読み人知らず

第一録 懐古

第二話 虹

私はいつも通り学校に行く。
季節はすっかり夏で、直射日光にあたるだけでも汗が出るほどだ。
登校して、6時間眠たくなる授業をぼーっと聞いて、また下校する。そんな日々の繰り返し。
社会人になっても同じような感じで過ごしていつか死ぬ。
それでよかった。人生に充足感なんて必要ない。



六限の終了のチャイムが鳴る。
-帰ろう-
そう思った時に先生に呼ばれた。
「川村、ちょっと手伝ってくれ。」
今日集めた宿題を職員室に運んだ。
静かだということで私は図書委員に選ばれている。
だからこういう雑用はよく手伝う。
手伝いを終えて、帰ろうと学校を出ようとする。
薄々気づいていたが、やはり夕立が降っていた。
まずい、今日は傘を持ってきていない。雨宿りするしかないな。
辺りは雨雲のせいで暗くなっている。雨音は全てを掻き消すほど大きい。
ついてなかったな、なんてことを考えて雨宿りしていると、隣に同じ高校の女の子がいた。長髪の女の子。
雨音のせいで隣に来るまで気づかなかった。
「私も傘忘れちゃったなー」
どう返せばわからなくてとりあえず少し笑う。
さらに彼女は話しかけてくる。
「この雨がやんだら、虹が出るよ」
突発的にこんなことを言われて思わず聞いてしまう。
「え、なんで？」
「なんとなく。」
雨は次第に弱くなっていき、辺りも明るくなってきた。
これなら帰れるな。と思った時、

「ほら見て！」

空を見ると虹がかかっている。とても綺麗。
ここまで心を打つ虹を見たことがあるだろうか。
先ほどの暗い色褪せた世界とは大きく違う。
「やっぱりね！じゃあまたね」
彼女は名前も知らずに帰ってしまった。
間違いなく私は彼女がいなければ虹の存在なんて気づかなかっただろう。私とは見ている世界が違うのか。
彼女はなぜわかっていたのか。
彼女が虹をつくったのか？
これが彼女との初めての出会い。