双子の妹の保護者として、今年から共学になった女子高へ通う兄の話

東岡忠良

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【9】竜馬。優子のブラを買うため下着専門店へ行かされる。

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双子の妹の保護者として、今年から共学になった女子高へ通う兄の話

  東岡忠良(あずまおか・ただよし)

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──1──

「ここよ」と新屋敷和葉。
「ここだよね」と川上小夏。
「ここなのね」と張り切る相生優子。
「やっばりここかあ~」と新屋敷竜馬。
「じゃあ、入ろうか」
 と先頭の和葉が言うと、
「僕はやっぱり外で待ってるから」
 と最後尾で身体を回転させようとした。すると回る途中で両手を掴まれる。
「私、竜馬さんと一緒がいいな?」
 と右手を掴む優子。
「ここまで来て帰っちゃダメだよ」
 と左手を掴む小夏。
「まったく、世話の焼ける。もう、観念なさい」
 と竜馬のベルトを掴んで引っ張る和葉。
「お! おい! どこを掴んでいるんだよ! 分かった! 分かったから!」
 とほとんど連行とも言える状態で入店した。
 二十代前半の女店員が、
「いらっしゃいませ」
 と声をかける。
 引っ張られながら店に入る男子の様子を見て、
「これ、どういう状況かしら?」
 と三十代後半の女店長が言った。
「これは尋常じゃないわね」
「罰ゲームか何かですかね?」
「まったく、困るのよね。うちの店を男性に対する罰ゲームに使ったりするのは」
 とツカツカと近づいて行った。
「いらっしゃいませ。店長の者ですが」
「あ。どうも」
 こんにちは。
 と三人の女子は声が合った。
「あ。どうもこんにちは……」
 と竜馬は苦笑いで返した。
「あのう。失礼ですがどういうご要件でしょうか?」
 と四人を見つめる。
「ごめんなさい。遊びで来た訳じゃないんです。この子に合った……」
 と和葉は優子を手のひらで指して、
「下着を買いに来たんです」
 それを聞いた店長は、
「まあ、そうでしたか。これは失礼しました。ごめんなさいね。時々、男性を無理矢理店内に入れる遊びをする女性達がいてね。それで困ることがあって」
 と話した。
「ほら、お兄ちゃんが嫌がる態度で引っ張られて入ってきたから、私達勘違いされちゃったじゃん」
「でも確かにこれだけ女性ばかりいて、これだけ女性下着が並んでいたら、男の竜ちゃんは肩身が狭くて嫌なの分かるなあ~」
 と言う小夏を見て店長は、
「あら? こちらのお嬢さんは時々、うちに来て下さる。……確かスポーツブラを何度かご購入いただいていた? そうそう、川上様ですね」
「わ~、嬉しい、覚えていてくれたんだ」
「もちろんでございます。その節はありがとうございました。でどうでしたか?」
 小夏は、
「とてもよかったよ。走りやすくて胸が邪魔にならなかったから」
 と明るく話す。
「そうですか。それはよかったです」
「でも残念ながら、県大会二位だったんです。胸は邪魔にならなかったんですけど、重さがなくなる訳じゃないんで」
 と小夏は鞄を置いて、自分の胸を上下した。
「ちょ、小夏、何をやってんだ」
 とそれを見た竜馬が焦る。
「あ。ごめん。ここだとつい、開放的になっちゃって」
「川上様、県大会二位は素晴らしい成績ですね」
「ありがとう。僅差だったんでスポーツ推薦で近くの高校にも行けたんです」
「スポーツ推薦とは凄いですね。その制服は如月学園ですね。如月は勉学もスポーツも名門ですから、良い高校にご入学されましたね。おめでとうございます」
「あ~。何だか照れちゃうな~」
「私とお兄ちゃんも見に行ったけど、一位以外の私立の強豪選手を抑えての二位だったものね。一位の人とは本当に僅差だったわよね」
「へえ~。それは短距離なの? 長距離なの?」
 と優子。
「その大会は百メートルと二百メートルだよ。どちらも僅差で違う相手だけどね」
「え? 小夏ちゃん、百と二百両方とも二位だったの」
