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【17】竜馬と優子。Hカップの先輩、岡本副部長に「可愛い」という理由から軽くイタズラを受ける。
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双子の妹の保護者として、今年から共学になった女子高へ通う兄の話
東岡忠良(あずまおか・ただよし)
※この小説へのご意見・ご感想・誤字脱字・等がありましたら、お気軽にコメントして下さい。
お待ちしています。
──1──
美術教室が見えてくる。美術道具の倉庫もあるために、普通の教室の倍はあるが、実際に生徒が作業するのは、一つの教室になっている。
和葉は静かに扉をノックした。
「すいません。見学したいのですが構いませんか?」
と教室を覗いた。
「ええ。大丈夫よ。入って」
小柄な二年生の先輩が対応した。
「お兄ちゃん。優子。入りましょう」
と三人は仲良く教室内に入った。絵の具の臭いがしている。すでに十一人ほどがいて、道具と画用紙を用意していたり、すでに絵を模写していたり、お互いの似顔絵を描いたり、中には漫画を描いている者もいた。
「準備している人もいるけど、もう描き始めている人もいるのね」
と和葉はキョロキョロと室内を見ている。
「ええっと、入部希望者ってことでいいのかしら?」
長い黒髪で聡明そうな美人が話しかけてきた。
「ええっと、入部希望じゃないんです。一日体験がしたくて来ました」
と和葉は言った。
「まあ。大切な放課後の時間を私達の部のために使ってくれるのね。嬉しいわ」
と喜んでくれている。
「出来たら彫刻の模写をしたいんですけど」
と和葉。
「まあ、それは良い考えね」
と隣(とな)りの倉庫の扉を開けてくれた。
「どうぞ。ここから好きな像を持っていくといいわ」
と十点ほどが並んでいる。もちろん、すべて三〇から四〇センチくらいに縮小された物で、頭部から胸像そして身体全体の物と様々である。
「あ。ミロのヴィーナスがあるわ」
と和葉はそれを手に取った。それをしばらく見つめていると、
「お兄ちゃん」
「なんだよ?」
「良いおっぱいしてるわよ」
とミロのヴィーナスの縮小レプリカの胸を撫でた。
「和葉。真面目にやれよ」
と竜馬は言った。
「ちょっと、あなた! 美術品をそういう見方をするのは不謹慎よ」
とここまで案内をしてくれた黒髪美人の上級生が注意した。
「あ。すいません」
と素直に謝る和葉。
「まあ、いいわ。時々いるのよね。裸の美術品を見つけてはいやらしい反応をする人。これからは気をつけてね」
と簡単に許してくれた。
「ところで先輩は私達が美術品を選ぶまで、ここに居られるのですか?」
と和葉。
「もちろんよ。なんせ、過去に美術品の盗難があったらしくてね。あなた達三人がこの部屋から出るまで、見ないといけないのよ」
「そんなことがあったんですか」
と優子。
「それは酷いですね」
と竜馬。
「と言っても、この学校が創立して間もない頃の出来事だったみたいだけどね。今はそういうことは聞いたことがないわ。まあ、うっかり壊しちゃったってことはたまにあるけどね」
とロングの黒髪美人の先輩は話してくれた。
「それにしても」
とロングヘアーの美人先輩は、竜馬のすぐ近くまでやって来て、
「あなた、今年入った男子生徒よね。ちょっと失礼」
と竜馬の腕や足そして腰や肩を触り始めた。
「ちょ、ちょっとなんですか!」
と竜馬は一歩引いた。
「あ。ごめんなさい。申し遅れたわね。私は二年の岡本響子。美術部の副部長をやっているわ」
と言いながらも、竜馬の首と頬を撫でた。
「ちょっと、岡本先輩」
と竜馬は困惑気味である。
「筋肉質で長身で、そして顔もとてもいいわ。どう? 美術部に入らない? いや、もし入らなくてもいいから、モデルをやってみない?」
と竜馬に顔をギリギリまで近づけて言った。
「もしかして! モデルは裸ですか!」
と和葉は食いついた。
「あはは! さすがに高校ではそれは禁止されているわ」
「そうですか……」
とあからさまに残念そうに下を向いた。
「まあ、でも」
と岡本先輩は明るい口調で、
「学校指定の水着なら問題ないわよ!」
と楽しそうに言った。
「み! 水着! 竜馬さんの水着!」
と優子はすでに顔が赤い。
「岡本先輩! その場合は水着の股間の膨らみをクロッキーしてもいいんですか!」
と和葉は手を上げながら言った。
すると、岡本先輩は少し考えてから、
「モデルさんがOKしてくれたら、いいんじゃないかしら」
と答えた。すると、
「お兄ちゃん! もう、彫刻の模写はやめたわ。お兄ちゃんの水着姿の模写をするわ! 岡本先輩、水着がありますか?」
と凄い勢いで詰め寄った。
岡本先輩は和葉の勢いに押されて半歩下がり、
「ごめんなさい。男子用の水着はないわね。なんせ、昨年まではこの学校は女子校だったからね」
と微笑みながら言った。
「そうだった……」
と明らかに和葉は肩を落とした。
「去年まで女子校ってことで、困るのは男子生徒限定だと思っていたのに、こんな形で女子生徒が困ることになるなんて思いもよらなかったわ……」
と俯いた。
