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【10】非常階段を上り下りする足音。
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【10】非常階段を上り下りする足音。
※この小説へのご意見・ご感想・誤字脱字・等がありましたら、お気軽にコメントして下さい。
お待ちしています。
──【10】──
また「出る」という工場での話です。
僕と友人は二階の作業場で針金で作られたディスプレイを組み立てていました。
作業内容は単純で、重ねて外れないようにネジで止めるだけの仕事なのですが、量が尋常ではなかったんです。
社員さんの話では、
「このディスプレイにパンフレットを立てて全国に配置されるらしい」
と聞かされていました。
もの凄い量の部品が並んでいます。
「早く組み立てて出荷しないと、この作業場がこのディスプレイだらけになるから頼むよ」
と言いながら、社員さんはすでに組み立てられズラリと並べられたディスプレイを指でチョンと触れると、銀メッキされた針金の軽いディスプレイは、
カサカサ。
と揺れて音を立てた。
鉄製だが針金を加工して作られた銀メッキの軽量ディスプレイは、片手でも簡単に持ち上げることができるほどでした。
それがこの会社の二階の作業場を占領しているのです。
通路にもそのデスプレイは並び、作業のための部品を取りに行ったり、トイレへ行くたびに少しでも触れると、
カサカサ。
と言う音がするのです。
そしてこのデスプレイは二階の非常階段の出入り口にも大量に置かれました。
それくらい量が多かったのです。
社員さんからは、
「明日にはある程度、出荷したいから、夜中の十二時まで残業してくれ。なるべく、その時間には帰るけど私が帰らなかったら、勝手に帰っていいから」
と言われたのです。
僕達二人は散々文句を言いましたが、夕飯に中華料理を出前してもらったら不思議と上機嫌になり、仕事を続けていました。
夕方に営業さんは車でどこかへ出かけて行きました。
午後十一時が過ぎた頃でした。
真夜中です。
今、この少人数の会社には僕達アルバイトの二人しかいません。
働き者の僕達は友人と喋りながらも、手は動かしてデスプレイを作っていました。
そんな時。
コンコンコン。
と非常階段を上る音が聞こえてきたのです。
「? 営業さん、帰って来るの十二時回るって聞いたけど、少し早いな」
と僕。
「本当だな。いつも遅いのに」
と友人。
その足音は非常階段の一階からゆっくりと上ってきています。
「? せっかちな営業さんの割には、二階に上がるの遅くないか?」
と僕。
「確かに。何か忘れ物か? どうしたんだろう?」
と友人。
その足音が二階に上がった音がしました。
でもなぜか二階の作業場に顔を出さないのです。
二階に繋がる非常階段の踊り場に立ったままだったのです。
「ん? 営業さん、何をやってんだろ?」
「僕らがちゃんと仕事をしているか監視しているのかも。でも足音でバレバレだけどね」
と友人が微笑む。
すると、
カサカサ。
という音が聞こえました。その足音の主が二階の作業場に入ってきたのです。
「営業さん! 今日は早いですね。もしよかったら組み立てを手伝って下さいよ」
「そうですよ! アルバイトばかりに働かせないで下さいよ」
と言うと、
その足音は、
カサカサ。
カンカン。
と二階の作業場を出て、非常階段で下りて行ってしまいました。
「え~。営業さん、逃げたよ」
と僕は苦笑しました。
「そんなに、この作業ってやりたくないかな~」
と友人。
すると、また。
カンカンカン。
と非常階段を上ってきました。
僕はこの時にうわさの幽霊のことを思い出しました。
「なあ。これ、本当に営業さんなのかな? もしかして……」
と僕が小声で言うと、
「幽霊なんていないよ。泥棒じゃないかな?」
と友人は言いました。
「確かに。こんなにはっきりと足音がするからね」
と僕は言いました。
この時の友人は心霊とか幽霊とかを、全く信用していなかったのです。
そして僕は小声で、
「今度、二階に上がってきたら、見に行かないか?」
と提案しました。
今は針金のディスプレイのおかげで、二階に足を踏み入れたら、どうしてもディスプレイに触れてしまい『カサカサ』という音がするのです。
「それいいな。じゃあ、音がしたら大急ぎで非常階段のところへ見に行くか」
と友人は言いました。
僕は頷きました。
そしてすぐにその足音は、一階から踊り場に着きました。そして二階に上がってきます。
カンカンカン。
そして、ディスプレイを揺らす『カサカサ』という音が聞こえたと同時に、
今だ!
と僕と友人は大慌てで非常階段と繋がる二階の出入り口を見に行ったのです。
誰もいませんでした。
「もしかして隠れているのかもよ」
とその周辺の隠れることができそうな箇所を調べましたが、もちろん誰もいませんでした。
「おかしいな~?」
と言いながら、僕と友人が非常階段に繋がる出入り口に背中を向けた瞬間でした。
カンカンカンカン!
