双子の妹の保護者として、今年から共学になった女子高へ通う兄の話

東岡忠良

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【23】和葉。セカンドの守備について、巨乳が揺れまくり、高校生男子を魅了する。

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【23】双子の妹の保護者として、今年から共学になった女子高へ通う兄の話

  東岡忠良(あずまおか・ただよし)

【23】和葉。セカンドの守備について、巨乳が揺れまくり、高校生男子を魅了する。

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──1──

「だから、琴美ちゃん、あなた、兄だけど長崎さんのことが好きなの? 結婚したいくらいに」
 と和葉は言った。すると、
「な! 何、言ってんですか! 私達、兄妹なんですから、結婚出来るわけないじゃないですか!」
 と大声で言った。すると、
「琴美ちゃんにいい事を教えてあげるわ」
「え? いい事、ですか?」
「そうよ」
「? 本当ですか~?」
 と琴美は和葉の性格が段々と分かってきたようで、疑いの視線を送った。
「それはね。兄妹で子供を作って、ルーマニアという国に行くのよ。そこで国会で審議して認められたら、兄妹でも結婚ができるわよ」
 と和葉はドヤ顔で言った。
 しかし、
「こっ! 子供を作るんですか? 兄妹で!」
「そうよ」
「……あのう私、兄さんを尊敬していますけど、恋愛対象じゃないです」
 とアッサリ言った。
「そうなの! それは予想外の返事だわ。私達の兄妹と、琴美ちゃんと長崎さんの二組でルーマニアに行けば、ルーマニアの国会で認められやすいと思ったのに」
 と和葉はグローブをコスりながら言った。
「あのう。私、さっきまで和葉さんを尊敬していましたけど、それは間違いだと分かりました」
「え?」
 と和葉は琴美を見つめた。
「和葉さん!」
 と言って、琴美は立ち上がり、
「さっきから、何なんですか! いい事と言うから聞いてみたら、『兄妹で子供を作ってルーマニアに行こう』とか言ってみたり、バスと電車内では兄さんのおちんちんを見たことがあるか? と訊いてきたり!」
 と琴美は大声で言った。
 おっ! 何だ、何だ? 女子同士の喧嘩か?
 と小笠原の部員らはざわめく。
「うん。どうしたんだい?」と竜馬。
「琴美、どうした?」と隼人。
 すると和葉は、
「長崎さん。あなたの妹の琴美ちゃんだけど、お兄さんの事が好きって言うから、子供を作ってルーマニアに行けば結婚できると、せっかく教えてあげたのに怒ってしまったのよ。その上、ここまでの道すがらのバスや電車内で、『長崎さんのおちんちんを見たことがあるか?』って訊いたことにも怒っちゃったのよ」
 と言い終わると、
「本当に困った子だわ」
 と両腕を広げながら、隼人に言った。
 それを聞いた、小笠原野球部員らと竜馬と優子は引いている。
「ちょっと! 何で私が悪いみたいな感じに話すんですか!」
 と琴美。
 すると、隼人は内容を理解できたのか、
「アハハハッ!」
 と笑い、
