魅了魔法持ちの私〜忌まわしい力を持つ私があなたに想いを告げるなんて許されない、そうわかっています〜【神官ルート完結】【魔法騎士ルート更新中】

紗綺

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心配

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 あれからミリアレナは娼館の外に出ることを禁じられ、娼館の中にある自室に閉じ篭っていた。
 危険がないことを確かめるまでは客を取ることもできない。
 何もすることがない時間というのが辛いものだとは初めて知った。
 その中でも変わることのない定められた魔術刻印の再刻の日、常なら一人で向かうが今回は侯爵子息の件があったばかりであり魔法省から迎えが来た。
 一人にできないとの判断はミリアレナが害される危険とミリアレナが害を成す危惧、両側面から来るものだ。
 来たのがあの職員じゃなかったことに密かに胸を撫で下ろす。
 対象に魔法省の人は不機嫌を隠さず私を見て早くしろと先を歩く。
 その態度に思うことは何もない。ただ早く済ませてしまいたかった。



 連れられたいつもの部屋で、刻印を施す室長もいつも通り。まるでこの間の問題などなかったかのよう。
 まだ話せることがないのかもしれない。
 あるいは話すことなどないと考えているのか。
 どちらにせよ私にできるのは待つことだけ。
 刻印の確認と完了を告げる室長の言葉に黙って頷き、部屋を後にした。


 再刻を終え、王城の廊下を戻るところで向こうから来る神官様と目が合った。
 他の人と連れ立って歩いている私が珍しいのか神官様がほんのわずか目を瞠る。
 青い瞳が驚き、それから訝しみに染まっていく。

「お久しぶりです、珍しくおひとりではないのですね。
 何かあったのですか……?」

 別に詰問するようなものではない穏やかな声での問いかけだったが、痛い腹を探られた魔法省の人は苦虫を噛み潰したような顔で神官様には関係ないことですと答え先を急ごうとする。
 それを神官様が止めた。

「お待ちください、彼女と少し話をしても?」

 私が口を開く前に魔法省の人が強い口調で返事を返す。

「急いでいるんです、ご遠慮ください」

 恫喝のような低い声にも神官様は取り合わず私へ視線を合わせる。

「何かあったのではないですか?」

 神官様の問いに否定も肯定も出来ずにただ見つめ返す。どうしてそんなことを聞くんでしょう。

「……私には辛そうな顔をしているように見えます」

 助けが必要なのではないかと思わせるほどに、と痛ましい表情を浮かべた神官様に、胸がどくりと嫌な音を立てた。

「……ないです」

 震える唇から発した言葉もまた震えていた。
 神官様の眉がきゅっと下がる。
 それが見たくなくて目を閉じる。

「本当に?」

 近くから降ってくる穏やかな、心配そうな声に胸がぎゅっと締め付けられる。

「……ずいぶんとこの女を気にかけていらっしゃるのですね。
 神官様ともあろう方が魅了にでも掛けられているのですか?」

 敵意を孕んだ声にはっと目を開ける。
 魔法省の人が引かない神官様を睨みつけ、神官様も見たことのない険しい顔で魔法省の人を見つめ返していた。

「私が魅了に掛けられていると?」

「そうでなければなぜこんな女を気にかけるというのです」

 魅了の魔女と呼ばれているのを知らないわけではないでしょうと私を指す人に、神官様がはっきりとした声で間違っているのはその人の方だと告げた。

「異なことをおっしゃいますね、どのような方も関係なく平等に神の教えを説くのが私たち神官の役目です」

 彼女も例外ではないと語る神官様の目が私に注がれる。
 慈しみにも似た何かを宿した瞳に警鐘が鳴り響く。
 これはダメ。
 罪悪感だけなら、良かった。
 過去を悔い憐みから手を伸ばしているだけなら、まだ。
 慈しみのような正の感情は他の人に対するような慈愛であっても許されない。

 魅了の魔女は疎み、嫌悪するものだから。
 そうでなければ――。

 魔法省の人が理解できないと浮かべた嫌悪の目が神官様に向く。
 心臓が凍りつくような恐怖を感じた。

「何もっ!」

 突如声を上げたミリアレナに二人の目が向く。

「何も、ないです」

 大丈夫ですからと首を振って見せる。

「けれど……」

 納得できない表情を浮かべた神官様へ再度首を振る。
 なんでもない、繰り返し告げられた否定に神官様が口を噤む。
 真実か否か探る目が見られず視線を逸らす。
 行くぞ、と告げる魔法省の人の後について神官様の前から逃げ出した。


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