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神官ルート
願う幸せ ☆
しおりを挟むぱんっと小気味いい音を立て、シーツのシワを伸ばす。
だいぶ洗濯にも慣れ、大きいシーツも土に付けることなく干せるようになった。
「今日の朝食は何がいいですか?」
「玉ねぎたっぷりのオムレツが良いです」
私が希望を伝えるとアレクシオが嬉しそうに笑う。
朝食のメニューだけでなく、アレクシオは私が何かしたいと言ったり望みを口にすると喜んでくれる。
それに気づいてからは遠慮するのではなく、ちゃんと口にするようにしていた。
反対にアレクシオが私に合わせようとしてくるのが最近の悩みだ。
ずいぶん贅沢な悩みを持つようになったと思う。
洗濯を終え、神の象徴の前で祈りを捧げる。
きらきした光がたくさん辺りに浮かび、幻想的な空間を作り出していた。
神聖魔法に慣れるほどに光の量は増えていき、今では祭壇前だけではなく祈りの間に広く光が現れるようになった。
すごいことらしいけどいまいちピンとこない。
欠けた常識を知識として学ぶことはできても、感覚は補えない。
神殿はもったいないことをしましたね、といつだったかアレクシオが言っていた。
ちゃんと教え導いていたら優秀な神聖魔法の使い手を増やせたのにと。
でもそうしたらアレクシオと結ばれることはなかったかもしれない。
神殿所属だからどこかで巡り会うことはあったかもしれないけれど。
今のような外界と隔絶したような穏やかな暮らしを送ることはきっとないから。
祈りを終えたら、一緒に朝食を作る。
野菜を洗ってちぎり、深めの皿に入れていく。
包丁は解禁され使い方を教えてもらったけれど朝食作りに出番はなかった。
手早く卵を割っていくアレクシオの手元をじっと見る。ボウルに卵を打ちつけたかと思えば、中身がボウルに落ちる。
魔法よりも不思議だといつも思う。
さっと卵を混ぜたアレクシオが熱した鍋に卵液を入れていく。
炒めた玉ねぎと卵液が絡み、少し混ぜたかと思うと鍋が揺すられオムレツの形になっていく。
アレクシオの背中からオムレツができていくのを見つめる。
なお、火の取り扱いはまだ許されていない。
火の取り扱いは料理の中~上級編らしい。
まだ卵も上手く割れない私には先の先の話だ。
あっという間にできたオムレツをテーブルに持っていく。
神へ感謝を捧げ口にしたオムレツはとろりとしておいしい。
おいしいと言葉にして伝えるとふわりと柔らかい微笑みが向けられる。
その微笑みに素直に幸せだと思った。
日常が幸せに満ちている。
慣れないそれに時に不安になることもあるけれど、そんな時はアレクシオが寄り添ってくれた。
一日の仕事を終え肩を触れ合わせて休む。
アレクシオの手が髪を梳いてぽつりと囁く。
「髪が伸びてきましたね」
一緒に暮らし始めた時は肩につかないくらいだったけれど、今は肩より少し下くらいになった。
「もう少ししたら結べそうです」
2本の指で緩く輪を作り、髪を纏める。
「アレクシオは長い方が好きですか?」
「どちらもきっと好きですよ?
ただ、したことがないかなと思いまして」
髪を結ったり髪飾りを付けたりして楽しんだことは幼い記憶の中にだけ。
「あなたの髪色は明るいのでどんな色でも映えそうですね」
髪に触れながら微笑むアレクシオがなんだか楽しそうで私まで口元が綻んでしまう。
「……っ」
髪を払った指が首筋に降りてきて息を詰める。
首筋から鎖骨をなぞり、魔術刻印へ指を滑らせくちづけを落とした。
初めて結ばれた日に染まった刻印は鮮やかに青い。
アレクシオの瞳と同じそれを見る度に幸福感に包まれた。
徐々に夜着を開けさせゆっくりと肌を暴いていく手が肩から夜着を滑り落とす。
紋様の上をアレクシオの舌がなぞり、ぞくぞくとした高揚を与えていった。
「ふぁっ、……んっ、あんっ!」
紋様へ刺激を与え続けながら左手で乳首を撫で転がし始める。
甘い刺激に腰を揺らすとアレクシオの右腕が背を支え膝の上に座らせた。
胡坐をかいた膝の上は不安定で、向い合せで座っているのは怖いと身体をずらして右の腿の上に座り直す。
アレクシオは私を支えるように背に腕を回すと胸元にまたキスをして乳首を口に含んだ。
「んっ、あっ、ああんっ」
舌先が円を描くように乳首を転がし、柔く唇で食まれる。
それが気持ち良くて腿の上で身体を跳ねさせ喘いだ。
「ミリアレナ……? 足りないですか?」
アレクシオが乳首から口を離して問いかける。
どうして止めてしまうのかと見下ろすと腿を揺らされ自分のしていたことを教えられる。
気づかぬうちに花芯をアレクシオの腿に押し付けて快感を得ようとしてしまっていた。
「あ……っ、やぁっ、ごめんなさいっ」
「どうして謝るのですか?