「琴美。なんか分からないが、俺をそこまで好きでいてくれてありがとう。でも兄妹だから今の仲を続けていこうな。それともう、俺達は身体は大人だから悪いけど」
 と言うと、少し笑いを堪(こら)えながら、
「おちんちんを見せるのは、ちょっと許してくれよな」
 と微笑みながら言った。
「もう! 何で私が兄さんのおちんちんを見たいことになっているんですか!」
 と琴美は顔を真っ赤にして叫んだ。
 部員達もクスクス笑っている。
 琴美は恥ずかしくて、泣きそうになっていた。その時である。
 優子が、
「ねえ。このグローブって、どう考えても牛革よね。和葉さあ。これイカの皮じゃないわよね?」
 と言ったから、一同一斉に笑いが起きた。
 琴美のことは優子の一言でウヤムヤになってしまった。
 その頃。
 五番で巨漢の三年生の山上をセンターフライに抑えた、川田の三年生投手は立ち直り、六番の二年生バッターを三振に取って、スリーアウトにした。
 初回に小笠原高校は、和葉のホームランと隼人のツーランで三点を先制した。
 上々の滑り出しである。
「さあ、しまっていくぞ!」
 と小笠原のキャプテンの掛け声と共に、竜馬と和葉を含めた選手らは、川田高校グランドに向かって走り出した。
 その時である。
 セカンドに走って向かう和葉の側に、長崎隼人が走りながら横に付いて言った。
「和葉ちゃんはさあ……。おちんちんが凄く気になるみたいだね」
 と少し間を開けて、頬を赤らめながら、
「思うんだけど、恋人同士なら見てもいいんじゃないかな?」
 と言い終わると、全速力でセンターに走って行った。
 それを聞いた和葉はセカンドのポジションの少し手前で立ち尽くしてしまった。センターの方に走っていく、長崎隼人の大きな背中を見つめながら、ゆっくりとセカンドポジションの方に歩きながら考えていた。
「長崎さん、どういうことかしら……。恋人同士なら、おちんちんを見てもいいって……」
 そして和葉はハッと気づいた。
「長崎さんってもしかして!」
 和葉はセカンドのポジションに付いて、少し柔らかくなったグローブの真ん中を拳で軽く叩きながら、
「長崎さんってそれだけ、自分のおちんちんの大きさに自信があるってことなのね!」
 とつぶやいた。
 そして和葉はセンター方向に向いて、隼人へ大声で言った。
「長崎さん!」
 隼人は、
「おう! なんだい!」
 と右腕を振る。
 和葉は大声で、
「おちんちんが大きいのが自慢なのかもしれないけれど、上には上がいるものよ!」
 と仁王立ちで言った。
 隼人は、
「え? 何の話だ?」
 と不思議そうな顔をしたが、和葉にかけた言葉が、完全に別の意味に取られたことだけは悟ったようだった。
 その大声でのやり取りだけを聞いていた小笠原と川田の選手らは、大笑いしている。
 長崎! おちんちん、デカかったのか!
 女の子に自慢するとは大胆だな!
 と味方からもヤジが飛んだ。
「ちっ、違う! そんなんじゃないんだよ!」
 と赤面しながら慌てていた。
 そんな隼人の様子は無視して、
「久しぶりだわ」
 と和葉はバッターを見つめながら、守備について前傾姿勢になった。
 すると、
 おお~!
 と川田高校野球部員らから歓喜の声が上がった。
 声が上がった理由は、和葉のメロンのような大きな胸が、前屈みになったせいでよりクッキリと、ユニフォームから浮き出たのである。

