魅了魔法持ちの私〜忌まわしい力を持つ私があなたに想いを告げるなんて許されない、そうわかっています〜【神官ルート完結】【魔法騎士ルート更新中】

紗綺

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魔法騎士ルート

事情聴取

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 目を覚ますと、そこは執務室のような部屋のソファの上だった。
 きょろきょろと部屋を見回すけれど、見覚えはない。
 また知らない場所にいる恐怖に手にしていた物を握りしめる。
 何を握っているのかと手元に視線を落とし、自分が握りしめていた物を見て肩の力を抜く。
 エイナードさんのマント。何があったのか一気に思い出した。
 ならばここはエイナードさんの執務室だろうか。
 いつも私の検査をしていた魔法省の室長の部屋よりも大きい。

 娼婦と客の立場で己の話などは殆どしたことがないけれど、エイナードさんが騎士かそれに準ずる仕事をしているのだろうなとは鍛えられた身体から察していた。
 魔術刻印などにも精通しているようだったし、ミリアレナを助け出したときのあの強大な魔法。
 恐らく魔法騎士なんだろう。どこの所属なのかまではわからないが本人もそれなりの立場だと言っていたので騎士団に所属するどこかの隊の長かもしれない。
 この執務室が本人のものであれば、だけれど。
 そこまで考えていると外に続くであろう扉が開いた。

「あ、目が覚めてたんだ。
 気分はどう? 魔封じは外してあるけれど、体調が悪いとかはない?」

 現れたのはエイナードさんだった。
 コップが乗った盆を机に置き、体調はどうかと訊ねる。
 言われて魔封じが無くなっていることに気づく。鎖も外され、服も着替えさせられていた。

 少し考えて異常はないと答える。
 魔封じの影響が残っていることもなさそうだった。
 水を渡されたので飲み干す。
 甘くひんやりした水に意識がはっきりしてきた。

「さて、じゃあ話を聞かせてもらおうかな」

 事情聴取はエイナードさんが担ってくれるらしい。
 よく見知った相手なことに安心した。
 囚われていたときのことや男たちの話していた内容を伝えていく。

「あの、どうしてあなたが来たんですか」

 聴取が一段落したところで気になっていたことを聞く。
 私が姿を消したことが発覚しても魔法省の人たちは隠そうとしたはず。
 恐らく騎士団所属のエイナードさんに話が行くことは考えられなかった。

「これ」

 そう言ってエイナードさんが私の手を取る。
 返された手首に刻まれた刻印を目にして得心がいった。

「これでどこにいるかわかるようになってるんだよ。
 ミアちゃんが普段行かないような変なところから反応がしてたからそれで監禁場所がわかったってわけ」

 隠蔽魔法が張ってあったとしてもその前の動きを捉えていれば監禁場所を見つけるのは容易だ。
 彼らもまさか私にこんな刻印があるとは思わなかったのだろう。

 からくりはわかった。
 けれど、どうして?

「どうして、ですか?」

 理由がわからない。

「この前、俺のところに来たでしょう?」

 侯爵子息あの客が来て、どうしたらいいかわからなくなって近くまで行った時のことを言っている?
 刻印に目を落とす。
 さっきの話の通りならそれもエイナードさんにはわかっていたということ?
 エイナードさんの顔をじっと見返す。

「ミアちゃんはさ、人に軽々しく関わらないよね。
 だからちょっと会いにきただけとかありえないだろうし、何もなければ近くまで来ることすらしなかった」

 違う?と聞かれて首を振る。
 エイナードさんの言う通り、何も起こらなければ娼館と魔法省の往復しかしない生活だ。
 通常なら他の場所に行くこと自体考え難かった。

「刻んだ時に言った、違う生き方をしたくなったとかなら考えて結論を出した上で来ただろうから引き返す理由にならない。
 だから別の問題が起こったんだろうなって思ってたんだ」

 それで独自に私の周囲を調べていたらしい。
 口にはしなかったけれど問題の内容も調べがついているんだろう。

「その矢先に魔法省が騒いでいたから、ミアちゃんに何か起こったことは容易に想像できたよ」

 魔法省が外を探すような問題はミアちゃんくらいしかないと断言されて感心する。
 確かにエイナードさんの言う通りだった。魔法省は研究機関だ。魔法省の中で騒ぎが起こっているのならともかく、外を探しているのだったら原因は限られてくる。
 それだけの情報で問題が起こったことを察し探してくれたなんて。

「ま、そういうこと。
 ミアちゃんから何か聞きたいことはない?」

「エイナードさんは騎士なんですか?」

 まず間違いないと思うけど一応聞く。

「俺?
 そう、第二騎士団所属。 一応団長」

 予想通り肯定が帰ってくる。役職も想像したまま。
 やっぱりすごい騎士だったんだと納得する。

「じゃあ聞かせてくれたお友達も騎士団の人だったんですか?」

「そうだよ、この団を離れて地方に行っちゃったけどね」

 以前はそのお友達が団長でエイナードさんは副団長をやっていたらしい。
 あの件で奥さんと離婚してから娘さんを連れて地方に引っ越したとか。
 大切なお友達がいなくなって寂しくないのかと思ったけれどエイナードさんは特に気にした様子もなく答えた。

