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【1】竜馬。元女子高へ入学する。
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双子の妹の保護者として、今年から共学になった女子高へ通う兄の話
東岡忠良
※この小説へのご意見・ご感想・誤字脱字・等がありましたら、お気軽にコメントして下さい。
お待ちしています。
──1──
「ちょ! ちょっと待ってくれよ!」
笑顔の両親に向かってそう叫んでしまった。
「そりゃないぜ! 僕は野球の強い富坂(とみさか)高校に行きたいんだけど」
「竜馬。それは駄目だ」
「なんでだよ!?」
「それは」と父は僕の隣にちょこんと座っている美少女を見た。それは実の妹である和葉(かずは)で、僕らは双子なのだ。ただし、二卵性双生児なので顔はそんなに似ていない。分かりやすく言うと、歳が同じの兄妹みたいなものである。
「和葉は女の子だそ。男子高の富坂には行けないだろう」
それを聞いた和葉はウンウンと頷く。
「おかしいだろう! だからって如月(きさらぎ)学園に和葉と僕で通えだなんて! 大体、如月は女子高だそ」
すると満面の笑みを浮かべた母が言った。
「それは大丈夫。如月学園は今年から共学になったから」
「え?」と僕は思考停止した。
「そうなのか?」
家族三人に視線を送ると、これまた満面の笑みでウンウンと頷いている。
いやいやいや。
ここで引いてはいけない!
何とかギリギリレギュラーを小学校から中学まで続けていた野球を、高校でもやりたい!
「だからって兄妹(きょうだい)が同じ高校に通わないといけないなんて事はないだろう!」
そして僕は強めに、
「同じ高校に通わないといけない理由は!」
「理由はあるぞ」と父親。
「なんだよ」
すると、
「和葉の事が心配だ」
「は?」
「女子高生になる和葉の事が父さんも母さんも」
「心配で、心配で」
と二人は声を合わせた。隣の和葉は他人事のように、
「だよね」
と微笑んでいる。
確かに和葉ははっきりとした大きな瞳に幼い顔立ちの美少女なのに、身体は胸が大きくお尻も大きめ。背丈は一八〇センチの僕より、二〇センチ低いだけの、抜群のスタイルである。
「いや! いやいやいや! おかしいだろう! なら僕の将来はどうなるんだよ! 高校球児になる僕の目標は!」
すると母さんが笑顔で、
「如月学園へ和葉と一緒に通ってくれたら、お小遣いを倍にするわよ」
僕は瞬時に計算をした。欲しいゲームソフトや高校になったらパソコンも欲しいと思っていたところである。
「入学したら二十万円くらいのデスクトップのゲーミングパソコンを買ってくれるとか?」
「ああ。お安い御用だ」
「如月、目指すよ!」
こうしてあっさりと、僕は自分の夢を諦めてしまった。
でも後悔はしていない。
──2──
如月学園はなかなかの進学校である。
元々、成績の良い和葉は偏差値の高い公立高校にも十分に合格出来たが、通学のために片道一時間もの通勤ラッシュの電車に揺られないといけない。
そしてその列車には低い偏差値の高校の生徒も利用する。とても和葉をそんな弱肉強食な世界に晒(さら)すことは出来ないと、両親は常々話していた。
つまり徒歩で十五分の如月学園なら、近くて私立の進学校ということで両親は安心なのだと言った。そして何よりも困ったのは、和葉が出したこの条件だった。
「竜馬お兄ちゃんと一緒なら如月でもいい」
僕からすると、とんでもない要求なのだが、両親からすれば願ったり叶ったりだったようだ。
ただ、問題は僕の学力だった。
如月学園を専願で受けても五分五分くらいである。もし僕が落ちる事があったら、
「私も高校へは行かない」
と和葉は言った。つまり僕が受験に失敗すると、二人も中学浪人を出してしまうという事になるのだった。