──2──

 特に川田高校側から、「おお~!」という歓声とも、冷やかしとも取れる声が上がる。
 スッ、スゲェ!
 デケエ~!
 川田野球部全員は、バッターボックスに立つ味方の一番打者なんて見ていなかった。
 敵のチームの騒ぎを聞くと、小笠原野球部男子高校生としては、和葉に対してイヤらしい視線を送る川田の部員らから、和葉を守ってあげたい気持ちが湧き出てきていた。
 おい! うちの選手をイヤらしい目で見るな!
 そうだ! そうだ!
 と守備側から声が出る。
 それでも和葉本人は平気そうにしていた。というか中学時代に守備に付いても冷やかされた経験から、『慣れている』と言った方が的確なのかもしれない。
 だがその中でも別の意味でニヤニヤしている人物が二人いた。和葉の兄である竜馬と、幼馴染でもある長崎隼人だった。
 川田高校野球部から声がした。
 バッター! セカンドを狙え!
 穴だぞ、穴!
「ああ。分かった」
 と一番打者はバッターボックスに立った。
 ボール。ストライク。
 そして三球目を打者が打った。
 和葉の守るセカンドへの強いゴロだった。
 ナイスバッター!
 いいとこ、飛んだぞ!
 と川田高校野球部員達は言った。
 ああっ!
 と悲鳴に似た声が、守っている小笠原野球部から漏れた。
 だが和葉は強い打球のゴロだったにも関わらず、前進して両手でしっかりと捕球すると、素早く振り返りボールをファーストへ投げた。余裕のアウトだった。
 その見事な守備を見た川田高校野球部らはもちろんだが、味方の小笠原高校野球部らも言葉を失っていた。
 華麗で見事な守備と、大きく上下に揺れる和葉の巨乳に対してである。
「どうだ! 凄いだろ!」
 とセンターで守っている隼人が大声で言った。
「和葉! ナイス守備!」
 と竜馬がライトから声をかけると、和葉は外野へ振り返り、
「ワンアウト! ワンアウトよ!」
 と右手の人差し指を立てた。
 川田の二番打者がバッターボックスに立つ。明らかにまた、和葉狙いであった。
 再び強い打球が和葉を襲ったが、しっかりと腰を落としてキャッチして、ファーストに投げた。
「ツーアウト! ツーアウトよ!」
 と和葉は右手を上げて親指と小指を立てた。
「凄いです! 和葉さん!」
 と長崎琴美が興奮気味に声を出した。
「和葉~! 凄いわ! 私もあなたが弱点だと思ったわよ~!」
 と相生優子。
 川田高校側は意気消沈しているようだった。誰も言葉にしなかったが、強い打球を打てば、和葉は大きな胸を揺らしながら、エラーつまり捕球に失敗して慌てる様子を想像していたのだった。
 ところが見事な守備力で、アッと言う間にツーアウトにされたのである。
 三番バッターがバッターボックスに立つと、川田のキャプテンから指示が飛んだ。
「ライトだ! ライトを狙っていけ!」
 つまり竜馬を狙えということだった。
 三番バッターはあっさりと初球を打った。打ちそこねたボールは、ライトには飛ばずにボテボテの緩い打球が、和葉の前に転がった。楽々と補給してファーストに投げるとアウトを取った。
 あの子、結局、一人でスリーアウトを取ったぞ!
 胸、デケエけど、守備、ウメエ~!
 と川田側ベンチから聞こえた。
 大きな胸を揺らしながら走って小笠原ベンチに戻る和葉に、小笠原野球部のみんなは「ナイス! セカンド!」
と声をかけた。
 戻ってきた隼人も、
「さすがは和葉ちゃんだ。鉄壁の守備力は健在だね」
 と微笑んだ。
「バッティングにはどうしても波があるけど、守備には波がないもの。久々に身体を動かしたら気持ちいいわ」
 と隼人と小笠原ナインに笑顔を向けると、隼人以外の部員はもう、アイドルでも見るような『好き好き、大好き』目線になっていた。
「さすがだよ、和葉」
 と竜馬も声をかけたが、
「お兄ちゃん、何をやっているの?」
 と和葉は竜馬の顔をまじまじと見つめる。
「え? 何だ?」
 と竜馬は不思議そうな表情だ。
「次はお兄ちゃんの打順でしょ。何でベンチにいるの?」
「そうだった!」
 と竜馬は大慌てで、金属バットを借りて出ていった。
「本当に何をやっているのかしら。バットをろくに選ばずに行くなんて。自分に合った重さや長さを選ばないとダメなのに。その上、素振りもしないなんて。あれじゃあ、やられに行くようなものだわ」
 と和葉が言うとすぐに、ボテボテのファーストゴロでアウトになった。
「……ごめん」と俯きながら、戻ってくる竜馬に、
「お兄ちゃん、きちんと準備せずに打席に立っちゃダメよ」
 と仁王立ちの和葉は、頭を掻きながら猫背になっている竜馬に言った。
 八番バッターは和葉にグローブ用のオイルを貸してくれた一年生だった。
 彼はファールを一回打ったが、空振り三振で戻ってきた。
「ドンマイ、ドンマイよ」
 と和葉は声をかける。
「アハハ。いいところナシだったね」
 と落ち込んでいたが、
「何を言っているの? 次、打てばいいのよ」
 と和葉は励(はげ)ました。
「あ。ありがとう……」
 と俯きながらも、和葉から声をかけてくれたのが嬉しいようだった。
 九番はピッチャーの岸先輩だった。
 体力をなるべく使わないように粘っていた。スリーボール、ツーストライクまで粘ってから、サードへの強い当たりを放ったが、運悪くサードの真正面だったのでアウトとなり、三者凡退でチェンジとなった。 
 二回表の小笠原高校の攻撃はあっさりと三人で終わってしまった。
 小笠原ナインが守備についた。

