上 下
17 / 40

【16】和葉。ソフトボールの説明を、優子に「裸でソフトクリームを溶かす競技だ」とウソつく。

しおりを挟む
双子の妹の保護者として、今年から共学になった女子高へ通う兄の話


      東岡忠良(あずまおか・ただよし)

※この小説へのご意見・ご感想・誤字脱字・等がありましたら、お気軽にコメントして下さい。
 お待ちしています。

──1──

 結局、新屋敷竜馬と妹の和葉、そして相生優子の三人は、文化祭や発表会、コンテストなどの舞台がある時にだけ、演劇部に参加する『仮入部』を済ませた。
 舞台のある体育館を出て行きながら、明日の話になった。
「今日はとても楽しかったよ。誘ってくれてありがとう。僕は明日は料理部の見学に行こうと思っているんだ」
 と一組の園田春樹は目を輝かせながら話した。
「春樹は元々料理部に入る予定だったのに、演劇部の見学について来てもらってよかったのかな?」
 と竜馬は申し訳なさそうにした。
「いいんだよ。というか、むしろありがたかったよ。前々から演劇部は楽しそうとは思っていたし、こんな僕でも演技が上手いだなんて、お世辞だと分かっていても嬉しかったし」
 と照れた。
「春樹は本当に上手かったよ。僕が見たオーディション参加者の中でも、五本の指に入る上手さだったし」
 と竜馬は左手の五本の指を広げて見せた。
「そうだよね~。男子では園田君が一番上手かったかもだね~」
 と小夏。
「男子ではって、僕と春樹しか出ていないんですけど」
 と竜馬は小夏にいたずらっぽく言った。
 小夏は笑顔で、
「竜ちゃんもどちらかと言えば、上手い方だよね~。それに背が一八〇センチもあるから、舞台では輝いて見えたよね~」
 と小夏はフォロー気味に言った。
「舞台出演が決まったら、必ず教えて下さいね。私、必ず見に行きます」
 と薫は楽しみを見つけたかのようである。
「ところで誰か、明日はどうしても見学したい部活はあるのかな?」
 と竜馬。
「僕は予定通りに料理部を覗いてみるよ」
 と春樹。
「私は明日から陸上部なんだよね~。これからほとんど休みなしなんだよね~。残念でもあり、期待大って感じかな~」
 と小夏。
「私は明日は家の事情で授業が終わり次第、早く帰らないといけないんです」
 と薫。
「つまり、明日、暇なのは私とお兄ちゃんと優子だけなのね」
 と和葉。
「ちょっと、暇って何よ! 失礼しちゃうわね」
 と優子が頬を膨らませた。
「僕はソフトボール部を見学しようと思ったんだけど、やめたんだ」
「え! どうして?」
 と春樹が訊いた。
「一緒にプレイしようと思っていたんだけど、男子は女子に混じって練習試合は出来ても、公式戦には出られないって言われてさ」
 と竜馬は落胆気味に言った。
「お兄ちゃん」
「? 何?」
「女子に混じる、というワードをお兄ちゃんが言うと、なんだか飛び抜けてエッチだわ」
「え! 何を言ってるんだよ!」
 と竜馬。
「ソフトボール? 名前は聞いたことあるけど、どんな競技なのかしら?」
 と優子は竜馬の側まで近づいて聞いた。
「それは……」と竜馬が答えようとした横から、
「それはね。男子は女子に混じっての公式試合出場は出来ない。つまり!」
 と和葉は語った。
「ソフトボールっていう競技はね。九人が裸になって身体を擦り合わせて、ソフトクリームを早く溶かしてボール状にした方が勝ちというスポーツなのよ」
 と説明した。すると、
「ええ! そんなスポーツがあるの! でもそれって終わったら身体がベトベトにならない?」
 と真面目に優子が言ったので、和葉は「プッ」と優子から顔を背けた。
「あのう。優子さん」
 と竜馬が和葉を呆れ気味に見てから、優子にきちんと説明しようとしたが、
「ちょっと待って! 練習試合の時は、裸の女の子八人の中に、裸の竜馬さんが混じって、お互いの身体を擦り合わせるってこと!」
