双子の妹の保護者として、今年から共学になった女子高へ通う兄の話

東岡忠良

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【13】竜馬。学級委員長にされる。副委員長争奪戦後、優子と薫の足を触る。

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双子の妹の保護者として、今年から共学になった女子高へ通う兄の話


      東岡忠良(あずまおか・ただよし)


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──1──

 今日の最後はホームルームである。
 それは前期の学級委員長や係を決める、ある意味重要な日でもあった。
「は~い。注目。今日のホームルームはクラス委員や係を決めま~す」
 と女子高生並に若く見える前田先生が教壇で手を叩いた。皆、リラックスした雰囲気で口々に話を交わしている。
「ねえ、お兄ちゃん」
 和葉が身体を横に向けて話しかけてきた。
「何だ?」
「お兄ちゃんは何をやるつもり?」
 竜馬は少し考えて、
「中学の時にやっていた保健係がいいかなと思ってる」
「ほお。保健係とな」
「ああ。野球部だったせいで、包帯を巻いたり、怪我をした人の補助は慣れているつもりだからね」
 確かにそうだった。家でも家族の誰かが包帯を巻かないといけない怪我の場合、竜馬は手際よくやっていた。ただし、
「お兄ちゃんの怪我の場合は、私が巻いていたけどね」
 と付け加えた。
「和葉はどうするんだ? 中学三年は副委員長だったんだろ?」
 すると、和葉は不機嫌になり、
「そうよ。三年のクラスの連中。『新屋敷さんって頭いいんだから委員長になればいいのよ』って言い出して、半ば強引にやりたくもない委員長にされかけたのよ!」
 と言った。
「あ~、あの件か。怒ってたよな」
「当たり前よ! 私、仕方がないのでやりたくもない副委員長に立候補したのよ。委員長よりは少しは楽かと思って」
「だよな」
「で実際になってみたら、委員長に立候補したリア充男子のヤツ、全く何もやらないで、結局殆どの仕事を私がやったのよね。今でも腹が立つわ!」
 と頬を膨らませた。
「リア充男子って」
 と竜馬。
「あんなヤツの名前も忘れたわ。というか、忘れたいの。余りに腹立たしいから。で担任の先生に委員長の山崎の内申書は『低くして下さい』って伝えておいたわ」
 とニヤリとした。
「しっかり覚えてるじゃん」
「そりゃあね。それで山崎のヤツね。私立の受験を落ちたのよ。ざまあみろ、だわ。フフフ」
 と含み笑いをした。
「おいおい。悪い顔で笑ってるぞ」
 と竜馬は妹を注意した。
「いいのよ。私は悪い女なんだから。フフフ」
「なんだよ。気持ち悪いなあ~」
 と竜馬が嫌な予感をした時だった。
「ではまずは学級委員長から。自薦他薦ありますか?」
 と前田先生が言った瞬間だった。
「はい!」と和葉が手を上げた。
「お。和葉、やる気だな」
 と竜馬は呑気に言った。和葉は立ち上がると、
「お兄ちゃん、新屋敷竜馬君を推薦します!」
 と言った。
「え! 何で!」
 と思わず竜馬は叫んだ。
 和葉は席に座ると、
「私は悪い女なの。フフフ」
 と静かに笑う。
「おいおい。僕は学級委員なんて出来ないぞ」
 と言ったが、
 女生徒らが口々に、
 竜馬君がいいと思います! 
 竜馬君がいいです!
 と口々に言い出した。
「ちょ、ちょっと待って」
 と龍馬が言っても止まらない。
 前田先生は黒板に『新屋敷竜馬』と書いた。
「分かりました。では竜馬君以外で『学級委員長に立候補したい』という人はいますか?」
 と前田先生が聞くと、相生優子が手を上げた。
「先生。私、立候補します」
 と自信に満ちた表情をしている。
「相生さんね」
 と黒板に『相生優子』と書いた。
「相変わらず、優子は空気が読めないわよね」
 と和葉。
 でも竜馬は少し感心しながら言った。
「学級委員は優子さんが合っている気がするな。勉強は出来るし、しっかりしてそうだし」
「でも空気が読めてないわよ、あの子」
「他にはいないようね。じゃあ、多数決で決めます。新屋敷竜馬君がよいと思う人、手を上げて」
 すると、竜馬と優子以外の全員が手を上げた。
「え! 何で!」
 と叫ぶ優子。
「では相生優子さんがよいと思う人、手を上げて」
 には竜馬と優子が手を上げた。
 すると前田先生は、
「竜馬君、学級委員、やりたくないの?」
 と直接、聞いてきた。
「やりたくないというか、今までやったことがないので」
 と正直に言った。
「そうよ! やりたくない人を無理矢理やらせるのは良くないわ!」
「優子さん……」
 そして和葉にだけ聞こえるくらいの声で、竜馬は言った。
「和葉。優子さんは空気が読めないんじゃないだよ。やりたくない僕を助けるために、敢えて学級委員に立候補してくれたんだ……。優子さんって思いやりのある人なんだよ」
 と感動していたが、優子は手を上げて、
「学級委員っていうのは、勉強が出来ないとなってはいけないものだと思います! なので私が相応しいと思います。」
 と聞かれてもいないのにそう言った。
「どうもお兄ちゃんの勘違いだったみたいね。さすがは優子だわ」
 と私の予想通りという顔を和葉はした。
「はい。分かったわ。相生さん」
 と優子を座らせて、前田先生は竜馬の方を見て、 
「みんながこんなに支持してくれているのよ。もし、よかったら前期だけでもやってみない? 九月からは後期の委員長を決めるから」
 と言い続けて、
「ねえ。竜馬君。どうか、お願いします!」
 と小柄な前田先生が一生懸命に頼んできた。
「今、教室を覗いた人がいたら、前田先生がお兄ちゃんに告白しているように見えるわね」
 と和葉が言うと、前田先生は真っ赤になり、
「ちょ! 和葉さん! 何を言い出すのよ!」
 と慌てた。
「先生。お兄ちゃんを狙っているとしたら、せめて卒業してからにして下さい」
「だから、狙ってないって!」
 と前田先生。
 先生、応援してる!
 先生、頑張って!
 と笑いと声援が飛んだ。
 竜馬は何だか前田先生が気の毒になり、
「あのう。先生。僕、学級委員、やります」
 と渋々言った。
 前田先生の表情が一気に明るくなり、
「本当に! ありがとう、竜馬君」
 と嬉しそうである。
「では学級委員長は新屋敷竜馬君に決定します。皆さん、拍手」
 と先生が言うと、拍手喝采が起きた。
 相生優子は少し残念そうにしていたが、
「まあ、いいわ。副委員長を狙うから」
 とみんなにも聞こえるような大きな声で言った。
「では副委員長になりたい人、手を上げて。自薦他薦は問いません」
 と言うと、手を上げたのは和葉と優子と、他に三人現れた。
 これは和葉も予想外であった。

