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番外編 ~ひたすら甘い新婚生活 & これからの二人 ~ など
難しくも幸せな
しおりを挟む――俺、自覚してるよりずっと育ってたみたいだ。
顔を朱に染めて笑う殿下に私の顔も熱を持っていく。
――かわいい。
口には出せない気持ちが胸の中で暴れている。
態度も感情も素直な殿下は、私にとって遠い人だった。
立場以上に、感覚が。
出会ったのは入学してすぐの授業で。
斜め後ろの席にいた美少女が、入学式の時も同じような席順に座っていた美少年と同じ顔をしていたことに衝撃を受けていたら大きな声が響いて。
自信と気力に溢れるその姿に気を飲まれた。怒りに満ちた赤い瞳がこちらへ向いたと思ったのは一瞬、その怒りは後ろにいた美少女へ。
何事かと思えば王弟である自分より目立ったことへの文句で。
そんなことでと呆れるやら、憐れみを感じるやら。
最初の印象は……、おバカな仔犬みたいな子がいるわ、だった。
フェリシア様を間に挟んで友人のような関係になって。
同じ机で講義を受けるようになって、講義について意見を交わすようになって。
いつからかしら。
殿下がその辺の貴族の次男三男じゃないことを残念に思うようになったのは。
身分違いの想い。
それも王弟殿下相手になんて、自分を笑いたくなったわ。
いっそ子爵家、男爵家ならまだよかったのにと。
叶うわけもない相手。
良き友人として過ごせれば十分だと考えていた。
殿下はそんな私の考えを軽々と飛び越えていく。
「やっぱり俺が公爵位をもらって臣籍降下した方がいいよな」
「王弟が侯爵家に婿入り、よりは現実的でしょうね」
領地までの道中、護衛の方も一緒になって作戦を立てていく。
「公爵家と侯爵家ならそれほど騒がれずに済むだろうしな」
真剣な顔で到達可能な道筋を考える殿下にうっかり見惚れそうになるのを意識して留める。
平常心を装っていると、殿下の視線が注がれているのに気づいた。
紅玉のような赤い瞳がまっすぐに私を見ていて、その強さに動けなくなってしまう。
目を逸らすこともできないほど魅入られる自分を叱咤し、どうにか目を瞬く。
ゆっくりと行うことで身体の強張りが徐々に取れていった。
「殿下、どうかしましたか?」
「その感情のコントロールのよさが頼もしいと同時に悔しい」
もっと動揺してくれてもいいのに!と拗ねたような口調になる殿下に苦笑に近い笑みを浮かべる。
十分動揺させられているし、胸だっていまだにドキドキしているわ。
表に出ないようにしながら困ったような笑みを作る。
「殿下、まだ駄目ですわ」
まだ、表に感情を現していい関係じゃない。
絡み合った視線を外すのに苦労するとしても表面上はさり気なくいなければ。
「長いな」
「その時まで一緒に頑張りましょうね」
私の言葉にぱっと顔を輝かせる殿下が可愛くて愛おしくて、顔が勝手に笑み崩れていく。
そんな私を見た殿下が顔を赤らめる。
どうしましょう、私の方も顔が火照ってきました。
機嫌を直した殿下が張り切って今後取れる施策をいくつも挙げていきます。
殿下は張り切ると能率が上がるタイプなんですね、一つ発見しました。
私も負けていられないと父の人となりや政治的傾向、取り巻く環境などについて話します。
学園でいつも意見を交わしていたおかげでしょうか、殿下が理想的な流れを口にすると私から見た懸念を上げ、一つの実現性のある方向にまとまっていきます。
――楽しい。
こうしていつも対話が交わせる関係に早くなりたい。
そう思って殿下を見つめると、さっきほどあからさまではないものの意味のあるものを含んだ視線で見つめられる。
平静を返すものの、内心がわかっているからか殿下はそれでも嬉しそうでした。
後ほど護衛の方から、「端から見れば十分イチャついている状態に見えたのでお二人とももう少し気を付けましょうね」と苦言をいただいた。
他から見えない馬車の中だったので油断していたのもあるのでしょうが……。
私も浮かれていたのでしょう。
こんなにままならないものなんて。
恋って難しいものですわ。
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