魅了魔法持ちの私〜忌まわしい力を持つ私があなたに想いを告げるなんて許されない、そうわかっています〜【神官ルート完結】【魔法騎士ルート更新中】

紗綺

文字の大きさ
上 下
31 / 33
魔法騎士ルート

救いの手

しおりを挟む
 

 嫌――!
 浮かんだ拒否感に身を捩る。
 音を立てる鎖が無慈悲に抵抗を奪う。
 がちゃりと鳴る鎖を見上げて取れないかと考える私の目に、あの人のくれた刻印が目に入った。

『困ったことがあれば見せて俺を呼びな』

 そう言ってあの人が刻んだ刻印。
 あの日言えなかった言葉が心の中に浮かぶ。届きもしないのに。
 逃げようと鎖を鳴らす私へ無駄だよと欲望に満ちた声が落とされる。
 抵抗すら楽しむように笑みを浮かべゆっくりと伸ばされる手に、声にならない悲鳴を上げた。

 嫌――、助けて……。
 お願い――!

 赤みを帯びた紫の瞳を思い出すと、手首の刻印が熱を持った気がした。



 ――……!!



 大きな音がし、建物が大きく揺れた。

「なっ、なんだ!」

 轟音に驚いた男たちが立ち上がり何が起こったのかと辺りを見回している。
 ベッドサイドに背を付け上を見上げていたミリアレナには天井に描かれた魔法陣がゴウッと赤く渦巻く魔力に包まれて消えるのが見えた。

 ――隠蔽の魔法が解かれた。

 すぐに助けが来る、そう安堵がこみ上げてきたミリアレナを侯爵子息が恐ろしい形相で見下ろす。

「ミリアレナを連れてすぐにここを立つぞ」

「ちっ、せっかくここまで来れたってのに!」

 職員の男は乱暴に鎖を掴み、鉤から外すとベッドから引きずり下ろすようにして私の身体を抱え込んだ。
 身を捩って手から逃れようとするけれどますます押さえ込む力が強くなる。

「暴れんな! また殴られてえのか!」

 苛立った職員の男に握り込まれた首の鎖を引っ張られる。
 後ろに引っ張られた鎖で喉が絞まり一瞬動きが止まった。
 男が抵抗が止まった私を引き寄せ抱え上げる、その動きを止めたのは――。

「へえ……、前にも殴ったことがあるんだ」

 ぞっとするような冷たさを孕んだ声はそれだけで圧力となって動きを制した。
 その場にいた誰でもない声にミリアレナは信じられない思いで目を瞠る。
 手首の刻印がちりと熱を持った気がした。
 そこにいたのは何度となく身体を重ねた客――。エイナードさんだった。

「ミアちゃんに暴力を振るうなんていい度胸だよ。
 ……本当」

 ちらりとミリアレナへ向けた瞳が、鎖、魔封じ、破れたドレスと順番に移動し部屋に満ちる圧力がさらに高まる。

 エイナードさんの魔力が絡みついてくるのを肌で感じた。
 圧倒的な密度の魔力がエイナードさんを中心として広がっている。
 それだけで動くことも、呼吸すらできなくなるほどの濃密な魔力だった。
 侯爵子息だけじゃなく、職員の男すらも身動きができないのだ。
 エイナードさんの魔力がどれだけかけ離れいてるのかがわかる。

「ミアちゃん、こっちにおいで」

 エイナードさんの声に魔法が解かれたように身体が動き出す。
 抱えられた手から抜け出し床に降り立つ。
 職員の男が離さないよう鎖を握る手へ力を込めたようだけれど、ミリアレナが鎖を引き抜く力にも抗えないようだった。
 引きずらないように鎖を掴みエイナードさんの下へ走り出す。
 叫ぶ声が聞こえたけれど、邪魔は入らなかった。

 エイナードさんの側へ駆け寄り、足が止まる。ふわっと包み込まれた感触がしたけれど幻かと思うほど一瞬で腕は離れていた。

「俺の後ろに隠れておいで、もう危険な目には遭わせないから」

 ぽんぽんと頭を撫でて微笑むエイナードさんには見たことのない慈しみの色がある。
 ミリアレナが後ろに隠れるとエイナードさんは硬直している男たちに視線を戻した。

「本来なら侯爵家の人間が関わってるって言われたら忖度する必要が出てくるんだけどさ」

 髪をかき上げ楽しそうな口調で男たちへ言葉を繋げる。

「その必要もないくらいの事件を起こしてくれて良かったよ。
 ……おかげで心置きなく潰せる」

 言葉が終わると同時に男たちの眼前に竜巻が現れた。
 荒れ狂う風が室内に叩きつけられる。
 エイナードさんが防御をしているのかミリアレナにまでは風は届かない。

「荒れ狂えー暴風雨テンペスト-」

 轟音と閃光が奔り、あまりの激しさに目をつむる。
 音が止み、目を開けると天井はおろか壁さえ無くなっていた。
 飛び散ったレンガが魔法の激しさを伝えている。
 事態を聞きつけてきたのかいくつもの足音が聞こえてきた。
 エイナードさんがマントを外してミリアレナを包み込んでくれる。
 破けたドレスに首や手から下がる鎖が隠れてほっとする。あんまりな姿だったから隠してくれたのだろう。
 好奇の視線に晒されずに済むのはありがたい。
 これから事情聴取があるにしても先に着替えさせてくれるだろうかと考えていると包まれたマントごと抱え上げられた。