──2──

 三組は女子による大きな派閥つまりグループが三つ出来ていた。
 一つは、手塚香織(てづかかおり)がリーダーで、勉強が得意で、お嬢様ばかりが集まったグループ。
 二つ目は、石森楓(いしもりかえで)がリーダーで、見た目つまり容姿にこだわりを持ち、オシャレやファッションに詳しいグループ。
 三つ目は、赤塚聡美(あかつかさとみ)がリーダーで、明るく楽しく学校生活をやって行こうというグループ。ただし、勉強は苦手な者が多い。そしてここが人数が少し多い。
 それぞれのグループのリーダーの名字が『手塚』『石森』『赤塚』なので、和葉は彼女らグループ全体を『トキワ荘』と読んでいた。
 つまり現在、『トキワ荘』に入っていないのは、新屋敷竜馬と和葉。相生優子と瀬川薫の四人であった。
 と言っても、グループ同士が仲が悪い訳ではなかった。
 二日目に、せっかく同じクラスになったのだから、全員でカラオケに行こう、ということになり、その日に参加しなかったのは、新屋敷兄妹と優子だけであった。
 ちなみにその日は、優子の下着を買いに行った日でもあった。
 そして、『手塚』『石森』『赤塚』のリーダー同士が比較的仲が良いみたいで、初日から新屋敷兄妹と優子と薫にも挨拶をしてくれ、昼休みも「一緒にお弁当を食べない?」と誘ってくれていた。
 それでも四人は今、三つのグループからは、独立しているような形になっている。
 理由は単純だった。
『手塚』のグループだと竜馬を除けば、成績主席の和葉と次席の優子、そして上位の薫なのだ。なので手塚よりも成績の良い和葉の方がリーダーに相応しいと思われた。
『石森』のグルーブだと四人は容姿やファッションにそれほど興味はない。にも関わらず、単純に容姿が美しいために、石森よりも綺麗で美人な優子の方がリーダーに相応しいと思われた。
『赤塚』のグループは和葉の良くも悪くも、無自覚のキレのあるボケとツッコミのセンスのために、赤塚よりも和葉の方がリーダーに相応しいと思われた。
 簡単に言うと、和葉も優子もグループの長になるのは正直面倒臭く、そして少しでも竜馬の側に居たいということで、四人で行動しているのである。
 そんな五人が副委員長をかけての戦いが始まろうとしていた。
「まずいわ。非常にまずい」
 とすでに学級委員長になった竜馬に向かって和葉は呟いた。
「どうしたんだい?」
「優子は論外だけど、多数決だとどう考えても、『トキワ荘』の人達が有利だわ。恐らく、組織票で勝負するつもりだわ」
「まあ、そうなるだろうね」
「私、お兄ちゃんと同じクラスになったら、絶対に学級委員長と副委員長になろうと決めていたの」
「そうだったのか」
「その夢が今、叶うと思っていたのに。このままだと……」
 と下を向いてしまった。
「では多数決で決めま~す。新屋敷和葉さんがよいと思う人、手を上げて」
 手を上げたのは、和葉と薫だった。
 だが、竜馬は手を上げなかった。
「お兄ちゃん……。私に入れてくれないの?」
 と寂しそうに言ったが、
「僕に考えがあるから」
 と呟いた。
「やった! 竜馬くん、私に投票してくれるんだ」
 と嬉しそうな優子だったが、優子のために手を上げたのは、優子だけだった。
「わ! 私に入れたの、私だけ……」
 とショックを受けた。優子は魂が抜けたように、何もない空間を見つめた。
 手塚香織にはクラスの四分の一の者が手を上げた。
「してやられたわ」
 と手塚は悔しがった。