 と顔が徐々に真っ赤になっていった。
「あのう……。優子さん……」
 と竜馬は本当の事を教えようとしたが、優子の妄想は止まらない。
「そ! それって! もしかして竜馬さんも、は、裸なの?」
 すると和葉はここぞとばかりに、
「男子は少し不利なのよ。なんせ、女子同士だとおっぱいとおっぱいを激しく擦り合わせられるから、特に高い熱が出せるのよ。だから、優子のようにおっぱいの大きい女性は選手に向いているわね」
 と特に真面目な口調で言った。
「そうなの!」
 と優子は言うと、
「竜馬さんが見学に行くなら……。その私も行ってみようかな……。恥ずかしいけどその、おっぱいが大きい女性が選手向きなのよね……」
 と真剣な表情で横の竜馬を見つめた。
「優子さん、ウソですから」
 と竜馬。
「え! ソフトボール部に見学に行くというのがウソなの?」
「いえ。和葉が言ったソフトボールの競技内容です」
「……え? あのう……。確認していいかしら? どこからどこまでが本当の事なの?」
「競技人数が九人以外は全部ウソよ。大体、裸でお互いの身体を擦り合わせるスポーツなんて、ある訳ないでしょう」
 と和葉は呆れ気味に言った。
「だ! だって! 相撲とかプロレスとかあるじゃないの!」
「相撲とプロレスって組み合っているだけであって、お互いの身体を擦り合わせている訳じゃないと思いますよ」
 と薫は指摘した。
「じゃあ、おっぱいが大きい女性が選手向きっていうのもウソ?」
「優子ちゃん、この世におっぱいが大きくて有利なスポーツなんてある訳ないよ~。基本的にスポーツって走らないといけないから、大きなおっぱいなんて逆に不利なんだよね~」
 としみじみと小夏は言った。
「か! ず! は~! あんな、また私を騙したわね~!」
 と優子は怒り心頭である。
「ごめん、ごめん。だってソフトボールを知らないなんて、信じられなかったんだもの」
 と和葉。
「ま、まあ。学校よっては授業でやらないスポーツもあるんじゃないかな」
 と竜馬は言った。
 怒った表情をしながらも、ソフトボールをなぜ知らないかを上手く説明出来ない優子は、段々と暗い表情になっていったが、
「そんなに暗い顔をしないの。いいお尻とおっぱいをしているんだから」
 と和葉は優子の背後に立って、お尻を触り、胸を鷲掴みにした。
「キャッ! くすぐったい! 何するのよ!」
 と和葉に怒った。
「こんなに大きな物を胸に付けていたら、そりゃ体育も苦手になるでしょうよ」
 と和葉はまだ、優子の胸を触っている。
「ちょっと、和葉、しつこい!」
 と言って、
「そういう、和葉だってそんなに変わらないじゃないの!」
 と和葉の胸を掴んだ。
 このこのこの!
 と和葉と優子はお互いの胸を触りあう。
「陸上競技って特にそうですよね。胸が邪魔で」
 と歩いている薫は制服がはち切れそうな大きな胸を揺らしながら言った。
「と言っている薫ちゃんって、体育のランニングでも結構速い方だよね」
 と優子の胸の手を止めて和葉は言った。
「和葉さんほどじゃないですけど、運動は得意なんです。幼稚園から小学校までは、体格もみんなと変わらなかったので、これでも足は速い方だったんですよ」
 そして薫は自分の胸に手を当てながら、
「小学校六年くらいから背は伸びないのに、段々と胸が大きくなってきて。背も伸びて欲しかったんですけど、なぜか胸ばかり大きくなっちゃって」
 と苦笑した。
「あのう!」
 と竜馬が大きな声を出した。
「ここに男子生徒が二人もいるので、出来たら女性の胸の話は控えて欲しいんですけど?」
 と顔を赤らめながら言った。見ると、春樹は顔も耳も真っ赤である。
「あっ! ごめんなさい。そんなつもりじゃなかったの」
 と瀬川薫は慌てた。
「お兄ちゃん!」
 と和葉は竜馬に顔を近づけた。
「な、なんだよ?」
「それは逆よ! 男子生徒が二人もいるから、おっぱいの話をしているのが分からないの? 空気、読んでよ」