「まあ、代わりと言ってはなんだけど」
と岡本先輩は少しホコリの被った段ボール箱を持って来て開けた。
「女性用の水着は沢山用意してあるのよ。よかったら、あなたがモデルをやってみない?」
と紺色のワンビースの水着を取り出した。
和葉はあからさまに嫌そうな表情になり、少し黙っていたが、
「それは無理です。なんせ、私」
と一呼吸置いて、
「Gカップですから。そんなサイズの合わない水着は入りません。なんせ、Gカップなので」
と二回言った。
すると岡本先輩は、
「大丈夫よ。このスクール水着は思いの外、伸びるから」
と勧めてくる。
「私、胸が苦しくなるのは嫌なんです、先輩。なんせ、Gカップなので」
とまた言ったが、
「大丈夫よ。だって私、この水着を着てモデルをやったことが何度かあるから」
「岡本先輩が?」
「そうよ。確かに快適とは言えないかもだけど、Gカップくらいじゃ問題ないはずよ。Hカップの私が言うのだから間違いないわ」
と岡本先輩は胸を張った。
「えっ! 岡本先輩ってHカップもあるのですか!」
「そうよ。でも胸が大きいって生活する上で大変なだけだけどね」
と残念そうに言った。
「先輩!」と和葉は顔をくっつきそうなくらいに近づけた。
「な! 何かしら?」
「胸が大きいことは女性に取ってはとても大切なことです!」
「えっ! そうかしら?」
「そうです!」
「そ、そう。ありがとう……」
と和葉の勢いに押されていた。
「ちなみに、ここにいる優子もHカップです」
と余計な情報を話した。
「ちょ! 何でいつもいつも胸の話をするたびに、私のサイズを教えるのよ!」
と優子は和葉を怒った。
「優子のサイズだけじゃなくって、私のサイズも教えたけど?」
と返すと、
「和葉だけのサイズでいいじゃないの!」
と突っ込んだ。
「まあまあ、そんなに言い合いをしないで。女同士で胸の大きさを競う話をしたってしょうがないでしょう」
と岡本先輩。
「わっ! 私、別に競ってないです!」
と優子は岡本先輩に言った。
「それにそんなに取り乱して。彼氏さんが驚いてしまっているわよ」
と岡本先輩は竜馬の肩に手を載せた。
「えっ……。そ、そんな……。竜馬さんのことを彼氏さんだなんて……」
と優子は頬を赤くして、もじもじとし始めた。
「あらまあ。ふ~ん」
と岡本先輩は優子と竜馬を交互に見つめた。
そして、
「あなた。頑張るのよ」
と優子の肩を二度、ポンポンと叩いた。
「えっ。えっ」
と狼狽(うろた)える優子。
「じゃあ、この話題は取り敢えず、これでおしまい。ところで彫刻は選ばないの?」
「あ! そうでした」
と和葉は机に並ぶ美術品のレプリカを選び始めた。
「あった。これだわ」
とミケランジェロのダビデ像を縮小した四十センチほどの像を手に取った。
──2──
「よかった。あったわ」
と和葉は見つけたダビデ像を手に取った。
「前々から、ミケランジェロのこの作品は素晴らしいと思っていたわ」
と言うと、
「あら。あなた、なかなか見る目があるわね。ルネサンス時代を代表する名作ですからね。じゃあ、これを模写するのね」
「はい。もし、よかったら鉛筆と画用紙を貸して頂けませんか?」
岡本先輩は、
「もちろんよ! 他の二人もダビデ像でいいわね?」
と聞いた。
二人は「はい」と返事をすると、
「じゃあ、模写できるように場所を作るわね。すぐに出来るから待っててね。それと私は出ていくけど、この倉庫にいる間は物品をイタズラしないように」
「大丈夫です。絶対に触りませんから」
「分かったわ。じゃあ、待ってて」
と岡本先輩は倉庫から出ていった。
それを和葉は確認すると、
「お兄ちゃんと優子」
と二人にダビデ像を正面に向けた。
「なんだよ?」
「ちょっと、何よ?」
和葉が何をしたいのかまったく分からない二人は、少しキョトンとなった。そこに、
「見て。おちんちんよ」
と像のその部分を左手人差し指で撫でた。
「お! お前、最低だな!」
と竜馬は怒る気にもならない。
「どう、優子。おちんちんよ!」
と優子の顔の前に像を持っていった。
すると、
「私……。家族以外で初めて見た、おちんちんだわ……」
と頬を赤らめながらも、それを見つめた。
「優子。いい。これからこのダビデ像を、私達三人が凝視するのよ。紙に鉛筆を走らせるだけで」
和葉は一呼吸置いて、
「この、おちんちんは見放題よ!」
と少し高揚気味に和葉は言った。
「言い方!」と竜馬が突っ込んだところに、
「お待たせしました、お三人さん。準備が出来たのでどうぞ」
と岡本先輩が笑顔でやって来た。
岡本副部長を含めた四人は倉庫を出ると、美術教室の隅の方だが、ちゃんと三人の場所を作ってくれていた。
机の前に椅子があり、その左右に椅子が配置されていた。その椅子の上には古い画板が置かれ、画板には真っ白の画用紙と濃い目の鉛筆が挟まっている。
「人によっては必要でしょうから、鉛筆削りとナイフと予備の鉛筆を机の物入れに入れておいたから」
と岡本先輩は笑顔で言った。
「ありがとうございます」
と竜馬が少し照れながら言うと、
「まあ、照れちゃって可愛いわ。どう、美術部に入らない? 歓迎するわよ」
と竜馬の真ん前に立って微笑み、右手で竜馬の頬を撫でた。