 石森楓には三分の一の者が手を上げた。
「まあ。仕方がないわね」
 と諦めた。
 結局、赤塚聡美に三分の一よりも少し多く手を上げた。
「やった! やったわ!」
 と喜ぶ手塚とそのグループ達。それで副委員長は決定したかと思われた。
「すいません。いいですか?」
 と竜馬は手を上げた。
「どうしたの? 竜馬君」
 と前田先生。
「そう言えば、お兄ちゃんって手を上げなかったわね」
 と和葉。
「これは僕の家庭の事情なのですが、両親の希望で僕と和葉は高校三年間を、絶対に登下校を一緒にするよう言われているんです」
 と竜馬は切実に話した。
「あら。そうだったの」
 と前田先生。
「なので、僕の学級委員の仕事のせいで、和葉を待たせる訳にもいかないので、出来たらですが」
 と一呼吸置いて、
「和葉を副委員長にしてもらうと凄く助かるのですが」
 と言った。
「え! そんな!」
 と席から立ち上がったのは、赤塚聡美だった。
「私、ぜひ副委員長になって、この学級のために仕事をしたかったんです! それなのに!」
 と必死に訴えた。
 すると和葉は手を上げて意見した。
「前田先生。お兄ちゃんと私は家庭の事情があるので、どうしても私を副委員長にして欲しいんです。確かに多数決は大事なんですが、個人の希望を優先することもあって良いと思うのですけど」
「う~ん。なるほどね」
 と前田先生は、右手を顎(あご)に当てて考えていたが、
「分かりました。では副委員長は新屋敷和葉さんになっていただきましょう」
 と言った。
「え! そんなあ~!」
 と赤塚聡美。
「事情があるのですから仕方がありません。赤塚さん、ごめんなさい。代わりに後期の副委員長になって下さいね」
 と前田先生は言ったが、
「学級委員長が竜馬君でないと、なる意味がないわよ!」
 と机へうつ伏せになった。
「赤塚さん、少し可愛そうね……」
 と和葉は口ではそう言いながら、顔は勝利で笑っていた。
「では改めて。副委員長は新屋敷和葉さんに決定します。はい、拍手!」
 と前田先生が言ったが、拍手はほとんどなかった。
 ここから『トキワ荘』の人達は完全にやる気を失った。グループのリーダー達は、ただ単に竜馬と仕事を一緒にして、話す機会が欲しかっただけだったのだ。
「まあ、私の思った通りだったわね。そう簡単にお兄ちゃんとの機会は与えないわ」
 と和葉は呟いた。
 あれだけ盛り上がった副委員長とは正反対に、会計には相生優子しか立候補せず、あっさりと決定した。
「まあ、後期の学級委員を狙うための布石みたいなものね」
 とみんなに聞こえる声の大きさで言う。
「優子だけね。純粋に学級のことを考えているのは。でも、そういうの嫌いじゃないわ」
 と和葉は言った。
「では書紀をやりたい人?」
 と言う前田先生に反応したのは、瀬川薫だった。これも他の候補者が現れずあっさりと決定した。
 そして、
「では、新屋敷竜馬君と、和葉さん、相生さんと瀬川さんは、教職員や生徒会から何かあったら、出来るだけ四人で行動するように」
 と言ったから、クラス中が騒ぎになった。
 えっ! 会計や書紀って学級委員らと一緒に行動するの!
 ちょっと! うちの中学では会計や書紀って一緒に行動しないのに!
 それならそうと言ってよ、先生!
 あ~ん! 失敗した~! 
 口々に騒ぐ三組に業を煮やしたのか、隣の二組の担任の女教師がやって来て、
「お前達! うるさいぞ! 前田先生を困らせるな!」
 と怒鳴った。
 
