君は僕がいなくても大丈夫だろう……、ってそんなの当たり前じゃないかしら。

愛していたわけではないけれど

　

戸締りをし、鍵を受け取る。
しばらくは研究成果の確認と警備のために人をやらないといけない。
今後の段取りを考えるのを中断し、彼を見つめる。
これで最後かもしれない、そう思えば長年見ていた彼の顔も特別なものに感じられた。


「それじゃこれで……」

視線を外して立ち去ろうとする彼を呼び止める。
これから私が告げるのは余計なことでしょう。
彼にとっては煩わしいことだと思います。
けれどこれが最後なら、知っていてほしかった。

やっぱり私は彼を愛していたわけではありませんね。
だって自分の想いを優先してしまうんだもの。

「……あなたの瞳が好きでした」

私の告白に彼の動きが止まります。

「新しい発見をしたときにキラキラした目で私を見ることや、研究内容の説明を私が上手く理解できないときにかみ砕こうと四苦八苦してた少し困った顔。
何よりも研究に夢中になっているときの真剣な瞳が、……とても好きだったの」

だから、支えたいと思った。
一番側で。

「でも、これは愛ではなかったわ」

彼の言う愛とは違う。

「さようなら、これからもあなたの幸せを願っています」

彼に背を向けて街に向かって歩き出す。
立ち去らない気配に後ろを振り返りたくなる気持ちを抑えて足を進める。
ぽろりと一つだけ零れた涙は初恋の終わりを表していた。