妹の母親は、スタイルは和葉よりも出るところは出ていて、顔は龍馬寄りで年齢を考えてもかなりの美人である。
 見つめられた春樹は、思わず緊張してしまった。
「あなた、とても可愛いわね。ファンになりそう」
 と微笑むと、
「ちょっと、お母さん!」
 と和葉が呆れたような声を出した。
「フフフッ。冗談よ。和葉が連れてきた初めての男の子だから、少し興味がわいただけよ。ごめんね、園田君」
 と笑った。
「お母さん。園田春樹君は私の友達だけど、お兄ちゃんの親友でもあるからね」
 と続けると、
「あら。竜馬の親友さんなのね。ということは、和葉のお気に入りって訳じゃないのね」
 と少し残念そうに言った。
「当たり前よ。春樹君は良い友達だから。友達だから」
 と少しも照れることもなく、はっきりと言った。
「これはごめんなさい。てっきり和葉の恋人候補かと思っちゃったわ」
「お母さんは恋愛脳なの?」
 と和葉は表情を曇らせて、引き気味に言った。
「ウフフ。和葉ったらはっきりと言うわね」
 と苦笑しながら春樹と竜馬の両方を見た。
「ごめんよ。うちの母さんがからかうようなことを言って」
 と竜馬は春樹へ申し訳なさそうに言った。
「ううん。大丈夫だよ」
 と春樹は笑顔を向けた。
「そうだわ。言われた通りにスジ肉は、鍋に入れて水から沸騰させたわよ」
 と母は竜馬に言った。
「ありがとう、母さん。後は僕がやるよ」
「じゃあ、任せたわ」
 母はエプロンを外しながらガスコンロから離れた。エプロンを外すとニットのセーターの胸が大きく膨らんでいる。
 竜馬と和葉は平気そうにすれ違ったが、女の子達そして春樹は思わず胸の大きさに見とれた。
「ちなみにお母さんのバストサイズは、優子と同じHカップだからね」
 と和葉が余計な情報を言うと、
「ちょ! ちょっと、和ちゃん! そんな恥ずかしい情報をお友達に教えないでよ」
 と母は胸を両腕で隠した。
「ちょっと! 私の情報も出さないでよ!」
 と優子も赤面しながら同じように胸を腕で覆った。
「お母さん。和葉なんて無理に余所(よそ)行きな呼び方をしなくていいのよ。いつもの和ちゃんでいいからね」
「もう、和ちゃんたら、まったく」
 と仄(ほの)かに赤い頬を膨らませながら、
「じゃあ、皆さん、ごゆっくり。何か用事があったらいつでも呼んでね」
 と兄妹の母は奥の方に引っ込んだ。
 龍馬は煮られた牛スジ肉を、まな板に載せると、カレーに使えるように一口サイズに切り始めた。
「ボク、スジ肉って料理したことないなあ~。以前からやりたいとは思ったことはあるけど、なかなか機会がなかったからね」
 と春樹は興味津々である。
「一回目は水の時に肉を入れて沸騰させるんだ。僕がやろうとしたら母さんがやってくれてとても助かったんだよ」
 と竜馬が言うと、
「いいお母さんなんだね」
 と春樹が言うと、竜馬は少し照れて、
「次は一口サイズに切っていくんだ。ほら。まだ断面が赤いだろう?」
 と誤魔化した。
「本当だね」
 と春樹は感心している。
「それに沸騰したお湯を通すと、こうしてとても切りやすくなるしね」
 と竜馬は手際よくスジ肉を切っていく。
「で切った肉は鍋に入れて、また水から火にかけて沸騰させる」
「また、同じ工程を?」
「そうなんだよ。そして脂っこいのが苦手な人もいるだろうから、三回同じ工程をするんだよ」
「へえ~。スジ肉って下ごしらえが大変なんだね」
「慣れると大変までいかないけど、ちょっと手間かな?」
 と言いながら、竜馬はスーパーの袋から玉ねぎを取り出して洗い始めた。
「スジ肉の下処理をしている間に、玉ねぎとジャガイモと人参を切らないとね」
「あ。なら僕も手伝うよ」