──3──

 結局、以下の結果になった。
 学級委員長。新屋敷竜馬。
 副委員長。新屋敷和葉。
 会計。相生優子。
 書紀。瀬川薫。
 と黒板に書かれていた。
 係ももちろん決まった。
「紆余曲折(うよきょくせつ)あったけど、結局クラス代表は、私達四人になったわね。とても嬉しいわ」
 と和葉。
「そうだな。特にこの中でも和葉が一番危なかったけどな」
 と竜馬。
「そうよ! 何で私の副委員長が一番なるのが難しかったのよ。まったく、多数決というのは厄介だわ」
「まあ、それは仕方がないだろうな」
 他の者と同じように帰り支度を竜馬がしていると、和葉は竜馬の顔を見つめながら、ジッとしている。
「うん? どうした? 帰らないのか?」
 と言うと、
「学級委員長のことで忘れちゃったかな? お兄ちゃん、体育教官室に呼ばれてなかったっけ?」
 竜馬は、
「あっ! そうだった!」
 と本当に今まで忘れていたようだった。
「竜馬さん、体育教官室に呼ばれているのですか?」
 と薫がやって来た。
「そうなんだよ。山田先生が僕を呼んでいるらしい」
「竜馬くん、一体、何をやったのよ?」
 と優子もやって来た。
「何もやっていない……。とは言いがたいかも。だな……」
 体育の授業中に、一組の椎名さんの右足首を擦り、出川さんのこむら返りを治すのに左足首を触ったからか?
「この二つはある意味、治療なんだけどな……」
 と呟く。その治療と言ったのを、和葉は聞き逃さなかった。
「お兄ちゃん。その治療とやらを、ここでやって見せてよ。セーフかアウトか判断するから」
「え! 何、言ってんだよ! セーフに決まってるだろ!」
 と思わず熱くなった。
 そのタイミングでスポーツ科八組の三上小夏がやって来た。
「竜ちゃん、和ちゃん、優子ちゃん、薫ちゃん、放課後暇かな?」
 と四人に言った。
「小夏ちゃん。私達、放課後メッチャ暇だけど」
 と和葉が言うと、
「ちょっと、勝手に決めないでよ」
 と優子は返す。
 薫は苦笑いしている。
「今から、お兄ちゃんが一組の女の子に行った『治療』という名目のセクハラを再現するわ。小夏ちゃんもアウトかセーフかの判断をお願い」
「こら! セクハラとか言うな!」
 と竜馬は慌てた。
「ならそうね。お兄ちゃん、優子を使って一組の子達にやった事を、ここで再現してちょうだい」
 と言った。
「優子を使ってって! 和葉、あなたねえ!」
 と抵抗して見せるが、少し嬉しそうである。
「え! 今、ここでやるの!」
 と大慌ての竜馬。
「あれ? 竜ちゃん、やけに慌てているねえ。もしかして本当はアウトなのかなあ~?」
 と小夏。
 薫は相変わらず苦笑しながら様子を見ている。
「分かったよ。やればいいんだろ、やれば!」
 と竜馬は言って、席を立ち、
「じゃあ、優子さんは僕の席に座ってよ」
 と言うと、
「え……。りょ、竜馬くんの席に座るの……?」
 と頬を少し赤くして、内股になりもじもじし始めた。
「優子、あなた、もしかして今日、生理?」
 と和葉。
「ち! 違うわよ!」
 とより顔を赤くした。
「優子さん、嫌だったら別の人に変わってもらうけど?」
 と竜馬が言うと、
「だ、大丈夫。大丈夫だから、私を好きにしていいわ」
 と竜馬の席に座った。
「お兄ちゃん、好きにしていいんだって。じゃあ、お兄ちゃん、優子のおっぱいを取り敢えず触ってみようか」
 と和葉。
「え!」と慌てる優子。