「ちょ! 先輩!」
と驚いた竜馬を見ずに、岡本先輩は和葉と優子に目をやった。
和葉は、少しシラケたような表情をしている。
優子は「あ、あ、あ」と言いながら、少し震えていた。
「なるほど。そういう関係か」
と岡本先輩。
「顔の感じが似ているのと、書いてもらった名前の名字を見たら同じなので、あなた達二人は兄妹?」
「はい。そうですけど」
と気だるそうに答える和葉。
「二人共、一年生なのね。ということは双子なのね。それも二卵性の」
と言うと、和葉は少し驚いて、
「どうしてすぐに二卵性双生児って分かったんですか? みんな、どちらか訊いてくることが多いのに」
と和葉は不思議がった。
「一卵性双生児で男女で生まれてくることは、かなり稀なケースだからね」
「それ、余り知られていないのに、よくご存じですね」
と和葉。
「実は私、一卵性の双子なのよ。ほら、あそこに」
と指を指した先には、岡本先輩そっくりな女生徒が熱心に絵を描いていた。
「静かに絵を描いていたからまったく分からなかったわ」
と和葉。
「凄い! 本当にそっくり!」
と優子。
「先輩も双子だったんですね」
と竜馬。
「あっちは妹の明美よ。私達姉妹は絵を描くのが好きで、二人共美術部に入ったって訳」
と姉の岡本先輩は軽く手を上げた。するとそれに気づいた妹の岡本先輩も手を上げた。
「という理由で人よりもちょっとだけ双子には詳しいのよ。だから」
とまた、竜馬の近くに行き、今度は身体を寄せて、
「新屋敷竜馬君。部に入って欲しいけど、無理に入らなくてもいいから、時々ここに遊びに来てね」
と長身の竜馬を少し見上げるようにして言った。偶然かわざとかは分からなかったが、制服の上からでも分かるくらいの大きな胸を、姉の岡本先輩は竜馬の身体に押し付けた。
「あのう、先輩。私、絵を描きたいんですけど!」
と不機嫌そうに優子は言った。
「あら、ごめんなさい。お邪魔だったわね」
とクスリと笑うと、
「お三人さん、ではごゆっくり」
と去って行った。
「優子が上級生に対して、ケンカを売るところを初めて見たわ」
と和葉。
「ケンカなんて売ってないわよ!」
と優子。
「まあでも」
と和葉は続けた。
「お兄ちゃんがモテモテなのはよく分かったわ」
と竜馬を見た。
「何を言っているんだい。ただ単に上級生からからかわれているだけだから」
と竜馬。
和葉と優子は少し間を開けて、
「じゃあ、座って写生しましょうか」
「賛成。じゃあ、私はこの席」
と優子は真ん中に座った。
「優子が真ん中なの。仕方ないわね。私は壁際でいいわ」
と机から見て右に座った。
「じゃあ、僕はこっちに」
と絵を描いている人がいる側に、竜馬は座った。
「私、時々ダビデ像を手に取ることがあると思うけど許してよ」
と和葉。
「和葉。あなた、やけに熱心ね。分かったわ。私も一生懸命描くわ。勉強と体育では勝てないけど、絵くらいは勝ちたいものね」
と本気だということを表すように、腕まくりをした。
「いいわ。優子。受けて立ちましょう。もちろん、私は元々本気だけど」
と二人の熱のこもった写生対決が始まった。
「えっと……。まあ、いいか」
と何か言いたげだった竜馬だが、すぐに自分も写生を始めた。
しばらく三人は黙ったまま、絵を描くことに集中していた。
三十分経過したくらいに和葉が、
「お兄ちゃん、写生の具合はどう?」
と訊いた。
「ああ。一生懸命描いているけど」
と答えた。
そしてすぐに、
「お兄ちゃん、射精の具合はどう?」
と訊いた。
「だから、描(か)いているって言ってるだろう」
と答えると、
「まさか、マスをかいてないわよね? 描くのはダビデ像よ」
と和葉が言ったので、
「こら! お前は何を訊いているんだよ!」
と少し怒気を込めて突っ込んだ。
すると、
「マス? マスって何? ダビデ像と枡(ます)が何か関係してるの?」
と優子は不思議そうに言った。
思わず、竜馬と和葉は「え!」と言って、優子を注目した。
「ねえ、和葉。枡とダビデ像が何か関係があるの?」
と優子は和葉にしつこく理由を訊いた。
「優子。あなた、知らないの?」
困った顔を向けた。
「知らないのって。それって知らないとこれから困ることなの?」
としつこい。
「優子。教えてあげたいけど、説明をすると長くなるわ。今は写生に集中しましょう」
とダビデ像の方を向いた。
「もう。分かったわよ。でも後で教えてね」
と言い残して、優子も写生に取り組んだ。
「……どう説明する気だ?」
と竜馬はつぶやきながら、また写生を始めた。
しばらく三人は静かにスケッチしていたが、
「ちょっとごめんなさい」
と写生物のダビデ像を手に取って、
「すいません。五十センチくらいの物が測れる物差しってありますか?」
と岡本副部長に向かって言った。
「あるわよ。あなた、熱心ね。ちょっと待っててね」
とメジャーを持ってきた。
「これしかないんたけど、大丈夫?」
「はい。大丈夫です」
と言って、そのメジャーでダビデ像の身長から
足の長さや腕などを細かく、和葉は測った。そして測った数値を自分のノートの空白に書き込んで行った。
その数字を使って何かを計算しているようだった。そして今度は自分の手を測り始めた。
