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知らないと思ったら大間違い
しおりを挟む私の婚約者は他の女性に執心している。
それも恋人でもない女性に侍りその寵愛を他の者と競っているというのだから呆れたもの。
結婚前の遊びではなく本気で入れあげていることを多くの学園生が知っている。大層な恥さらしだと思うわ。
「婚約を破棄してやる、だって。
呆れて物が言えないよ、まったく腹立たしい」
普段穏やかな声を心がけている口調が苛立たしそうに荒れている。
首を振って乱れた口調を抑え肩にかかる髪を払った。
「婚約の破棄、ね。
あちらの家からも叔父様からも何も言われていないのだけれど」
こちらに瑕疵がないのに破棄ができると本気で思っているのでしょうか。
十中八九彼女の気を引くためのでたらめな発言だと思いますが。
乱れた襟を直しながら神秘的な色の石の付いたブローチを付け直して口を尖らせる。
「あの娘に相当ご執心だからね。
婚約を解消する前に求婚しそうな勢いだよ」
そうなってくれたら完璧に向こうの有責になるのでぜひ応援したい。
ぱちん、と音を立ててブローチを外す。
考えをまとめるときにブローチを着けたり外したりするのはあまり良くない癖だ。
「可愛らしい彼女を他の方に取られないよう必死なのかしら」
容姿に優れ、愛らしい態度の彼女は多くの男性に人気がある。
妖精のような、と表現される美少女は淡い金色の髪、吸い込まれそうな大きな緑の瞳。
小柄な体は守ってあげたくなる頼りなさだけれど、よく動く表情と明るい笑い声、幼い少女のように無邪気な距離感で瞬く間に男性の人気を得た。
小さなピンク色の爪先に口づけを落とされて頬を染めるでもなく純粋な喜びを見せていた彼女はまさに妖精のようだった。
近くで見ていたから彼女の愛らしさはよく知っている。
「それで、姉さんはどうするつもりなの?」
「そうねえ……」
外したブローチをしまいながら言葉を探す。
答えはもう決まっていた。
側に控えていた青年を呼び指示をする。
この機会を逃すわけにはいかない。
こうなったのは好都合。
彼らを利用させてもらう。
婚約を解消したいのはこちらも同じなのだから。
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