「あ! アホか!」と竜馬。
「いくらなんでもそれは……」と薫。
「いいなあ~。ここのクラスは楽しそうで」と小夏。
 楽しくない!
 と優子と竜馬の声は同時だった。
「まあ、そんなの冗談よ」
 と和葉が言うと、
「当たり前だ!」
「当たり前です!」
 も二人同時だった。
「じゃあ、正直に再現してよ。まず、椎名さんにやったことを」
 と和葉が言ったのに、竜馬は驚いた。
「え! 椎名さんって! 和葉、もしかして!」
「ええ。私、しっかり見てたもの。おかげでうちの班の計測が効率よく計れなかったわ」
「だからなのね。あんた、しょっちゅう、どこかに行っていたのは」
 と優子。
「授業はきちんと受けましょうね。和葉さん」
 と薫。
「だから、お兄ちゃん。違うことをやったら、すぐに分かるのよ」
 と竜馬の顔を見つめながら、ニヤリと笑った。
「分かったよ。分かったから、その顔、やめろ」
 と竜馬は渋々、優子の前に腰を下ろした。
「じゃ、じゃあ。優子さん。やるよ」
「は、はい……。や、優しくお願いします……」
 と緊張か恥ずかしさか優子は顔を背(そむ)けた。
「ついに二人共、初体験ね」
 と和葉。
「しょ! 初体験!」と優子。
「和葉、ちっとも先に進まないだろ!」と竜馬。
「ほんの冗談じゃない。さ、続けて」
 と右掌(みぎてのひら)を見せて促(うなが)した。
「まったく……。優子さんが嫌嫌(いやいや)付き合ってくれているのに悪いだろう」
 と言う竜馬に、
「竜馬くん、私、嫌嫌じゃないよ」
 と真っ直ぐ、竜馬の目を見ながら言った。
「あ? ああ。分かったよ。じゃあ、椎名さんのを再現するから、右足の上靴を脱がすよ」
 と優しく言った。
「は、はい……」
 と優子。
 竜馬が上靴をゆっくりと脱がす。
「次は靴下だね。脱がすよ」
「は、はい。竜馬さん……」
 と言った時に、静まり返った教室から『ゴクリ』と喉がなる音が響いた。周りをよく見ると、教室に残っている女子全員が、竜馬と優子のその様子に集中していた。
「あのねえ。こんなの、普通じゃない。何、みんな期待しているの? まあ、お兄ちゃんが優子の足を舐めたら話は変わるけど」
 と言う和葉の言葉に、周りの緊張が解けて、笑いが起きた。
「はあ。舐める訳ないだろ!」
 と言うと、
「えっ……。竜馬くん、舐めるの?」
 と震え出す優子。
「優子さん、舐めないから!」
 と竜馬。
「えっと。椎名さんは走っている最中に右足を捻ってしまったんだよ。だから右足首を見て欲しいって言われて」
 と白くて綺麗な優子の右足首を竜馬は掴んで、
「右足首の関節のところが赤くなっていたから、こうして軽く撫でたんだ」
 と優しく触ると、
「あっ……。ああ……。そこは……」
 と優子。
「はい! アウト~!」
 と和葉は席から立ち上がり言った。
「え! どこがだよ!」
 と竜馬。
「勘違いしないで。アウトは優子よ! あんた、何て声、出しているのよ!」
「え! ちょっとくすぐったかったから、つい」
「お兄ちゃん、椎名さんの件は問題なかったわ。ただ、優子に問題があったから、次の出川さんの治療と称したセクハラを薫ちゃんで再現して」
「え~! 私、ですか~!」
 とこれまたまんざらでもない薫。
「だから、セクハラじゃないって!」
 と竜馬。
「じゃあ、優子はそっちの空席に移動して靴下と上履きを履いて」
「もう、分かったわよ」