──3──

 二回裏に入る。
 川田高校の大柄な四番打者がバッターボックスに立って軽く素振りを始めた。
 鋭い眼光だが顔はどちらかと言えば良いほうである。顔は竜馬には勝てないが、長崎隼人くらいのレベルだと感じたのか、
「四番のあなた。良い体格でなかなか顔も素敵ね。覚えとくわ」
 と和葉は言った。
 ただ単に記憶に残しやすくするするための声かけだったが、話しかけられた大柄な選手は、明らかに頬と耳が赤くなった。
 四番の彼は身長は竜馬どころか一八五センチの長崎隼人よりも高く、重量のありそうな金属バットを振ると、風を切る音がした。
「村瀬! ホームラン、狙ってけ!」
 と川田ベンチから声がした。
「外野、バックバック!」
 と小笠原キャッチャーの山上は立って、外野に指示する。それを見た和葉はファーストを守る二年生に、
「この四番バッターはそんなに要注意なんですか?」
 と訪ねた。
「ああ。そうなんだよ。名門私立の選手を除けば公立高校の中じゃ、うちの長崎にも匹敵する実力者だよ」
「え? と言うことは? 長崎さんと同じでエースで四番ってことですか?」
 と言う和葉に、
「その通り。本当のエースピッチャーは彼さ。川田の一年の村瀬さ」
 と言った。
 バッターボックスに立った村瀬は、一九〇センチあり、その堂々たる体格はアメリカの大リーガーを思わせるほどだった。
 和葉は体格のよい村瀬を見つめて言った。
「あんなに立派な体格なら、中学の大会で野球をやっている者なら、目に付きそうですよね。なのに私、見たことがないわ」
 と和葉が言うと、
「僕も詳しくは知らないんだけど、東北地方からこちらに引っ越してきたみたいだよ」
「なるほど。そうなんですね」
 と和葉は村瀬を凝視する。
 村瀬は和葉と視線を合わせず、何度も素振りをしている。
 この打席に集中しているのか?
 それとも意識して和葉を見ないようにしているのか?
「確かにお兄ちゃん、いや長崎さんよりも大きいわ」
「そうなんだよ」
 とファーストの二年生。
「ということは、このグランドにいる男子の中で、一番おちんちんが大きい可能性があるということね」
 と和葉はよく通る大声で言った。
 それを聞いた村瀬は、バッターボックスの中で顔を真っ赤にして俯(うつむ)いてしまった。村瀬は俯きながらも、自分のおちんちんの辺りを見た。和葉はその仕草を見逃さなかった。
「村瀬君!」と和葉は名前を呼んだ。
 すると、甲高い声で、
「はっ! はいっ!」
 と大柄な外見からは想像もつかない高音ボイスだった。
 和葉は、
「大丈夫よ! そんなにおちんちんは膨らんでないから! その程度の膨らみなら、どちらかというと長崎さんかお兄ちゃんの方が、膨らんでいるから!」
 と言うと、
「アハハ! 和葉ちゃんはどこを見てるんだか!」
 と隼人は喜んだ。
「和葉! 頼むからそういう話をしないでくれよ!」
 と股間をグローブで隠した。 
 すると、
「助っ人のお嬢さん! 村瀬は体格はいいけどシャイなんだ! だから余りからかわないでくれよ!」
 とさっきまでピッチャーをやっていた三年生がベンチから大声を出した。
「え? あんなに高身長で顔も素敵なのに、女性に弱いの?」
 とベンチに向かって言った。
「……顔が素敵だなんて……」
 と村瀬はますます赤面して、落ち着きを失っていく。 
「そうなんだよ。村瀬は学校でもモテモテなんだけど、女子を前にしたらろくに喋れなくなるんだ。今みたいにね」
 と言うと、
「こら~! 村瀬! しっかり前を見ろ! 野球に集中しろ! キャプテンのオレの命令だ!」
 と川田の三年生ピッチャーが叱咤(しった)した。
「でっ、でもキャプテン。あんなに可愛くて綺麗な女の子から、そのおちんちんの話が出るなんて、そのう、僕。恥ずかしくて……」
 とモジモジし始めた。
 すると、
「村瀬さん!」
 と強気な和葉。
「な! なんだよう……」
 と弱気な村瀬。
「私のこと、可愛くて綺麗な女の子って、言ってくれてありがとう」
 と言うと、首を右に傾げてウインクした。
「あ……あ……」
 と棒立ちに近い状態のバッター村瀬は、川田顧問の主審による「プレイ!」という怒気の籠もった声に、また慌ててしまっていた。
 ピッチャーの岸先輩は容赦なくストレートを投げ込み、三球三振に仕留めた。最後はボールを見ていない空振りだった。
「何、やってんだ! 村瀬!」
 と川田のキャプテンから激が飛んだ。
「すっ、すいません……」
 と肩を落として引き上げていく。
 五番バッターの選手が、村瀬に声をかけた。
「落ち着け。落ち着いて実力を発揮したらお前は誰にも負けないんだからな」
 と村瀬の肩をポンと叩いてから、バッターボックスに向かったのは、村瀬よりは背が低いが相撲取りのように大柄な選手だった。
「土井! ここで一発、頼むよ!」
