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〜甘い学園生活送ります〜
卒業は終わりじゃなく
しおりを挟む馬車に揺られながら談笑する。
のんびり着替えている余裕はなかったので皆制服姿だ。
これからハイラル家の領地に向かう。
王弟殿下の移動ということで王家の馬車に同乗させてもらっている。
中も広くて快適だ。
「本当に1年で卒業するとは思わなかったぞ」
「間に合って良かったです」
「まだ余裕あったくせによく言う。
何が何でも卒業してやるって意気込みだったろ、教師も呆れる勢いだ」
ルークは先に戻っていて準備を取り仕切っている。
アレクシスの説得のおかげで卒業式にも参加する余裕ができて、皆に挨拶ができて本当に良かった。
「皆フェリシア様に会えなくなるのを寂しがっていましたよ」
「そうだな、なんか卒業式っていうかフェリシアの壮行会みたいになってたしな」
賑やかに送ってもらえたことはありがたい。
たった1年だったけれど、とても楽しく濃い時間を過ごしたと思っている。
「それにしてもオマエのその格好も見納めか」
「結局学園では髪伸ばさなかったですね」
「やっぱり男子生徒の制服を着ているときは短い髪の方がしっくりきたので」
短い髪を撫で、領地に戻ったら伸ばしていこうと思っていると話す。
持っているドレスと合わないからしばらくカツラは手離せない。
もったいないしね。
「男装の時のフェリシア様ってなんというか妖しい魅力がありますよね。
別に特別キザなことをしてるとかそういうわけじゃないんですけれど、言動の端々に色気があるというか」
「女の格好の時とはまた違うよな。
違和感なく男に見える」
「ふふ、ルークの学生の時を真似してるんですよ。
私の方が子供っぽいとは思いますけれどね」
「アイツの学生のときか……。
なんかすごいモテてそうだな」
「多分すごいモテたでしょうけれど、女性とは交流しなかったと思いますよ。
私と同じような理由で異性を苦手としているので」
私も欲の籠もった目で見てくる男性が苦手で嫌いだけれど、ルークはそれに輪をかけて自分に向けられる欲望が大嫌いだ。それはもう相手が老若男女問わず。
私との婚約も身内で話は決まっていたし、学園ではほぼ女子生徒と話をしなかったと聞いている。
「そういえば、ルークの在学中に停学になった女子生徒とクビになった教師がいたらしいですよ」
馬車の空気が固まる。
その想像で多分間違いないと思うんですよね。ルークがフェリシア様には必要のない情報ですと絶対に教えてくれないので詳細は知らないけれど。
「もう聞かないでおく……」
「ええ、ちょっと寒気がしてきました」
重くなった空気を掃うようにグレイス様が話題を変えた。
「明日楽しみですねえ、いい天気になりそうでよかったですね」
「本当に、うれしいです」
ウエディングドレス、楽しみにしてますねと微笑むグレイス様にはにかんでしまう。
天候や領地の話をしながら和やかに旅路は進んでいった。
馬車を降りるとルークとルークのお父様が待っていた。
「ようこそお越しくださいました、お二人をお迎えできて光栄です」
「道中お疲れでしょうから、まずは身体を休めてください」
叔父上がアレクシスとグレイス様へ歓迎の意を示し、ルークが中へどうぞと促す。
ハイラル家の直系筋が並んだ光景を見て驚愕とも感嘆ともつかない声でアレクシスが呟く。
「オマエの家系は皆こうなのか……?」
「殿下、失礼ですわ」
「グレイス様、良いのです。
概ねアレクシスの言うとおりですので」
大体直系から3親等くらいまでは黒い髪と紫の瞳を持ち、幼い頃からその身を危ぶまれるような容姿をしている。
叔父上も例に漏れず、リボンで結んでいる長い黒髪はルークと同じように緩く巻き華やかに。
優し気に微笑む垂れ気味の目から覗く紫の瞳は穏やかに澄んで、瞳を合わせられると意識を吸い込まれそうになる。
目じりに刻まれたシワさえも叔父上の儚げな魅力を損ねることはなかった。
同じことを30年以上言われ続けている叔父上は全く表情を変えず微笑む。
自分の微笑みを見ても目つきや態度が変わらないお二人を気に入ったのがわかった。
「良い友人を得たね、フェリシア」
「ええ、得難い友人です」
嬉しさに頬を緩めて自慢する。
ルークも微笑ましそうに表情を緩めて私たちを見ていた。
叔父上が大切にしなさいと話を結び、ルークに案内を命じる。
グレイス様は私が案内しますと伝えて屋敷に入った。
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