入学初日の婚約破棄! ~画策してたより早く破棄できたのであの人と甘い学園生活送ります~

紗綺

文字の大きさ
上 下
15 / 27
〜甘い学園生活送ります〜

デートか否かは些細なこと

しおりを挟む
 

俺がお迎えに上がりますからと嬉しそうだったルークを思い出しながら準備をしていく。

今日はルークと一緒だし学園の外に出るので好きな格好をする。
薄紫に小花を散らしたワンピースに長い黒髪は一部を編み込み、ピンクの小さな石の付いたピンを差し込んでいく。久しぶりにつけたリップはつややかな桃色。

全ての準備を整えると文句なしに美しい令嬢がそこにいた。
本当に……。自分で言うのもなんだけど、絶対に俺が呼ぶまで外に出ないでくださいねと念を押されたのも無理はないと思ってしまう。

準備が整った頃を見計らっていたかのようにルークが現れた。

「――……」

対面したルークがわかりやすく息を飲む。
笑んで見せると今度は溜息を吐かれた。

「今後も外で待ち合わせなんて無謀なことを考えないでくださいね」

「第一声がそれなの?」

大事なことですと言うルークに口を尖らせると目元をやわらげて失礼しましたと笑う。

「貴女の身の安全が一番大事ですが、確かに無粋でしたね。
とてもお美しいです、俺のための装いだと思うと尚更に」

誰にも見せずに隠してしまいたいですというのが冗談に聞こえない。

「気分転換だって言ってたのに、デートだったの?」

「名目がなんであれ、その格好は俺のためでしょう?」

丁寧に編み込んだ髪や化粧を見ながら問い返してくる。
その通りだけど。

「今日のルークの格好も私のため?」

いつもの従者然とした格好ではなく、色味は落ち着いているもののピンブローチなどの小物が華やかで、並んで歩いていればどう見てもデート中の二人だった。

「今日だけじゃありません。
俺の全てが貴女のためにあります」

過剰にも思えるセリフだけれど、艶然と微笑むルークはどこまでも真剣な目をしていた。





王立図書館の蔵書に圧倒されつつルークの案内のおかげで目的の本へはすぐにたどり着いた。
じっくり読みたいけれどそこまでの時間はないので一度ざっと目を通してから必要な内容だけをもう一度繰り返し読む。
そんなことを繰り返していると人のざわめきが大きくなってきた。
本を閉じるとそろそろ行きましょうかと返ってきたので頷いて本を重ねる。
俺が戻してきますと立ち上がるルークを見送って内容をまとめていたメモを揃えて片す。
ルークは時々私自身よりも私のことをよくわかってるんじゃないかと思う。
不思議と頭がすっきりした気分になっている。
知らない間に随分と気を張っていたみたい。
気分転換をした方が良いというのはそのとおりだった。


こうして令嬢らしい格好をしてルークの隣を歩くのは本当に久しぶりのことで、前はまだ少女らしい格好をしていた頃だった。隣を見上げると記憶にあるよりも精悍な顔つきになったルークが目に入る。
私でさえもそう思うんだから、ルークはもっと私の変化を感じていてもおかしくない。
側にいることを諦めなくて本当に良かった。

少しだけ頭を寄せるとどうしました?と穏やかな声が降ってくる。
なんでもないと答えた声も柔らかい。
ただ、幸せなだけだった。




真っ赤に熟したチェリーの果肉を凍らせたデザートは甘酸っぱくておいしかった。
カフェの中は個室に区切られていて、人の目を気にしないでいられて良い。
私だけでなくルークも衆目を集めやすいので個室だったのは嬉しかった。
お店を見つけたときから私と一緒に来ようと思っていたと話してくれる。
ずっと機会を窺ってたと言っていたので、私の様子を見て誘うタイミングを考えてくれていたみたい。

連れて来てくれてありがとうと伝えて微笑む。
俺も嬉しいですと返してくれるルークと見つめ合っていると幸せだと実感する。
学園生活も充実していたけれど、こうして見つめ合っていると忙しさ故の充実感や日々の達成感とは違う充足感が湧いてくる。

