君は僕がいなくても大丈夫だろう……、ってそんなの当たり前じゃないかしら。

紗綺

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恋破れて愛を知る

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彼と別れて実家に戻ると家族はとても喜んだ。
私が持って帰った彼の研究成果を。
彼に渡す分の利益も得られるのだから当然よね。
私も彼の代わりに研究を進めてくれる人を探すのは難しいので実家を頼った。
伝手を多く持つ実家のおかげでほどなく研究は成り、すでに実用化されている。



別れてから3年ほど経った頃、彼の噂を聞いた。
新しく取り組んでいた研究が一つ実用化に到ったと。
最初の売り出しは小規模だったけれど利益は悪くなく、近々販路を拡大すると聞いた。
次の研究は援助も増えるでしょう。
研究者としての道を自分で開いた彼に安堵と少しのもの悲しさを感じてしまった。
結局私がいなくても彼は自力で成功したのだ。
幼馴染として喜びがないわけではないけれど、複雑な感情があるのは仕方ない。

隣で話を聞いていた人が私の肩を抱き寄せた。
私の複雑な感情を見抜いた上で気にすることはないと言ってくれる。

「そんな顔をすることはない。
その彼も、破談に伴って権利を持っていかれたことで自身を改めるきっかけになったんだろ?」

そう。彼は私と別れてから研究だけに没頭するのではなく、働きながら研究をするようになった。
愛する人と苦労を分かち支え合いながら研究を続け、実用が近いものに優先して取り組み成果を上げた。
それは素晴らしいことだわ。

「そうですね、契約にも慎重になったようですし、意味はあったのでしょうね」

契約不履行により研究経過を失うという経験から、契約にはしっかり目を通し納得いかないときは交渉をするまでになったと聞いた。
自分や愛する人を守るためしっかりと相手や契約内容を見極める。
世間の悪意や欲を跳ね返す強さを持つまでになった彼。
私の存在は全く無駄ではなかった、そう初めて思えた。

「意味はあったさ。
婚約にも、家を出たことにも。
そうでなければ、俺とは出会わなかった」

そうだろう?と笑いかけられて微笑み返す。
そうですね。
彼のために一人で奔走した時間があったからこそ実家も私の能力を認め、それを生かす相手を選ぶことを許してくれたのだから。

「初めて会ったときは面食らったよ。
こんなに可愛らしいお嬢さんが一人で婚約解消に伴う権利の管理を頼みに来たんだから」

専門的な内容もしっかり理解し不利益がないよう取り計らう様子に感心したと出会ったときの印象を語る。
何回聞いても気恥ずかしいです。

「あの頃は必死だったのです」

私がしっかり管理しなければ権利を狙う誰かに奪われる可能性だってある。
そうなれば彼の研究が無駄になってしまうと思ったから。

「そんな姿も可愛かったよ」

肩を抱いていた手が頭に移動する。
優しく頭を撫でる手の心地よさに身を委ねると触れ合う箇所から幸せが広がります。

目を合わせ微笑み、顔を近づける。
柔らかなくちづけに唇が笑みを作っていく。

どうも私は真剣に何かに取り組んでいる男性に弱いみたい。
仕事で関わるうちにこの人の真剣な眼差しに惹かれていって。
そしていつからか、私の視線に気づいたとき真剣な表情を緩めて微笑むこの人に特別な感情を抱いていた。
こちらを向いて微笑む顔をもっと見たい。
私と同じ想いを抱いてほしいと。


軽いくちづけを繰り返し肩を寄せ合います。


彼に対する感傷は今日で最後にできる。
自然にそう思えました。

私を見つめる度にとろけるような甘い視線を送るこの人に感じるのが、間違いなく愛であると信じられる。
この愛を伝えたいと私からもくちづけを送ります。
嬉しそうに笑みそのまま深くなるくちづけは息が次げないくらい激しくて、唇を離されたときにはくらくらしてしまったほど。

「愛らしすぎるのも罪だな。
結婚まで待てない男にさせないでくれ」

獰猛に微笑まれて、待たなくていいと言いそうになってしまう。
そんな私の唇に指を当て、困ったように首を振る。
その顔にまた愛しさが溢れてきた。
結婚式まであと少し。
お互いに愛を誓えるその日を指折り数えて待つ。
逸る気持ちすら楽しく幸せなものでした。




Fin.






こちらで本編は完結です!

※番外編は『彼』のその後の話になります。

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