 と優子は確認する。
「そうだよ。高校になったら絶対に負けないつもりなんだ」
「ちなみに小夏は長距離もかなり速い方よね」
 と和葉。
「そうなんだけど。長距離はペース配分とかを考えないといけないから難しいんだ~。前半遅く走り過ぎてタイムが悪かったり、逆に前半速く走り過ぎてバテるんだよね~」
「確か中学の校内マラソンで二位だったんじゃないの」
「和ちゃんは七位だよね」
「私、結局マラソンで一度も小夏に勝てなかったんだよね」
「和ちゃん、そんなに足が速くないのに、七位って凄いと思うよ。ところで相生さん、大人しいね」
「え! う、うん……」
「相生さん、背も高い方だし痩せていて、運動が得意そうだよね~」
「えっ! 私!」
 と慌てている。
「そうかな? 運動が得意だったら、締め付ける下着なんて元々着けないと思うんだよね」
 と和葉が目のつけどころのよい指摘をした。
「そうよ! 私、運動は苦手よ。悪い?」
「そうなんだね。でも見た目だと色々な運動クラブから声をかけられるんじゃない?」
「テニスにバレーボール、バスケットボールにソフトボール。すべてのボールが私の存在を無視していったわ……」
「そっかあ~。体力がない上に、運動神経もないんだね。それなら体力だけでも付けるために、明日から一緒に走ろうか?」
「お誘いはあり難いんだけど、私は運動は捨てるわ。運動をする時間を勉強に当てるわ」
「それ、将来太っちゃうかもね」
 そう言われた優子は固まった。
「まあ、それもいいんじゃない。今は細い身体に大きなおっぱいなのが、太い身体に大きなおっぱいになってバランスが取れるかも」
 と和葉。
「……私、少しは走るわ」
「そうしなよ。時々なら三人で走っているから、相生さんも参加したらいいよ」
「? 三人ですって!」
「うん。私と和ちゃんと、竜ちゃんで走るんだよ」
「ぜひ、参加させてもらうわ!」
 と優子が言ったところで、
「ところで小夏ちゃん」
「何? 相生さん」
「もし、よかったら私の事を優子って呼んでくれませんか?」
「あ~」と右手で自分の頬を掻き、
「クラスが違うから実は遠慮していたんだよね~。うん、分かった。優子ちゃんって呼ぶよ」
 と二人は顔を見合わせて笑顔になった。
「あのう……。お話中、申し訳ないのですが、そろそろ選ばれてはどうでしょうか?」
 と店長が言った。
「そうだわ。まずは店長さん、この子の胸のサイズを測ってあげてくれませんか?」
 と和葉が優子の背中を押した。
「はい、分かりました。こちらへどうぞ」
 三人に手を振りながら、奥へ消えていった。
「それにしてもお兄ちゃん、ずっと黙っているね」
「そりゃそうか。話すことなんて何もないものね」
「正直、肩身が狭い……」
 そうすると奥から先程の店長の声が聞こえてきた。
「お嬢さん、素晴らしいプロポーションですね。こんなに良いスタイルの方は久しぶりです」
 三人は一斉に声がした方に目を向けた。
「お身体は細いのに豊かで形の良いバストですね」
「あ。ありがとうございます。あのう、私自分ではHカップだと思うのですけど、実際はどうですか?」
「はい。正直に申しまして、Iカップに限りなく近いHカップでいらっしゃいますね」
 Iカップに限りなく近いHカップ!
 と和葉と小夏の二人の声が融合した。
「なんですって! 私がやっとモビルスーツのグフになったと思ったら、優子はすでにゲルググってことなの!」
「えっ。グフとかゲルググって一体何のこと?」
 和葉は小夏の肩に手を置き、
「でも、あなたは通常の三倍の赤いザクだから大丈夫。安心して」
 と言った。
「一体、何のことか全く分からないけど、安心したよ」
 と小夏。
「何で胸の大きさをガンダムのモビルスーツの性能の差に例えてんだよ」
 と竜馬。
「あ。お兄ちゃん、やっと喋ったね。息をしていないのかと思っちゃった」
「こっちはほとんど瀕死の状態だよ」
「想像するだけで、大事なところが元気になりそうだものね」
「和葉、要らない事を言わないように」
「そうだね、ごめん」
 と笑った。和葉は笑うと小さかった時の面影がある。そうすると、竜馬も子供の頃を思い出して平常心を保つことができた。