 と和葉は怒り気味に言った。
「わ! 私、そんなつもりじゃないてすよ!」
 と薫も頬が真っ赤になった。
「おっぱいの話をしてお兄ちゃんと春樹君の反応を見るのが、私達の楽しみなんだから」
 と和葉が言うと、
「ちょ! 私達って言わないでよ!」
 と優子も真っ赤になりながら拒否した。
「わ! 私もです!」
 と薫。
「まあ、私は竜ちゃんと春樹君ならギリギリOKかな~。二人共、なんだかんだ言っても真面目だしね。特に竜ちゃんは昔から知っているし~」
 と微笑みながら小夏は言った。
「そうね。二人共、とても真面目だものね。もう春樹君も私達と仲良くなったと思うから、私達がおっぱいの情報を二人に提供するから、お兄ちゃんと春樹君はおちんちんの情報を、私達に教えて欲しいわ」
 と和葉は真面目な表情で言った。
「おっ! おちんちん!」
 と優子と薫は同時に声が出た。
「おちんちんかあ~。小学校低学年までは、竜ちゃんと和ちゃんと三人で、時々一緒にお風呂に入っていたよね~」
 と小夏はいたずらっぽく笑った。
「そうよね。あの時は私、お兄ちゃんのおちんちんをしっかりと横目で観察させてもらっていたわ」
 と和葉。
「しっかりと横目で観察って。それってしっかり見ていないんじゃあ」
 と薫。
「だって『私にはついていないから、しっかり見せて!』って何度もお願いしたけど、『エッチなのはダメ!』ときっぱり拒否されたのよ。酷くない!」
 と和葉は被害者面をした。
「そんなの当たり前だろ!」
 と竜馬。
「そう言えば、和ちゃん、時々言っていたよね~。『おちんちん、見せて』って」
 と小夏は懐かしそうな表情をした。
「幼稚園から小学校までは、お兄ちゃんはとても小柄で、私達三人の中で一番小さかったんだけど」
「えっ? 竜馬さんって小学生までは小さかったの! それって可愛かったんじゃあ」
 と優子が食いついた。
「お兄ちゃん、小柄な上に散髪が嫌いで肩まで髪を伸ばしていた事が多かったから、よく女の子に間違われていたよね」
 と和葉。
「そうそう。逆に私は大柄で髪を今よりもっとショートにしていたから、よく男の子に間違われてさ~」
 と小夏も懐かしむ。
「ところがよ!」
 と和葉は続ける。
「お兄ちゃんは身体は小さかったのに、おちんちんだけは他の男の子達よりも大きかったんだよね。だからよく見せてもらいたかったのよね」
 と、この世にこれ程後悔する事はないような言い方をした。
「言われてみれば、確かに大きかったね~」
 と小夏も続いた。
「和葉も小夏もどこを見ているんだよ」
 と怒気を込めながら苦笑する竜馬。
「だから今のおちんちんの大きさを機会があったら教えてね。なんならサイズを測らせてくれてもいいわ」
 と和葉は竜馬に顔を近づけて言った。
「そんなの、教える訳がないだろ!」
「仕方ないわね。なら春樹君。きっと二人ならこれから一緒に水着に着替えたり、お風呂に入ったりする事があると思うから、その時はお兄ちゃんのおちんちんをしっかりと観察して、私達に報告してね」
 と期待を込めて、和葉は春樹を見つめた。
「ボ、ボク、そんなこと、出来ないよ」
 と赤面しながら拒否をした。
「もちろん、無報酬という訳にはいかないから、そうね。優子のおっぱいを三回揉むので手を打つわ」
「な! 何で私の胸なのよ!」
 と優子。
「ボク、竜馬君のおちんちんも見ないようにするし、女の子のおっぱいも触らなくていいよ」
 としっかりと拒否した。
「春樹。お前はやっぱり、いいヤツだよな」
 と竜馬は春樹の肩を抱いた。
「ふ~ん。そうなのね。つまり交渉決別ってことね」
 と和葉は言うと、
「分かった! なら明日は私とお兄ちゃんと優子で、美術部の一日体験に行くわよ!」
 と宣言した。
 美術部!
 とみんなの声が合った。
「美術部で一体、何をするつもりなんだ?」
 竜馬は不安になった。
  