僕を塾に通わせるという話も出たが、
「塾に通う時間が無駄よ。私がお兄ちゃんを教えるわ」
と和葉は両親を説得し、中学校から帰ると、毎日みっちり勉強を教えてくれた。
ただし。
「お兄ちゃん、ちょっと休憩」
と言って、僕の膝を枕にして寝転んだり、教えてくれながら身体を密着させて来たりもした。
「おいおい。近いぞ」
見た目にも大きくなった胸を押し付けて来て、顔はキスするつもりかと言わんばかりに寄せてくる。
「お兄ちゃん! 私は真剣なんだよ!」
と怒り気味に言う。
「その真剣って勉強の事か? それとも身体を密着して兄をからかうことか?」
と聞いたが、
「如月に行くため。さあ、勉強よ!」
と言いながら、上目遣いでくすりと笑い、僕の顔を見つめてくるのだった。
そして僕、新屋敷竜馬と妹の和葉は、私立如月学園高校を専願で受験し、二人共無事に合格したのだった。
そして例のゲーミングパソコンを手に入れたことは言うまでもない。
──3──
「行ってらっしゃい。気をつけるのよ」
「二人共、気をつけてな」
スマホで写真を撮る母。この入学式の日にわざわざ有給を取り、新調したデジタル一眼レフカメラのシャッターを何度も押す父。二人が写しているのは当然、和葉なのだ。
「二人共、お兄ちゃんも撮ってよ」
え~。どうして~。
と罰ゲームでも食らったような言い方をする。
「僕はいいよ」
とそそくさと行こうとしたが、
「お兄ちゃんの写真は私が欲しい。だから撮って」
の一言で、両親は僕に向かってレンズを向け、バシャバシャ撮り始めた。困惑する僕の腕に和葉が身体を寄せてピースしてきた。
こういう事もあるかと早めに準備していたが、やっと開放された時には、時間的に際どくなっていた。
「少し駆け足で行くぞ。クラス分けを確認しないといけないからな」
「お兄ちゃんと同じクラスがいいな」
豊かな胸を揺らしながら、和葉は笑顔で言う。
「なるといいな」
と言って前方を見ると校門が見えてきて、僕は顔をしかめた。
「試験時もそうだったが、本当に女の子ばかりだな」
とガッカリ気味に言った。
「これってハーレムってやつよね」
とからかう和葉。
「よせよ。僕はなるだけ男子とつるむから関係ないよ」
と呟くと、
「ダメよ、お兄ちゃん! お兄ちゃんは男の子の友達をたくさん作って、女の子の友達もたくさん作って、そして私が一番の仲良しでなきゃ」
と少し怒った口調で言った。
「さいですか」
どちらかと言えば陰キャの僕に、どれだけ期待しているんだよ、と思った。そしてふと意地悪したくなる。
「もし、僕に彼女が出来てしまったらどうする?」
と聞いてみた。すると、
「そんなの大歓迎に決まってるわ。私、その子に取ってお兄ちゃんの次に仲良くなってみせるもの」
と驚きの発言をした。
慌てている僕を見ながら、小悪魔のように微笑む和葉へ、校門に立っていた男性教師が元気よく挨拶をしてきた。
「お早うございます!」
はつらつと返す和葉。僕も挨拶したが、少し口籠ってしまった。
校舎の出入り口前に大勢の人だかりが出来ている。
「クラス、どこになったんだろう?」
和葉は駆け出した。僕はそんなに気になってはいない。いつ見てもどうせ変わらないし、ほとんど女子ばかりなのは確定している。
「竜ちゃん」
振り返ると、幼なじみの三上小夏が立っていた。一七〇センチの高い身長で、髪は肩まで伸ばしている。足が早くて中学時代は県大会二位の成績だったために、如月高校のスポーツ推薦で早々に合格していた。
「小夏~。会えてよかったよ。ほとんどが知らない人ばかりだったからさ。不安だったんだよ」
「やっぱりそうなんだ。竜ちゃん、コミ力(コミュニケーション力)低いからね」
「それを言わないでくれよ」
とため息をつくと、クスッと笑う表情がかわいい。「走る時に邪魔」と言っている和葉と同じくらい大きな胸を張り、