 と春樹。
「じゃあ、お願いしようかな。洗った野菜はこの大き目のボールに入れていくから、あっちのテーブルの上で切ってくれるかい」
「うん。分かったよ」
 と春樹は取り敢えず、たくさんの玉ねぎの入ったボールをリビングにあるテーブルに運んだ。
 竜馬はスジ肉を切るために使った包丁とまな板を丁寧に洗うと、
「ここに包丁とまな板も置いとくよ」
 と竜馬がこの二つをテーブルに置いた時だった。
「お兄ちゃん、これって何?」
 と和葉がある物を指差しながら言った。
「え? これ? まな板だけど?」
 と言うと、和葉は顔を橘一子に向けた。
「なっ! 何よ?」
「お兄ちゃん!」
「何だよ?」
「あんまり、『まな板、まな板』って言っちゃだめよ。一子が傷つくわ」
 と和葉が言うと、
「な! 気に! 気になんかしてないわよ!」
 と声が裏返る。
「こら。そんな小学生みたいなことで人を傷つけちゃだめだろう」
 と竜馬は和葉をたしなめたが、
「ごめんね、一子。あなたの胸をまな板とか濃尾平野とか言って」
「ちょっと! 濃尾平野は言ってなかったわよね!」
 と和葉に言った。 
「竜馬君。玉ねぎはくし切りでいいかな?」
 と春樹はマイペースである。
「うん。それでいいよ」
 と返すと、春樹は手際よく玉ねぎの根の方の茎を、包丁のアゴの部分を使って器用に取り除く。その後、上部を切り落として、上部と茎から二つに切り、素早くくし切りにしていった。
「へえ~。春樹、手際がいいな」
「ありがとう。この包丁ってとても使いやすいよ」
 と切り終わった玉ねぎは大き目の笊(ざる)に入れられていく。
「あの! 私も手伝います!」
 と手を上げたのは優子だった。
 私も! 私も!
 と結局、全員が手を上げた。
「私、玉ねぎを切るのを手伝うわ」
 と小夏が言うと、
「どうしようか? 包丁はこれと果物ナイフくらいしかないのよね」
 と和葉は折りたたみ式の果物ナイフを出してきた。
「果物ナイフだとジャガイモの皮むきかな?」
 と竜馬。
 ナイフでのジャガイモの皮むき。
 そう聞いた途端に、優子と一子と由紀は上げていた手をゆっくりと下ろした。
 その中でまだ、手を上げていたのは小夏と薫だった。
「あのう。一つ三上さんに訊いていいかな?」
 と一子。
「はいはい。何でしょう~?」
 と小夏。
「三上さんって、ジャガイモの皮をナイフで剥けるの?」
 と訊ねた。
 確かに小夏は見た感じ、料理をやりそうに見えない。
「面白そうね。そうだ。人数分あるから今からジャガイモの皮むき大会をやろう!」
 と和葉が言い出した。
「まずはお兄ちゃん、どうぞ」
 と果物ナイフとジャガイモを竜馬に渡した。
「ああ。いいよ」
 と言うと、竜馬は手慣れた様子でスルスルとジャガイモの皮を剥いて、芽も取っていった。
「凄い。上手~」
 と優子は仄(ほの)かに頬が赤くなっている。
「竜馬お兄ちゃん、凄~い。カッコいい~」
 と由紀も憧れの眼差しを向けた。
「じゃあ、次は春樹君」
 と和葉が言うと、
「どうぞ、春樹。玉ねぎは僕が剥いでおくからさ」
 と竜馬は果物ナイフを春樹に渡して、春樹はまな板の横に包丁を置いた。春樹は適当にジャガイモを掴むと、
「じゃあ、剥くね」
 と竜馬以上に手慣れた手つきでジャガイモの皮を剥き、芽を取った。
「春樹君、上手い~」
 と和葉は感心して、
「やっぱり男子は皮を剥くのが上手いわねえ~」
 と言うと、小夏と薫と一子は頬を赤くしたが、優子と由紀はキョトンとしていた。

2024年12月14日

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