「和葉のやつ、一体何をやっているんだろう?」
と優子の向こうに座る妹を見つめた。
「あなたの妹さん、とても熱心ね」
と岡本副部長は感心しているようだったが、
「本当にそうなんですかね?」
と竜馬からしたら不安で仕方がない。
「あの顔は何かとんでもないことを考えているようにしか見えないんだけど」
と呟いた時だった。
「えっ! まさか! そうだったのね……」
と和葉は何かが分かったようだった。
──3──
「描き始めてから一時間くらいは経ったわ。途中でいいから見せてくれないかしら?」
と岡本副部長は言った。
「途中で見せるって少し恥ずかしいですね」
と竜馬。
「まあ、私はまあまあかな」
と優子。
「私はもう少しで完成ね」
と和葉。
「じゃあ、君。新屋敷竜馬君。見せてくれるかな?」
と座っている竜馬に、岡本副部長は屈むようにして顔を近づけて言った。
「あ。は、はい」
と少し動揺する竜馬。竜馬の横にいる優子はあからさまに不機嫌そうにする。
「えっと。これです」
と竜馬は岡本副部長と優子と和葉に見せた。
輪郭や陰影をある程度きちんと描かれており、ダビデ像の特徴をうまく捉えている絵だった。
「なかなかいいわよ。まだ、完成じゃないってことだから評価は良くないかもしれないけど、五段階で四はあげてもいい良作ね」
と岡本副部長は感心している。
「竜馬さん、上手……」
と優子は感心している。
「そんなに褒められると恥ずかしいです」
と竜馬は後ろ頭を掻くと、
「フフッ。照れる姿も可愛いわ」
と岡本副部長は少し屈んで、竜馬の右肩に豊かな胸を少し触れさせて、細い左腕を竜馬の背中から回し、真っ白な指の手のひらで、竜馬の頬を撫でた。
「ちょっと先輩」と慌てる竜馬。
「ごめんなさい。もう、君が可愛くて可愛くて仕方がないのよ」
「参ったなあ。もう」
と竜馬。
「あ。あのう、先輩。そういうのはやめて下さい」
と優子は軽く怒って見せた。
「そうね。少し興奮しちゃってやり過ぎちゃったわ。ごめんね、竜馬君」
と言いながら、竜馬の右の頬にキスでもするのではないか、と思うほど近づき呟いた。
「せ、先輩。ちょ、ちょっと。それに僕の肩にそのう。先輩の胸が当たっています」
と、どうしていいか分からないという様子である。
「気にしないで。君になら当たっててもいいの。それとも女性の胸が当たるのはお嫌かしら?」
と微笑んだ。
「そ、それは嫌じゃないですが、余りにスキンシップがあり過ぎるのもどうかと……」
と困っていると、
「先輩! もう、そのくらいで許してあげて下さい!」
と優子が強い口調で言った。すると、
「まあ!」と言いながら、今度は岡本副部長は優子に抱きついた。
「ちょっと、先輩!」
「あなたも可愛いわね。ぜひ、美術部に入って欲しいわ」
と言って抱きついたまま、なかなか離れない。
「お兄ちゃんに巨乳を押し当てる副部長。美人下級生に抱きついたまま離れないHカップ副部長」
そして、
「ちなみに抱きつかれている優子もHカップ。ダブルH」
と和葉はうんうんと納得しながら言った。
「そう言えば、あなたもHカップだったわね? どれどれ?」
と優子の豊かな胸の膨らみを鷲掴みにして、優しく揉んだ。
「あっ……。ちょっと……。先輩、やり過ぎです……」
と頬を赤らめる。すると、
「先輩。もう、そのくらいにしてあげて下さい。触りたいんだったら、僕を触って下さい」
と竜馬は岡本副部長の顔を見つめながら言った。
「……竜馬さん……」
「フフッ。あなたって優しいだけじゃなくて、ちゃんと『やめて』と言える人なのね。ますます、気に入ったわ」
と優子から離れた。
「ごめんなさいね。二人が余りに可愛いから、からかい過ぎたわ」
「いえ、分かって下さればいいんてす」
「それにしても」
と竜馬は静かにしている和葉を見た。
「和葉はやけに大人しいな」
と言うと、
「私は今回の写生は真剣なのよ。遊びじゃないのよ。岡本先輩もお兄ちゃんも優子も邪魔をしないでくれる」
と鉛筆を持った手が常に動いていた。
「ごめんなさい。邪魔をするつもりはないのよ。怒ってる?」
と和葉の後ろに立って両肩に手を置いた時だった。
「あなた! ええっと!」と一度、和葉から離れて名簿を確認した。
「新屋敷和葉さん! あなた、その作品は!」
と名前を呼びながら、また和葉の後ろに立った。
「その作品はまだ途中なの?」
「はい。でももう少しで完成ですけど」
「分かったわ。完成させてくれる?」
「はい。分かりました」
と周りの話し声に混じって、和葉の鉛筆が走る音が微かに聞こえた。
和葉は一度、大きく深呼吸をして、
「出来ました」
と顔を上げた。
つづく。
登場人物。
岡本響子(おかもときょうこ)
美術部二年生で副部長をしている。長い黒髪の美人。バストサイズはHカップ。一卵性双生児の姉で、明美という妹がいる。妹は髪をポニーテールにしている。
「胸が大きいって生活する上で大変なだけ」と和葉に語ったことがある。
岡本明美(おかもとあけみ)
美術部二年生。長い黒髪の美人だが、髪をポニーテールにしている。一卵性双生児の妹で、美術部副部長で響子という姉がいる。バストサイズは姉の響子と同じHカップ。
2022年11月12日20︰00更新。