「でもごめんね~。スボーツ科は別クラスで八組なんだあ」
と残念そうに語るが、内心は新しい学校生活にウキウキしているのが伝わってくる。
「大会で活躍していた子も何人かいるし、楽しくなりそうなんだよね」
「そうなんだ。いいなあ」
と言った僕の後ろから、和葉が声をかけた。
「お兄ちゃん! 同じクラスだよ! 三組!」
と言いながら、こちらに近づいてきた。小夏を見つけると駆けてきて、
「やったあ! 小夏ちゃんだあ!」
「和ちゃんと同じ高校になるなんて思わなかったよ。私、てっきり公立の進学校に行くものだと」
すると和葉は胸を張り、
「うちのお兄ちゃんの事が、もう心配で心配で。私が面倒を見ないとどうしようもないんだから」
とこちらを向く。
「おいおい。そりゃないぜ。同じ高校でないと嫌だと言ったのは和葉だろ」
僕は少し怒気を込めた。
「でも竜ちゃんは専願ギリギリで如月だったでしょう。でも和ちゃんはうちの学区内ならどこでも行けるのに、如月にしたんだよね」
と小夏は痛いところをついてきた。
「いや。それはだなあ」
としどろもどろしてしまう。
「まあ、そういう事なので、お兄ちゃんの面倒は妹の私が見るから」
え?なんか立場がいつの間にか反対に。
「ずっと和ちゃんだと大変だから、私も面倒見てあげる。取り敢えず今日は一緒に帰ろうね」
あれよあれよ、という間に三人で待ち合わせての帰宅が決まったのだった。
そして体育館で入学式が始まった。
そこで学生生活が不安になる事実を知ることになるのだった。
登場人物。
新屋敷竜馬。
妹の和葉のボディガードを頼まれて、同じ私立如月(きさらぎ)学園へ入学した野球少年。
公立中学でギリギリレギュラーの実力。勉強は普通。運動も普通。
妹からは慕われている。
新屋敷和葉。
新屋敷竜馬の双子の妹。二卵性双生児なので顔はあまり似ていない。
勉強と運動共に優秀な美少女。
身長は竜馬よりも二十センチ低い一六〇センチ。
兄のことは大好きでどうしても兄と同じ高校に通いたいという目標を実現した。
三上小夏。
新屋敷兄妹の家の近所に住む幼稚園からの幼なじみ。
短距離走で県大会二位の実力で如月高校のスポーツ推薦で入学を果たす。
身長一七〇センチで男っぽい雰囲気なので、竜馬は気を許しているが、小夏は竜馬に好意を抱いている。
新屋敷兄妹を「竜ちゃん」「和ちゃん」と呼ぶ。
2022年6月26日
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東岡忠良
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──1──
「ちょ! ちょっと待ってくれよ!」
笑顔の両親に向かってそう叫んでしまった。
「そりゃないぜ! 僕は野球の強い富坂(とみさか)高校に行きたいんだけど」
「竜馬。それは駄目だ」
「なんでだよ!?」
「それは」と父は僕の隣にちょこんと座っている美少女を見た。それは実の妹である和葉(かずは)で、僕らは双子なのだ。ただし、二卵性双生児なので顔はそんなに似ていない。分かりやすく言うと、歳が同じの兄妹みたいなものである。
「和葉は女の子だそ。男子高の富坂には行けないだろう」
それを聞いた和葉はウンウンと頷く。
「おかしいだろう! だからって如月(きさらぎ)学園に和葉と僕で通えだなんて! 大体、如月は女子高だそ」
すると満面の笑みを浮かべた母が言った。
「それは大丈夫。如月学園は今年から共学になったから」
「え?」と僕は思考停止した。
「そうなのか?」
家族三人に視線を送ると、これまた満面の笑みでウンウンと頷いている。
いやいやいや。
ここで引いてはいけない!
何とかギリギリレギュラーを小学校から中学まで続けていた野球を、高校でもやりたい!