──2──

「えーっと、サイズはこれね」
 と相生優子が奥から出て来た。鼻歌を歌いながら、商品を物色している。
「あ、これ綺麗な色。あ、これデザインかわいい」
 と上機嫌だ。
 優子の後から、あの店長も出て来たが、表情が暗い。
「お兄ちゃん、何だかあの店長さん、表情が冴えないわね」
「そうだな? どうしたんだろう?」
 竜馬には理由が想像もつかない。
「店長さんよりも、まだ高校生の優子ちゃんの方が、おっぱいが大きいから落ち込んだのかな~」
 と小夏。
「いや、そんな訳ないでしょう。なんで下着専門店の店長さんが、お客さんとバスト勝負をしているのよ」
「ちょっと気になるから訊いてみようか?」
 和葉がそちらに歩いて行こうとすると、上機嫌の優子に捕まり、
「ねえねえ、和葉。よかったら私に似合いそうなブラを探してくれないかしら」
「え? うん、それは構わないけど。私、ちょっと店長さんに聞きたいことが~」
「あ! あっちに良さそうなのがある! 付いてきて」
「あ! ちょっと、私! あれ~」
 と引っ張って行かれた。
「あらら。引っ張って行かれちゃったねえ~」
「そうだな。でも何だか優子さん、楽しそうだよな」
「女の子って下着を買いに来たら、何だかウキウキするものねえ」
「へえ~。そうなんだ」
「男子はどうなの?」
 と小夏は少し興味深めに聞いてきた。
「う~ん。そうだね。ワゴンに載っている安売りのヤツをサイズだけ確認して買うかな」
「え? デザインは?」
「ほとんど見ないよ」
「え~! 見ないの? 本当に!」
「うん。よっぽどおかしな色や柄じゃなければ買うよね」
「やっぱり、男子と女子って違うんだね~」
 と小夏は感心した。
 一方、優子に強制的に連れて行かれた和葉は、
「優子。似合いそうなのを探してって言うけど、あなたのサイズを教えてもらわないと、探しようがないんだけど?」
「あ。そう言えばそうね。でも絶対に口に出して言わないでよ。竜馬さんがいるんだから」
「竜馬さんがいるんだからって……」
 と竜馬は苦笑する。
「もろ、まる聞こえだね~」
 と笑う小夏。
 優子のサイズが書かれた紙を見て、
「え! なんなの優子あんた! こんなサイズまともじゃないわ! あなた、これはもうジオングじゃない!」
 と和葉の驚きの声が上がった。
「ちょっと、そのジオングってなに? 何だか分からないけど失礼ね」
 と言うやり取りが聞こえる。
「あのう……。お客様のお連れ様」
 と店長が竜馬と小夏に話しかけてきた。
「はい。何か?」
「実はあちらのお客様のサイズなのですが、当店ではこちらしかございません」
 と特大の茶色いブラジャーを取り出した。
「ちょ!」
 と怯(ひる)む竜馬。
「うわ~。それ、デザイン超ダサいよね~。でもそんなに大きいカップのは初めて見たよ~」
 と遠慮のない小夏。
「今、ご購入できるのは、これしかございません。もし、他の製品をお望みでしたら、特注かお取り寄せになりますので、早くて一週間から一ヶ月後になるのですが……」
「へえ~。優子ちゃんの身体って、相当レアなんだね」
「はい……。大変、スタイルの良いお嬢さんでいらっしゃいますので……」
「それなら、スポーツブラもないってことだよね。注文になるんだよね」
「はい。完全に注文を頂いてからの製造になると思います」
「あのう……。費用もかなりかかりそうですよね……」
 と竜馬。
「はい……。お安くはありません……」
「分かりました。ちょっと二人を呼んできます。さっきの説明をもう一回話してもらえますか?」
 と竜馬が聞いた。
「はい。分かりました。先程、お話しようとしたのですが、凄く喜んでおられたので話しそびれてしまいましたので」
 竜馬は楽しそうに商品を物色していた二人を呼んだ。
 そして説明を受けた二人は、
「え! ほとんどのデザインが取り寄せか特注なの!」
 と優子。
「でしょうね。いくら探してもない訳だわ」
 と和葉。
「でも一つだけあるみたいだよ」
 と小夏。
「え! どんなの、どんなの?」
「これなのですが」
 と店長が出したのは、先程の大きなカップの真っ茶色のブラジャーだった。
「い! 嫌よ、こんなの! オバサン用じゃない!」
 と蛇か大蜘蛛でも見たように後ろへ下がった。