自由に気持ち良くなっていいんですよ」
ほらと揺らされ自身のはしたなさに頬が熱くなる。
「だ、ダメぇっ、揺らさないでぇっ!」
恥ずかしさに身悶えしながら嫌々と首を振ると揺らす動きを止めてくれた。
代わりに腰を上げてほしいと言われ首にしがみつくかたちで腰を上げ、膝立ちになる。
「んっ……!」
秘所にアレクシオの指が触れる感触がする。
すでに濡れているそこを指が滑ると甘い、痺れるような快感が襲ってきた。
「ああっ!」
アレクシオを抱きしめて快感に崩れそうな足を支える。
中から溢れる蜜を確かめるように浅いところを探っていた指が中に入り込んだ。
「ああ、よく濡れていますね」
私の腿にも蜜が零れていましたと呟くアレクシオの言葉に羞恥に震える。
「は、ずかしい……っ」
消え入るような声で訴える。
自分でアレクシオの腿に花芯を擦りつけ気持ち良くなって蜜まで零していたなんて。
「どうして? 感じて、私を欲しがってくれている証ですよ」
私は嬉しいですとアレクシオが耳に囁き、その刺激にまた蜜が零れた。
ほら、待ち望んでくれている、と耳に吹き込みながらアレクシオが中で指を広げる。
「んんっ!」
くちゅくちゅと中をかき混ぜる淫らな音に耳を塞ぎたくなる。
ぎゅっとアレクシオに抱きついて長い愛撫に耐えた。
指を引き抜かれたときにはもう自分を支えていられなくて、かくりと脚が折れてしまう。
快感を与えられ続けた身体は、小刻みに震え欲望を待ち望んでいた。
「ミリアレナ」
頬にくちづけたアレクシオが私を横たえ、夜着を脱ぎ捨て現れた欲望へ手を這わせる。
猛る欲望にアレクシオの細く美しい指が絡みついた様子は酷く倒錯して見えて、興奮を煽った。
ふとももへ押し付けられる欲望がアレクシオの興奮を伝えてくる。
「入れますよ」
言葉と共にアレクシオの欲望が中に入ってくる。
蜜で溢れた場所はいともたやすく焼けそうに熱い欲望を迎え入れた。
「……っ、ああんっ!」
奥まで一気に貫かれて悲鳴のような声を上げる。
熱くて、気持ち良くて、ただそれだけしか考えられない。
「アレクシオ……、アレクシオっ!」
名前を呼ぶとその度に奥を穿たれ、快感に中を締め付ける。
強い快感に手をさまよわせると、腰を掴んでいた手が離れ指を絡めて繋がれた。
「すみません、性急すぎて怖かったですか?」
「違うの、気持ち良くてもうイっちゃいそうだったから……」
一緒がいいのと言うと、アレクシオが一瞬無表情になり――。
「ぁやっ! っ……ああんっ」
アレクシオのものが中で膨張した。
快感に身を捩ると繋いだ手をぎゅっと握られ目尻にくちづけられる。
「ミリアレナ、今のはちょっと……」
余裕がなくなってしまいそうですと困った顔で覗き込まれて胸の奥がきゅうっと甘く締め付けられた。
「一緒がいいんですね?」
確かめるように首を傾げて聞かれ、こくこくと頷く。
「でしたらイきそうになったら言葉にしてくれますか?
この可愛らしい唇で」
とろりと甘く微笑んで、指で唇をなぞる。
その時アレクシオが浮かべていた笑みは――、怖くなるほど綺麗だった。
動きますよと囁き腰を引くと入口から奥までを一息で貫く。
身体を襲う激しい快楽に甘い声を上げアレクシオを締め付ける。
「やぁ、あんっ! あっ」
アレクシオが腰を進める度に快感の波が激しく押し寄せてくる。
限界はすぐだった。
「アレクシオっ、もう、イっちゃう……。
あっ、イく……っ!
――っ、ああああっっ!!」
アレクシオ飛沫を中に浴びながら一気に昇り詰める。
吐き出した熱を塗り込めるように奥へと欲望が押し付けられ――。
その熱に、達しながら更なる高みに追いやられた。
時々思う、何かひとつ違っていたら今の幸せがなかったのかと。
それを恐れるように私もアレクシオも過去のもしもの話はしない。
今でいい、今がいい。
他の道なんて何一つ考えたくないほどに今に満たされている。
「アレクシオ……」
快感にぼうっとした声でアレクシオの名前を呼ぶ。
「大好きです……」
私を見つめる青の瞳が嬉しそうに細められ、優しいくちづけを落とす。
「私もですよ……。
あなたを愛しています……」
頬を撫で囁くアレクシオの胸に頬を寄せる。
目元や額、耳にと次々に降ってくるキスに口元が綻ぶ。
明日も明後日も、その次の日も。
この腕の中で眠り、目覚めたい。
「明日は、一緒にお散歩がしたいです」
細やかな願いを口にし、目を閉じる。
「もちろんですよ、どこに行きましょうか?」
心地よいまどろみに落ちながら言葉を紡ぐ。
嬉しそうな声に明日もまた小さな願いをたくさん口にしようと思う。
――……。
段々と優しい声が遠くなる。
けれど、繋いだ手の感触だけは夢に落ちる間もはっきりと感じていた――。
【神官ルート 完】
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