「お嬢、見つめすぎですよ」

「ルークこそ」

そう言いながらもお互い目を逸らさない。
あと少し頑張ったらこんな時間を過ごせる日々が待っている。そう思うといくらでも力が湧き上がってくる気がした。

「もう少し待っててね」

言葉にしてお願いをする。
すでに十分待たせているのはわかっているけれど。あと少しだけ。
私の意図を汲んだルークがまだ待ちますよと口元に笑みを作る。

「お嬢も、俺に愛される覚悟を決めておいてくださいね」

「これ以上?」

今でも十分甘やかされて愛されているとは思うんだけれど。

「こんなものではすみませんよ」

髪をひとすくいして口づける。深紫の瞳が灯りの加減で赤く翳った。
卒業したら我慢はしませんから、と笑むルークは背筋がぞくぞくするほど色気を放っていた。


しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜

みおな
恋愛
 大好きだった人。 一目惚れだった。だから、あの人が婚約者になって、本当に嬉しかった。  なのに、私の友人と愛を交わしていたなんて。  もう誰も信じられない。

幸せな人生を送りたいなんて贅沢は言いませんわ。ただゆっくりお昼寝くらいは自由にしたいわね

りりん
恋愛
皇帝陛下に婚約破棄された侯爵令嬢ユーリアは、その後形ばかりの側妃として召し上げられた。公務の出来ない皇妃の代わりに公務を行うだけの為に。 皇帝に愛される事もなく、話す事すらなく、寝る時間も削ってただ公務だけを熟す日々。 そしてユーリアは、たった一人執務室の中で儚くなった。 もし生まれ変われるなら、お昼寝くらいは自由に出来るものに生まれ変わりたい。そう願いながら

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない

ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。 ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。 ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。 ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

婚約破棄? 五年かかりますけど。

冬吹せいら
恋愛
娼婦に惚れたから、婚約破棄? 我が国の規則を……ご存じないのですか?

婚約破棄ですか?勿論お受けします。

アズやっこ
恋愛
私は婚約者が嫌い。 そんな婚約者が女性と一緒に待ち合わせ場所に来た。 婚約破棄するとようやく言ってくれたわ! 慰謝料?そんなのいらないわよ。 それより早く婚約破棄しましょう。    ❈ 作者独自の世界観です。

幼馴染の親友のために婚約破棄になりました。裏切り者同士お幸せに

hikari
恋愛
侯爵令嬢アントニーナは王太子ジョルジョ7世に婚約破棄される。王太子の新しい婚約相手はなんと幼馴染の親友だった公爵令嬢のマルタだった。 二人は幼い時から王立学校で仲良しだった。アントニーナがいじめられていた時は身を張って守ってくれた。しかし、そんな友情にある日亀裂が入る。

その言葉はそのまま返されたもの

基本二度寝
恋愛
己の人生は既に決まっている。 親の望む令嬢を伴侶に迎え、子を成し、後継者を育てる。 ただそれだけのつまらぬ人生。 ならば、結婚までは好きに過ごしていいだろう?と、思った。 侯爵子息アリストには幼馴染がいる。 幼馴染が、出産に耐えられるほど身体が丈夫であったならアリストは彼女を伴侶にしたかった。 可愛らしく、淑やかな幼馴染が愛おしい。 それが叶うなら子がなくても、と思うのだが、父はそれを認めない。 父の選んだ伯爵令嬢が婚約者になった。 幼馴染のような愛らしさも、優しさもない。 平凡な容姿。口うるさい貴族令嬢。 うんざりだ。 幼馴染はずっと屋敷の中で育てられた為、外の事を知らない。 彼女のために、華やかな舞踏会を見せたかった。 比較的若い者があつまるような、気楽なものならば、多少の粗相も多目に見てもらえるだろう。 アリストは幼馴染のテイラーに己の色のドレスを贈り夜会に出席した。 まさか、自分のエスコートもなしにアリストの婚約者が参加しているとは露ほどにも思わず…。

釣り合わないと言われても、婚約者と別れる予定はありません

しろねこ。
恋愛
幼馴染と婚約を結んでいるラズリーは、学園に入学してから他の令嬢達によく絡まれていた。 曰く、婚約者と釣り合っていない、身分不相応だと。 ラズリーの婚約者であるファルク=トワレ伯爵令息は、第二王子の側近で、将来護衛騎士予定の有望株だ。背も高く、見目も良いと言う事で注目を浴びている。 対してラズリー=コランダム子爵令嬢は薬草学を専攻していて、外に出る事も少なく地味な見た目で華々しさもない。 そんな二人を周囲は好奇の目で見ており、時にはラズリーから婚約者を奪おうとするものも出てくる。 おっとり令嬢ラズリーはそんな周囲の圧力に屈することはない。 「釣り合わない? そうですか。でも彼は私が良いって言ってますし」 時に優しく、時に豪胆なラズリー、平穏な日々はいつ来るやら。 ハッピーエンド、両思い、ご都合主義なストーリーです。 ゆっくり更新予定です(*´ω`*) 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

処理中です...