──2──

 次の日の放課後、
「じゃあ、僕は料理部に行ってくるよ」
 と園田春樹と別れた。
「あ。小夏ちゃんはもう、グランドでストレッチをしているわ」
 と窓から手を大きく振った。川上小夏も和葉に気づいたようで、
「和ちゃ~ん!」
 と大声で答えた。
「相変わらず、小夏は元気だよな」
 と竜馬も窓から手を振った。
「竜ちゃ~ん!」
 と竜馬にも応えてくれた。
「じゃあ、皆さん、私はこれで」
 と軽く手を上げて瀬川薫は去って行った。
「家の用事って事だけど、一体何をやっているのかしらね?」
 と相生優子は腕を組んで考えている。
「プライベートは探索しちゃいけないわ」
 と新屋敷和葉。
「確かにそうだよな。まあ、でも僕は中一の時に同じクラスだったから、知っているんだけど」
 と新屋敷竜馬は言った。
「え? もしかして和葉も知っているの?」
 と優子は和葉を見た。
「知っているわよ。薫と仲良くなった日に、お兄ちゃんから教えてもらったから」
「え。それってもしかして、私だけ知らないの……」
 と優子は悲しそうな表情に変わった。
「別に優子だけが知らない訳じゃないわよ。春樹君も小夏も知らないから」
「でも、同じクラスなのに友達で知らないのは、私だけでしょう……」
 と下を向いた。
「優子。あなた、結構面倒臭いわね」
 と和葉が言うと、
「分かったよ。教えるよ。でも本当は薫さん自身から教えてもらう方がいいと思うんだけどね」
 と竜馬は言い、
「薫さんの家は老舗の温泉旅館なんだ。老舗と言ってもそんなに大きくはないんだけど、人気の宿みたいなんだ。お祖父さんとお祖母さん。ご両親とお兄さんとお姉さんだったかな? 主にはその六人と従業員の方達で旅館を回しているらしいんだ」
 と知っている事を説明した。
「へえ~。そうだったのね。うん? ちょっと待って。主に六人と従業員の人達に薫は入ってないの? なら何で早く帰るんだろう?」
 と優子は疑問に思った。
「その質問、私もしたわ」
 と和葉。
「薫さんには五歳の弟と二歳の妹がいるのよ。薫はその子供達の子守なんだって」
「なるほど。そういうことだったのね」
 と優子は納得しながら、
「私には十歳、年が離れている兄がいるけど、弟や妹って可愛いんでしょうね」
 と言ったから、和葉がそれに反応した。
「優子ってお兄さんがいるの?」
 と驚いていた。
「ええ。居るわよ」
 和葉は少し考えて、
「だからなのね。なんとなくお兄ちゃんと上手くやっているな、と思っていたのよ」
 と言うと、
「そう? 私、竜馬さんと上手くやってるかなあ?」
 と照れた。
「そうだったんだね。僕はてっきり優子さんは一人っ子だとばかり思っていたよ」
 と竜馬。
「と言っても仕事をしているから、年に数回しか会わないけどね」
 と少し寂しそうに言った。
