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共通ルート
執着者
しおりを挟む私が取る客は、審査をされ選別されている。
万が一にも魅了に溺れてはいけない存在、私を篭絡して利用しようとするような人物、貴重な研究対象を傷つける恐れがある者。
害があるものは選別に漏れこの娼館にさえ近づけない、はずだ。
けれど今日通された客が向けた目になぜか警戒が湧いた。
どこかで見たことがある……?
その客を目にした瞬間よぎった既視感。
そんなはずがないのに。
事前に聞いていた要望を思い浮かべながら客を迎え入れる。
「ご依頼は周囲によって引き離された初恋のお相手ですね」
ここに来る客にしては可愛らしい要望。
それに違和感を感じてしまうのは私が歪んでいるからでしょうか。
「他のご要望は」
「うーん、初めてのことだからよくわからないな。
もしかしたら途中でお願いしたいことがあるかもしれないけれど、今は特に浮かばない」
さようでございますかと返しながら違和感を強める。
ここに来る客たちはどうにもならない想いを抱えたどり着く。
許されぬ片恋相手へ愛を囁き受け入れられる夢を見たい者、ずっと昔に捨てた相手に謝罪をし未練を断ち切りたい者、友人の妻へ横恋慕しながら関係を壊したくないと捌け口を求める者、様々だ。
叶わぬ想いに身を焦がしていれば「こうであったら」と想像し願いを抱くものだと思うのだけれど、それがないと言う。
照れの滲む表情は嘘がなく、それがかえって不思議だった。
そんな純粋な憧れを宿す人が来る店じゃないというのに。
否定ばかり浮かぶ思考を払って客へ目を合わせる。
――そして、選別は済んでいるのだからと魅了を発動させた。
「……!」
青年の瞳が驚きに見開かれ、次いで甘やかなものになる。
焦がれた存在をようやくその腕に抱けると表情を蕩かせ、一歩近づいた。
「ああ……」
感嘆の息を零し頬を紅潮させる青年。
すでに彼には私が想い人に見えていた。
「やっと会えた……」
私の手を取りくちづけを落とす。
「ずっと、ずっと会いたかった……。
大人たちに引き離されてから君のことを思わない日はなかったよ」
嬉しそうに微笑む青年はやっと会えた恋人にするように熱烈に愛を囁きベッドに押し倒した。
優しく触れながらどれだけ会えなかった時間が辛かったのか、相手を想っていたのかと語る。
切々と愛を謳う様は物語の一節のようだった。
髪にくちづけをしドレスの上から身体をなぞる。
「やっぱり、閉じ込めておかなかったからいけなかったんだ」
あのときちゃんと連れ帰っておけばこんなことにはならなかったのに、青年はそう呟いた。
その声の暗さに肌が粟立つ。
「ごめんね、迎えに来るのが遅くなって……。
こんなところに隠されてるって突き止めるのが遅くなってしまって、待ったでしょう?」
ミリアレナ――。
耳元で囁かれた名前に、弾かれたように顔を上げ青年を見つめる。
「会いたかったよ、僕のこと覚えてるかな?」
この人は私を知っている?
私を知る人なんて限られた人しかいない。
5歳まで育った家の家族と使用人、魔法省で私を管理していた人たち。それから、私を捕らえた神官様。
目の前にいる客に見覚えなんてない。
神官様と同じか少し下くらいの歳だろうか、そう、お姉様と同じくらいの歳。
同じくらいの……。
ぎゅっと手を握られて瞳を覗き込まれる。
「『君が僕の家に来る?』」
ぎゅううっと手を握り込まれ息を呑む。
そんな、ありえない――。
けれど、私を覗き込むくすんだ緑の瞳に宿った、狂気にも似た熱には確かに既視感があった。
「思い出してくれた? うれしいな」
握りしめていた力を緩めて笑む。
この人が、あの時の男の子……?
過去の私に関わった人は調査した後、魅了を解かれたはず。
中でもあの時の男の子は厳重に魅了を解除され経過観察を受けて影響がないことを確かめられたはずだ。
「もし、あなたがあの時の男の子なら魅了は解かれたはず……」
「そうだよ。
何回も何回も繰り返し解除の魔法を受けさせられたし、魅了の影響が残ってないかとしつこく調べられた。
でも、僕の君への想いは消えなかった。
あの時は酷いこと言ってごめんね?
勝手に気持ちを植え付けられたのかと思って酷いことを言ってしまったけれど、魅了は関係なかったんだ」
嬉しそうに微笑み頬を撫でる。その笑みに宿った執着にぞわりとしたものが走る。
「君の魅了は想い人の姿を相手に見せるものなんだろう?
僕の目に映るのはあの日の君だ。
この想いは魅了のせいなんかじゃなかった……!」
濁った眼がミリアレナを捉え手を掴んだ。
かちゃりと音がした手首を見ると拘束するための手枷と鎖。
この部屋にそんな物は置いていない。
青年が持ち込んだ道具に逃げる手段を奪われ血の気が引いた。
「さあ、僕の想いを受け止めてくれるね。
ずっと君が恋しくておかしくなりそうだったんだ」
興奮に滾る分身を腿に擦りつけられて恐怖と危機感が弾けた。
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