魅了魔法持ちの私〜忌まわしい力を持つ私があなたに想いを告げるなんて許されない、そうわかっています〜【神官ルート完結】【魔法騎士ルート更新中】

紗綺

文字の大きさ
上 下
11 / 33
共通ルート

執着者

しおりを挟む
 

 私が取る客は、審査をされ選別されている。
 万が一にも魅了に溺れてはいけない存在、私を篭絡して利用しようとするような人物、貴重な研究対象を傷つける恐れがある者。
 害があるものは選別に漏れこの娼館にさえ近づけない、はずだ。
 けれど今日通された客が向けた目になぜか警戒が湧いた。

 どこかで見たことがある……?
 その客を目にした瞬間よぎった既視感。
 そんなはずがないのに。

 事前に聞いていた要望を思い浮かべながら客を迎え入れる。

「ご依頼は周囲によって引き離された初恋のお相手ですね」

 ここに来る客にしては可愛らしい要望。
 それに違和感を感じてしまうのは私が歪んでいるからでしょうか。

「他のご要望は」

「うーん、初めてのことだからよくわからないな。
 もしかしたら途中でお願いしたいことがあるかもしれないけれど、今は特に浮かばない」

 さようでございますかと返しながら違和感を強める。
 ここに来る客たちはどうにもならない想いを抱えたどり着く。
 許されぬ片恋相手へ愛を囁き受け入れられる夢を見たい者、ずっと昔に捨てた相手に謝罪をし未練を断ち切りたい者、友人の妻へ横恋慕しながら関係を壊したくないと捌け口を求める者、様々だ。
 叶わぬ想いに身を焦がしていれば「こうであったら」と想像し願いを抱くものだと思うのだけれど、それがないと言う。
 照れの滲む表情は嘘がなく、それがかえって不思議だった。
 そんな純粋な憧れを宿す人が来る店じゃないというのに。
 否定ばかり浮かぶ思考を払って客へ目を合わせる。
 ――そして、選別は済んでいるのだからと魅了を発動させた。

「……!」

 青年の瞳が驚きに見開かれ、次いで甘やかなものになる。
 焦がれた存在をようやくその腕に抱けると表情を蕩かせ、一歩近づいた。

「ああ……」

 感嘆の息を零し頬を紅潮させる青年。
 すでに彼には私が想い人に見えていた。

「やっと会えた……」

 私の手を取りくちづけを落とす。

「ずっと、ずっと会いたかった……。
 大人たちに引き離されてから君のことを思わない日はなかったよ」

 嬉しそうに微笑む青年はやっと会えた恋人にするように熱烈に愛を囁きベッドに押し倒した。
 優しく触れながらどれだけ会えなかった時間が辛かったのか、相手を想っていたのかと語る。
 切々と愛を謳う様は物語の一節のようだった。
 髪にくちづけをしドレスの上から身体をなぞる。

「やっぱり、閉じ込めておかなかったからいけなかったんだ」

 あのときちゃんと連れ帰っておけばこんなことにはならなかったのに、青年はそう呟いた。
 その声の暗さに肌が粟立つ。

「ごめんね、迎えに来るのが遅くなって……。
 こんなところに隠されてるって突き止めるのが遅くなってしまって、待ったでしょう?」

 ミリアレナ――。
 耳元で囁かれた名前に、弾かれたように顔を上げ青年を見つめる。

「会いたかったよ、僕のこと覚えてるかな?」

 この人は私を知っている?
 私を知る人なんて限られた人しかいない。
 5歳まで育った家の家族と使用人、魔法省で私を管理していた人たち。それから、私を捕らえた神官様。
 目の前にいる客に見覚えなんてない。
 神官様と同じか少し下くらいの歳だろうか、そう、お姉様と同じくらいの歳。
 同じくらいの……。
 ぎゅっと手を握られて瞳を覗き込まれる。

「『君が僕の家に来る?』」

 ぎゅううっと手を握り込まれ息を呑む。

 そんな、ありえない――。

 けれど、私を覗き込むくすんだ緑の瞳に宿った、狂気にも似た熱には確かに既視感があった。

「思い出してくれた? うれしいな」

 握りしめていた力を緩めて笑む。
 この人が、あの時の男の子……?
 過去の私に関わった人は調査した後、魅了を解かれたはず。
 中でもあの時の男の子は厳重に魅了を解除され経過観察を受けて影響がないことを確かめられたはずだ。

「もし、あなたがあの時の男の子なら魅了は解かれたはず……」

「そうだよ。
 何回も何回も繰り返し解除の魔法を受けさせられたし、魅了の影響が残ってないかとしつこく調べられた。
 でも、僕の君への想いは消えなかった。
 あの時は酷いこと言ってごめんね?
 勝手に気持ちを植え付けられたのかと思って酷いことを言ってしまったけれど、魅了は関係なかったんだ」