 と川田の三年生キャプテンが声をかけた。
「元四番だ! しまっていこう!」
 とキャッチャーの山上がナインに声をかけた。
 初球だった。大きなフライが竜馬の守るライトに飛んだ。
 いいとこ、飛んだぞ!
 結構、深いぞ!
 抜ける! 抜ける!
 と川田のベンチが盛り上がったが、ボールを見ながら全力でバックして、余裕を持って追いついた竜馬は簡単にキャッチした。
「アウト!」のジャッジが響くと、川田ベンチからため息が漏れた。
「さすがは竜馬! ナイスキャッチだ!」
 と隼人が声をかけた。
 おい。あの別のユニフォームの二人だけど、守備、やたらと上手くないか?
 誰だよ。穴なんて言ったのは?
 と川田ベンチは意気消沈気味である。
 川田の六番打者は粘りはしたが、センターへのボンフライで、長崎隼人が軽く処理してチェンジとなった。
 三対〇で三回表の小笠原高校の攻撃は、一番打者は二年生からで、ファーボールを選んで塁に出た。
 ノーアウトランナー一塁の場面で、二番の和葉が打席に立った。
「こいつ。さっきは騙しやがって」
 と周りにも聞こえるように言うと、
「こら。ピッチャー、そういう私語は慎みなさい」
 と主審の柴山顧問が言うと、
「す、すいません」
 と頭を下げた。
 和葉は素振りを何度かして、ゆっくりと足場を整え、バットを身体の全面に出して、ゆっくりと手のグリップを確かめるようにして構えた。
 三冠王落合博満の神主打法そのものだ。
 一球目は外角高めのストレート。だが外れてボールになった。
 二球目は内角低めのストレート。これは最高のコースでストライク。
 三球目は右から左に変化するスライダーだったが、それは和葉は大きく空振りした。
「あれだけの大振りでもやっぱり倒れたりしない。一打席目に倒れたのは下手に見せるためのフェイクかよ」
 と言って大きく振り被った。
「もう、騙されないぜ!」
 と投げ込んだのは、内角ストレートだった。さっき和葉が見送ったボールそのものだったが、和葉はいとも簡単にライト前に返してヒットにした。
 小笠原の二年生のランナーは打順が一番に入るだけあって、和葉の見事なライト前ヒットを見て、好走塁をして三塁まで進塁した。
 小笠原はノーアウトランナー一・三塁のチャンスである。
「ナイスバッティング!」
 と小笠原ナインから声が出た。
「いいぞ! 和葉!」
「和葉ちゃん! ナイス!」
 和葉! 和葉! かず~は!
 と小笠原ベンチは大盛り上がりである。
 川田のキャプテンのピッチャーは和葉を見た。
 ヒットを打ったことに対して、ガッツポーズ一つせずに「その程度の球なら苦もなく打てるわ」とでも言いたげに、すました顔で一塁に立っている。
 そこに川田のキャッチャーがピッチャーマウンドに行った。
 お互いにグローブを口元に当てて、何かを話している。
 その間にネクストバッターズサークルにいる
三番キャプテンのところに、隼人が走って行き耳打ちをした。
 小笠原キャプテンが打席に入る。
 和葉はリードを取る。牽制をされるが余裕のセーフ。また和葉はリードを取る。川田のピッチャーは和葉が気になるのか、また牽制をした。
 そして第一球を投げた。外角ストレートだったが高さが甘かった。見事なセンター前ヒットになり、一点が追加された。
 ノーアウトランナー一・二塁。またチャンスである。
「和葉のやつ、上手いな。ピッチャーが自分を意識しているのを分かっているから、わざとリードを大き目に取って、まるで盗塁でも仕掛けるように思わせて、一球目をピッチャーにストレートを投げさせたな。ストレートだと分かれば、打ちやすくなるからな」
 と竜馬は言った。
「何だか分からないけど、和葉って野球に詳しいのね」
 と優子はよく分からないなりに感心した。
 ここで四番の長崎隼人が打席に立った。
 軽くバットを素振りしてから、ゆっくりと構える。
 川田のピッチャーがセットポジションからキャッチャーを向くと、和葉は右肘を曲げて水平にして下に下げる。そして右手首を曲げるとゆっくり左に動かした。
 キャッチャーミットの構えた場所を見て、外角低めだと隼人に教えているのだった。
 川田のキャッチャーはそれに気づいたのか、ミットの位置を内角高目に変えた。
 和葉もすぐさま隼人に「内角高目」だと教えた。隼人は少し後ろに下がった。
 投げられたボールは内角だったが、高さはど真ん中だった。センターに飛んだボールは守備の選手の頭上を超えて、走者一掃のツーベースヒットになった。
 小笠原高校側は祭りのような大騒ぎになっている。ここで主審の川田顧問がタイムをかけた。
「ピッチャー交代。センターの村瀬がピッチャーに入る。センターには今のピッチャー小島がそのまま入る」
 ついに川田の真のエースピッチャー村瀬がマウンドに立った。

