魅了魔法持ちの私〜忌まわしい力を持つ私があなたに想いを告げるなんて許されない、そうわかっています〜【神官ルート完結】【魔法騎士ルート更新中】

紗綺

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 受信した信号に急いでミリアレナのいる娼館へ向かう。
 この緊急信号を受信するのは初めてのことだ。
 娼館から人を送るのではなく魔法による緊急連絡。
 余程の事態が起こったのだと思われた。
 何が起こったのかと焦りが強まる。
 最悪の事態を想定し口元を引き結ぶ。
 起こった内容によっては彼女を拘束して管理下に置くことになる。

 ……また自由がなくなるな。

 これまでが自由だったのかはわからないが。
 無為な考えを消してただ脚を速めた。

 駆けつけた娼館の一室で目にした光景に、怒りで頭が沸騰した。
 寝台に鎖で繋がれた彼女とその横で眠る客だろう男。
 いつかのような惨事は未遂に済んだようだと安堵することもできない。
 眼前では魔法省の職員の一人が、彼女にのしかかり剥いだドレスからこぼれた胸を掴んでいた。
 鎖で拘束されたままで限られた抵抗しかできない相手への暴挙に、怒りで目が眩んだ。
 職員の襟首を掴み、握りしめた拳を顔に叩き込む。

「何をしているっ!」

「何って……見りゃわかるでしょ」

 悪びれる様子もない職員に拳を握りしめる。痛む拳が自分がどれだけの怒りを抱いているか教える。
 離れろと低く命じる俺に対し、職員は何の痛痒も感じていないような顔をしていた。

「ここにいるということは緊急信号を聞いて来たんだろう。
 それが事態の収拾を図るどころか自ら乱暴を働くとはどういうつもりだ……!」

 抑えようとしても昇っていく怒りに最後は吼えるような声で怒鳴りつけていた。
 しかし職員は堪えた様子もなく嘲笑うような歪な笑みを浮かべ彼女を見下ろす。

「さあ? 俺もまた魅了をかけられたのかもしれませんね、何せ前科がある」

 その言葉で以前行った魅了の抵抗実験での事故で、魅了に溺れ彼女を暴行したのはこの男だったことを思い出す。
 当時魔法省の職員相手に抵抗を破って魅了をかけたということで彼女の力を危険視する者が増え、幽閉するべきや魔法を使えないように封じて放り出せなどと多数の処分を求める声が上がった。
 それを退けたのは、当事者が十分に抵抗しなかったのではないかという疑惑のため。
 結局証拠もなく処分を受けることもなく別の部署へ移って行った。
 それから彼女に関わることもなかったはずなのに、この職員がここにいるのは偶然なのか?

「……もういい、話は後で聞く」

 まずはこの事態の収拾が先だ。ミリアレナをこのままにしておくこともできない。
 行け、と素直に口を割る様子のない男にこの場から立ち去るよう促す。
 奴が出て行ってすぐ、外にいた部下へあの男を監視するよう伝える。
 アイツには何かある。
 私が指示を飛ばしている間ずっと、彼女は身じろぎもせず、こちらの挙動を見ていた。



 布を掛け拘束されていた腕を解かれても、彼女は何の恐れも怒りも嘆きも口にしなかった。
 ただ、連れて行かれた客のことで話があると静かな声で俺に告げる。
 伝えられた内容に思い出す。
 最悪の事態は浅い想像など軽く超えて訪れるものだったと。

 客として訪れた青年が、幼い頃ミリアレナに魅了を掛けられた少年であったこと。
 何度も魅了魔法の解除を受けたはずのその少年が執念によりミリアレナを見つけ出しどうやってか娼館に客としてもぐりこんだと。
 何が起こったのか早急に調査しなければならない。
 どういう方法で審査をすり抜けたのかもそうだが何よりも。

 ――魅了の影響が残っているのか。


 この件で一番疲弊しているはずのミリアレナは淡々と聴取に応じ、その後も禁じられた力を使ったのではないか、刻印が有効に効いているかを調べる作業を休みなく続けられたが……。
 彼女は一言の文句も言わずにただ指示に従っていた。


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