※当サイトの内容、テキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。
また、まとめサイト等への引用をする場合は無断ではなく、こちらへお知らせ下さい。許可するかを判断致します。
東岡忠良(あずまおか・ただよし)
※この小説へのご意見・ご感想・誤字脱字・等がありましたら、お気軽にコメントして下さい。
お待ちしています。
──1──
美術教室が見えてくる。美術道具の倉庫もあるために、普通の教室の倍はあるが、実際に生徒が作業するのは、一つの教室になっている。
和葉は静かに扉をノックした。
「すいません。見学したいのですが構いませんか?」
と教室を覗いた。
「ええ。大丈夫よ。入って」
小柄な二年生の先輩が対応した。
「お兄ちゃん。優子。入りましょう」
と三人は仲良く教室内に入った。絵の具の臭いがしている。すでに十一人ほどがいて、道具と画用紙を用意していたり、すでに絵を模写していたり、お互いの似顔絵を描いたり、中には漫画を描いている者もいた。
「準備している人もいるけど、もう描き始めている人もいるのね」
と和葉はキョロキョロと室内を見ている。
「ええっと、入部希望者ってことでいいのかしら?」
長い黒髪で聡明そうな美人が話しかけてきた。
「ええっと、入部希望じゃないんです。一日体験がしたくて来ました」
と和葉は言った。
「まあ。大切な放課後の時間を私達の部のために使ってくれるのね。嬉しいわ」
と喜んでくれている。
「出来たら彫刻の模写をしたいんですけど」
と和葉。
「まあ、それは良い考えね」
と隣(とな)りの倉庫の扉を開けてくれた。
「どうぞ。ここから好きな像を持っていくといいわ」
と十点ほどが並んでいる。もちろん、すべて三〇から四〇センチくらいに縮小された物で、頭部から胸像そして身体全体の物と様々である。
「あ。ミロのヴィーナスがあるわ」
と和葉はそれを手に取った。それをしばらく見つめていると、
「お兄ちゃん」
「なんだよ?」
「良いおっぱいしてるわよ」
とミロのヴィーナスの縮小レプリカの胸を撫でた。
「和葉。真面目にやれよ」
と竜馬は言った。
「ちょっと、あなた! 美術品をそういう見方をするのは不謹慎よ」
とここまで案内をしてくれた黒髪美人の上級生が注意した。
「あ。すいません」
と素直に謝る和葉。
「まあ、いいわ。時々いるのよね。裸の美術品を見つけてはいやらしい反応をする人。これからは気をつけてね」
と簡単に許してくれた。
「ところで先輩は私達が美術品を選ぶまで、ここに居られるのですか?」
と和葉。
「もちろんよ。なんせ、過去に美術品の盗難があったらしくてね。あなた達三人がこの部屋から出るまで、見ないといけないのよ」
「そんなことがあったんですか」
と優子。
「それは酷いですね」
と竜馬。
「と言っても、この学校が創立して間もない頃の出来事だったみたいだけどね。今はそういうことは聞いたことがないわ。まあ、うっかり壊しちゃったってことはたまにあるけどね」
とロングの黒髪美人の先輩は話してくれた。
「それにしても」
とロングヘアーの美人先輩は、竜馬のすぐ近くまでやって来て、
「あなた、今年入った男子生徒よね。ちょっと失礼」
と竜馬の腕や足そして腰や肩を触り始めた。
「ちょ、ちょっとなんですか!」
と竜馬は一歩引いた。
「あ。ごめんなさい。申し遅れたわね。私は二年の岡本響子。美術部の副部長をやっているわ」
と言いながらも、竜馬の首と頬を撫でた。
「ちょっと、岡本先輩」
と竜馬は困惑気味である。
「筋肉質で長身で、そして顔もとてもいいわ。どう? 美術部に入らない? いや、もし入らなくてもいいから、モデルをやってみない?」
と竜馬に顔をギリギリまで近づけて言った。
「もしかして! モデルは裸ですか!」
と和葉は食いついた。
「あはは! さすがに高校ではそれは禁止されているわ」
「そうですか……」
とあからさまに残念そうに下を向いた。
「まあ、でも」
と岡本先輩は明るい口調で、
「学校指定の水着なら問題ないわよ!」
と楽しそうに言った。
「み! 水着! 竜馬さんの水着!」
と優子はすでに顔が赤い。
「岡本先輩! その場合は水着の股間の膨らみをクロッキーしてもいいんですか!」
と和葉は手を上げながら言った。
すると、岡本先輩は少し考えてから、
「モデルさんがOKしてくれたら、いいんじゃないかしら」
と答えた。すると、
「お兄ちゃん! もう、彫刻の模写はやめたわ。お兄ちゃんの水着姿の模写をするわ! 岡本先輩、水着がありますか?」
と凄い勢いで詰め寄った。
岡本先輩は和葉の勢いに押されて半歩下がり、
「ごめんなさい。男子用の水着はないわね。なんせ、昨年まではこの学校は女子校だったからね」
と微笑みながら言った。
「そうだった……」
と明らかに和葉は肩を落とした。
「去年まで女子校ってことで、困るのは男子生徒限定だと思っていたのに、こんな形で女子生徒が困ることになるなんて思いもよらなかったわ……」
と俯いた。
「まあ、代わりと言ってはなんだけど」
と岡本先輩は少しホコリの被った段ボール箱を持って来て開けた。