と勢いよく二階から一階へ下りていく足音がしたのです。
「なあ。さっき調べたよな」
「ああ。隠れることができそうなところは全部見たよな」
「どういうことだ?」
「分からない。本当に」
僕らは心底不思議に思いながら、作業の続き始めました。
そのさいも何度もその足音は、非常階段から二階に上がったり下りたりを繰り返していたのでした。
そして車が停まる音がして、非常階段ではなく二階の事務所に繋がる階段を上ってくる足音がしました。
「どうだい。作業は進んでいるかい」
と営業さんが十二時の時間通りに帰ってきたのです。
僕は、
「営業さん。もしかして十一時頃に一度帰って来て、非常階段から上ってきましたか?」
と訊くと、
「え? いいや。今、帰ったばかりだけど? 何でそんなことを訊くの?」
と答えたのです。
僕らが営業さんとそういうやり取りをしている側に、荷物専用のエレベーターがあるのですが、そのエレベーターでまた不思議なことが起こるのでした。
2024年4月2日
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また「出る」という工場での話です。
僕と友人は二階の作業場で針金で作られたディスプレイを組み立てていました。
作業内容は単純で、重ねて外れないようにネジで止めるだけの仕事なのですが、量が尋常ではなかったんです。
社員さんの話では、
「このディスプレイにパンフレットを立てて全国に配置されるらしい」
と聞かされていました。
もの凄い量の部品が並んでいます。
「早く組み立てて出荷しないと、この作業場がこのディスプレイだらけになるから頼むよ」
と言いながら、社員さんはすでに組み立てられズラリと並べられたディスプレイを指でチョンと触れると、銀メッキされた針金の軽いディスプレイは、
カサカサ。
と揺れて音を立てた。
鉄製だが針金を加工して作られた銀メッキの軽量ディスプレイは、片手でも簡単に持ち上げることができるほどでした。
それがこの会社の二階の作業場を占領しているのです。
通路にもそのデスプレイは並び、作業のための部品を取りに行ったり、トイレへ行くたびに少しでも触れると、
カサカサ。
と言う音がするのです。
そしてこのデスプレイは二階の非常階段の出入り口にも大量に置かれました。
それくらい量が多かったのです。
社員さんからは、
「明日にはある程度、出荷したいから、夜中の十二時まで残業してくれ。なるべく、その時間には帰るけど私が帰らなかったら、勝手に帰っていいから」
と言われたのです。
僕達二人は散々文句を言いましたが、夕飯に中華料理を出前してもらったら不思議と上機嫌になり、仕事を続けていました。
夕方に営業さんは車でどこかへ出かけて行きました。
午後十一時が過ぎた頃でした。
真夜中です。
今、この少人数の会社には僕達アルバイトの二人しかいません。
働き者の僕達は友人と喋りながらも、手は動かしてデスプレイを作っていました。
そんな時。
コンコンコン。
と非常階段を上る音が聞こえてきたのです。
「? 営業さん、帰って来るの十二時回るって聞いたけど、少し早いな」
と僕。
「本当だな。いつも遅いのに」
と友人。
その足音は非常階段の一階からゆっくりと上ってきています。
「? せっかちな営業さんの割には、二階に上がるの遅くないか?」
と僕。
「確かに。何か忘れ物か? どうしたんだろう?」
と友人。
その足音が二階に上がった音がしました。
でもなぜか二階の作業場に顔を出さないのです。
二階に繋がる非常階段の踊り場に立ったままだったのです。
「ん? 営業さん、何をやってんだろ?」
「僕らがちゃんと仕事をしているか監視しているのかも。でも足音でバレバレだけどね」
と友人が微笑む。
すると、
カサカサ。
という音が聞こえました。その足音の主が二階の作業場に入ってきたのです。
「営業さん! 今日は早いですね。もしよかったら組み立てを手伝って下さいよ」
「そうですよ! アルバイトばかりに働かせないで下さいよ」
と言うと、
その足音は、
カサカサ。
カンカン。
と二階の作業場を出て、非常階段で下りて行ってしまいました。
「え~。営業さん、逃げたよ」
と僕は苦笑しました。
「そんなに、この作業ってやりたくないかな~」
と友人。
すると、また。
カンカンカン。
と非常階段を上ってきました。
僕はこの時にうわさの幽霊のことを思い出しました。
「なあ。これ、本当に営業さんなのかな? もしかして……」
と僕が小声で言うと、
「幽霊なんていないよ。泥棒じゃないかな?」
と友人は言いました。
「確かに。こんなにはっきりと足音がするからね」
と僕は言いました。
この時の友人は心霊とか幽霊とかを、全く信用していなかったのです。
そして僕は小声で、
「今度、二階に上がってきたら、見に行かないか?」
と提案しました。
今は針金のディスプレイのおかげで、二階に足を踏み入れたら、どうしてもディスプレイに触れてしまい『カサカサ』という音がするのです。
「それいいな。じゃあ、音がしたら大急ぎで非常階段のところへ見に行くか」
と友人は言いました。
僕は頷きました。
そしてすぐにその足音は、一階から踊り場に着きました。そして二階に上がってきます。
カンカンカン。
そして、ディスプレイを揺らす『カサカサ』という音が聞こえたと同時に、
今だ!
と僕と友人は大慌てで非常階段と繋がる二階の出入り口を見に行ったのです。
誰もいませんでした。
「もしかして隠れているのかもよ」
とその周辺の隠れることができそうな箇所を調べましたが、もちろん誰もいませんでした。
「おかしいな~?」
と言いながら、僕と友人が非常階段に繋がる出入り口に背中を向けた瞬間でした。
カンカンカンカン!
と勢いよく二階から一階へ下りていく足音がしたのです。
「なあ。さっき調べたよな」
「ああ。隠れることができそうなところは全部見たよな」
「どういうことだ?」
「分からない。本当に」
僕らは心底不思議に思いながら、作業の続き始めました。
そのさいも何度もその足音は、非常階段から二階に上がったり下りたりを繰り返していたのでした。
そして車が停まる音がして、非常階段ではなく二階の事務所に繋がる階段を上ってくる足音がしました。
「どうだい。作業は進んでいるかい」
と営業さんが十二時の時間通りに帰ってきたのです。
僕は、
「営業さん。もしかして十一時頃に一度帰って来て、非常階段から上ってきましたか?」
と訊くと、
「え? いいや。今、帰ったばかりだけど? 何でそんなことを訊くの?」
と答えたのです。
僕らが営業さんとそういうやり取りをしている側に、荷物専用のエレベーターがあるのですが、そのエレベーターでまた不思議なことが起こるのでした。
2024年4月2日
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