 と右手に上靴、左手に片方の靴下を持ったまま、片足でケンケンしながら移動しようとすると、運動神経の良くない優子はバランスを崩した。
 そこは側にいた龍馬が素早く支えた。
 竜馬は問題のない優子の背中とウエスト辺りで支えたのだが、優子が自分の身体を預けるようにしたために、大きな優子の胸が、竜馬の胸辺りに当たった。そして当たった後、しばらくの間優子は幸せそうな表情でそのままでいた。
 和葉はそれを見逃さなかった。
「優子。あなた、お兄ちゃんにそのHカップのデカいおっぱいを押し付けるのを止めなさいな」
「な! 押し付けてない! たまたまよ! たまたま!」
「え~。本当かなあ~」
 と横目で優子を睨む和葉。
「本当にたまたまだけど、後半はちょっと押し付けたかも……」
 と本音を言った。
 女の子達から黄色い悲鳴が上がる。
「まあ、いいわ。偶然とはいえチャンスをものにした優子の勝ちでいいわ。というか、お兄ちゃんもいつまでもジッとしてないで!」
「あ! ご、ごめん」
「まったく。さ。薫ちゃん、よろしく」
「はい」と薫はさっきまで優子が座っていた竜馬の席に座った。
 優子は近くの空席に座って、せっせと靴下を履いている。
「じゃあ、次は出川さんがこむら返りを起こしたので、左足を治療した件の再現だな。薫さん、よろしく」
「はい。よろしくお願いします。じゃあ、取るよ」
 と竜馬は薫の左足の上履きと靴下を脱がした。
「はい。どうぞ」
 と薫。
「お客さん、こういう店は初めて? 学生さんよね」
 とどこで覚えたのか、和葉は臨場感たっぷりに言った。
「おい。誤解をされるようなことをいうな」
「フフフ。私は悪い子なのよ」
 と和葉。
「このクラス、楽しそうだなあ~。いいなあ~」
 と小夏。
「全然、楽しくないよ!」
 と竜馬が言う。
 左だけ素足になった薫の足首を、
「こうしてゆっくり曲げて、出川さんのこむら返りを治しただけだよ」
 と竜馬は優しく曲げると、
「ああ。とても気持ちいいです。竜馬君……」
 と薫は言った。すると、
「結論が出たわ。薫ちゃん、あなたもアウトよ!」
「え! 私がですか?」
「声だけ聞いていたら、一体何をされたのかと想像しちゃうわよ」
 と和葉。
「そうよ! 薫ちゃん、エッチだわ!」
 と言った優子に、
「優子。あなたは人の事が言えないわよ」
 と突っ込んだ。
「どうだ。問題なかっただろう?」
 と竜馬が言うと、
「確かに、椎名さんの件も、出川さんの件も問題なかったわ。でもお兄ちゃんに問題があったわ」
「え? 僕に? どんな?」
 すると和葉は、
「お兄ちゃん、優子と薫の足を触りながら、二人のスカート中を覗いていたでしょう」
 と言ったから、教室全体から悲鳴が上がった。
「覗いてないよ! 何を言ってんだ!」
 と竜馬。
「じゃあ、次は井山さんにしたことを、私にやってよ」
 と和葉が言った時だった。
 学校放送が入った。
「一年三組の新屋敷竜馬。至急、体育教官室に来なさい。話があります」
 という山田先生直々のアナウンスだった。言葉は丁寧でも言い方に怒りが込もっていた。
「しまった! すっかり忘れていた!」
 竜馬は右手を額に当てて、天井を仰いだ。
「作戦、成功。お兄ちゃん、一杯怒られて来てね。それと怒られた後に一組の井山さんの件も再現してね」
 とクスクス笑った。
「和葉。お前~」
 と恨めしそうに竜馬は和葉を見つめると、
「お兄ちゃん、私は悪い女なのよ。フフフ」
 と言った。