「女性用の水着は沢山用意してあるのよ。よかったら、あなたがモデルをやってみない?」
と紺色のワンビースの水着を取り出した。
和葉はあからさまに嫌そうな表情になり、少し黙っていたが、
「それは無理です。なんせ、私」
と一呼吸置いて、
「Gカップですから。そんなサイズの合わない水着は入りません。なんせ、Gカップなので」
と二回言った。
すると岡本先輩は、
「大丈夫よ。このスクール水着は思いの外、伸びるから」
と勧めてくる。
「私、胸が苦しくなるのは嫌なんです、先輩。なんせ、Gカップなので」
とまた言ったが、
「大丈夫よ。だって私、この水着を着てモデルをやったことが何度かあるから」
「岡本先輩が?」
「そうよ。確かに快適とは言えないかもだけど、Gカップくらいじゃ問題ないはずよ。Hカップの私が言うのだから間違いないわ」
と岡本先輩は胸を張った。
「えっ! 岡本先輩ってHカップもあるのですか!」
「そうよ。でも胸が大きいって生活する上で大変なだけだけどね」
と残念そうに言った。
「先輩!」と和葉は顔をくっつきそうなくらいに近づけた。
「な! 何かしら?」
「胸が大きいことは女性に取ってはとても大切なことです!」
「えっ! そうかしら?」
「そうです!」
「そ、そう。ありがとう……」
と和葉の勢いに押されていた。
「ちなみに、ここにいる優子もHカップです」
と余計な情報を話した。
「ちょ! 何でいつもいつも胸の話をするたびに、私のサイズを教えるのよ!」
と優子は和葉を怒った。
「優子のサイズだけじゃなくって、私のサイズも教えたけど?」
と返すと、
「和葉だけのサイズでいいじゃないの!」
と突っ込んだ。
「まあまあ、そんなに言い合いをしないで。女同士で胸の大きさを競う話をしたってしょうがないでしょう」
と岡本先輩。
「わっ! 私、別に競ってないです!」
と優子は岡本先輩に言った。
「それにそんなに取り乱して。彼氏さんが驚いてしまっているわよ」
と岡本先輩は竜馬の肩に手を載せた。
「えっ……。そ、そんな……。竜馬さんのことを彼氏さんだなんて……」
と優子は頬を赤くして、もじもじとし始めた。
「あらまあ。ふ~ん」
と岡本先輩は優子と竜馬を交互に見つめた。
そして、
「あなた。頑張るのよ」
と優子の肩を二度、ポンポンと叩いた。
「えっ。えっ」
と狼狽(うろた)える優子。
「じゃあ、この話題は取り敢えず、これでおしまい。ところで彫刻は選ばないの?」
「あ! そうでした」
と和葉は机に並ぶ美術品のレプリカを選び始めた。
「あった。これだわ」
とミケランジェロのダビデ像を縮小した四十センチほどの像を手に取った。
──2──
「よかった。あったわ」
と和葉は見つけたダビデ像を手に取った。
「前々から、ミケランジェロのこの作品は素晴らしいと思っていたわ」
と言うと、
「あら。あなた、なかなか見る目があるわね。ルネサンス時代を代表する名作ですからね。じゃあ、これを模写するのね」
「はい。もし、よかったら鉛筆と画用紙を貸して頂けませんか?」
岡本先輩は、
「もちろんよ! 他の二人もダビデ像でいいわね?」
と聞いた。
二人は「はい」と返事をすると、
「じゃあ、模写できるように場所を作るわね。すぐに出来るから待っててね。それと私は出ていくけど、この倉庫にいる間は物品をイタズラしないように」
「大丈夫です。絶対に触りませんから」
「分かったわ。じゃあ、待ってて」
と岡本先輩は倉庫から出ていった。
それを和葉は確認すると、
「お兄ちゃんと優子」
と二人にダビデ像を正面に向けた。
「なんだよ?」
「ちょっと、何よ?」
和葉が何をしたいのかまったく分からない二人は、少しキョトンとなった。そこに、
「見て。おちんちんよ」
と像のその部分を左手人差し指で撫でた。
「お! お前、最低だな!」
と竜馬は怒る気にもならない。
「どう、優子。おちんちんよ!」
と優子の顔の前に像を持っていった。
すると、
「私……。家族以外で初めて見た、おちんちんだわ……」
と頬を赤らめながらも、それを見つめた。
「優子。いい。これからこのダビデ像を、私達三人が凝視するのよ。紙に鉛筆を走らせるだけで」
和葉は一呼吸置いて、
「この、おちんちんは見放題よ!」
と少し高揚気味に和葉は言った。
「言い方!」と竜馬が突っ込んだところに、
「お待たせしました、お三人さん。準備が出来たのでどうぞ」
と岡本先輩が笑顔でやって来た。
岡本副部長を含めた四人は倉庫を出ると、美術教室の隅の方だが、ちゃんと三人の場所を作ってくれていた。
机の前に椅子があり、その左右に椅子が配置されていた。その椅子の上には古い画板が置かれ、画板には真っ白の画用紙と濃い目の鉛筆が挟まっている。
「人によっては必要でしょうから、鉛筆削りとナイフと予備の鉛筆を机の物入れに入れておいたから」
と岡本先輩は笑顔で言った。
「ありがとうございます」
と竜馬が少し照れながら言うと、
「まあ、照れちゃって可愛いわ。どう、美術部に入らない? 歓迎するわよ」
と竜馬の真ん前に立って微笑み、右手で竜馬の頬を撫でた。
「ちょ! 先輩!」
と驚いた竜馬を見ずに、岡本先輩は和葉と優子に目をやった。
和葉は、少しシラケたような表情をしている。