「その内戻ってくるでしょ。
 娘さんのことを考えたら王都は余計なことをさえずるヤツばっかりだからね。
 大きくなってちゃんと受け止められるようになるまで守ってやるんだって言ってたよ」

 私が重ねた問いにエイナードさんが首を傾げて疑問を投げる。

「というか聞きたいことって俺のことだけ?
 事件のこととか聞かなくていいの?」

「それは……、犯人は捕まりましたし」

 一度ならず二度までも魅了の力を巡って問題が起こったのだ。魔法省だって重い腰を上げて捜査や検証を行うだろう。私を管理していたのが魔法省である限りその責任からは逃れられない。
 それに、この件に騎士団が噛んでいるなら事件を隠蔽したり過少に報告することもできないだろう。
 そこはエイナードさんがいるので心配していない。
 彼が仕事熱心で優秀なのはなんとなくわかる。
 だから、自分の処遇がどのようなものであろうと法に則り厳粛に決められたと受け入れられると思った。

「私を救出した時に駆け付けたのはエイナードさんの部下ですよね。
 騎士団が事後処理に入るなら安心してお任せできるというか……。
 ちゃんと事実確認をしてくれそうだなと思いました」

 誤魔化しを許さず事実をつまびらかにしてくれそうだと感じた。
 つらつら答えていく私にエイナードさんが不思議そうな声を出す。

「ふうん?
 だから自白剤入りの水も素直に飲んだの?」

 瞬きを一つしてエイナードさんの瞳を見つめ返す。
 なぜ、わざわざ水に自白剤を入れていたことを明かしたんだろう。

「隠すことがあるわけではないですし、真実を話した証明になるのならいいかなと思って」

 今回のことだってミリアレナの魅了の力で引き起こされたことだ。罪を軽くするために嘘を吐いていると思われることだって当然で。
 騎士が真実がどうかを鵜呑みにすることはないと思っている。

「ミアちゃんは……、なんというか色々受け入れ過ぎだね」

 正直に答えるとエイナードさんが困った顔をする。

「とりあえずこれで聴取は終わり。
 暫定的に預けられる場所が決まるまではこの俺の部屋にいてね」

 あっちの扉は仮眠室になってるから休むならそっちで休んでねと言われて頷く。
 騎士団長の執務室に置くのは監視であると同時に守るためでもあるとわかるから素直に従う。
 騎士として厳しい人だと思うけれど、安心する。
 エイナードさんは権威や私情で事実を捻じ曲げたりする人じゃないと思うから。

 仮眠室にある物は自由に使っていいと言って立ち上がる。聴取したことを他の騎士に伝えに行くんだろう。
 同じようにソファから立ち上がる。

 そのまま部屋を出ていくかと思ったエイナードさんが振り返って私の前にやってきた。

「これ解毒剤」

 小瓶を差し出される。自然に効果が切れるまで待つのかと思ったのに解毒剤も用意してあったんだ。
 取ろうと手を伸ばしたら小瓶を遠ざけられる。
 手を下げると曖昧な笑みを浮かべたエイナードさんが首を傾けて私の瞳を覗き込んだ。

「後一つだけ。
 ミアちゃんは俺のことどんな人間だと思ってる?」

「……っ」

 喉の奥で少しだけ言葉が引っかかる。
 自分が相手をどう思っているからなんて聞かれたことがないから戸惑うけれど、隠すことではない。
 だから、自白剤の効果ではなく自然と言葉が落ちた。

「信じていい人だと思ってます」

「……っ!」

 エイナードさんが息を呑む。驚きに満ちた顔が苦しそうな困ったような顔へ変わっていく。

 片手で開けた小瓶をエイナードさんが呷った。
 何をしだしたのかと目を瞠る。
 伸ばされた手が私の頬を包み、エイナードさんの端正な顔が近づいてくる。

「……!」

 呆然と見つめていると唇を押さえられそのまま口づけられた。
 開いた唇からほのぬるい液体と舌が入り込んでくる。

「……んぅっ」

 喉へ流れ込んでくる解毒剤をむせないように慎重に飲み込む。
 こくりと喉が鳴ったと同時にエイナードさんの舌が私の舌に絡んだ。
 とろみのある解毒剤の潤いがくちゃりと音を立てた。
 舌先を擦り合わせられ、ぞくりと走る感覚に肩が震える。
 混乱のまま、ただ舌を弄ぶ動きに翻弄され、エイナードさんの腕にしがみつくしかできなかった。

 唐突なキスは終わりも急だった。

 唇が離れて大きく息を吸ったところで我に返って後退る。

 ――どうして?

 動揺に心臓が激しく鳴っている。
 行為の最中もキスなんてしなかったのに。
 じゃあねと扉を開けて出ていく背中に訊ねたいのに、中途半端に開いた唇からは何の言葉も出てこなかった。


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