「だからって兄妹(きょうだい)が同じ高校に通わないといけないなんて事はないだろう!」
そして僕は強めに、
「同じ高校に通わないといけない理由は!」
「理由はあるぞ」と父親。
「なんだよ」
すると、
「和葉の事が心配だ」
「は?」
「女子高生になる和葉の事が父さんも母さんも」
「心配で、心配で」
と二人は声を合わせた。隣の和葉は他人事のように、
「だよね」
と微笑んでいる。
確かに和葉ははっきりとした大きな瞳に幼い顔立ちの美少女なのに、身体は胸が大きくお尻も大きめ。背丈は一八〇センチの僕より、二〇センチ低いだけの、抜群のスタイルである。
「いや! いやいやいや! おかしいだろう! なら僕の将来はどうなるんだよ! 高校球児になる僕の目標は!」
すると母さんが笑顔で、
「如月学園へ和葉と一緒に通ってくれたら、お小遣いを倍にするわよ」
僕は瞬時に計算をした。欲しいゲームソフトや高校になったらパソコンも欲しいと思っていたところである。
「入学したら二十万円くらいのデスクトップのゲーミングパソコンを買ってくれるとか?」
「ああ。お安い御用だ」
「如月、目指すよ!」
こうしてあっさりと、僕は自分の夢を諦めてしまった。
でも後悔はしていない。
──2──
如月学園はなかなかの進学校である。
元々、成績の良い和葉は偏差値の高い公立高校にも十分に合格出来たが、通学のために片道一時間もの通勤ラッシュの電車に揺られないといけない。
そしてその列車には低い偏差値の高校の生徒も利用する。とても和葉をそんな弱肉強食な世界に晒(さら)すことは出来ないと、両親は常々話していた。
つまり徒歩で十五分の如月学園なら、近くて私立の進学校ということで両親は安心なのだと言った。そして何よりも困ったのは、和葉が出したこの条件だった。
「竜馬お兄ちゃんと一緒なら如月でもいい」
僕からすると、とんでもない要求なのだが、両親からすれば願ったり叶ったりだったようだ。
ただ、問題は僕の学力だった。
如月学園を専願で受けても五分五分くらいである。もし僕が落ちる事があったら、
「私も高校へは行かない」
と和葉は言った。つまり僕が受験に失敗すると、二人も中学浪人を出してしまうという事になるのだった。
僕を塾に通わせるという話も出たが、
「塾に通う時間が無駄よ。私がお兄ちゃんを教えるわ」
と和葉は両親を説得し、中学校から帰ると、毎日みっちり勉強を教えてくれた。
ただし。
「お兄ちゃん、ちょっと休憩」
と言って、僕の膝を枕にして寝転んだり、教えてくれながら身体を密着させて来たりもした。
「おいおい。近いぞ」
見た目にも大きくなった胸を押し付けて来て、顔はキスするつもりかと言わんばかりに寄せてくる。
「お兄ちゃん! 私は真剣なんだよ!」
と怒り気味に言う。
「その真剣って勉強の事か? それとも身体を密着して兄をからかうことか?」
と聞いたが、
「如月に行くため。さあ、勉強よ!」
と言いながら、上目遣いでくすりと笑い、僕の顔を見つめてくるのだった。
そして僕、新屋敷竜馬と妹の和葉は、私立如月学園高校を専願で受験し、二人共無事に合格したのだった。
そして例のゲーミングパソコンを手に入れたことは言うまでもない。
──3──
「行ってらっしゃい。気をつけるのよ」
「二人共、気をつけてな」
スマホで写真を撮る母。この入学式の日にわざわざ有給を取り、新調したデジタル一眼レフカメラのシャッターを何度も押す父。二人が写しているのは当然、和葉なのだ。
「二人共、お兄ちゃんも撮ってよ」
え~。どうして~。
と罰ゲームでも食らったような言い方をする。
「僕はいいよ」
とそそくさと行こうとしたが、
「お兄ちゃんの写真は私が欲しい。だから撮って」
の一言で、両親は僕に向かってレンズを向け、バシャバシャ撮り始めた。困惑する僕の腕に和葉が身体を寄せてピースしてきた。
こういう事もあるかと早めに準備していたが、やっと開放された時には、時間的に際どくなっていた。
「少し駆け足で行くぞ。クラス分けを確認しないといけないからな」
「お兄ちゃんと同じクラスがいいな」
豊かな胸を揺らしながら、和葉は笑顔で言う。
「なるといいな」
と言って前方を見ると校門が見えてきて、僕は顔をしかめた。
「試験時もそうだったが、本当に女の子ばかりだな」