優子は「あ、あ、あ」と言いながら、少し震えていた。
「なるほど。そういう関係か」
と岡本先輩。
「顔の感じが似ているのと、書いてもらった名前の名字を見たら同じなので、あなた達二人は兄妹?」
「はい。そうですけど」
と気だるそうに答える和葉。
「二人共、一年生なのね。ということは双子なのね。それも二卵性の」
と言うと、和葉は少し驚いて、
「どうしてすぐに二卵性双生児って分かったんですか? みんな、どちらか訊いてくることが多いのに」
と和葉は不思議がった。
「一卵性双生児で男女で生まれてくることは、かなり稀なケースだからね」
「それ、余り知られていないのに、よくご存じですね」
と和葉。
「実は私、一卵性の双子なのよ。ほら、あそこに」
と指を指した先には、岡本先輩そっくりな女生徒が熱心に絵を描いていた。
「静かに絵を描いていたからまったく分からなかったわ」
と和葉。
「凄い! 本当にそっくり!」
と優子。
「先輩も双子だったんですね」
と竜馬。
「あっちは妹の明美よ。私達姉妹は絵を描くのが好きで、二人共美術部に入ったって訳」
と姉の岡本先輩は軽く手を上げた。するとそれに気づいた妹の岡本先輩も手を上げた。
「という理由で人よりもちょっとだけ双子には詳しいのよ。だから」
とまた、竜馬の近くに行き、今度は身体を寄せて、
「新屋敷竜馬君。部に入って欲しいけど、無理に入らなくてもいいから、時々ここに遊びに来てね」
と長身の竜馬を少し見上げるようにして言った。偶然かわざとかは分からなかったが、制服の上からでも分かるくらいの大きな胸を、姉の岡本先輩は竜馬の身体に押し付けた。
「あのう、先輩。私、絵を描きたいんですけど!」
と不機嫌そうに優子は言った。
「あら、ごめんなさい。お邪魔だったわね」
とクスリと笑うと、
「お三人さん、ではごゆっくり」
と去って行った。
「優子が上級生に対して、ケンカを売るところを初めて見たわ」
と和葉。
「ケンカなんて売ってないわよ!」
と優子。
「まあでも」
と和葉は続けた。
「お兄ちゃんがモテモテなのはよく分かったわ」
と竜馬を見た。
「何を言っているんだい。ただ単に上級生からからかわれているだけだから」
と竜馬。
和葉と優子は少し間を開けて、
「じゃあ、座って写生しましょうか」
「賛成。じゃあ、私はこの席」
と優子は真ん中に座った。
「優子が真ん中なの。仕方ないわね。私は壁際でいいわ」
と机から見て右に座った。
「じゃあ、僕はこっちに」
と絵を描いている人がいる側に、竜馬は座った。
「私、時々ダビデ像を手に取ることがあると思うけど許してよ」
と和葉。
「和葉。あなた、やけに熱心ね。分かったわ。私も一生懸命描くわ。勉強と体育では勝てないけど、絵くらいは勝ちたいものね」
と本気だということを表すように、腕まくりをした。
「いいわ。優子。受けて立ちましょう。もちろん、私は元々本気だけど」
と二人の熱のこもった写生対決が始まった。
「えっと……。まあ、いいか」
と何か言いたげだった竜馬だが、すぐに自分も写生を始めた。
しばらく三人は黙ったまま、絵を描くことに集中していた。
三十分経過したくらいに和葉が、
「お兄ちゃん、写生の具合はどう?」
と訊いた。
「ああ。一生懸命描いているけど」
と答えた。
そしてすぐに、
「お兄ちゃん、射精の具合はどう?」
と訊いた。
「だから、描(か)いているって言ってるだろう」
と答えると、
「まさか、マスをかいてないわよね? 描くのはダビデ像よ」
と和葉が言ったので、
「こら! お前は何を訊いているんだよ!」
と少し怒気を込めて突っ込んだ。
すると、
「マス? マスって何? ダビデ像と枡(ます)が何か関係してるの?」
と優子は不思議そうに言った。
思わず、竜馬と和葉は「え!」と言って、優子を注目した。
「ねえ、和葉。枡とダビデ像が何か関係があるの?」
と優子は和葉にしつこく理由を訊いた。
「優子。あなた、知らないの?」
困った顔を向けた。
「知らないのって。それって知らないとこれから困ることなの?」
としつこい。
「優子。教えてあげたいけど、説明をすると長くなるわ。今は写生に集中しましょう」
とダビデ像の方を向いた。
「もう。分かったわよ。でも後で教えてね」
と言い残して、優子も写生に取り組んだ。
「……どう説明する気だ?」
と竜馬はつぶやきながら、また写生を始めた。
しばらく三人は静かにスケッチしていたが、
「ちょっとごめんなさい」
と写生物のダビデ像を手に取って、
「すいません。五十センチくらいの物が測れる物差しってありますか?」
と岡本副部長に向かって言った。
「あるわよ。あなた、熱心ね。ちょっと待っててね」
とメジャーを持ってきた。
「これしかないんたけど、大丈夫?」
「はい。大丈夫です」
と言って、そのメジャーでダビデ像の身長から
足の長さや腕などを細かく、和葉は測った。そして測った数値を自分のノートの空白に書き込んで行った。
その数字を使って何かを計算しているようだった。そして今度は自分の手を測り始めた。
「和葉のやつ、一体何をやっているんだろう?」
と優子の向こうに座る妹を見つめた。
「あなたの妹さん、とても熱心ね」