「でも仕方ないんじゃない。これにしなさいな」
「嫌よ!」
「だって今はこれしかないのよ。週末には体育もあるし」
「何で! 何で、私だけこんな腐ったような茶色いブラで学校に通わなきゃいけないのよ! 私だってかわいいのを着けて行きたいわよ~」
 泣き出しそうである。
「確かにスーパーダサくて、オバサン臭くて、私がこんなので学校に行くなんて耐えられないけど、これしかないんだから」
 と和葉。
「腐った……、スーパーダサくて、オバサン臭くて……」
 と茶色いブラを持った店長は引きつっている。
「和ちゃん、油注ぐねえ~」
「もう、やだあ~」
 とついに優子は泣き出した。
「あのう、すいません」
「なんでしょう?」と和葉。
「絶対とは言い切れませんが、もしかして私達が把握していないサイズの合う商品が店頭在庫としてあるかもしれません」
「ほ! 本当ですか!」
 と優子は泣き止み、明るい表情になった。
「はい。こちらが把握出来ていない漏れた商品があるかもですけど。でも絶対ではないですが……」
「私、探すわ!」
 優子は元気を取り戻した。
「優子。現実的に考えて、今週末の体育のために、この真っ茶っ茶ブラを買っといて、かわいいのは何点か注文すればいいんじゃない?」
 と妥協案を出したが、
「嫌! 絶対に嫌! このクソ茶のオバサンブラを買うくらいなら、私は体育を休むわ」
「クソ茶のオバサンブラって……」
 と和葉。
「店長さん、このお店は何時閉店ですか?」
「七時閉店ですけど」
「ならそれまで私、探し続けるわ」
「閉店までいるつもりなんだ~」
 と小夏。
「え~っと、今日はたまたま在庫管理の日なので終了間際に商品を触られるのはちょっと困るんです。あのう、彼氏さん、何とか止めてもらえないでしょうか?」
「かっ、彼氏!」と優子。
「僕が彼氏!」
「かっ! 彼氏じゃないわ!」
 と真っ赤になって優子は否定した。
「そうです。僕はただの付き添いです」
「あらそうでしたか。これは失礼しました」
 と店長はそこから去ろうとしたが、
「一応、そのグレーゾーンのブラは取っといてもらえますか? 諦めさせてそれを取り敢えず、買うように説得します」
 と和葉。
「分かりました。ではごゆっくり」
 とため息をつきながら女店長は去って行った。
「迷惑かけてるねえ~」
 と小夏。
「でも優子の気持ちも分からないでもないわ。さすがにウンコ色はないわ」
「和ちゃんもよくそれだけ、あのブラの悪口が言えるねえ~」
「仕方がない。私も探してやるか」
 と優子のところに行こうとした時だった。
「あった! あったわ! かわいいヤツ!」
 と声が上がった。
「本当に! よかったじゃん」
 と和葉も嬉しそうである。
「よかったねえ」
 と小夏。
「本当だよ。一時はどうなるかと」
 と竜馬はホッとした。
「店長さん、試着していいかしら?」
「もちろんです。どうぞ、こちらに」
 と試着室に入って行った。
「あ~、よかった。やっとここから出られるんだ」
「竜ちゃん、なんか生きた心地がしていない感じだったよねえ~」
 明るいメロディーの鼻歌が聞こえてくる。相生優子はさっきと打って変わって上機嫌である。
 そして、
「うわ~。さすが私。似合ってるっ」
「あ~。そうなの? よかったわね」
「とても似合っているから、写真撮っちゃおう」
 と試着室からスマホのシャッター音が聞こえる。
「優子ったら、よっぽど嬉しいのね。まあ、気持ちは分からないでもないけど」
「ねえ、みんな来てくれる。どうかな?」
 と優子が呼ぶ声。
「はい。じゃあ、二人共行ってらっしゃい」
 と竜馬は、和葉と小夏を促す。
「ダメよ、竜馬さん! 竜馬さんにも見てもらいたいんだけど?」
「え?」と竜馬。
「ん」と和葉。
「へえ~」と小夏。
「ちょっと、優子。それ下着でしょう。本当にお兄ちゃんに見せて大丈夫なの?」
 と不安な和葉。
「そうだよ。ダメじゃないかな?」
 と小夏も続く。
「お願い! どうしても竜馬さんに見てもらいたいの。お願いだから。」
 和葉はため息をつき、
「ほら、お兄ちゃん。ご指名よ。見てあげたら」
「本当にいいのかな?」
「本人がいいって言ってんだから、いいんじゃないの」
「わかったよ」
 と渋々、竜馬ら三人は、優子の入っている試着室の前に集まった。
 