つづく。

登場人物。

長崎琴美(ながさきことみ)。
 竜馬の野球繋がりの友人の妹。中学三年生。密かに竜馬のことが好き。
 家庭の事情から野球部はあるが人数がギリギリの公立小笠原(おがさわら)高校に入学した兄の隼人を持つ。
 兄隼人は野球の才能があり努力家で、中学時代と現在の高校でもエースピッチャーで四番。
「兄さん」と呼んでいる。
 二年前に父親が亡くなり母子家庭。
 来年は高校受験で志望校は電車通学で一時間の公立北村第一高校。

長崎隼人(ながさきはやと)
 公立小笠原(おがさわら)高校野球部一年。新屋敷兄妹とは同級生。小学校から東道中学校まで同じだった。
 竜馬は小学校時代は小柄だったが、隼人はずっと大柄で運動神経は飛び抜けてよかった。中学校時代には野球はもちろん陸上競技でも男子は長崎隼人。女子は三上小夏と言われていた。
 野球名門の私立富坂高校の特別推薦をもらうが、学費は無料でも高額の寮生活を理由に受験しなかった。
 そして交通費のかかる遠方の偏差値の高い公立高校にも十分に受かる学力はあったが辞めて、走って通える公立小笠原高校へ入学する。
 一つ年下の琴美という妹がいる。
 小笠原高校野球部では一年生ながら、エースピッチャーで四番を打つ。
竜馬は「竜馬」。和葉は「和葉ちゃん」と呼ぶ。
 一人称は「俺」。
 二年前に父親が亡くなり母子家庭。