と岡本副部長は感心しているようだったが、
「本当にそうなんですかね?」
と竜馬からしたら不安で仕方がない。
「あの顔は何かとんでもないことを考えているようにしか見えないんだけど」
と呟いた時だった。
「えっ! まさか! そうだったのね……」
と和葉は何かが分かったようだった。
──3──
「描き始めてから一時間くらいは経ったわ。途中でいいから見せてくれないかしら?」
と岡本副部長は言った。
「途中で見せるって少し恥ずかしいですね」
と竜馬。
「まあ、私はまあまあかな」
と優子。
「私はもう少しで完成ね」
と和葉。
「じゃあ、君。新屋敷竜馬君。見せてくれるかな?」
と座っている竜馬に、岡本副部長は屈むようにして顔を近づけて言った。
「あ。は、はい」
と少し動揺する竜馬。竜馬の横にいる優子はあからさまに不機嫌そうにする。
「えっと。これです」
と竜馬は岡本副部長と優子と和葉に見せた。
輪郭や陰影をある程度きちんと描かれており、ダビデ像の特徴をうまく捉えている絵だった。
「なかなかいいわよ。まだ、完成じゃないってことだから評価は良くないかもしれないけど、五段階で四はあげてもいい良作ね」
と岡本副部長は感心している。
「竜馬さん、上手……」
と優子は感心している。
「そんなに褒められると恥ずかしいです」
と竜馬は後ろ頭を掻くと、
「フフッ。照れる姿も可愛いわ」
と岡本副部長は少し屈んで、竜馬の右肩に豊かな胸を少し触れさせて、細い左腕を竜馬の背中から回し、真っ白な指の手のひらで、竜馬の頬を撫でた。
「ちょっと先輩」と慌てる竜馬。
「ごめんなさい。もう、君が可愛くて可愛くて仕方がないのよ」
「参ったなあ。もう」
と竜馬。
「あ。あのう、先輩。そういうのはやめて下さい」
と優子は軽く怒って見せた。
「そうね。少し興奮しちゃってやり過ぎちゃったわ。ごめんね、竜馬君」
と言いながら、竜馬の右の頬にキスでもするのではないか、と思うほど近づき呟いた。
「せ、先輩。ちょ、ちょっと。それに僕の肩にそのう。先輩の胸が当たっています」
と、どうしていいか分からないという様子である。
「気にしないで。君になら当たっててもいいの。それとも女性の胸が当たるのはお嫌かしら?」
と微笑んだ。
「そ、それは嫌じゃないですが、余りにスキンシップがあり過ぎるのもどうかと……」
と困っていると、
「先輩! もう、そのくらいで許してあげて下さい!」
と優子が強い口調で言った。すると、
「まあ!」と言いながら、今度は岡本副部長は優子に抱きついた。
「ちょっと、先輩!」
「あなたも可愛いわね。ぜひ、美術部に入って欲しいわ」
と言って抱きついたまま、なかなか離れない。
「お兄ちゃんに巨乳を押し当てる副部長。美人下級生に抱きついたまま離れないHカップ副部長」
そして、
「ちなみに抱きつかれている優子もHカップ。ダブルH」
と和葉はうんうんと納得しながら言った。
「そう言えば、あなたもHカップだったわね? どれどれ?」
と優子の豊かな胸の膨らみを鷲掴みにして、優しく揉んだ。
「あっ……。ちょっと……。先輩、やり過ぎです……」
と頬を赤らめる。すると、
「先輩。もう、そのくらいにしてあげて下さい。触りたいんだったら、僕を触って下さい」
と竜馬は岡本副部長の顔を見つめながら言った。
「……竜馬さん……」
「フフッ。あなたって優しいだけじゃなくて、ちゃんと『やめて』と言える人なのね。ますます、気に入ったわ」
と優子から離れた。
「ごめんなさいね。二人が余りに可愛いから、からかい過ぎたわ」
「いえ、分かって下さればいいんてす」
「それにしても」
と竜馬は静かにしている和葉を見た。
「和葉はやけに大人しいな」
と言うと、
「私は今回の写生は真剣なのよ。遊びじゃないのよ。岡本先輩もお兄ちゃんも優子も邪魔をしないでくれる」
と鉛筆を持った手が常に動いていた。
「ごめんなさい。邪魔をするつもりはないのよ。怒ってる?」
と和葉の後ろに立って両肩に手を置いた時だった。
「あなた! ええっと!」と一度、和葉から離れて名簿を確認した。
「新屋敷和葉さん! あなた、その作品は!」
と名前を呼びながら、また和葉の後ろに立った。
「その作品はまだ途中なの?」
「はい。でももう少しで完成ですけど」
「分かったわ。完成させてくれる?」
「はい。分かりました」
と周りの話し声に混じって、和葉の鉛筆が走る音が微かに聞こえた。
和葉は一度、大きく深呼吸をして、
「出来ました」
と顔を上げた。
つづく。
登場人物。
岡本響子(おかもときょうこ)
美術部二年生で副部長をしている。長い黒髪の美人。バストサイズはHカップ。一卵性双生児の姉で、明美という妹がいる。妹は髪をポニーテールにしている。
「胸が大きいって生活する上で大変なだけ」と和葉に語ったことがある。
岡本明美(おかもとあけみ)
美術部二年生。長い黒髪の美人だが、髪をポニーテールにしている。一卵性双生児の妹で、美術部副部長で響子という姉がいる。バストサイズは姉の響子と同じHカップ。
2022年11月12日20︰00更新。
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