「ひとまずここの後始末は任せて安全なところに行こうか」

 現場に残らなくていいのかと顔を見上げているとマントの端を被せられる。

「いいんだよ、ミアちゃんを休ませる方が先」

 怖かったろう、もう安心していいんだよと語り掛ける声が安堵を広げていく。
 さっきまでと同じ暗闇なのに、何も不安は感じない。
 温かい腕に揺られながらいつしかミリアレナは眠りについていた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

腹黒宰相との白い結婚

恋愛
大嫌いな腹黒宰相ロイドと結婚する羽目になったランメリアは、条件をつきつけた――これは白い結婚であること。代わりに側妻を娶るも愛人を作るも好きにすればいい。そう決めたはずだったのだが、なぜか、周囲が全力で溝を埋めてくる。

【完結】君は私を許してはいけない ーーー 永遠の贖罪

冬馬亮
恋愛
少女は、ある日突然すべてを失った。 地位も、名誉も、家族も、友も、愛する婚約者も---。 ひとりの凶悪な令嬢によって人生の何もかもがひっくり返され、苦難と苦痛の地獄のような日々に突き落とされた少女が、ある村にたどり着き、心の平安を得るまでのお話。

贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる

マチバリ
恋愛
 貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。  数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。 書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。

愛する妻が置き手紙一つ置いて家出をしました。~旦那様は幼な妻を溺愛したい~

猫原
恋愛
スェミス国王の腹違いの弟イアン・ジョー・グゥイン公爵は、自身を「世界一幸福な男」だと自負していた。十一歳年下の「初恋」の女性、オリヴィアと結婚をする事ができたからだ。 なんせ、イアンはオリヴィアと平和な結婚生活を過ごすために、国軍将軍の座を蹴って国軍経理課事務官へ兄を使って王命により、鞍替えしたくらいである。 イアンはオリヴィアを溺愛している。 オリヴィアの為なら火の中水の中、無理難題を吹っかけられようが、なんだって叶えてあげたい。 オリヴィアに対してだけイエスマン、「NO」を言わない男、それがイアンである。 例え、その愛がオリヴィアから一度たりとも返ってきたことはなくとも、彼女と過ごす日々がイアンの幸せだった。 その結婚ももうすぐ四年目に突入する。 その四年目でイアンの努力が実る──筈だった。 「貴方との結婚生活は最悪でした」なんていう置き手紙を残し、オリヴィアに家出をされてしまう。しかも離婚届を添えられて。しかも結婚記念日前日に。 「そうか、俺は嫌われてたんだ。だから毎日伝えている愛の言葉に反応がなかったのか、俺は彼女の幸せの為に身を引くべき」 ──って、んなわけあるか! 妻は家出をする前日に「貴方と同じ気持ちを記念日に伝えたい」と言ったんだぞ! 彼女の身に何かあったに違いない……!! こうして、イアンの妻探しはスタートするが──…? ------- ムーンライトノベルズ様でも投稿中です。 更新は不定期。 スロースターターで物語は進みます。 ※王族やら貴族やら騎士やら軍人やら魔法やらある世界観です。あり得ない設定ではありますが、楽しんで読んでくれると嬉しいです。宜しくお願いします。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

拝啓、大切なあなたへ

茂栖 もす
恋愛
それはある日のこと、絶望の底にいたトゥラウム宛てに一通の手紙が届いた。 差出人はエリア。突然、別れを告げた恋人だった。 そこには、衝撃的な事実が書かれていて─── 手紙を受け取った瞬間から、トゥラウムとエリアの終わってしまったはずの恋が再び動き始めた。 これは、一通の手紙から始まる物語。【再会】をテーマにした短編で、5話で完結です。 ※以前、別PNで、小説家になろう様に投稿したものですが、今回、アルファポリス様用に加筆修正して投稿しています。

届かぬ温もり

HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった····· ◆◇◆◇◆◇◆ 読んでくださり感謝いたします。 すべてフィクションです。不快に思われた方は読むのを止めて下さい。 ゆっくり更新していきます。 誤字脱字も見つけ次第直していきます。 よろしくお願いします。

【完結】巻き戻りを望みましたが、それでもあなたは遠い人

白雨 音
恋愛
14歳のリリアーヌは、淡い恋をしていた。相手は家同士付き合いのある、幼馴染みのレーニエ。 だが、その年、彼はリリアーヌを庇い酷い傷を負ってしまった。その所為で、二人の運命は狂い始める。 罪悪感に苛まれるリリアーヌは、時が戻れば良いと切に願うのだった。 そして、それは現実になったのだが…短編、全6話。 切ないですが、最後はハッピーエンドです☆《完結しました》

処理中です...