岸(きし)先輩。
公立小笠原高校三年生。長崎隼人が入部するまではエースピッチャーだった。今回の練習試合では先発する。控えに回った隼人はセンターを守る。

山上(やまがみ)先輩。
小笠原高校三年生のキャッチャーで五番打者。一八五センチ体重は百キロ近いの巨漢。長打力はあるが打率は低い。元々四番を打っていたが、隼人のバッティングを見て、四番を譲った。

柴山顧問。
川田高校野球部顧問。試合中は審判を務める。ボディビルダーのような身体で、和葉は名前が分かるまで「マッチョ先生」と呼んでいた。

村瀬。
川田高校一年生の四番で投手。
身長一九〇センチの堂々たる体格。
東北地方からこちらに引っ越してきて、川田高校を受験して野球部に入った。
鋭い眼光で長崎隼人と同じ位の整った顔立ちだが、性格は大人しくて恥ずかしがり屋。
野球の実力は本物だか、女子に弱く、和葉におちんちんの大きさを指摘され赤面して動揺してしまう。
一人称は「僕」。

公立小笠原(おがさわら)高校野球部。
一番。二年生。ショート。
二番。一年生。新屋敷和葉。セカンド。
三番。三年生。キャプテン。サード。
四番。一年生。長崎隼人。現在、センター。
五番。三年生の山上先輩。キャッチャー。
六番。二年生。ファースト。
七番。一年生。新屋敷竜馬。ライト。
八番。一年生。レフト。和葉にグローブオイルを貸した。和葉と同じくらいの身長。
九番。三年生。岸先輩。ピッチャー。 

公立川田(かわた)高校野球部。
一番。二年生。セカンド。
二番。二年生。ショート。
三番。三年生。サード。
四番。二年生。センター。実はエースピッチャー。村瀬。
五番。三年生。ファースト。土井。
六番。二年生。ライト。
七番。二年生。キャッチャー。
八番。二年生。レフト。
九番。三年生。ピッチャー。キャプテン。小島。

小笠原 一回 三点(六人) 二回(三人) 〇点 三回 三点
川田  一回 〇点(三人) 二回(三人)〇点  

2023年4月8日

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僕こと…ディスト・ランゼウスは、経験値を倍増させてパーティーの成長を急成長させるスキルを持っていた。 それにあやかった剣士ディランは、僕と共にパーティーを集めて成長して行き…数々の魔王軍の配下を討伐して行き、なんと勇者の称号を得る事になった。 するとディランは、勇者の称号を得てからというもの…態度が横柄になり、更にはパーティーメンバー達も調子付いて行った。 それからと言うもの、調子付いた勇者ディランとパーティーメンバー達は、レベルの上がらないサポート役の僕を邪険にし始めていき… 遂には、役立たずは不要と言って僕を追い出したのだった。 ……とまぁ、ここまでは良くある話。 僕が抜けた勇者ディランとパーティーメンバー達は、その後も活躍し続けていき… 遂には、大魔王ドゥルガディスが収める魔大陸を攻略すると言う話になっていた。 「おやおや…もう魔大陸に上陸すると言う話になったのか、ならば…そろそろ僕の本来のスキルを発動するとしますか!」 それから数日後に、ディランとパーティーメンバー達が魔大陸に侵攻し始めたという話を聞いた。 なので、それと同時に…僕の本来のスキルを発動すると…? 2月11日にHOTランキング男性向けで1位になりました。 皆様お陰です、有り難う御座います。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
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アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

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マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

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