「優子のお兄さんって、どんな感じなの? 画像とかある?」
 と和葉は興味津々である。
「あるわよ。確かスマホに……」
 と取り出したスマホを少し触ると、
「あった。はい、どうぞ」
 と和葉に見せた。
「へえ~。これはなかなかな男性ね」
「え。そうなの。僕も見ていいかな?」
「どうぞ」
 と竜馬の方にスマホを向けた。
 そこには兄妹だとすぐに分かるくらいに、優子に似た青年が写っていた。美人の優子にそっくりという事は、美少年がそのまま青年になったような優雅さがあった。
「お兄さん、とても優しそうで素敵だね。それにとても女性にモテそうだよね。僕とは全然違うな」
 と竜馬は特に深い意味もなく言ったが、
「そんなことないよ! 竜馬さんも素敵よ!」
 と優子は竜馬に顔を近づけた。
「いやいや、僕なんて全然モテないし。告白されたのだって中三の時の一回だけだし。だけど結局、上手く行かなかったし……。バレンタインデーだってくれたのは、その子と小夏と和葉とお母さんだけだし……。もちろん、義理だし……」
 と段々と下を向いてしまった。
「お兄ちゃん、いつも思うけど恋愛の話になったら、何でそんなに自信を失っちゃうの?」
 と和葉。
「そりゃ、和葉はモテモテだから分からないんだよ。中学時代に何回か告白されていただろう」
 と竜馬は言った。
「え! 和葉って告白されたことがあるの! それも何回も!」
 と優子は驚いている。
「あるわよ。もう、回数は忘れたけど。もちろん、全部断ったわ。中学時代は告白してきた男子生徒達には申し訳なかったけど、この如月高校に何としても合格するために、恋愛どころじゃなかったのよ」
 と言うと、
「えっ? でもそれっておかしくない? 和葉はトップ合格だったでしょう。なのにそんなにギリギリだったの?」
 と優子が不思議がると、
「私は余裕で合格出来たんだけど、どうしてもお兄ちゃんと一緒に如月に通いたかったのよ。でもお兄ちゃんの学力がどうしても足らなくてね」
「それでどうしたの?」
「空き時間のほとんどをお兄ちゃんを教える時間に当てたのよ。これがなかなか大変だったわ」
「そうなの?」
 と優子は竜馬を見た。
「うん……。そうなんだ。そのおかげで如月学園に入れたけど、中学三年の時はほとんど自由時間がなくてさ……」
「お兄ちゃん、どうしてもギリギリまで野球がしたいって言って、中三一学期まで夜遅くまで野球漬けだったものね。まあ、気持ちは分かるけど……。如月学園には野球部がないからね」
「まあでも、こうして無事に如月に合格出来たのは、和葉のおかげだから、感謝しているよ」
 と良い話のように、竜馬は持っていったが、
「お兄ちゃんが本気で勉強をするようになったきっかけって、合格したらお小遣い二倍にするのと、ゲーミングパソコンを買ってもらえるってなった時よね」
 と和葉は少し呆れながら言った。