 嬉しそうに微笑み頬を撫でる。その笑みに宿った執着にぞわりとしたものが走る。

「君の魅了は想い人の姿を相手に見せるものなんだろう?
 僕の目に映るのはあの日の君だ。
 この想いは魅了のせいなんかじゃなかった……!」

 濁った眼がミリアレナを捉え手を掴んだ。
 かちゃりと音がした手首を見ると拘束するための手枷と鎖。
 この部屋にそんな物は置いていない。
 青年が持ち込んだ道具に逃げる手段を奪われ血の気が引いた。

「さあ、僕の想いを受け止めてくれるね。
 ずっと君が恋しくておかしくなりそうだったんだ」

 興奮にたぎる分身を腿に擦りつけられて恐怖と危機感が弾けた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

腹黒宰相との白い結婚

恋愛
大嫌いな腹黒宰相ロイドと結婚する羽目になったランメリアは、条件をつきつけた――これは白い結婚であること。代わりに側妻を娶るも愛人を作るも好きにすればいい。そう決めたはずだったのだが、なぜか、周囲が全力で溝を埋めてくる。

【完結】君は私を許してはいけない ーーー 永遠の贖罪

冬馬亮
恋愛
少女は、ある日突然すべてを失った。 地位も、名誉も、家族も、友も、愛する婚約者も---。 ひとりの凶悪な令嬢によって人生の何もかもがひっくり返され、苦難と苦痛の地獄のような日々に突き落とされた少女が、ある村にたどり着き、心の平安を得るまでのお話。

贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる

マチバリ
恋愛
 貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。  数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。 書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。

愛する妻が置き手紙一つ置いて家出をしました。~旦那様は幼な妻を溺愛したい~

猫原
恋愛
スェミス国王の腹違いの弟イアン・ジョー・グゥイン公爵は、自身を「世界一幸福な男」だと自負していた。十一歳年下の「初恋」の女性、オリヴィアと結婚をする事ができたからだ。 なんせ、イアンはオリヴィアと平和な結婚生活を過ごすために、国軍将軍の座を蹴って国軍経理課事務官へ兄を使って王命により、鞍替えしたくらいである。 イアンはオリヴィアを溺愛している。 オリヴィアの為なら火の中水の中、無理難題を吹っかけられようが、なんだって叶えてあげたい。 オリヴィアに対してだけイエスマン、「NO」を言わない男、それがイアンである。 例え、その愛がオリヴィアから一度たりとも返ってきたことはなくとも、彼女と過ごす日々がイアンの幸せだった。 その結婚ももうすぐ四年目に突入する。 その四年目でイアンの努力が実る──筈だった。 「貴方との結婚生活は最悪でした」なんていう置き手紙を残し、オリヴィアに家出をされてしまう。しかも離婚届を添えられて。しかも結婚記念日前日に。 「そうか、俺は嫌われてたんだ。だから毎日伝えている愛の言葉に反応がなかったのか、俺は彼女の幸せの為に身を引くべき」 ──って、んなわけあるか! 妻は家出をする前日に「貴方と同じ気持ちを記念日に伝えたい」と言ったんだぞ! 彼女の身に何かあったに違いない……!! こうして、イアンの妻探しはスタートするが──…? ------- ムーンライトノベルズ様でも投稿中です。 更新は不定期。 スロースターターで物語は進みます。 ※王族やら貴族やら騎士やら軍人やら魔法やらある世界観です。あり得ない設定ではありますが、楽しんで読んでくれると嬉しいです。宜しくお願いします。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

拝啓、大切なあなたへ

茂栖 もす
恋愛
それはある日のこと、絶望の底にいたトゥラウム宛てに一通の手紙が届いた。 差出人はエリア。突然、別れを告げた恋人だった。 そこには、衝撃的な事実が書かれていて─── 手紙を受け取った瞬間から、トゥラウムとエリアの終わってしまったはずの恋が再び動き始めた。 これは、一通の手紙から始まる物語。【再会】をテーマにした短編で、5話で完結です。 ※以前、別PNで、小説家になろう様に投稿したものですが、今回、アルファポリス様用に加筆修正して投稿しています。

届かぬ温もり

HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった····· ◆◇◆◇◆◇◆ 読んでくださり感謝いたします。 すべてフィクションです。不快に思われた方は読むのを止めて下さい。 ゆっくり更新していきます。 誤字脱字も見つけ次第直していきます。 よろしくお願いします。

【完結】巻き戻りを望みましたが、それでもあなたは遠い人

白雨 音
恋愛
14歳のリリアーヌは、淡い恋をしていた。相手は家同士付き合いのある、幼馴染みのレーニエ。 だが、その年、彼はリリアーヌを庇い酷い傷を負ってしまった。その所為で、二人の運命は狂い始める。 罪悪感に苛まれるリリアーヌは、時が戻れば良いと切に願うのだった。 そして、それは現実になったのだが…短編、全6話。 切ないですが、最後はハッピーエンドです☆《完結しました》

処理中です...