魅了魔法持ちの私〜忌まわしい力を持つ私があなたに想いを告げるなんて許されない、そうわかっています〜【神官ルート完結】【魔法騎士ルート更新中】

紗綺

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神官ルート

難航する処遇

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 私の処遇は難航を極めた。
 被害者でありながら原因は自身の持つ力。
 そして今後も潜在的な危険が付きまとう存在。
 通常の犯罪者よりも面倒だったことは想像に難くない。

 侯爵子息と職員は魔封じを付けられ経過を観察されている。
 魔封じは魔法の影響を出さないという点で魅了を抑える効果が期待されていた。実際に効果があるかは不明なのだけれど、彼らが逃げる警戒や懲罰も兼ねているのだと推測している。
 日常的に魔封じを着けて過ごすというのがとても不名誉なことだから。
 職員の方は言わずもがな、侯爵子息にとっても恥ずべきことだと家族から批難され見放されかけていると聞く。
 根底の原因に魅了があるのかどうかは調査中だが、二人は自身が行った犯罪について裁かれることになる。
 情状酌量の余地がある可能性は認められるだろうが、
 それが考慮に入ればそれなりに思い罪になる。
 なにより、ミリアレナと永遠に離されることが決定しているのが二人には一番辛い罰なのではないだろうかと周囲の人間は嗤っていた。



 ミリアレナに提示された未来は魔法省を出る前に提示された選択肢と似たもの。
 ただし今度は選択肢ではない。
 決められて、命じられる。
 一つは私の力の影響を受けない誰かと婚姻をして生涯を監視付きで生きること。
 もう一つは、体内の魔力の流れを断つ処置を施すことで完全に魔法を封じ緩めの監視の中で過ごすこと。

 二つの道が存在するのは、対外的に一方的に重い刑を言い渡す訳ではないと示すため。
 私を迎えようなんて名乗りを上げる者がいるわけはないし、潜在的な危険は残り続ける。
 結果は決まっているはずだ。

 後者の道は懲罰がないだけで魔法を使った犯罪者に施される処置と同じものだ。
 とうとうそこまできたかと思う。
 自嘲する気すら起きなかった。

 今回魔法省の職員が犯行に加わっていたことで私を穏便に監視できる場所はさらに減った。
 力を調べ監視していたはずの機関が機能しなかったのだ。
 いくら研究機関であり、魔力の高い個人がいなかったとはいえ大きな失態だった。
 神官様が魔法省に通っているのはそういった側面もあるのだと後から気づいた。
 見張るという名目で来ているなら非難の目も少なくて済むだろうと安堵する。

 もう私を監視できるのは神殿か魔法に長けた個人しかいない。
 選択肢としては騎士団もあるが、守りの要である騎士団へ危険な要素を持つ私を近づかせることはしたくないだろう。
 口にはされなかったが恐らく一生牢の中すら選択肢としてはあり得たはずだ。
 ただ閉じ込めておく法的根拠理由がないのでその方法は取れなかったのだろうと思った。




 沙汰が決まるのを待っていたミリアレナの下へ神官様が来たのはそろそろ処遇が言い渡されるかという頃。

 少し緊張した面持ちの神官様が告げた言葉を飲み込めなくてただ顔を見返す。
 反応を返さない私に神官様は気まずそうにもう一度同じ言葉を告げる。

「あなたの行く先が決まりました。
 私の下でその身を預かることとなります」

 庇護下に入れたような簡単な言い方だったけれど、それだけで済むことでないのは理解している。
 神官様が私を娶り、監視に付くということだ。

「なぜ、ですか……」

 神官様に関係のないことなのに、私なんかをその身の内に入れたら神殿での立場に関わる。
 清廉潔白であることを望まれる神殿において、魅了の力で人を惑わし、娼婦をしていた私など真反対の人間で忌避されて然るべき存在だ。

 そんな存在を庇護しようとする神官様も疎まれることになる。
 どうしてそんなことに。
 神官様にそんな話を持ちかける人間がいるわけがない。
 自ら申し出ない限り。
 ありえない、あってはならない事態に手が震える。

「あなたが悪いわけじゃない。
 それを知っていて黙ってはいられません」

 犯罪者のような扱いよりはましだと思ったから手を上げたという神官様に声を荒げる。

「なんでですかっ!
 神官様には関係ないし、御身を危うくする存在なんて放っておけば良いではないですか!」

 神官様と私はたまに言葉を交わすだけの関係で、それですら周囲に快く思われない。
 婚姻などしたら神官様がなんと言われるかわからない。批難の声を上げる私へ神官様が真っ直ぐに視線を合わせる。

「あなたが今の環境に置かれるようになったのは私に原因があります」

 神官様の言葉が胸に刺さる。
 私に罪悪感を持っているのは知っていた。
 けれど、そんな。
 こんなことを、身を削ってまで償わなければならないと考えるほど悔いているなんて思わなかった。

「私があの時適切に振るまっていたら、あなたは多少の制限はあれど今も伯爵令嬢として暮らしていたでしょう。
 あるいはどこかの家の夫人として迎えられていたかもしれない。
 それを奪ったのは私です。
 私の軽はずみな判断があなたの自由と家族を奪った」

 違う。
 そう叫びたいのに胸を塞ぐ苦しさが言葉を詰まらせる。

「神官様のことは、関係ありません。
 家族が魅了に影響を受けていたことも、あの子に魅了を使っていたこともあなたには何も関係がない」

 私の否定に神官様が首を振る。

「それでも、あなたの力が広く知られたのは私が原因です。 それは間違いない。
 穏便に2家の間で話を済ませればあなたには多くの選択肢があった」

 ずっとそんな思いを抱えてきたのかと思うと胸が苦しくなる。
 たまに顔を合わせたときに見せる痛まし気な表情。会う度に神官様は罪悪感を思い出していたのだ。
 それなのに寄せられる気遣いを申し訳なく思いながらも心の奥で喜んでいたなんて。

 神官様の手が私の頬に伸び、触れる直前で止まる。

「泣かないでください」

 痛みを訴えるようにわずかに歪んだ眉と沈む青の瞳にまた涙が溢れる。

 また私のせいで――。

 謝ることもできずにただ首を振る。
 神官様にそこまでさせてしまった自分が嫌で嫌で仕方なかった。

「申し訳ありません。
 もう決めてしまったことなのです。
 あなたが望まなかったことでも、覆すことはできません」

 静かに青い瞳が私を見つめている。
 決意を宿した真っ直ぐな視線が痛い程に。
 迷いを捨て贖罪に生きると決めた神官様の覚悟を伝えていて、捨てられないでいたミリアレナ愚かな恋心を切り裂いた。


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