つづく。

新しい登場人物。

手塚香織(てづかかおり)。
勉強が得意で、お嬢様ばかりが集まったグループのリーダー的存在。

石森楓(いしもりかえで)。
容姿にこだわりを持ち、オシャレやファッションに詳しいグループのリーダー的存在。

赤塚聡美(あかつかさとみ)。
明るく楽しく学校生活をやって行こうというグループのリーダー的存在。ただし、勉強は苦手な者が多い。  

2022年8月31日

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僕こと…ディスト・ランゼウスは、経験値を倍増させてパーティーの成長を急成長させるスキルを持っていた。 それにあやかった剣士ディランは、僕と共にパーティーを集めて成長して行き…数々の魔王軍の配下を討伐して行き、なんと勇者の称号を得る事になった。 するとディランは、勇者の称号を得てからというもの…態度が横柄になり、更にはパーティーメンバー達も調子付いて行った。 それからと言うもの、調子付いた勇者ディランとパーティーメンバー達は、レベルの上がらないサポート役の僕を邪険にし始めていき… 遂には、役立たずは不要と言って僕を追い出したのだった。 ……とまぁ、ここまでは良くある話。 僕が抜けた勇者ディランとパーティーメンバー達は、その後も活躍し続けていき… 遂には、大魔王ドゥルガディスが収める魔大陸を攻略すると言う話になっていた。 「おやおや…もう魔大陸に上陸すると言う話になったのか、ならば…そろそろ僕の本来のスキルを発動するとしますか!」 それから数日後に、ディランとパーティーメンバー達が魔大陸に侵攻し始めたという話を聞いた。 なので、それと同時に…僕の本来のスキルを発動すると…? 2月11日にHOTランキング男性向けで1位になりました。 皆様お陰です、有り難う御座います。

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

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青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

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