──3──

「ほら。集まったわよ」
 と和葉が声をかけると、
「せーの! ジャ~ン!」
 という優子の掛け声と共に、試着室のカーテンが開けられた。
「な! なんて格好してんのよ!」
「うわ~。うわ~」
「え……。うう、痛っ」
 と竜馬はその場に座り込んでしまった。
 優子は確かにかわいいデザインの白と水色のブラジャーを着けてはいたが、明らかにサイズが小さく、優子の大きな胸の半分以上が飛び出して見える状態だった。
 だが、それ以上の問題は、何を思ったのか下がパンティ一枚と靴下だったのである。
「お兄ちゃん! どうしたの? 大丈夫?」
 と和葉が駆け寄る。
「竜ちゃん、何だか分からないけど大丈夫?」
「え? 竜馬さん、どうしたんですか?」
「どうしたのはあなたよ!」
「え? 何? 私、何かした?」
「何かした、じゃないわよ!」
 と和葉は素早く優子の入っている試着室のカーテンを閉めた。
 そして再び、竜馬の側に行った。
「大丈夫? お兄ちゃん? 何があったの? いきなり優子の裸同然を見て、心臓が行っちゃった?」
「えっ! 心臓が!」
「優子は引っ込んでて!」
「かっ、和葉……」
「何?」
「いっ、いきなり凄いものを見せられたから……」
「やっぱり心臓?」
「男の大事なところが急に立って、猛烈に痛い……」
「……え? お兄ちゃん、妹相手になに言っちゃってんの……」
「竜ちゃん、優子ちゃんのエロい身体をモロに見ちゃって、おちんちんが立って痛いんだね~」
 とズバリ言った。
「小夏! こんなところで何はっきり言ってんのよ!」
「えっ! 私の下着姿を見て、竜馬さんの大事なところが元気になっちゃった?」
「そこ! 喜ばない!」
そして、
「小夏ちゃん。私、お兄ちゃんを店の外に連れ出すわ。なので優子には茶色のブラを着けるのと、下は女同士以外はスカートを履くように指導してくれる?」
「うん。和ちゃん、分かったよ。優子ちゃ~ん」
 と小夏は試着室の方へ行った。
「お兄ちゃん、立って歩ける?」
「中腰(ちゅうごし)なら何とか……」
「外のベンチに行こうね」
「それと落ち着いたら、戻ってくるから」
 と二人に声をかけて、和葉は自分の鞄と竜馬の鞄を持って、ヨロヨロと歩く兄について行った。