とガッカリ気味に言った。
「これってハーレムってやつよね」
とからかう和葉。
「よせよ。僕はなるだけ男子とつるむから関係ないよ」
と呟くと、
「ダメよ、お兄ちゃん! お兄ちゃんは男の子の友達をたくさん作って、女の子の友達もたくさん作って、そして私が一番の仲良しでなきゃ」
と少し怒った口調で言った。
「さいですか」
どちらかと言えば陰キャの僕に、どれだけ期待しているんだよ、と思った。そしてふと意地悪したくなる。
「もし、僕に彼女が出来てしまったらどうする?」
と聞いてみた。すると、
「そんなの大歓迎に決まってるわ。私、その子に取ってお兄ちゃんの次に仲良くなってみせるもの」
と驚きの発言をした。
慌てている僕を見ながら、小悪魔のように微笑む和葉へ、校門に立っていた男性教師が元気よく挨拶をしてきた。
「お早うございます!」
はつらつと返す和葉。僕も挨拶したが、少し口籠ってしまった。
校舎の出入り口前に大勢の人だかりが出来ている。
「クラス、どこになったんだろう?」
和葉は駆け出した。僕はそんなに気になってはいない。いつ見てもどうせ変わらないし、ほとんど女子ばかりなのは確定している。
「竜ちゃん」
振り返ると、幼なじみの三上小夏が立っていた。一七〇センチの高い身長で、髪は肩まで伸ばしている。足が早くて中学時代は県大会二位の成績だったために、如月高校のスポーツ推薦で早々に合格していた。
「小夏~。会えてよかったよ。ほとんどが知らない人ばかりだったからさ。不安だったんだよ」
「やっぱりそうなんだ。竜ちゃん、コミ力(コミュニケーション力)低いからね」
「それを言わないでくれよ」
とため息をつくと、クスッと笑う表情がかわいい。「走る時に邪魔」と言っている和葉と同じくらい大きな胸を張り、
「でもごめんね~。スボーツ科は別クラスで八組なんだあ」
と残念そうに語るが、内心は新しい学校生活にウキウキしているのが伝わってくる。
「大会で活躍していた子も何人かいるし、楽しくなりそうなんだよね」
「そうなんだ。いいなあ」
と言った僕の後ろから、和葉が声をかけた。
「お兄ちゃん! 同じクラスだよ! 三組!」
と言いながら、こちらに近づいてきた。小夏を見つけると駆けてきて、
「やったあ! 小夏ちゃんだあ!」
「和ちゃんと同じ高校になるなんて思わなかったよ。私、てっきり公立の進学校に行くものだと」
すると和葉は胸を張り、
「うちのお兄ちゃんの事が、もう心配で心配で。私が面倒を見ないとどうしようもないんだから」
とこちらを向く。
「おいおい。そりゃないぜ。同じ高校でないと嫌だと言ったのは和葉だろ」
僕は少し怒気を込めた。
「でも竜ちゃんは専願ギリギリで如月だったでしょう。でも和ちゃんはうちの学区内ならどこでも行けるのに、如月にしたんだよね」
と小夏は痛いところをついてきた。
「いや。それはだなあ」
としどろもどろしてしまう。
「まあ、そういう事なので、お兄ちゃんの面倒は妹の私が見るから」
え?なんか立場がいつの間にか反対に。
「ずっと和ちゃんだと大変だから、私も面倒見てあげる。取り敢えず今日は一緒に帰ろうね」
あれよあれよ、という間に三人で待ち合わせての帰宅が決まったのだった。
そして体育館で入学式が始まった。
そこで学生生活が不安になる事実を知ることになるのだった。
登場人物。
新屋敷竜馬。
妹の和葉のボディガードを頼まれて、同じ私立如月(きさらぎ)学園へ入学した野球少年。
公立中学でギリギリレギュラーの実力。勉強は普通。運動も普通。
妹からは慕われている。
新屋敷和葉。
新屋敷竜馬の双子の妹。二卵性双生児なので顔はあまり似ていない。
勉強と運動共に優秀な美少女。
身長は竜馬よりも二十センチ低い一六〇センチ。
兄のことは大好きでどうしても兄と同じ高校に通いたいという目標を実現した。
三上小夏。
新屋敷兄妹の家の近所に住む幼稚園からの幼なじみ。
短距離走で県大会二位の実力で如月高校のスポーツ推薦で入学を果たす。
身長一七〇センチで男っぽい雰囲気なので、竜馬は気を許しているが、小夏は竜馬に好意を抱いている。
新屋敷兄妹を「竜ちゃん」「和ちゃん」と呼ぶ。
2022年6月26日
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