──3──

「ちょ! それを優子さんの前で言わなくてもいいじゃないか!」
「ダメよ。優子にはしっかりとお兄ちゃんの事は伝えておかないとね。ゲームオタクだということをね」
 と和葉が言うと、
「竜馬さんってゲームオタクだったの? てっきりスポーツ少年なのかと思っていたわ」
 と少し驚いた表情になった。
「ほら。優子さんの中で、僕の評価が下がっただろう」
 と竜馬はため息をついたが、
「私、竜馬さんのことが知りたいから、その情報はとても嬉しいわ! 和葉、ありがとう。ゲーミングパソコンかあ~。普通のパソコンとどう違うのかしら?」
 と優子は言った。
「優子。あなたにはゲーミングパソコンは無理よ。なんせ、かなりの高額商品だからね。文房具のほとんどは百円ショップの物で、服は安い販売店の物ばかりじゃないの。如月学園は学費が高いから、親御さんにこれ以上の負担をかけてはいけないわ」
 と心配そうに和葉は言った。
 優子は「ちょっとごめん」と新屋敷兄妹から少し離れると、
「そう言えば、うちが相生財閥だってことは秘密にしていたんだった。中三の時に金持ちだから付き合ってもらえてたというのが、どうしても嫌になったから、高校では持ち物をすべて安い物に変えたんだったわ」
 とつぶやき、
「竜馬さんと和葉。薫ちゃんも小夏ちゃんも春樹君も、私がお金持ちだから付き合ってくれているんじゃなく……」
 そうつぶやき、新屋敷兄妹を見た。
「どうしたの? 優子!」
 と和葉。
「私という一人の人間と付き合ってくれているんだよね……」
 と微笑んで、
「そうね。ゲーミングパソコンがそんなに高いのなら、やめておくわ」
 と優子は二人の側に行き、
「竜馬さん、もしよかったら、竜馬さんの家に行った時に、それでゲームをやらせてくれるかしら?」
 と頼んだ。
「え? ええ? いや、それは構わないけど……」
 と竜馬は焦る。
「ん? どうしたの? 竜馬さん?」
 と優子は挙動不審になった竜馬を見つめながら、不思議がっていると、
「優子、あなた。今、自分が何を言ったか分かってないんじゃないの?」
 と和葉。
「え? どういうこと?」
「お兄ちゃんのゲーミングパソコンって、大きなデスクトップ型なのよ。そのパソコンでゲームするってことは!」
「ことは?」
「うちの家に来て、お兄ちゃんの部屋に行くってことよ」
「え……? あ~~!」
 優子は慌て出した。
「ちなみに」
「ちなみに何よ?」
「お兄ちゃんの部屋には、ベッドがあるわよ」
「べ! ベッド!」
「そう、ベッド。だから優子がゲームに夢中になっている間に、お兄ちゃんの太い腕が、優子の細い腰に回って来て」
「回って来て!」
「男の部屋にこうしてやってくるってことは、何をされてもいいってことだよな。優子さん……」
 と和葉は兄竜馬の喋り方を真似た。演技力は演劇部を感心させる程上手いので、まるで竜馬が言っているように感じさせた。
「な! 何をされても!」
「優子さん……。いや、優子。何て綺麗な脚なんだ……」
 と和葉は優子の太腿に触れる。
「あっ!」
「この可愛いお尻とか……」
 と優子のお尻を撫でる。
「ちょ、ちょっと……」
「そして、この大きなおっぱいを僕が自由にしていいってことだよね」
 と和葉は優子の胸を触った。
「だ! ダメよ、竜馬さん……」
「でも全然、拒否しないじゃないか……。嫌じゃないのかい……」
「そんな、私……。嫌じゃないというか、私、その……。竜馬さんのことを……」
 と優子が言ったところで、
「優子さん、僕は大事な友達にそんなことは絶対にやらないよ」
 と竜馬の声がした。
「ああ。竜馬さんの声が……。あ?」
 と優子は正気に戻ると、
「かっ! 和葉~! あんた、またイタズラしたわね!」
「優子だってノリノリだったじゃないの」
「ノリノリってあなたねえ!」
 と顔を真っ赤にしながら激怒している。
「でもさあ。なかなか、ロマンチックだったでしょう?」
 と和葉が言うと、
「え! ええ……。まあ……」
 と満更でもない表情になった。
「男のお兄ちゃんよりも、女の私の方が女の子を喜ばせるツボは押さえているから」
 と和葉は優子の耳元で言った。
「ちょっと……。耳元で囁(ささや)くのはやめてよ……」
 と優子は和葉から離れると、
「あのう……。美術部には行かないのかい」
 と苦笑した竜馬が言った。
「そうだわ。こうしてはいられない」
 と和葉は先頭に立って歩き出した。
「やれやれ」
 と少し離れて竜馬が歩き出すと、優子が竜馬に近づき、
「竜馬さん、いつか竜馬さんの部屋でゲームさせてね」
 と囁(ささや)いた。
「え? う、うん。もちろん」
 と言うと、優子は微笑みながら竜馬の方を見つめてから、
「ちょっと、待ってよ」
 と和葉に近づき、
「仕返し!」
 と和葉のお尻を撫で回した。

つづく。

2022年11月2日

※当サイトの内容、テキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。
 また、まとめサイト等への引用をする場合は無断ではなく、こちらへお知らせ下さい。許可するかを判断致します。
しおりを挟む

処理中です...