   *

「凄いこと、やっちゃったね~」
 と言いながら、小夏は試着室のカーテンに顔を入れた。
「私、そんなに凄いことをやったのかしら?」
 と状況がよく飲み込めず、際どい格好のままの優子がいた。
「そうだね~。まずその胸よね」
「えっ? かわいいでしょう?」
 と後ろに両手を回してポーズを取る。
「あ~。多分、おっぱいが大き過ぎて下が見えていないんだね」
「え? 下が見えていない? どういうこと?」
 と試着室が狭いせいで下が完全に見えていないようだった。
「う~んとね。そうだ、スマホある?」
「? あるけど」
「今の相生さんの姿を写してあげるよ」
 スマホをカメラモードにしてもらい、シャッターの位置も聞いて、周りに人がいないのを確認して、
「はい。ポーズ」
 と言うと、優子は腰に手をやり微笑んだ。
「うんうん。ヤバいところがよく撮れたよ」
 とそれを優子に見せた。
「な!」
 優子の胸半分以上がブラジャーから飛び出していた。だが問題はそこだけではなかった。
 優子の綺麗な腰から太腿(ふともも)に真っ白のパンティがあった。
「透けて見えなかったのが、せめてもの救いだよね~」
 と小夏。
「……もう、ダメだわ、私……。どうしたらいいの……」
 と泣きそうである。
「そうだね~。謝るしかないんじゃないかな~。あっ、そうそう私、ちょっと離れるから、その間にスカートを履いておいてね」
 とレジで仕事をしていた店長と店員のところに行き、例の茶色いブラを取ってきた。
 渡してくれるさいに、
「少し騒がしいですけど大丈夫ですか?」
 と言われ、見られてはマズいところは、何とか見られなかったことが小夏には分かった。
 試着室に戻ると、優子はすでにスカートを履き、制服の白いシャツブラウスに着替えていた。
「あれ、もう着替えたの?」
「私、よく考えたんだけど、竜馬さんにちゃんと謝ろうと思って。でもさっきの格好だとまずいから……」
「分かったよ」
 と優子はまた小夏にスマホを渡した。真っ白なブラウスとスカート姿で、両脇を閉めて指先までビシッと伸ばした状態で、
「ごめんなさい!」
 と深々と頭を下げた。
「いい礼だね。はい。撮ったよ」
 とスマホを返した。
「今から竜馬さんのスマホに、謝罪とさっきの画像を送るわ。送信!」
「でも竜ちゃんは怒ってないと思うよ」
「そうかしら……。それなら、いい……。ああっ! ウソ! どうしよう!」
「どうしたの?」
「画像、間違えて送っちゃった……」
 優子はうなだれた。

「どう? 治まってきた?」
「大分、マシになってきた……」
「まあ、実の妹が兄のおちんちんの立ち方を訊くなんて、かなり変なことなんだけどね」
「苦労かけるね」
「老人か!」と和葉は笑う。
「でも老人はここまで立たないよな」
「お兄ちゃんは調子に乗らない」
 と言いつつ、クスリと笑う。
「おっ、やっと治まったよ」
 とスッと立った。
「よかった。じゃあ、戻ろうか」
 と和葉が言った時に、竜馬のスマホが鳴った。
「? なんだろう?」
「重要な連絡かもしれないから確認したら」
「そうだな」と竜馬は自分のスマホを鞄から取り出し、確認した。
「うがあ~。痛い痛い!」
 とまた、座り込んだ。
「どうしたの? お兄ちゃん!」
 座り込んだまま、スマホの画面を和葉に見せる。
 さっきの飛び出したおっぱいと、白い自前のパンティ姿の画像だった。
「な! 何が『ごめんなさい。反省してます!』だよ~!」
 と大激怒し、
「優子! いくらなんでも許せない!」
 と下着専門店へ突撃しようとした。
「ま! 待って!」
 と竜馬は立ち上がり、和葉の手を掴んだ。
「お兄ちゃん、離して! 今度という今度は、本当に許せない! お兄ちゃんのおちんちんをおもちゃにして!」
「おい。和葉。声、大きい……」
「それにやっていい事と、悪い事の区別が!」
 と言いながら振り返ると、兄竜馬の股間がテントのように盛り上がっていた。
「……お兄ちゃん……。なんか、凄い……」
「え? あっ!」
 と急いで隠したが、間に合わなかった。
「……実の妹に元気なところを見られてしまうなんて……」
 と落ち込むと、
「お兄ちゃん、将来いっぱい子供を作れるね」
 と親指を上げてグッドをした。
 この後、すぐに優子から間違って送ってしまったとのメッセージが入り、きちんとブラウスにスカート姿の制服姿で謝罪している画像が送られてきた。
 竜馬がそれを和葉に見せると、
「まあ、わざとじゃないなら、許しましょうか」
 とため息をつき、
「本当に優子は慌て者なんだから」
 と言った。
 
つづく。

2022年7月10日

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 また、まとめサイト等への引用をする場合は無断ではなく、こちらへお知らせ下さい。許可するかを判断致します。
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